Q | 非定型抗精神病薬について教えてください。 |
A |
★現在、日本で使われている非定型抗精神病薬は4種類です。平成8年に発売されたリスパダール、そして平成13年に発売されたジプレキサ、セロクエル、ルーランです(いずれも商品名)。従来使われてきた抗精神病薬を定型抗精神病薬と呼びます。 ★非定型抗精神病薬は、非常に評価が高い薬剤であり、海外では既にかなり処方されており、日本でも精神分裂病の薬物療法は今後、確実にこれらの薬剤が中心になっていくと思われます。 ★「非定型」とは作用と副作用が分離されたという意味があります。すなわち従来の抗精神病薬は、効果もあるが副作用も大きかったわけですが、非定型抗精神病薬は、効果があるわりには副作用が少ないというわけです。 ★3つの面で副作用が少ないと言えます。一つは、錐体外路症状が起きにくいとされます。動作が緩慢になる(アキネジア)、体が震える・ロボット様のぎこちない歩き方になる・前屈姿勢になる・無表情になる(パーキンソン症状)、ろれつが回りにくくなる(構音障害)、顔面や四肢が捻じるように動く(ジスキネジア)、首や四肢が突っ張るようになる(ジストニア)、いらいらしてじっとしておられず歩き回るようになったりする(アカシジア)副作用が起きにくくなります。その結果、抗パーキンソン薬を使う必要が減るため、抗パーキンソン薬の副作用もなくなります。二番目は、鎮静作用が弱いことです。これは眠くなったりだるくなったりしにくいということです。三番目は、プロラクチンというホルモンを上昇させないことです。そのため、女性で生理が止まったり乳汁分泌が起きることがなくなるわけです。ただ、副作用の出方は薬剤によって差があります。副作用の軽減は、長期にわたる服薬継続に大きく貢献すると思われます。分裂病は再発しやすい病気であり、服薬中断がその大きな原因になっていることを考えれば、副作用の少ない薬が開発されたことは大きな進歩と言えます。また、心電図異常が起きにくいとされます。すなわち安全性の面ですぐれていることになります。 ★陰性症状と言われるもの、すなわち、意欲や気力がなくなる、感情が鈍くなりいろんなことに無関心になる、自分の世界に引きこもるなどの精神分裂病の症状を改善させる効果が従来の定型抗精神病薬に比べ高いとされます。 ★また、認知障害と言って、「注意の集中、記憶、物事のとらえ方、刺激への反応のすばやさ、通常意識しなくてもわかる常識のようなもの」の障害を改善させる作用が大きいとされます。 ★上記に述べた非定型抗精神病薬の副作用の少なさ、陰性症状と認知障害に対する効果は、分裂病の患者さんの生活の質を大きく改善させることにつながるでしょう。非定型抗精神病薬は、患者さんの社会復帰をしやすくする薬と言えます。 ★先ほど述べたように、精神分裂病は繰り返しやすい病気ですが、リスパダールとジプレキサについは、従来の薬剤と比較して再発率や再入院率を明らかに低下させるというデータが出ています。 ★また、非定型抗精神病薬は、従来の薬剤でなかなか良くならなかった治りにくい患者さんを改善させることがあります。 ★ただ、非定型抗精神病薬にも苦手とする面があります。鎮静作用が弱いため興奮が強い急性期の患者さんには使いにくいでしょう。また、肥満の副作用は起き易いとされます。肥満は二次的に高血圧や糖尿病などを引き起こすことになるので肥満対策は大きな課題となります。さらに、社会参加がしやすくなる結果、これまでに遭遇することのなかった現実に直面することになるので、さまざまな人とのかかわりを持ったり、異性への関心や接触も出てくるでしょうから、また新たな悩みを作り出す可能性があるので、ただ新しい薬を使うだけではなくその後のフォローもしないといけません。その他、病気が良くなり直った気になりすぎて病気を安易に受け止めすぎることによる服薬中断や再発にも注意を払う必要があると思われます。 ★最後に、非定型抗精神病薬は精神分裂病の治療に大きな可能性を秘めた薬剤ですが、これで病気が完治するわけではありません。やはり薬を飲み続けることは必要ですし、すべての患者さんに効く魔法の薬ではないということです。従来の薬がぴったりと合い副作用が出ない人もいるわけですから、とにかく非定型抗精神病薬が絶対的なものだと決めつけないことも重要です。 (2001.12.30) |