ヤダリンのひとりごと
就労するということ
平成15年7月27日

 統合失調症を患うと、疲れやすくなったり、持続力が低下したり、新しい事がなかなか覚えられなかったり、器用さやスピードを要求される作業が苦手になったり、環境になじめなかったりして、思うように仕事ができなくなることが多い。私が「この人なら大丈夫」と思う人でも、仕事を始めてまもなくすると、あまりにも早くダウンしてしまうことがよくある。病気が回復して、もう何もないように見えても結果的にうまくいかない。たとえうまくいき始めたなと思っても、今度は無理をしすぎて失敗してしまうことがある。「ここまでなら頑張っても大丈夫」あるいは「これ以上やると体調を崩すだろうからこのくらいでやめておこう」といった自己調節がうまくできないことが原因なのであろう。また、この病気にかかる人は人づき合いが苦手であるから、職場での対人関係を悩み、辞めてしまうことがある。最悪の場合、病気が再発してしまうことがある。現実はとても厳しいのである。だから仕事を続けられている患者さんには、常に「すごい!よくやっている!優秀だ!」と誉めることにしている。

 先日、私が外来で継続して診療している統合失調症の患者さんを対象に生活形態を調べてみる機会があった。約26%が就労していた。ただし、この中には、正社員としての就労のみならず、アルバイトを転々としている人、家業の手伝いがある程度できている人、自営業を営んでいる人、授産施設に通っている人、社会適応訓練を利用している人も含まれている。ちなみにデイケアあるいは作業所に通所している人が約20%いた。

 仕事をしたいという気持ちは当然の心理であり、就労を目標にして頑張ることは非常に望ましいことであるが、そのためには予想される以上に高度な能力や病気の回復が要求され、そしてかなり大がかりな準備や計画を要すると考えられる

 物事がなかなか覚えられないとか、物事をてきぱきと片づけられないといった問題は、統合失調症の認知機能障害と関連するし、動く気ややる気がないという問題は、陰性症状と関連するであろう。非定型抗精神病薬には、認知機能障害や陰性症状を改善する効果が期待できるので、仕事もしやすくなる可能性があろう。実際、非定型抗精神病薬を服用しているグループは就労率が高いといった報告があるらしい。

 しかし、仕事ができるようになることは、薬だけで解決される問題ではなく、朝、きちんと起きれて毎日きまったように出勤できること、時間が守れる事、交通機関が使えること、身なりがきちんとできること、挨拶ができること、職場のルールが守れること、人の話や指示を聞ける事、自分の考えを相手に伝えられることなどの基本的な態度が達成、維持できないといけない。そのためには、リハビリテーションを受けることが必要である。デイケアや作業所に通えるようにならないといけない。やはり順を追って少しずつ歩んでいくのが良い。いきなり就労するのは難しいことが多いようである。また、SST(生活技能訓練)などに参加するのもよい。デイケアでも「就労準備プログラム」が準備されていることがある。

 また、就労にあたっては、ハローワークの障害者窓口を利用したり、職場適応訓練(窓口はハローワーク)、精神障害者社会適応訓練事業(窓口は保健センター)、職業準備訓練(窓口は障害者職業センター)を利用することも一つの方法であろう。

 そしてたとえ仕事についても、それで「病気は治った」というのではなく、「病気とともに歩む」という考えを忘れてはならない。仕事を始めるとついつい通院がおろそかになり、そうこうしているうちに調子を崩す事も多いからである。

 もちろん、就労だけがすべてではない。たとえ仕事ができないからといっても悲観する必要はない。しかし、ここでも決してあきらめるべきではなく、自分にとって就労できないのは何故かを検討し、何ができればいいかを考えてゆっくりと進んでいくべきであろう。

 本当に久しぶりのホームページ更新となった。7月は障害年金の診断書ラッシュであった。やっとそれがおさまり一息ついたところである。それにしても障害年金の申請者が増えた。利用できる制度がさまざまなところで紹介されるようになったからであろう。

 ところで、ジョージア州立大学のぺティ先生が来日予定である。来る7月31日に講演され、それはまたインターネットを介してライブ中継されるという。ぺティ先生は、統合失調症の薬物療法にジプレキサを主に使い、90%以上の患者さんを就業させているらしい。どのような工夫をされているのか聞けることを楽しみにしている。

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