TOPIC No.4-23 エシュロン/エシェロン(Echelon)

Index
1.1998年度、2.1999年度、3.2000年度、 4.2001/2002年度
01. エシュロン (ECHELON) byフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
02. 爆破、拉致、ミサイル、単語さえ出てくれば監視対象/全世界盗聴 網、エシュロンの恐怖 by韓国の雑誌「新東亜」誌(2000年4月号記事)
03. 世界中の通信を盗聴する巨大システム (2000年03月02日) 田中 宇 byTNN(田中宇の国際ニュース解説)
04. ECHELON関係リンク集(2000/5/27作成) byネットワーク反監視プロジェクト(NaST)
05. 情報通信審議会 IT革命を推進するための電気通信事業における競争政策の在り方についての特別部会 国際競争力委員会(第8回)(2001年09月27日)
06. エシュロンの国際法的問題 byえりあん
07. 詳説・日本の情報機関part.6 (2005年09月19日)by日本国研究
08. エシュロン (ECHELON) と、ネット検閲国家への抗議法案(2006年06月23日)bySemplice
09. エシュロンに関すること──シギントの法則(2006-10-26) byHatena Diary

エシュロン(ECHELON)

 アメリカ[NSA(国家安全保障局、National Security Agency)]を筆頭に、カナダ[CSE(通信安全機構、Communication Security Establishment)]、イギリス[GCHQ(政府通信本部、Government Communications Headquarters)]、オーストラリア[DSD(国防信号局、Defence Signals Directorate)]、ニュージーランド[GCSB(政府情報保安局、Government Communications Security Bureau)]によって運営されている全世界通信傍受・中継システムのコードネーム。

 この英語圏五カ国は「UKUSA同盟」という最高の秘密協定を結んでいる。UKUSA加盟国のネットワークは、毎日何億件という通話、電子メール、ファックス、テレックスを集めて、五カ国の関係機関に秘密のチャンネルを通じて配信する。 又、特定のキーワードを辿り追跡する能力を持つといわれている。

 ただしUKUSA同盟は、公式には、単なる友好関係の域を出ない。

 米政府は、公式にはエシュロンの存在を認めていない。

アジアの某大国、全国規模の通信監視システム構築へ

2007年09月21日 WiredNewsRyan Singel

 米国等の2企業が、名前が明かされていないあるアジアの大国と、国家規模のデータ保持システムの構築に関して契約する運びとなった。毎日数十億件にのぼる電話通話やネット利用に関して、通話の相手、所在地、訪問したウェブサイトなど細かな情報をとらえて保存できるというシステムだ。

 国家安全保障に関連する業務をなりわいとする企業群(Hotwired過去記事)に属する2つの企業が、アジアの大国の1つと契約締結に合意したと明らかにした。

 契約内容は、何兆件にもおよぶインターネットや電話の通信を検索してその内容を保存する、国家規模のデータ保持システムの設計・配備についてだ。国の名前は明かされていない。

 1顧客のために2兆件以上の記録を保管できるとうたう米Retentia社が、システムへのソフトウェア提供を、Xalted社[日本語版注:米国にもオフィスがあるが、本社はインド]がシステム・インテグレーションを担当する。

 両社では、契約は2007年末に最終締結となる予定で、その額は約4000万ドルに達すると述べている。

 Retentia社の親会社、米Intelligentias社の最高経営責任者(CEO)を務めるIan Rice氏は次のように語っている。

 「世界的なテロ活動の増加が、われわれの技術の必要性を強く示している。Retentia社のデータ保持ソリューションは、他のどのソリューションよりも、迅速かつ的確に捜査機関や政府機関を助け、テロリストや犯罪者の特定、および逮捕・起訴に役立つことが実証されている」

 Retentia社のマーケティング資料によると、同社は世界中のインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)、電話会社、政府機関向けにデータ保持ソフトウェアを販売している。

 顧客はこのソフトを使い、通話の相手、通話時の所在地、訪問したウェブサイトなどの情報を捕捉し、何年にもわたって保管しているという。

 Retentia社のソフトは、毎日数十億件の電話による通話やネットサーフィンの内容をとらえて保存しているという。さらに同社では、顧客は何兆とある通話記録やウェブの閲覧記録の中から、ほんの数分で特定の記録を検索できるとうたっている。

 Retentia社のソフトウェアが保存するデータは以下の通りだ。

 送受信された電子メール

 送受信されたインスタント・メッセージ(IM)

 訪問したウェブサイト

 IMの使用日時、および接続時間

 メッセージ形式

 デバイスの特定

 携帯機器の位置情報

 トラフィック分析

 割り当てられたIPアドレス

 ログオン/ログオフの日時

 電子メールの送信元、宛先、CCのアドレス

 認証に使われたユーザー名

 割り当てられたダイヤルアップの発信者番号

 ADSLのエンドポイント

 MACアドレス(入手可能な場合)

 プロキシサーバーのログ

 人的つながり(誰が誰にメッセージを送っているか)

 下に紹介するビデオの中で、米Intelligentias社のRice CEOは、捜査機関はRe

 tentia社のサービスを気に入っていると話している。 [日本語版:ガリレオ-藤原聡美/長谷 睦]

『Digital Collection System Network』(DCSNet)。

全米の携帯電話や固定電話を傍受するFBIのシステム

2007年09月03日 WiredNewsRyan Singel

 米連邦捜査局(FBI)が、全米の固定電話や携帯電話などほとんどあらゆる通信機器を傍受できるシステムを配備していたことが明らかになった。送着信の電話番号から通話内容や居場所までの情報を、ごく簡単な操作で、リアルタイムで記録したり、捜査官に送信したりできるという。

 米連邦捜査局(FBI)が、ほとんどあらゆる種類の通信機器を、ポイント・アンド・クリック操作で簡単に傍受できる、高度な監視システムをひそかに開発していたことが明らかになった。

 この判明は、1000ページ近い極秘文書が、情報自由法(FOIA)の下で新たに公開されたことによる。

 FBIの監視システムの名前は、『Digital Collection System Network』(DCSNet)。従来からある固定電話事業者やインターネット電話事業者、それに携帯電話事業者が管理するシステムと、FBIの傍受ルームとを接続している。

 このシステムは、観測筋の予測よりもはるかに複雑な形で、全米の電気通信インフラに組み込まれているようだ。

 これは、「固定電話、携帯電話、ショート・メッセージ・サービス(SMS)、それにプッシュ・トゥ・トーク(PTT)システムを傍受する、包括的な傍受システムだ」と説明するのは、コロンビア大学のSteven Bellovin博士。博士はコンピューター科学を専門とし、監視システムの研究に長い間携わっている。

 DCSNetは、電話番号や通話内容、さらにテキスト・メッセージを、収集、選別、保存する一組のソフトウェアで構成されている。

 このシステムは、広大な民間通信ネットワークを、米国内にちらばるFBIの傍受拠点と直接接続している。

 電子フロンティア財団(EFF)が入手した資料では、システム詳細の多くと全体的な機能の大部分が編集されていたものの、DCSNetにはWindowsマシンで動作する収集用コンポーネントが3つあることは確実だということがわかった。

 1000万ドルかけて構築された『DCS-3000』クライアント(別名『Red Hook』)は、ペンレジスター(発信情報の記録)と、トラップ・アンド・トレース(受信情報の記録)を実行する。

 これらは主に、電話機からかけられた番号といった信号情報を収集するタイプの監視で、通信内容の監視は行なわない。

 一方、『DCS-6000』(別名『Digital Storm』)は、通話内容やテキスト・メッセージの収集と記録を行ない、完全な傍受命令に対応する。

 3番目の機密システム『DCS-5000』は、スパイやテロリストを対象とした傍受に使われている。

 DCSNetでできること

 FBIの調査官は、これらの監視システムを組み合わせることで、記録した情報を再生(デジタルビデオレコーダーの『TiVo』のように記録しながらの再生も可能)し、マスターファイルを作成し、デジタル記録を翻訳者に送信することができる。

 また、携帯電話基地局の情報を利用して、監視対象者の大まかな位置をリアルタイムで追跡できるほか、傍受した情報を、捜査官がいる車両に向けて送ることさえ可能だ。

 FBIの傍受ルームは、米国中の地方事務所や非公開の場所に設置されている。これらの傍受ルームは、インターネットとは異なった、暗号化された独自の基幹回線で互いに結ばれている。この回線は米Sprint Nextel社が、政府から依頼されて運営している。

 公開された資料の、日付が記載されていないページによれば、DCSNet上にあるFBIの拠点は年々増加し、プログラム開始時には20ヵ所だった「集中監視設備」が、2005年には57ヵ所になっている。2002年には、このような拠点が、350ヵ所以上の交換機と接続されていた。

 FBIによると、現在はほとんどの通信事業者が、自社の所有する各交換機すべてがネットワーク接続されている、「メディエーション・スイッチ」と呼ばれるシステムを所持しているという。

 FBIのDCSソフトウェアは、インターネットを介してこのメディエーション・スイッチに接続されているが、この際、暗号化された仮想プライベート・ネットワークを利用している模様だ。

 通信事業者の中には、このメディエーション・スイッチを自ら運営している事業者もあれば、米VeriSign社などの企業に費用を払って、傍受プロセス全体の処理を任せている事業者もある。

 このネットワークを利用すると、たとえば、ニューヨークにいるFBIの調査官が、カリフォルニア州サクラメントで使われている携帯電話の傍受工作をリモートで設定し、電話の場所をすばやく特定することが可能だ。

 そして、ニューヨークにいながらにして、通話内容、テキスト・メッセージ、それにボイスメールのパスコードの受信を開始できる。また、ちょっとしたキー操作だけで、記録した情報を、翻訳のために専門家に送信できる。

 通話先電話番号は、通話パターンの解析訓練を受けたFBI分析官の元に自動的に送られる。また、外部ストレージデバイスによって、FBIの『Telephone Application Database』に毎晩転送され、リンク分析と呼ばれる種類のデータマイニングにかけられる。

 DCSNet監視システムの数的規模は、いまだに公開されていない。しかし、電話会社が傍受に協力していることは明らかだ。犯罪に関係した傍受行為の件数だけを見ても、1996年の1150件から、2006年には1839件に増えている。これは、60%の増加にあたる。

 この数値には、州政府および連邦政府による傍受行為が含まれているが、同時多発テロ以降急激に増えた、テロ対策としての傍受行為は含まれていない。

 2005年の段階では、犯罪に関係した傍受行為のうち、92%が携帯電話を対象にしていたことが、2006年公開の報告書で明らかにされている。

 なお、これらの傍受件数には、DCS-3000による着信番号と発信番号の収集行為は含まれていない。しかし、こうした番号収集レベルの監視は、本格的な傍受よりもはるかに頻繁に行なわれている。このような監視は、対象となる電話番号が捜査に関係している、と捜査当局が証言するだけで許可されるからだ。

 司法省は、ペンレジスター(発信情報の記録)の実施数を毎年議会に報告しているが、その数は公開されていない。

 電子プライバシー情報センター(EPIC)に流出した最新の統計によると、1998年には、4886件のペンレジスター執行命令と、4621回の期間延長申請に、裁判官が署名したという。[日本語版:ガリレオ-佐藤 卓/小林理子]

日本の情報収集活動はどこが抜けているのか(第3回)

2007年05月08日 BP NeT SAFTY JAPAN 軍事ジャーナリスト 鍛冶 俊樹 氏

 〜日本の「失われた10年」を招いた通信傍受網「エシュロン」〜

 日本の情報活動の脆弱さに警鐘を鳴らす、軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹氏。インタビューの最終回は、通信傍受がテーマである。

 『エシュロンと情報戦争』(文春新書)の著書がある鍛冶氏は、アメリカを中心とした国際的な通信傍受網「エシュロン」が、1990年代の日本の競争力低下を招いたと語る。 そして、現在は中国による情報活動が活発化している。日本の富を守り、安全を守るためにも、日本人はいま一度、情報の大切さをかみしめる必要があるだろう。 聞き手・文/二村 高史

 通信傍受についての方法も対策も立ち遅れている

 ――情報収集活動の一端として、通信傍受はどの程度のレベルで行なわれているのでしょうか。

鍛冶: 程度の差こそあれ、どこの国でも通信傍受は行なわれていますが、なかでも日本は非常に遅れているといっていいでしょう。

  通信傍受法という法律があることはあるのですが、あくまでも組織犯罪や麻薬捜査を対象にしたものであって、裁判所に届け出て令状を取らなくてはなりません。実際に適用されているのは、年に数えるほどしかありません。

  ところが、中国、ロシアはもちろん、アメリカでも安全保障上の通信傍受は、ほぼ無制限にできます。

  アメリカの場合はNSA(アメリカ国家安全保障局)という通信傍受を担当する専門機関がありますが、日本にはそれに該当する部門はなく、公安調査庁でも通信傍受はできません。犯罪捜査における通信傍受は警察が行なうのですが、警察と情報機関とが本質的に違うものだということは前に述べたとおりです。

 ――アメリカは「エシュロン」という世界的な通信傍受網を持っており、それが世界支配を支える大きな力になっているということを、先生の著書で拝見しましたが……。

 鍛冶: エシュロンというのは、アメリカが中心となって全世界にはりめぐらした通信傍受網のことで、電話、電子メール、ファクスなど、さまざまな通信メディアの盗聴、傍受を行なっています。

  エシュロンには、ほかにイギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドというアングロサクソン諸国が加盟しており、お互いが傍受した情報を交換できるようなシステムになっています。

  もともとは軍事情報を対象にしていたのですが、冷戦後は民間の情報にも手を出すようになってきたのです。

  なにしろ、通信傍受を担当してきたNSA、CIAにとっては、脅威が存在しないことには予算を削られてしまいます。そこで、ソ連崩壊後は日本の経済が脅威であると声高に言い立てるようになったわけです。

  とくに、1980年代後半は日米の貿易摩擦がピークを迎え、日米包括協議が行なわれていたころです。

  そこでCIAとNSAは何をしたかというと、通信傍受によって得られた情報を利用し、日本の経済的脅威を消滅させようとしたのです。

通信傍受網「エシュロン」によって日本の経済競争力が大きく低下した

――「エシュロン」によって、具体的に日本はどのような影響を受けたのですか。

鍛冶: 1989年、スハルト政権下のインドネシアで、こんなことがありました。

 当時、インドネシア国内の電話網を10年間かけて整備するという、総額36億ドルの大規模プロジェクトがあり、その初回2億ドルの競争入札が行なわれました。

 その結果、どうやらNECのシステムの採用がほぼ内定しそうだとなったとき、突然、当時のブッシュ大統領(現大統領の父親)からスハルト首相に手紙が届いたのです。

 「日本の経済ばかりがよくなるのは好ましくない、アメリカのAT&Tのシステムを買ってくれ」という内容だったので、スハルトは頭を抱えたといいます。

 結局、入札をやり直して、NECとAT&Tが半分ずつ受注することになったのです。

 この事件に対して、日本の受け止め方はクールだったのですが、ヨーロッパではかなり注目されました。「どう見ても通信傍受をしているとしか考えられない。それで内情を知った上で、入札を引っ繰り返したのだ」というわけです。

 それを裏付けるように、その後はヨーロッパでも似たような事件が、次々に起きました。たとえば、サウジアラビアにエアバスを売り込もうとすると、なぜかアメリカがごり押しをしたり、アメリカと会議で対立した国に、次々に通貨危機が起きるといった具合です。

――通貨危機が起きた国というのは、例えばどこがあるんですか。

鍛冶: まず、1990年代のはじめに、イギリスでポンド危機が発生。次にフランスのフランが暴落します。

 フラン暴落が起きたのは、ちょうどGATTのウルグアイラウンドで、フランスとアメリカと対立をしていたときのことです。そのさなかですから、ずいぶんとタイミングがいいものだと当時は言われたものです。

 詳しくは拙著『エシュロンと情報戦争』に書きましたが、その後も1990年代は各国で通貨危機が発生し、そのほとんどにアメリカがからんでいると考えられるのです。

 というのも、通信傍受をやっていれば、どこよりも早く世界中の経済情報が手に入りますから、通貨危機くらい起こすのは朝飯前です。いち早く入った経済情報を、例えばヘッジファンドに流してやれば、通貨のレートは大きく変動しますからね。

 そうした一連の通貨暴落のなかで、日本では例外的に円が暴騰しました。村山政権下で、1ドル79円をつけましたが、あのときは日米包括協議で日米が対立をしていた時期です。円が暴騰した結果、日本の輸出産業は大打撃を受けてしまいました。

 前にも述べましたが、日本の国際競争力が1位から30位に低下して、1990年代の「失われた10年」を招いたのも、エシュロンを中心とした情報戦略の差が大きく関係していると私は考えています。

中国による民間企業への情報収集活動が活発化している

――1990年代はアメリカのエシュロンにしてやられたようですが、現在、日本の情報戦略上、もっとも注意を要する国はどこでしょうか。

鍛冶: やはり中国でしょうね。

 先日、オーストラリアで中国の外交官が亡命をして、オーストラリアには中国の工作員が1000人以上入っていると暴露しました。

 日本にも1500人以上、アメリカにも1000人以上が入っているとのことで、日本では主に技術情報を狙っているとはっきり述べています。

 確かに、防衛庁や自衛隊は監視が厳しいので、そう簡単に情報を盗むことはできません。ところが、一般企業はそのあたりをまったく警戒していないんですね。

 しかし、よく考えればわかるように、今の時代、軍事技術と民生技術の差というのは、あまりありません。

 先日のヤマハ発動機の中国輸出事件がいい例ですが、あんなラジコンの無線ヘリであっても、軍事転用な技術というのはいくらでもあります。そうなれば、わざわざガードの固い防衛庁から技術を盗み出す必要もなく、一般企業から買えばいいわけです。

 いま狙われやすいのはバイオの関係の技術だと聞いています。これにしても、民間の会社や技術者が相手ならば、盗むのも簡単です。

 まず、社内でバイオの技術を持っている人を調べ、その人の家の近くに新しく部屋を借り、盗聴器を仕掛けておけば何とかなってしまいます。

 それが何千億円という市場になるのですから、情報収集活動も活発になってくるのは当然のこと。もちろん、これは中国に限った話ではありませんが……。

――大企業になれば、それなりに産業スパイに対して警戒をしているのではないでしょうか。

鍛冶: そこが問題なんです。例えばトヨタ自動車の技術を、中国の自動車メーカーが盗んだとしても、現実的にはたいした被害はありません。明らかに似たような車が登場しても、トヨタに言わせれば、「まだあんなものしかできないのか」という程度です。

 しかし、盗んだのが中国の情報機関であると、それがそのまま軍の情報として生かされてしまいます。そうなると、一般の目に触れない分だけ厄介です。

 トヨタにしてみれば、自分のマーケットが侵されたわけではないのですから、痛くもかゆくも感じません。ですから、警戒感もほとんどないといっていいでしょう。

 日本の警察の人も、そのへんの意識は低いですね。最近では、防衛庁の情報流出は摘発されるようになりましたが、大企業の技術情報を守るところまでは手が回らないようです。

 しかし、日本の先端技術が流出してしまったら、日本の富も失われてしまうということを、もう一度考えるべきです。

 とくに中国の場合は、国家機関が膨大な金を出して情報収集をしているのですから、日本の企業は警戒をしなくてはなりません。

小泉政権下で情報機関設立の議論が起きたわけ

――日本では小泉政権になってから、情報機関を作れという議論が活発になってきたように感じられますが。

 鍛冶: きっかけになったのは、2003年5月の訪米と思われます。小泉さんはブッシュ大統領のテキサス州クロフォードにある牧場に招かれて1泊。翌朝には、そこで行なわれた情報会議に参加させてもらったんです。

  ちなみに、この会議ではCIAやFBI長官がブリーフィングをするもので、外国人の指導者として招かれたのは、前年のトニー・ブレア英首相しか例がないという、大変な優遇だったわけです。

  では、なぜ情報会議に参加させてもらえたのか。それは、ブレア首相を招いた理由を考えれば想像がつきます。

  ブレア首相を招待した翌年に対イラク戦争がはじまることからわかるように、アメリカとしては、イラク情報が欲しかったんです。イラクはかつてイギリスの植民地でしたから、さまざまな人脈がありますし、重要な情報を持っているだろうとブッシュは考えていた。

  しかも、イギリスは世界に冠たるMI6という情報機関があるので、そことの連携を模索していたわけです。

 ――同じように、小泉首相からも情報が欲しかったと……。

 鍛冶: 考えてみると、北朝鮮もまた、かつては日本の植民地でしたよね。当然、情報は山ほど持っているだろうとブッシュ大統領は期待して、小泉さんを呼んでくれたんです。

  以後、ブッシュが情報をくれとせっつくものですから、小泉さんは情報収集マニアになってしまいました。

  それまでは、内閣情報調査室のもとに、警察や公安調査庁の情報が集まり、それをもとに内閣情報調査室長が総理大臣にブリーフィングするという順序でした。ところが、小泉さんはそれが待ちきれません。

  公安調査庁長官、警察庁長官、防衛庁情報本部長をじかに呼んで話を聞き、ブッシュに教えてやっていたわけです。おかげで、頭越しにやりとりをされた内閣情報調査室長はおかんむりでしたが……。

  もっとも、たいした情報はなかったらしく、やがてワシントンから不満の声が上がってきました。

   「日本には憲法の制約があり、軍事力を強くできないのはわかる。しかし、日本は情報もないのか。情報は憲法で禁止されたわけではないだろう」と言われてしまっては、返すことばがない。

  こうしたやりとりを経て、小泉さんは情報の重要性に気づきました。それが、情報機関を設置するという議論のもとになったのでしょう。

 ――情報活動や通信傍受というと、やはり一般人にとっては拒否反応が残ると思うのですが、そういう人たちにメッセージを。

 鍛冶: 家庭にあるコードレスホンを例にとって説明しましょう。実は、あれほど通信傍受が簡単なものはありません。秋葉原で売っている簡単な傍受の機械ですぐ聞けてしまいます。

  そんな電話機を使って、若い女性や主婦が長電話をしているのですから、よく考えれば冷や汗ものです。

  コードレスホンは短い距離しか届かないから大丈夫と思うかもしれませんが、仮に変なおじさんが隣に住んでいたら、コードレスホンの会話をずっと聞かれている可能性もあります。

  誰も聞いていないと思って、「あなた、銀行で預金をおろしておいてちょうだい。キャッシュカードはたんすの中、暗証番号は○○○○番よ」「鍵は植木鉢の下にあるわよ」などと平気で話している人も多いでしょう。

  電話を傍受していれば、その人や家は丸裸同然です。人の家に入ったり、財産を奪ったりするのも、お茶の子さいさい。そうした通信傍受を国家規模でやっているのが、エシュロンのようなものと考えればいいでしょう。

  そうした事実さえ知らないでいると、個人なら人生が破滅する場合もありますし、国家レベルならば富を失ってしまうのです。

  ですから、情報活動や通信傍受はただ怖いものとして遠ざけるのではなく、よくその意味と役割、さらには対策を知っておく必要があると思うのです。

自衛官覆面座談会 「ポチ・小泉」と多国籍軍

Counter News(週刊ポスト2004年07月02日号 P210-P212から)

「エシュロン」参加の日米密約

 小泉首相はシーアイランド・サミットの日米首脳会談で自衛隊の多国籍軍参加を独断で約束した。国内ではその是非ばかりが論じられているが、首脳会談でもう一つ、十台な密約が交わされたことは全く報じられていない。

 日本の『エシュロン』参加である。エシュロンはアメリカが推進する国際的盗聴システムで、世界中の膨大な電話や無線通信を傍受してコンピューター解析し、テロリストの動向から軍事情報、貿易摩擦といった同盟国間の外交交渉の機密文書まであらゆる情報を収集する。加盟国はアメリカの他にイギリス、カナダ、ニュージーランドの旧英連邦の4カ国だ。それに対してフランス、ドイツなどEU諸国はこの盗聴網に強硬に反対しており、日本は加盟していないものの、沖縄と青森(三沢)の米軍基地内に『象の檻』と呼ばれる巨大な通信傍受施設が置かれ、極東地区の情報収集拠点となっている。

 小泉首相はそこに大きく踏み込んだ。サミット同行筋が明かす。

 「アメリカはイラクを中東安全保障の拠点にしようと考えている。そのために職員1万人という世界最大の大使館をバクダッドに置き、象の檻を2基建設して別に6000名の情報要員を張りつける。盗聴網を中東に張りめぐらしてテロリストの動きを事前に封じ込める作戦だ。当然、それらを守るためにはイラクに米軍を恒久的に配置しなければならない。兵力は在韓米軍の縮小など極東から振り向けるから、北朝鮮や中国の軍事的脅威に対する日本の防衛線が弱体化する」

 アメリカ側は小泉首相にそう説明し、新安保体制の必要を説いた。

 「そこで新・日米安保の柱として首脳会談で話し合われたのがエシュロンによる情報機能の強化だった。小泉首相はブッシュ大統領に、アメリカの中東安全保障政策への全面協力と、日本もエシュロンに参加したいと表明した。多国籍軍に加わることはそうした新安保体制の一環にすぎない」(同行筋)

 繰り返すが、エシュロンは一般市民の通信まで無差別に傍受し、個人情報など全くない国際盗聴システムだ。日本政府がそれに加わること自体、超法規的活動になる。小泉首相は多国籍軍もエシュロンもと、国民の知らない間に日本をブッシュの世界戦略の歯車として組み入れようとしている。

 本誌は覆面自衛官たちを緊急招集した。

「多国籍軍への参加で自衛隊もようやく国際社会から一人前の軍隊と認められる。おめでとうございます」

 ーあえてそう切り出すと、陸上自衛隊二佐Bがいきなりむっとした。

「『食あたり』に苦しめられながら気温50度のサマワで頑張っている隊員たちに失礼だよ」

陸自三佐D 「あれは砂が原因じゃないかと見られています。サマワの砂は超微粒子でどこからでも入ってくる。発症した60人は交代したばかりの第二次隊ではなく、先遣隊など長期滞在している隊員たちでる。体内に相当、砂がたまっている」

陸自二佐C 「原因は特定されていないが、日頃から体を鍛えている精鋭たちだから軽い下痢ですんだ。ブッシュの毒にまともにあてられて熱にうなされている総理大臣の症状の方が深刻かもしれない」

 座談会はその現役自衛官3人に司会役の元陸自一佐Aを加えた恒例のメンバーで始まったが、誰も多国籍軍参加を喜んでいる風はない。

    ***

元一佐A エシュロンへの参加の話、B君は聞いていたか?

二佐B 初耳です。参加といっても、正式に加盟するのは難しいでしょう。

二佐C アーミテージ米国務副長官はかねてから日本のインテリジェンス・シェアリング、つまり、戦略的な諜報協力の強化を主張してきた。しかし、アメリカにはCIAがあるが、日本には総合的な情報戦略をどこが担当するのか。いくら首相が前のめりでも、受け皿となる組織がない。

元一佐A 内調(内閣情報調査室)には手に余るだろうし、外務省にそんなセンスは最初からない。暗号化したつもりの機密公電をどんどんエシュロンに抜かれていたくらいだ。公安調査庁にも相手が巨大すぎる。

 ー防衛庁は?

二佐C 横田(在日米軍司令部)と市ヶ谷(防衛庁)は当然、情報を交換してきた。統合幕僚会議の情報本部が通信電波傍受情報を渡し、米国家偵察局(NRO)の通信画像データなどを受け取る。だが、情報量が圧倒的に違う。

元一佐A 情報戦略というのは、エシュロンに加わるから、データを交換しましょうという次元の話ではない。はっきりいえばスパイの養成だ。国籍を捨て、目の色を変えてまで国家に忠誠心を尽くす人材を持てるかどうか。

二佐B ある日突然、妻の口座に数千万円が振り込まれる。しかし、いつまで経っても夫は帰ってこない。国家が残された家族の面倒を最後まで見る仕組みが日本にはありますか。映画の話ではない。どこの国でもやっている。国家のために情報活動に従事した者には、政権が代わっても家族の生活を保障する。

三佐D 私の同僚がある任務についていた時、身分証はいつもコインロッカーに入れて鍵も隠し、一切身元がわからないようにしていました。

元一佐A 情報部員の教育はある意味で洗脳だが、そもそもこの政府にそれだけの忠誠心を尽くす価値があるとは思えるかは疑問だ。

二佐B そうした体制整備や予算の裏付けもなく、エシュロンに参加したら、日本の防諜能力がすぐに飛躍的にアップすると考えているのなら、総理は夢を見ている。むしろ、アメリカの情報に完全にコントロールされる危険が大きい。

二佐C ホワイトハウスもイラクに大量破壊兵器があるというエシュロン盗聴網からの情報に翻弄され、CIA長官がクビになった。日本の情報収集能力が低すぎるのは重大な問題だが、人材の育成システムと忠誠心、情報収集は最後はそれしかない。(後略)

盗聴は国家の仕事

2006年03月22日 (SAPIO) yoshiohotta.com

 昨年12月16日にニューヨーク・タイムズ紙が暴露したブッシュ政権による盗聴問題は、その正当性が議会で問わるまでに発展している。ブッシュ大統領は、アメリカ国内に潜伏する国際テロリストの活動と計画を察知するため、令状を取らずに国家安全保障局(NSA)に盗聴をさせていた。その論拠は、2001年9月に上下両院で採択した「対テロ戦争で大統領に必要かつ適切な武力行使権を認める」という決議案である。

 多くのメディアは権力の乱用・逸脱であると糾弾するが、アメリカ政府の諜報機関は常時、国内外で盗聴を行ってきており、今回の問題はまさに氷山の一角に過ぎない。事実、私自身も盗聴された経験があり、驚嘆するほどの大事ではないという認識だ。

 90年代後半のある朝のことだった。電話をかけるために受話器を取ると、時折パチパチと乾いた音がする。小さな音だったが聴いたことのない音だった。通話中も断続的に雑音は入った。電話線に傷がつけられた様な音である。

 通話が終わり、受話器と電話線の接触不良を疑い、コードを差し直してみたが相変わらずパチパチという音は鳴った。ただ、通話は可能だったので問題視せずに仕事を続けた。午後になって受話器を取ると雑音は止んでいた。「自然に直った」と安堵したが、夜になると再びパチパチが始まった。

 翌日も音は断続的に続いたので、受話器が古くなったためだと思い、ファクシミリの回線と交換してみた。するとパチパチという音はせず、受話器に問題がないことが判った。あとは電話回線に何らかの支障があるか、盗聴である。「ワシントンでは盗聴がよく行われている」ということは、長年の生活で心得ていたが、一般人がそれを証明する手立てはほとんどない。それでも電話会社にパチパチの原因を質すことが正道であると思われた。数日しても断続的に雑音が入ったので、地元の電話会社の相談窓口に問い合わせた。

「最近、受話器を取ると静電気のような乾いた雑音が入ります。何が原因か調べて頂けますか」

 先方の女性の対応は丁寧だった。

「しばらく時間が必要です」

 私は何日かかっても構わない旨を告げてから、女性の名前と直通番号を聞いて受話器を置いた。

 2,3日してから直通番号にかけると、女性は「何が原因であるのか突き止められない」とつれない事を言った。もどかしいので、「盗聴の可能性はありませんか」と単刀直入に訊くと、「その可能性はあります」とはっきりとした口調で言った。

「盗聴だとしたら、誰がやっているか調べられませんか」

「できないことはないが、おう少し時間が必要です」

 トム・クランシーの世界が降りてきたような感じだった。

 最大の疑問は、なぜ一介の日本人ジャーナリストが盗聴の対象になるのかであった。ただ、盗聴されても恐怖も焦燥もなかった。テロリストでもスパイでもないので、電話の会話から先方が求める情報が入手できるはずもない。

 数日して電話会社の女性と話をすると、彼女は吃驚するようなことを口にした。

「盗聴の可能性があります。ただ、アメリカの政府機関がやっている場合はどの省庁であるかをお教えできません」

「ということは、私には何もできないということですね」

「残念ながら、そうです」

 それは紛れもなく「盗聴されている」という肯定の返答であった。アメリカが合法的に盗聴を行えることは知っていたが、まさか自分が対象になるとは思ってもいなかった。

 ほとんどの事象に因果関係があるように、盗聴にも理由があるはずである。唯一考えられたのが、パチパチが鳴り始める数週間前、キューバへ取材旅行に行く予定でビザを申請したことだった。

 キューバとアメリカはいまでも国交を断絶しており、ワシントンにはキューバ大使館がない。だが、大使館に替わるキューバ代表部(The Cuban Interest Section)が置かれており、そこでアメリカ人以外の旅行者などにビザ発給の便宜を図っている。

 代表部と何度も電話とファクシミリでやり取りをした後、ジャーナリストビザが発給された。それから代表部はキューバでの取材内容を提出するように求めてきた。私は大胆にもフェデル・カストロとラウル・カストロ(フィデルの実弟で国防相)へのインタビューを含めた依頼書を出した。

 パチパチはそれから暫くして始まっている。

 キューバ代表部が盗聴されていることは誰にでも想像がつく。そこへ一人の日本人が割り込んできて「カストロに会いたい」という大胆な要望が入る。充分に盗聴の理由はは成り立つ。

 アメリカの政府機関で盗聴を主業務にしているのが、冒頭で登場したNSAである。中央情報局(CIA)はヒューミント(Humint:スパイによる諜報活動)が中心で、シギント(Sigint:電子機器による諜報活動)はNSAが担当している。ワシントン郊外メリーランド州フォート・ミードに本部があり、予算7000億円(推定)、職員は7万人に達するといわれる。

 彼らが盗聴で使用しているのが「エシュロン(フランス語で梯子の意)」で、携帯電話やファクシミリはもちろん、電子メール、衛星通信など電磁スペクトラムによる通信はすべて傍受できるシステムだ。カバーする範囲は人工衛星を使用するため世界中におよび、スーパーコンピューターは1分間に300万件以上の情報を処理できる能力がある。

 エシュロンでの盗聴は国外が主な対象になっている。外国人に対しての盗聴を制限する法律がないため、事実上無制限で盗聴を行える。一方、アメリカ人と永住権保持者に対しては、外国諜報活動偵察法(FISA)の下で裁判所から令状を取らないと盗聴できない。

 私は永住権を持つので令状が必要になったはずだが、FISAの裁判所は79年に設立以来、NSAの令状申請をほとんど却下したことがなく、アメリカ政府は国内外でほぼ自由に盗聴を行っているのが現状だ。

 今回ブッシュ大統領が令状を取らずにNSAに盗聴を行わせた理由は、即応性を求めたためだ。令状を申請した場合、裁判所から許可が下りるまでにかなりの日数が必要になり、迅速な諜報活動ができない可能性があった。 反ブッシュ派はその点が大統領府の権利の乱用であると指摘する。代表格の民主党パトリック・レイヒー上院議員は、「FISAは大統領の秘密裡の盗聴を許可してはいない。01年の決議案も盗聴する権限を与えているわけではない」と述べる。

 さらに市民団体などは、令状なしの盗聴は憲法修正第4条(不合理な捜索および逮捕押収に対し、身体、住居、書類および所有物の安全を保障される人民の権利は、これを侵害してはならない)の違反にあたるとして、ブッシュ政権を糾弾している。

 しかし、9.11以後、アメリカが第二のテロ攻撃を防止することを国家的な緊急課題に据えたことは議会の民主党議員も認知している。さらに、憲法第2条によって大統領が超法規的な裁断を下せる法解釈もあり、国内に潜伏するアルカイダの残党に対する盗聴へは、リベラル派の議員でさえも同調する声が出ていた。

 実は、9.11直後、NSAのマイケル・ヘイデン局長がブッシュ大統領に近づき、令状なしで早急にアルカイダの残党の通信傍受を図る必要性を説いていたのだ。ブッシュ政権の弁護団がその合法性を検討し、02年初頭、充分に可能であるとの結論に達した。

 ヘイデン前局長はフォックスTVに出演し「NSAは何十万件という国内外の通信情報をわずかの時間で傍受できると思われているが、現在は通信傍受の対象を非常に限定できるようになった」と、NSAの盗聴技術が向上している事実を述べると同時に、ブッシュ大統領が秘密裏の大統領令を出したことを認めた。

 このことは、NSAがエシュロンの使用と同時に別の盗聴手段も用いていることを意味する。特に9.11以後、NSAは某大手電話会社の役員に接触し、「通話詳細記録(CDR)」の提出を求めた。エシュロンは無制限の通信傍受が可能だが、CDRを入手することで絞り込んだ盗聴を行っているのだ。

 近代国家であれば諜報機関を備えていてしかるべきであり、盗聴によるプライバシーの侵害は不可避であるとの考え方がこの世界では常識になっている。エシュロンはアメリカだけでなく、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドにも設置され、情報は5カ国で共有されて、日本は蚊帳の外である。

 もちろん日本にも諜報機関として公安調査庁や公安警察、さらに内閣情報調査室、防衛庁(情報本部)、外務省(国際情報統括官組織)などがあるが、アメリカの中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)の規模とは予算・人員で比較にならない。

 日本にも包括的なインテリジェンス(秘密情報)を統合させるためのCIAに代わる組織があっていいはずだ。 エシュロンが傍受・解析した情報によってアルカイダの残党がパキスタンで逮捕された事実もあり、近代国家による諜報活動の重要性はもっと語られるべきである。

 99年に日本でも盗聴法が成立したが、電話や電子メールなどを傍受することで国際犯罪やテロ攻撃の防止につながるのであれば、盗聴は国家として当然の行為である。人権擁護は大切だが、何もしない方がナイーブであり、国際犯罪に脆弱さを露呈することになる。

 自宅の盗聴事件は、パチパチ音が暫く続いた後、回線が不通になることで終わった。私に盗聴の目が向けられたことには多少の違和感は否めないが、国家として当たり前の仕事をした証だろうと思っている。

鍛冶俊樹著「エシュロンと情報戦争」評 宮崎正弘

2007/09/26 宮崎正弘の国際ニュース・早読み

「産経新聞」書評。(2002年03月18日付けに掲載。再録)          

 米国はこれから五年間で国防費を二兆ドルも使う。

 主に「高性能の無人偵察機」などの開発だが、咄嗟に思い出したのが世界のあらゆる通信を傍受している秘密機関「エシュロン」の存在である。

 エシュロンは電話、インターネット、テレックスなど世界中の通信を傍受、解析する高度の情報機関である。

 アフガンのイスラム原理主義派も北部同盟も、実は携帯電話で連絡を取り合っていた。その軍事指令や部隊の移動などの情報は確実に米軍が傍聴し、掌握していたため、あれだけ正確な空爆ができたのだが、このエシュロンが存在する事実さえ米国は認めていない。

 かつて日米通商会議の際に日本側の譲歩限度の打ち合わせを事前に傍聴した米国は、どのあたりで日本が手を打つかを知っており、実に有利に交渉を成立させた(橋本ーーカンター会談)。

 インドネシアへの通信機器入札、サウジへの航空機商談など日本ばかりかEUの事前のビジネスの動きを察知し、強引に割り込んで取引をもぎ取るのが米国の常套手段、怒ったヨーロッパが米国批判の狼煙をあげた。

 つまり軍事情報、国家安全保障のための情報収集活動が冷戦終了後は「同盟国との経済戦争」に巧妙に転用されていたわけだ。

 典型は97年にアジア各国を襲った「通貨危機」でマレーシアのマハテール首相は「米国の陰謀」とまで言い切ったものだった。

 本書はこうした経緯を簡潔に纏めながら、エシュロンのベールを一枚一枚はがし、その戦略の謎に満ちた本質に肉迫する。 

 だがエシュロンをもってしてもビンラディーンの攻撃目標を事前に察知できず、ペンタゴンまで襲われた。

 アルゼンチンなどの債務不履行も事前に掌握できなかったのは傍聴記録を「事後」に解析し、判断するためで、加えて少数民族の言語専門家など人材不足が顕である。読後、通感したのは、防衛力の脆弱な日本こそこの類いの機関が必要ではないのか?ということなのである。

テロ対策用巨大データベース網、米国で構築か

2004年10月06日 Hot Wired Japan

 Ryan Singel[日本語版:長谷 睦/高森郁哉]

 米連邦議会の上院は、早ければ6日午後(米国時間)にも、ある法案を可決する。この法案は、民間および政府のデータベースを相互接続した巨大なシステムを構築し、政府の対テロリスト捜査官が迅速に検索できるようにするというもので、米国民に関する莫大な量のデータがこのシステムの対象になるとみられる。

 この法案で提案されているデータベースのネットワークは、マークル財団の特別委員会が2003年12月に発表した報告書に基づいている。この報告書では、連邦捜査局(FBI)と中央情報局(CIA)の捜査官、ならびに警察官や一部の企業が、諜報・犯罪・商用のデータベースを迅速に検索できるようにするシステムの構想が打ち出されていた。この提案はきわめて徹底的なもので、今回の法案ではシステム要件とプライバシー方針を定めるだけで5000万ドルの予算を割いているほどだ。

 今回の法案はジョゼフ・リーバーマン議員(民主党、コネチカット州選出)とスーザン・コリンズ議員(共和党、メイン州選出)によって提出され、6日夜にも最終議決に持ち込まれる見込みだ[日本語版編集部注:同日、米上院で賛成96票、反対2票で可決]。米国の同時多発テロに関する国家調査委員会(通称:9.11委員会)では、2001年9月11日の同時多発テロ以前の米国の諜報活動や安全保障の手法に関する問題点を調査したが、この法案も9.11委員会の勧告(日本語版記事)に基づいている。

 マークル財団の特別委員会では、今回提案されたシステムの悪用を防止するため、匿名化技術や、許可に基づくアクセスの段階的な制限、悪用を常時監視する監査用ソフトウェアを採用するよう勧告している。

 さらに、マークル財団による報告書の追記部分には、このシステムに対して、以下のような具体的な要求事項が挙げられている。「(同システムは)テロの容疑者とされたある人物の共謀者たちを、30秒以内に特定できる能力を備えるべきである。特定には、共有された住所、容疑者の電話の発信と着信、容疑者のアカウントから送受信された電子メール、金融取引、旅行歴や各種予約、諸団体宗教および表現活動に関わるものも(適切な保護措置を講じたうえで)含むへの加盟履歴などの記録を使用する」

 しかし、マークル財団の特別委員会の一員で、民主主義と技術のためのセンター(CDT)で上級理事を務めるジェイムズ・X・デンプシー氏は、このシステムで使われる予定の商用データベースの記録というのは住居の所有データのような、より限定された範囲の国民の記録であり、ある人がどのモスクに属しているのか、といった情報ではないと指摘する。

 デンプシー氏の考えによれば、FBIに対し、米チョイスポイント社のような民間企業が運営するデータベースを使ってテロの容疑者の自宅住所を突き止めることを禁じるのは「馬鹿げている」という(今でもFBIはこうしたことを行なう権限を持ち、実際に行使している)。一方で、同氏は「FBIの捜査官たちがチョイスポイント社を使い、『ガン・オーナーズ・マンスリー』といった雑誌の定期購読者をすべて洗い出すといったことを許していいのだろうか? 私はそうは思わない」とも語っている。

 デンプシー氏は、特別委員会で提案したデータベースのネットワークでは、さまざまデータからパターンを読み取り、テロ活動を検知するといったことは想定されていないと述べている。そうではなく、このシステムでは、捜査官が名前を入力すると、システムがその人物に関して知られている情報を検索するということになる。

 だが、上院の動きはあまりに急であり、このデータベース・ネットワークは市民の自由を侵害する恐れがあるという批判の声もある。米ナレッジ・コンピューティング社のロバート・グリフィン社長によると、議員たちの考えている手法は「大海を沸かす」ようなものだという。同社の運営する『コップリンク』は警察当局のデータベースを相互接続するシステムとして、ひろく使われている。グリフィン社長は、情報共有のさらなる促進は支持するとしながらも、今回のデータベース・ネットワークに関する提案はあまりに多くのことを急いでやろうとしているうえ、民間企業のデータに頼りすぎていると指摘する。

 グリフィン社長は同時多発テロにおける実行犯のリーダーの名前を挙げ、「第2のモハメド・アタが民間企業のデータベースから見つかることはないだろう」と述べている。「その人物がどこかで信号無視をしているところを止めたり、人間関係の集合を運用していく中で、ああ、要注意リストにのっていた人物とこういうつながりがあったのか、というようなことが判明するものだ。テロの容疑者はそうしたきっかけで見つかるもので、信用履歴に問題があるからといって、テロリストだとして特定されるわけではない」

 電子フロンティア財団(EFF)で市民的自由の擁護にあたる弁護士のリー・ティエン氏は、今回の法案に関して議会が公聴会を開催せず、消費者や虐待を受けている女性の立場を擁護する人たちの意見を聞かなかったことに関して「組織的な怠慢だ」と非難している。同氏はさらに、プライバシーや個人の権利を守るための正当な法の手続きが全般的に見過ごされがちな現状では、データ共有には危険がともなうと懸念している。

 「誰かに信用記録や診察履歴を勝手に転送されていたとしても、当の本人はそれを知る手段がない。現実の世界でそういうことがあれば、自然と伝わって来るものだとわれわれは考えているが、これは情報の世界には当てはまらない。注意を怠ってはいけないのだ」とティエン氏。

 こうした懸念を抱くのはティエン氏だけではない。4日には、40以上の団体が、審議中の法案に市民の自由を守る適切な対策を追加するよう要請する、議会への公開書簡(PDFファイル)に署名した。署名した団体は、全米法律図書館協会から全国有色人種地位向上協会(NAACP)まで、多岐にわたった。

 しかし、テクノロジーに詳しいカーネギー・メロン大学のデイブ・ファーバー教授は、マークル財団の特別委員会に参加する中で、今回提言されたデータベース・ネットワークのモデルはテロリストとの闘いに「不可欠な」ツールだとの確信を深めたという。

 「(特別委員会のメンバーの)多くはデータの共有に強い警戒心を抱いていた。だが、最後にはこの委員会の勧告が順守されるなら、プライバシーの保護の問題を考えに入れても、最良の手段となると全員が確信していた」とファーバー教授は述べた。

米当局に提供されていた、12万人分の「テロ予備軍リスト」

2004年05月20日 Hot Wired Japan (AP通信)

[日本語版:天野美保/高森郁哉]

 犯罪およびテロリズムのデータベース計画『MATRIX』(複数州にわたる対テロリズム情報交換)の立ち上げに協力したデータ集積企業米セイシント社が、MATRIXの構築を請け負う前に、統計的に見てテロリストになる可能性がある人物12万人の名前を米国とフロリダ州の当局に提出していたことが明らかになった。そして、この情報提供が捜査や逮捕のきっかけになっていたという。

 データベースを管理するセイシント社がMATRIXプロジェクトへの参加を決定するうえで、この「高いテロ要因」(HTF)採点システムも重要なセールスポイントとなっていた。

 AP通信が複数の州から入手した公文書を見ると、連邦政府からの1200万ドルの資金援助受けるMATRIXプロジェクトに、セイシント社が唯一の契約業者として指名された理由として、米司法省の関係者がこの採点技術を挙げていることがわかる。

 セイシント社や、MATRIXを監督する法執行機関の職員らは、このテロ採点システムは、プライバシーへの懸念が主な理由となって、最終的にこのプロジェクトから外されたと主張している。

 だが、当局が12万人のリストに基づいて行動したことを示す証拠が出るなど、セイシント社による「テロ指数」の開発について新たに明らかになった事実に、プライバシー擁護の活動家たちはMATRIXが今後持ちうる力に対する懸念を強めている。

 米市民的自由連盟(ACLU)の『技術と自由プログラム』の責任者、バリー・スタインハート氏は、「現在本当にこのテロ指数をプロジェクトから外しているとしても、再び使用しようという気になった場合に、止める手だては何もない」と語る。ACLUは独自にユタ州で公文書開示請求を行ない、12万人のリストについて知った。

 MATRIXは、各州の記録とセイシント社が集めたデータを組み合わせ、捜査員が犯罪やテロの容疑者に関する情報に素早くアクセスできるようにするシステムで、2002年に始まった。

 MATRIXには、前科のある犯罪者と同じように、犯罪歴のない人に関する情報も含まれているため、リベラル、保守両方のプライバシー擁護団体から非難の声が上がっている。ユタ州を始め、他に少なくとも8州がこのプロジェクトから手を引いた。参加を続けているのはフロリダ州、コネチカット州、オハイオ州、ミシガン州、ペンシルベニア州。

 AP通信は今年、公文書開示請求でMATRIXに関する数千ページに及ぶ文書を入手した。その中には、このプロジェクトについて詳細に検討した会合の議事録とプレゼンテーション資料が含まれている。

 この文書の中には、MATRIXの計画立案者たちが、各個人がテロリストになる可能性を測定する統計的手法はとらないということを決定したと示す資料はない。

 AP通信が、テロ採点システムが破棄されたことを示す文書を指定して請求したところ、フロリダ州警察の法律顧問室からは、公開できるものはないとの答えが返ってきた。

 それでもMATRIXの関係者たちは、この統計的手法は最終的なシステムから外されていることは確かだと主張する。

 フロリダ州警察のマーク・ザドラ捜査官は、「私は26年間の警察官経験を懸けて誓う。このシステムに、そうした統計的手法は含まれていない」と話す。ザドラ捜査官によると、MATRIXには40億件のデータが入っているが、このシステムの役割は、警察が分散している情報源から日常的に入手しているデータへのアクセスを迅速化させることで、容疑者を自動的に、あるいは先を見越して特定することではないという。

 セイシント社の幹部で、かつて麻薬取締捜査官を務めたこともあるビル・シュルーズベリー氏によると、12万人の名簿を作り出したテロ採点アルゴリズムは、2001年の同時多発テロ直後に実演された後「棚上げされた」という。

 この採点システムは諜報データを必要とし、最初の実演の際にはソフトウェアに読み込まれたが、こういったデータは一般的には利用できない、とシュルーズベリー氏は説明する。「それに、われわれはこれを続行することに興味もない」

 ユタ州の文書に含まれているセイシント社のプレゼンテーション資料によると、この採点システムは、テロリストが「米国社会に潜入して生活する」方法を示した「テロリストのハンドブック」名称は明かされていないを解析・摸倣することによって、同社と法執行機関の職員らが開発したものだという。

 採点には、年齢、性別、民族、信用記録、「捜査データ」、パイロット免許や運転免許についての情報、他の容疑者に使われたことがわかっている「犯罪に関係のある」住所とのつながりといった要素が織り込まれていた。

 セイシント社のプレゼンテーション資料2003年1月付けで、機密マークが付いているによると、とくに高い点が与えられた12万人の名前は、米移民帰化局(INS)、米連邦捜査局(FBI)、シークレットサービス(米財務省秘密検察局)、フロリダ州警察に提出されたという(後に、これらの機関はMATRIXの照会ソフトウェアの開発に協力することになるのだろう)。

 点数が最も高かった80人のうち、5人は9月11日のハイジャック犯人に含まれていると、セイシント社のプレゼンテーション資料には書かれている。さらに45人に対しては捜査が進行中かその可能性があり、残りの30人は「FBIに知られていなかった」人々だったという。

 プレゼンテーション資料には、「INSなどの当局が調査を開始し、実際に逮捕にまでつながった」と記載されている。また、箇条書きで、「1週間以内に数件の逮捕」と「それ以後の多数の逮捕」と記されていたが、捜査と逮捕が行なわれた日時や場所の詳細は示されていなかった。

 フロリダ州警察の情報部門を率いるフィル・レイマー氏は、自分の情報部門のいくつかの捜査で、着手すべき点を示す手がかりとしてこのリストが役立ったが、それが何件あったかは覚えていないと語る。さらにレイマー氏は、このリストを逮捕の唯一の証拠に使用したことはないと強調している。

 「このリストを利用して行なったのは、署に戻って、対象の人物がリストにどう記載されているかを調べたことだけだ」とレイマー氏。

 INSの業務を引き継いだ国土安全保障省の米移民関税執行局(ICE)は、INSがこのリストを受け取ったのか、あるいは利用したのかは確認できないと述べている。

 セイシント社はこのHTF採点システムについて、同時多発テロ事件を受けて実演された後に棚上げにしたと述べているが、そのアルゴリズムが2003年になって売り込まれていたのだ。

 AP通信がフロリダ州から入手した文書は、MATRIXに関する2003年1月付けのプレゼンテーションの「説明資料」であることがわかった。このプレゼンテーションは、ディック・チェイニー米副大統領をはじめとする連邦政府幹部たちに対して、セイシント社、フロリダ州のジェブ・ブッシュ知事、フロリダ州警察の幹部が合同で行なったものだ。

 セイシント社の説明事項の1つに「マッピングを伴うHTFの実演」がある。2003年2月のMATRIXの会合の議事録には、チェイニー副大統領、トム・リッジ国土安全保障省長官、ロバート・ミュラーFBI長官に対して要点を説明したと書かれている。

 司法省は2003年5月、セイシント社の「技術的な資格」を挙げて、MATRIXプロジェクトのデータ管理の唯一の契約業者としてセイシント社を承認した。この技術的な資格には、「すべてのケースに『テロ指数』を適用する」ソフトウェアも含まれている。

 「テロ指数はいくつかの基準を特定しており、その基準を当てはめると、9月11日のテロ攻撃をはじめとする、テロ事件の犯人に関係のある人物を正確に選び出すことができた」と、司法省の司法プログラム局の政策アドバイザー、ブルース・エドワーズ氏のメモに書かれている。「このプロセスが生み出した採点メカニズムを犯罪者人口全体に適用すると、同じような動機を持つ人を見つけ出せるのだ」

 司法プログラム局からのコメントは得られなかった。

 フロリダ州警察のレイマー氏は、この採点システムは「9月11日のテロ事件のためだけに開発された」もので、日常の捜査に適用できるものではないので破棄されたと語り、「誰にも悪用されたくなかった」と付け加えている。

 セイシント社は、大富豪のハンク・アッシャー氏がフロリダ州ボカラトンに設立した企業。アッシャー氏は、過去に麻薬密輸業者と関係があったことが明るみに出たため、昨年役員会から辞任している。

226回 「スパイ国家の弱点」

配信日:2005-11-26 Japan Mail Media

 (前略)

 私が今回翻訳した『チャター、全世界盗聴網が監視するテロと日常』という本は、正にそんなアメリカの病理を突いたタイムリーな本だと思います。911以降の「反テロ戦争」の中で、「エシュロン」という情報処理システムを使って世界中の電気的コミュニケーションを盗聴し続けるNSAを中心に、アメリカというスパイ国家が世界に対して何を仕掛け、その結果としてどう行き詰まっているのかを丹念に取材したドキュメントです。

 原書の出版は今年2005年の初頭で、その際には「ポスト911の反テロ戦争」がもたらす「プライバシーと安全」の問題が懸念されていました。そんな中で3月にはロンドンでの地下鉄テロがあり、本書のタイトルでもある「チャター」という語(テロリストによる交信のささやき)はワシントンの政界やメディア関係者の流行語にもなりました。そしてイラク戦争への支持が急降下しているこの年末には、CIAとホワイトハウスの暗闘が政局の中心になっています。

 いずれにしても、冷戦の終結と共に一旦は役割を終えたように思われたアメリカの巨大スパイ組織が、911と共に息を吹き返しているのです。そして、そうしたスパイ組織に予算が投じられて、組織が拡大することで、更に様々な問題が出てきているのが今日のアメリカだと言って良いのでしょう。

 ですが、本書は「スパイ組織や盗聴と人権問題」というような古典的な「エシュロン批判本」ではありません。数多くのスパイ基地を取材、現場の証言も取り混ぜながら巨大な盗聴組織の実像を明らかにしようとし、更に、巨大組織を作り上げてしまったために、アメリカが陥った逆説的な苦境を丹念に指摘しているのです。

「エシュロンが収集する盗聴データがあまりに膨大なので、情報の解析が追いつかない」

「にも関わらず、NSAは各国語の語学専門官を十分に確保できていない」

「911以降、ハイテク盗聴に巨額の予算が投じられた一方で、人的な情報収集活動は削減された」

「アメリカがハイテク盗聴に走る一方で、アルカイダと言われるグループは一切の電気的交信を止めた」

「世界中で有名なエシュロンのことを、アメリカ人はほとんど知らない」

「UKUSA同盟という英語圏の諜報秘密同盟があり、日本はその準メンバーである」

「象の檻などの盗聴施設の建設では、世界中で地元との摩擦が起きている」

「人は<聞かれている>と意識したとたんに行動を変えてくる、そこに盗聴行為の限界がある」

「民間では事業に失敗したら予算が切られるが、情報機関は失敗すると予算を追加してもらえる」

 盗聴やスパイが「倫理的に悪」という価値判断ではなく、盗聴やスパイを行うことでアメリカが「自分の首を絞めている」実態、つまり天文学的な予算を投じて人々のプライバシーを侵害しておきながら「実効性が疑問」だという事実を読者に突きつけようとしている「志」のある本だと思います。(後略)

論議を呼ぶ、対テロ用データベース『MATRIX』

2004年02月02日 Hot Wired Japan (AP通信)

[日本語版:湯田賢司/高森郁哉]

 ニューヨーク発米連邦政府の資金援助で構築が進められている犯罪およびテロリズムのデータベース計画『MATRIX』(複数州にわたる対テロリズム情報交換)に対し、プライバシー面の懸念を理由に手を引いている州もいくつかあるが、計画に参加し市民の情報を共有することを積極的に検討している州もあることが、AP通信の調べで明らかになった。

 MATRIXプロジェクトを運営するフロリダ州警察のマーク・ザドラ捜査官によると、プロジェクトの推進者たちは、ここ数週間、米国北東部と中西部の10州以上に向けてプレゼンテーションを行ない、このデータベースが非常に貴重な捜査ツールだということを説明しているという。

 アイオワ州とノースカロライナ州は1月30日(米国時間)、このシステムについて調査中だと述べた。公文書開示請求を通じてフロリダ州で入手した文書は、アリゾナ州とアーカンソー州も関心を持っている可能性を示唆している。この情報共有システムは、州の記録を民間企業が保有する200億件にものぼるデータと組み合わせ、迅速なアクセスを可能にするものだ。

 現在、MATRIXプロジェクトにはフロリダ州、コネチカット州、ペンシルベニア州、オハイオ州、ニューヨーク州、ミシガン州が参加している。

 ユタ州では、前知事がMATRIXの導入に着手したが、現知事は29日、同州の参加をいったん停止すると述べ、安全保障とプライバシー面の問題を検証する委員会を任命している。

 同じように、いったんはMATRIXに参加を表明していたジョージア州は30日、現在は完全に撤回していると述べた。これは、ソニー・パーデュー知事が、同州は参加していない旨の公式声明を2003年10月に出したにもかかわらず参加を継続していることを示す文書を、AP通信が同州に示したことに対して答えたものだ。

 捜査当局の担当官らによると、MATRIXは、容疑者について、これまではばらばらの情報源から集めなければならなかった情報を、非常に効率的に入手できる手段だという。また、このシステムは公になっている記録を収集するだけで、犯罪やテロの予測に使うものではないと、担当官たちは強調する。

 だがプライバシー擁護派は、MATRIXが捜査当局に、多数の個人の詳細情報にアクセスする権限を過剰に与えていると主張し、米国防総省のテロ対策用データマイニング・プログラムになぞらえている。これは昨年、国民の非難を浴びた結果、議会から予算承認を得られなかった(日本語版記事)プログラムだ。

 MATRIXが今後拡大するかどうかは、まだ予測困難だ。

 MATRIXのデータベースを管理する米セイシント社のビル・シュルーズベリー副社長は、5州か6州が今後新たに参加する見込みだと述べたが、州名は明らかにしなかった。

 シュルーズベリー副社長は「捜査機関の関係者に見せると誰もが例外なく、『これはすごい。信じがたい技術だ。われわれの仕事が非常にやりやすくなる』と答えてくれる」と語る。同副社長は、かつて捜査官としてフロリダ州警察と米麻薬取締局(DEA)に所属した経歴を持つ。

 しかし、プロジェクトがあまりにも大きな論議を巻き起こすならば、「みんな手を引くだろう」とシュルーズベリー副社長は言い添えた。

 ジョージア州アトランタで昨年11月5日に開かれたMATRIXに関する会合の議事録によると、この時点でプロジェクトに参加していた7州に加え、米国土安全保障省、米国司法省、さらにアリゾナ州、コロラド州、メリーランド州、ウェストバージニア州の4州の代表者が出席している。

 ウェストバージニア州とコロラド州は1月30日、この会合のあと参加しないことを決定したと述べている。ウェストバージニア州は費用を理由に挙げた。

 MATRIXプロジェクトは、1200万ドルの連邦予算を受けて立ち上げられた。しかしAP通信が入手した文書は、参加する各州が1年当たり180万ドルもの支出を迫られる可能性を示している。シュルーズベリー副社長によると、長期的に見ればコストは大幅に削減できるだろうという。

 アリゾナ州警察の上層部に位置するデニス・ギャレット氏は12月16日、MATRIXの詳細な機密保守同意書に署名した。この同意書によって、西部の8州が希望する場合、アリゾナ州の監督のもとで共有される機密保護されたネットワークを通じて、MATRIXシステムに接続できる可能性が開かれた。しかしアリゾナ州の担当官は、同州自身がMATRIXへの関心を持ち続けるかどうかについてはコメントしていない。

 メリーランド州の国土安全保障担当責任者、デニス・シュレーダー氏によると、同州は最終的に、情報を蓄えるための何らかの「データマイニング・ツール」を導入する予定になっており、MATRIXを考慮から外すわけではないという。

 会合の議事録は、フロリダ州警察の捜査官で、MATRIXプロジェクトを監督するフィル・レイマー氏の発言として、ノースカロライナ州、アーカンソー州、アラバマ州、アイオワ州は参加を要請されていたが出席しなかったと伝えている。

 アイオワ州とノースカロライナ州の担当者らは30日、MATRIXプロジェクトへの参加を検討していると述べた。アラバマ州は費用が高すぎると述べている。

 現在のところ、450人の捜査官(このうちの大部分がフロリダ州に所属)がMATRIXにアクセスできる。フロリダ州警察のザドラ捜査官によると、国土安全保障省や米連邦捜査局(FBI)などの連邦捜査官もアクセスする資格を有するという。

 当初、カリフォルニア州を含む13の州がMATRIXプロジェクトへの参加を計画していた。しかしカリフォルニア州の検事総長は、このシステムは「プライバシーの基本的権利」を侵害するものだと発言している。

 セキュリティーに関して懸念を表明している州もある。たとえば、ジョージア州で記録開示請求によって明らかになった10月2日付けの覚え書きの中で、運輸局の職員は、セイシント社が「データベースとデータ転送の安全と機密を守るためにあらゆる努力を払うが、悪用される危険性は依然として存在する」と述たことを指摘している。

 フロリダ州のファイルには、10月7日付けの書簡が含まれている。この書簡ではルイジアナ州警察の副署長、マーク・オクスリー氏が不参加の理由として、データベースに送られる記録の機密性に関する「ぬぐいきれない懸念」を挙げている。また、「当初のテロリスト対策という使命から、とどまるところを知らないほど拡大しつつある適用範囲」についても疑問を投げかけた。

 さらにオクスリー氏は、ルイジアナ州が「とりわけ失望させられた」のは、セイシント社を設立したハンク・アッシャー氏が、1980年代にコカイン密輸業者のための飛行でパイロットを務めたと認めたことを、報道で知ったときだという。アッシャー氏はセイシント社の役員会から辞任した。

 MATRIXに関する疑問は依然として、参加している州にとってさえも大きくのしかかっている。ニューヨーク州知事の事務所によると、長期的な財源とプライバシー法に関する疑問が解消されていないため、まだデータベースと共有している記録はないという。

 コネチカット州では、州警察がMATRIXシステムを利用しているが、リチャード・ブルメンタール検事総長は今月、「プライバシー、費用、効果等の問題について」求めた回答がまだ得られていないと述べた。

 米市民的自由連盟(ACLU)はMATRIXに反対している。ACLUの『技術と自由プログラム』の責任者、バリー・スタインハート氏は、新たな情報開示によって、連邦政府の担当官たちがこのプログラムの長期計画を率直に示すことがますます重要になったと述べている。

 「すべてがきわめてあいまいなままだ」とスタインハート氏は語った。

「日本もエシュロン加盟」 欧州議会委員が指摘

2002/02/16河北新報
 欧州連合(EU)欧州議会エシュロン調査特別委員会のイルカ・シュレーダー委員は16日、都内で講演し、地球規模の通信傍受網、エシュロンについて「日本は新しい加盟国」と指摘。日本が「エシュロンの活動のために機器や施設などを提供する代わり、集めた情報の一部提供を恐らく受けており、秘密加盟国と呼ばれている」と述べた。

 エシュロンに反対する国際集会」に出席した同委員は「米国と英国は第一、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが第二で、ドイツ、韓国、トルコ、ノルウェー、日本などは第三の加盟国だ」と説明。日本の在外公館などがスパイ活動の対象とされてきたのに政府から告発がないのは「第三のパートナーとして利益を得ている」からだとの見方を示した。

「エシュロン廃止を」 EU議会のシュレイダー議員が訴え

2002-02-15 Mainichi INTERACTIVE
 超党派の国会議員らの呼びかけで、英米が主導する世界的な通信傍受機関「エシュロン」に関する勉強会が15日、東京・永田町の参議院会館で開かれた。約30人が参加した。講師は、EU(欧州連合)議会の特別委員会が昨年6月に存在を公式に認めた報告書の作成に携わったイルカ・シュレイダー議員(ドイツ)。シュレイダー議員はエシュロンの廃止を主張した。

強会の開催を呼びかけたのは、福島瑞穂氏(社民)▽枝野幸夫氏(民主)▽川田悦子氏(無所属)▽緒方靖夫氏(共産)−−ら12人。

 欧州議会は2000年7月にエシュロンに関する調査を行う「エシュロン調査委員会」を設置。昨年6月にまとめた最終報告書で、日本の外交通信を含む世界中の電話、電子メール、ファクスなどを盗聴しているエシュロンの存在を「疑いない」と断定し、英米を批判した。

 シュレイダー議員は報告書の内容について、同委には証人喚問権がないほか、産業スパイなど専ら経済的な損失への懸念に立つ立場からの調査であり、プライバシー保護など人権侵害の視点がない調査自体の問題点も指摘したうえで、「エシュロンは人権に対する大きな脅威だ。廃止しかない」と訴えた。

 一方、同議員の話からエシュロンをめぐっては、米英のほかカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど関係5カ国以外の日本を含めた第3国も、収集された情報の提供を受けているほか、カナダなどが提供した情報を米がカナダに不利なように情報を取り扱うケースもあるなど、複雑な国際関係の中で必ずしもエシュロンの存在が批判につながらない、難しい面があることも浮かび上がった。

 会場からは「エシュロンは市民生活の中でどういう影響を与えるのか」などの質問が出た。これに対して、シュレイダー議員は「自分の情報が他人見られているかどうかも分からない。ネットサーフィンの記録さえ追跡される可能性がある」とエシュロンの危険性を訴えた。

[aml 25863] 2月16日エシュロン国際集会Echelon international symposium

(Tue, 1 Jan 2002 )From: "kenich sato"

第二部・終わりなき情報戦争 (2) 日本が狙われている/姿見せぬ“産業スパイ”

2001年10月05日 東奥日報

 夏草が足元でカサカサ鳴った。小川原湖を渡る風が心地よかった。ゴルフボール型をした真っ白な巨大ドーム群が、遠く三沢基地内に見えた。「やっぱり、そうだ。エシュロンだ」。傍らを歩くダンカン・キャンベル氏のささやきにも似た言葉を佐藤裕二氏は聞き逃さなかった。度の強い眼鏡越しに見えるキャンベル氏の青いひとみが輝いていた。

 二〇〇〇年七月。軍事研究家の佐藤氏は、エシュロン研究の第一人者として知られるキャンベル氏(英国)を案内するため、自宅のある秋田市から三沢に出向いていた。かねてエシュロン疑惑が浮上していた三沢の巨大ドーム群がキャンベル氏の目にどう映るのか、それが知りたかった。

 キャンベル氏の「エシュロン」という言葉を聞いて、佐藤氏の頭はフル回転した。二十年にわたる追跡調査で得た巨大ドーム群についてのさまざまな情報の断片が浮かんでは消えた。そして確信した。「自分の考えに間違いはなかった」と。

 あれから一年二カ月。あの時の確信は今、最終結論に達した。「セキュリティー・ヒル」で威容を誇る十四基の巨大ドームのうち、エシュロン用とみられるのは一九九一年以降に建設された四基−だと。厚い秘密のベールに包まれた通信情報傍受システム「エシュロン」の施設が特定されるのは極めてまれなことだ。

 佐藤氏は言う。「ロシア軍事衛星の傍受用は八基あれば十分です。残る六基のうち二基は米国が自国用に使っている国防衛星通信システム。従って、残りの四基が商業衛星を狙ったエシュロン用と考えられます。四基の建設が最初に確認されたのは冷戦後の九一年八月なので、ロシア以外をターゲットにしていることは明らかです。四基のうち三基が傍受を担当し、収集した情報を一基が米本土のNSA(国家安全保障局)に送信しているとみるのが妥当です」

 巨大ドームは直径十一−十八メートルのプラスチックでできており、その中のパラボラアンテナが通信衛星を追っている。同様のエシュロン基地が世界に二十カ所あり、一日当たり数十億に上る膨大な通信を無差別に傍受。それをキーワード検索システムでふるいにかけ、必要な情報だけを取り出しているのだという。

 では、三沢のエシュロンが狙っている商業衛星とは何なのか。この疑問に対して、佐藤氏は国際通信衛星のインテルサット−と答える。

 「インテルサットは十九基の静止衛星から成る地球規模の通信システムで、世界の百四十四カ国が利用しています。このうち、三沢がターゲットにしているのは太平洋上にある日本向けの一−二基。エシュロン用のアンテナは三基あるので、インテルサットのほかに、日本国内だけで使っている通信衛星(CS)も傍受しているのではないでしょうか」。そう説明する。

 ターゲットは日本、しかもわれわれが日常的に使っている電話や電子メール…と、佐藤氏の分析は告げている。日本は自らの国内にあるエシュロン施設によって盗聴されるという矛盾を演じていたというのである。

 こうした情報の“無法状態”に危機感を抱いているのが、米国の経済上のライバルである欧州連合(EU)だ。EUは今年五月、エシュロンに関する最終報告書をまとめ、「最大の問題は産業スパイとプライバシーの侵害」と指摘、「人権に反している」と糾弾した。もちろん、報告書の中にははっきりと「ミサワ」の文字が記されていた。

 一方で、エシュロンの能力は伝えられているほどではなく、限定されているとの声もある。しかし、世界第二の経済大国である日本が、少なくとも知らないうちにし烈な情報戦争に巻き込まれていたことだけは疑いようのない事実だ。

第二部・終わりなき情報戦争 (1) 巨人盗聴網エシュロン/民間の通信すべて傍受

2001年10月04日 東奥日報

 米中枢同時テロ事件を受けて、警戒態勢を取り続ける米軍三沢基地。その奥深く、小川原湖のほとりに一段と厳重に守られた極秘の場所がある。「セキュリティー・ヒル(保安の丘)」。その名を呼ぶ時、米軍人ですら声をひそめる。

 この丘に林立する無数のアンテナと巨大な「象のおり」。空中を飛び交う無数の通信・電子情報に対して、二十四時間態勢で耳を澄ます極東最大の情報収集基地の姿は奇怪で異様だ。

 その中で現在、フル稼働しているとみられるのが、直径十メートルを超すゴルフボール型の巨大ドーム群だ。ターゲットはテロの首謀者とされるウサマ・ビンラディン氏。「彼が世界中のテロリストたちとの連絡に使っているインターネットを傍受しろ。そういった命令が下されているはず」と軍事専門家らが口をそろえる。

 その一人は続ける。「インターネットはもちろん、電話、ファクスなど遠距離通信に使う民間の衛星ネットワークをすべて傍受していると考えられます。米国が中心になって構築した地球規模の秘密通信情報傍受システム。これが『エシュロン』です。知らない間に企業や個人の情報がのぞかれているのです」と。

 エシュロンが注目され始めたのはここ数年のことだ。その多くはなぞに包まれており、おぼろげながら分かっていることは、一九四八年の英米協定に端を発し、現在ではカナダ、オーストラリア、ニュージーランドを含む英語圏五カ国で組織する「UKUSA(ユクサ)」で共同運用されていることぐらい。

 中心となっているのが、米国最大の情報組織であるNSA(国家安全保障局)で、その頭文字を取って「ノー・サッチ・エージェンシー(そんな機関は存在しない)」とやゆされるほど、徹底した秘密主義を貫いていることなどだ。

 巨大ドーム群が並ぶセキュリティー・ヒルは米空軍の三七三情報群に所属するが、運営主体はNSA。このため「エシュロン施設ではないか」との声が専門家から上がっていたが、そのうわさを直接裏付ける機密文書が二〇〇〇年一月、米ジョージ・ワシントン大の国家安全保障公文書館によって“発掘”された。

 文書は、米空軍情報局史(九四年)の「エシュロン部隊の活動」と題した項目に登場する。

 「空軍情報局の…(削除部分)…への関与は、日本の三沢基地での『レデイ・ラブ作戦』に限定されていた」

 前後の文章から判断して、削除部分は「エシュロン活動」と推測される。分かりづらい文章だが、簡単に言うと、三沢ではレデイ・ラブ作戦という形でエシュロン活動が行われていたということだ。三沢はエシュロン拠点の一つだったのである。

 「レデイ・ラブ作戦」はモスクワと極東地域を結ぶ旧ソ連軍事衛星通信の傍受活動を示す。三沢基地研究の第一人者で、通信工学が専門の佐藤裕二・秋田大元教授(秋田市在住)は「レデイ・ラブ作戦はエシュロンの一部」と分析する。その上で「三沢がソ連を対象とした同作戦を開始したのは七〇年代末のこと。しかし、冷戦体制の崩壊で標的を失ってしまい、新たなターゲットに加えたのが民間の商業衛星。軍事以外の情報収集にも手を染め始めたのです。九〇年以降のことです」と説明する。

 エシュロンについて、米政府はいまだにその存在を公式に認めてはいない。日本政府も「全く承知していない」(六月の衆院安全保障理事会で田中真紀子外相)と歩調をそろえる。しかし、なぞの怪物エシュロンは、ミサワをキーワードにその姿を現しつつある。

エシュロン

2001年9月26日 東奥日報

 米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国が共同運用する世界規模の通信傍受システムで、フランス語で「はしご段」の意味。存在はメディアで報道されるだけでなぞに包まれていたが、ことし7月、欧州連合(EU)欧州議会の報告書が初めて公式に「存在は疑いがない」と結論を出した。

 当初は軍事目的のシステムだったが冷戦終了後、個人や企業の通信を傍受、「情報戦争」に利用されている疑いが強いと問題視されている。海底ケーブル内の全通信を記録し、本部である米国家安全保障局(NSA)で分析する仕組みだ。世界20カ所にある傍受基地として青森県の三沢米軍基地も疑いがあるとされている。

欧州議会、エシュロンを公式認定

2001年09月07日 Mainichi INTERACTIVE
 
 欧州議会は5日(欧州時間)、米国の通信傍受機構ともいわれる「エシュロン」が存在することを367票の賛成で159票の反対(棄権34票)で可決し、欧州として「エシュロンが存在する」と公式に主張することが確定した。民主主義に対する「挑戦」とも称されるエシュロンは、欧州では強烈な批判にさらされており、今回の可決は、欧州各国の雰囲気をそのまま反映する形となった。  [欧州議会]

欧州議会が「エシュロン」の存在を断定、非難の決議

2001.09.06 CNN.co.jp
 欧州議会は5日、米英など5カ国が共同運用しているとされる世界的な通信傍受ネットワーク「エシュロン」について、公式に存在していると断定し、活動の自粛を求める決議を採択した。

決議文は、エシュロンについて「存在は疑いない」として、民間企業の情報などを集める「産業スパイ」行為に使われていると非難している。

その上で、決議文は、個人情報保護に関する国際的な合意や現行の法制度の改正、暗号ソフト開発などの必要性を訴えている。

エシュロンは、米英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによって運用されているとされ、EUは、日本の青森・三沢基地を含む11カ所の軍事基地に傍受用の大型アンテナが設置されていると指摘している。

エシュロンの影 通信傍受し産業スパイ

2001/08/26 The Chunichi Shimbun

 雑木林と有刺鉄線で囲まれた小高い丘に、奇怪な物体が点在する。米軍三沢基地(青森県三沢市)のレーダー施設「セキュリティーヒル」(機密の丘)。不規則に並ぶ十四個の巨大な球体を、周辺の人々は「ゴルフボール」と呼ぶ。何に使われているのか、米軍から説明はない。

  ×  ×  ×

 その正体が七月三日、欧州議会が採択した「エシュロン報告書」でおぼろげながら浮かび上がった。米国など五カ国が世界に張り巡らした通信傍受網の一翼を担って民間通信さえ傍受し、産業スパイの手段に転用されているというのだ。

 報告書は「直径十数メートルのパラボラは、軍事目的とは考えられない」と指摘。三沢をシュガーグローブ(米)やヤキマ(同)、メンウィスヒル(英)と並ぶエシュロン基地の一つと断定した。球体は、パラボラを雨や雪から守るだけでなく、アンテナの向いた方角を隠すためにあるという。

 被害企業のひとつとされるNEC(本社・東京)は、一九八九(平成元)年、インドネシア政府の電話交換機の競争入札で一番札を取り、契約寸前までこぎ着けた。だが、米大統領の親書がインドネシアに送られて再入札に。約二百億円の契約のうち、半分を米国企業が落札、残り半分がNECの取り分になった。

 米国はなぜ、NECの落札情報を知り得たのか。同社の社員は「不自然な動きだった。米国の政治力と納得するしかなかった」と振り返る。

 ゴルフボールの建設は、八〇年代から始まった。冷戦後も増え続け、セキュリティーヒルのほか、三沢市内の別の米軍施設二カ所に六個。最近、さらに一個が建設されたとの情報もある。

 反基地の立場から三沢を観察してきた佐藤裕二・元秋田大学教授は「旧ソ連のスパイ衛星の通信傍受なら、七個もあればいいはず。アンテナは固定式と可動式があり、固定式は静止軌道を飛ぶ民間衛星を傍受するため」と指摘する。

 三沢に駐留しているのは、エシュロンと関係が深いとされる海軍の機密保全群三沢活動チームと、空軍の三〇一諜報(ちょうほう)部隊など。

 「エシュロンは明らかに日本の国益に反する。なのに日本政府は『思いやり予算』といって米軍に金を出している」

  ×  ×  ×

 三井物産、伊藤忠、丸紅、住友商事…。欧州議会は、日本を代表する大手商社のほとんどをエシュロンの被害企業と指摘した。だが、最終的に具体的な証拠は挙げられず「企業は自衛するしかない」と結論づけている。

 ある大手家電メーカーが、自衛手段の一端を明かしてくれた。重要な商談や連絡に国際電話は使わない。海外事務所は盗聴の危険があり、顧客とはレストランやホテルで会う。交渉の核心部分は筆談で−。

 だが、大半の企業はエシュロンの正体をつかみあぐね、戸惑うばかりだ。在日米軍は三沢基地での活動について「コメントできない」と回答している。(「日米安保50年」取材班)

<エシュロン> 1948年に結ばれた英米協定に基づく通信傍受作戦のコード名。後にカナダ、オーストラリア、ニュージーランドが参加。旧共産圏の通信衛星などから軍事情報を収集した。冷戦後は西側政府や民間企業、個人の電話やファクス、電子メールまで、無差別に収集しているとされる。

米英の傍受システム ネット活動家が「妨害」呼びかけ

2001.08.01CNN.co.jp
 米英両国などが共同運用しているとされる、世界的な通信傍受システム「エシュロン」に反対するインターネット上の活動グループが、10月21日を「エシュロン妨害の日」と決めて、ネット利用者らに抗議行動を呼びかけている。エシュロンが反応するといわれる「爆弾」「テロ」などの単語を電子メールで一斉に多用し、情報をかく乱する作戦だという。

「エシュロン妨害の日」を設けたのは、ネット上で活動する「サイファーウォー」という団体。リーダーは、米人気テレビ番組「Xファイル」に登場するFBI捜査官と同じ「スカリー」を名乗る人物だ。「スカリー」氏は先月末、電子メールによる声明で、「エシュロン妨害という目的は達成できない可能性もあるが、黙って監視されているより不快感を示すべきではないか」と呼びかけた。

同団体のホームページでは、エシュロンの注意を引きつける単語として、1700語のリストを掲載している。この中には、CIA(米中央情報局)のように政府機関を指す言葉や、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長などの人名も含まれている。

エシュロンは米国家安全保障局(NSA)が中心となり、英国など4カ国が協力して、電話での通話やファックス、電子メールなどを傍受しているとされるシステム。米英などは、エシュロンが冷戦終結後の今も活動しているという疑惑を全面的に否定している。しかし今年5月には、欧州議会に「エシュロンは間違いなく存在する」との報告書が提出されて注目を集めた。

エシュロンの存在を認定 欧州議会特別委が最終報告書採択

2001年7月4日 Mainichi INTERACTIVE
 英米など英語圏5カ国が参加する通信傍受機関(暗号名エシュロン)の実態を調べてきた欧州議会のエシュロン調査特別委員会は3日、「エシュロンによる通信傍受は人権侵害やプライバシー侵害に該当する」などと指摘した最終報告書を賛成多数で採択した。9月の欧州議会本会議でも採択される見通し。公的機関が長く秘密のベールに覆われてきた通信傍受網の存在を初めて公に認めた意味は大きく、欧米間の外交関係にも波紋を呼ぶとみられる。

 最終報告書によると、エシュロンの傍受網には米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの英語圏5カ国が参加。冷戦時代に軍事情報の収集を主な目的に開発されたが、最終報告書は「世界的な通信傍受網が存在することは疑いない」と指摘。エシュロンの機能について「限定的」としながらも、通信傍受網が個人の電話やファクス、電子メールなどの通信傍受や産業スパイ目的で使われている可能性が強いと指摘した。

 同報告書はまた、青森県・米軍三沢基地にある大型パラボラアンテナは軍事目的には必要ないもので、民間通信の傍受用とみられるなどと指摘した。さらにエシュロンの違法性について「軍事目的以外のエシュロンの利用は欧州連合(EU)法令に違反する」と指摘した上で、プライバシー保護のため、情報の暗号化などによる自衛措置やEU共通の政策策定を提言している。

 エシュロン問題では、ニュージーランドが日本の外交機密電文を傍受し米国に報告していた事実も明らかになっているほか、衛星を利用して世界中でさまざまな情報傍受が行われているとみられている。

 調査特別委員会の採択にあたっては、エシュロンに参加している英国の女性議員らから「通信傍受は安全保障面で役立っている側面もある。実態を暴くのはいかがなものか」などという意見も出て、全会一致とはならなかった。最終報告書の指摘はエシュロン参加国に通達される予定。(Mainichi Shimbun)

盗聴システム『エシュロン』への抗議行動を呼びかけ

(26 Jul 2001)ロンドン発 CNET Japan Tech News
 物議を醸している米国主導の盗聴ネットワーク『エシュロン』(Echelon)への関心を高めようと、インターネットの活動家グループが『ジャム・エシュロン・デー』(Jam Echelon Day)を設定した。しかしプライバシー問題専門家は、抗議行動は大した効果を生まないだろうと話している。(以下 略)

欧州でも『エシュロン』的傍受システムが開発中?(上)

2001年06月20日 hotwired news

 ベルギー、ブリュッセル発――欧州議会のイタリア代表であるマウリツィオ・トゥルコ議員の発言は、20日午後(現地時間)に開催された『エシュロン』(Echelon)の傍受システムに関する調査暫定委員会の会合の最終日に大きな衝撃を与えるものだった。

 自らを「急進的」と語るトゥルコ議員は、委員会が1年にわたって続けてきたエシュロンについての調査は、人工衛星を使ったこの監視システムについての認識を国際的に高める効果はあったかもしれないが、実際はカモフラージュ行為にすぎなかったと非難した。

 「実際は、欧州議会が独自の監視システムを構築する間、人々の注意を他にそらすために仕組んだことだ」とトゥルコ議員は述べた。

 委員会の議長を務めるカルロス・コエリョ氏は、この発言はトゥルコ議員が自分への注目を集めるための行為であり、トゥルコ議員に独自のもくろみがあることは疑いないとして、発言を却下した。

 トゥルコ議員は、会議が始まって数分もたたないうちに休会の動議を出した。エシュロン調査暫定委員会の前回の会合の全議事録の翻訳と回覧が行なわれなかったので、議事進行が妨げられるという理由からだ。

 最初は単に耳目を集めようというスタンドプレーにすぎないかと見えたが、これが長時間におよぶ議論へと発展し、結局委員会は決議案採択の最終票決を延期することになった。これにともない、ドイツ代表であるゲルハルト・シュミット議員によって準備されていた113ページにおよぶエシュロン最終報告書の検討も繰り越されることになった。

 これにより、米国に対してエシュロンに関する正式な抗議文書を提出するかどうかについての票決も、当初予定されていた21日から、7月3日に延期された。

 ボニーノ党の『急進的欧州議会議員会』と呼ばれる一派の代表を務めるトゥルコ議員の今回の行動がスタンドプレーであろうとなかろうと、欧州でエシュロンと同様の独自の傍受システムを構築しているという同議員の非難は軽々しく否定できるものではない。

 理由は簡単だ。米国とその同盟国がエシェロンで電話やファックス、電子メールを傍受しているのだとしたら、他の国の政府機関がエシェロンと同様の機能を持つ傍受システムを欲しがったとしても不思議ではない。

 会合で発言したドイツの緑の党のイルカ・シュレーダー議員は、トゥルコ議員の意見に賛成できないことはたびたびあるが、エシュロンの欧州版が構築されようとしているという今回の同議員の意見には一理あるかもしれないと思うと語った。

 シュレーダー議員は最近行なわれた欧州閣僚会談を引き合いにだした。この会談では、『ENFOPOL』と呼ばれる遠距離通信傍受プログラムを拡大して、クレジットカード情報やIPポートといった微妙な情報も傍受対象に含めようとする話し合いが行なわれた。

 「これはエシュロンよりもひどいものになる可能性がある」とシュレーダー議員は語る。「今回の暫定会議における(エシェロン委員会からの)報告書が、欧州連合(EU)におけるプライバシーに関する基本的権利を保護するものだと言いたいなら、ENFOPALについても話し合いがなされるべきだ。プライバシー侵害という点で、エシュロンよりもたちが悪いかもしれないからだ。欧州議会議員である私でさえ、閣僚会談で何が決められたのか、なかなか情報が得られない。いっぽう彼らは、EU内のあらゆる人間について、リアルタイムで完全に調査できるようにしようとしているのだ」 by Steve Kettmann [日本語版:森さやか/小林理子]

『エシュロン』の脅威はさほど大きくない、と欧州議会で報告

2001年5月24日 ワシントン発 HOT WIRED Japan
 『エシュロン』として知られる国際的な監視システムは実際に存在し、電話やファックスや電子メールメッセージを傍受する能力を持つと、欧州議会のある委員会は結論づけた。

 250KBの報告書草案で委員会は、次のように述べている――エシュロンは……米国、カナダ、英国などの英語圏の国々によって運営されており……諜報目的に設計されたものだ。しかしこれが、米国企業を利するためにヨーロッパのライバル企業に対するスパイ行為に使われたという「確実な」証拠は存在しない。(以下 略)

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