TOPIC No.4-23-2 1999年度エシュロン(echlon)


ACLUが『エシュロン・ウォッチ』サイト開設

Chris Oakes1999年11月17日 3:00am PST by Wired News
 『米市民的自由連盟』(ACLU)は、普通の市民にまで監視の目を光らせているとされる、国際的な電子監視システムを監視しようとしている。

 市民的自由の見張り役であるACLUは、『エシュロン・ウォッチ』サイトを立ちあげた。このサイトは、政府に対して、コード名『エシュロン』とされる世界的電子監視システムの実態とその合法性を調査するよう促すために設計されたものだ。

 「『Xファイル』のストーリーのような話が、明らかな現実になった」とACLUの副責任者、バリー・スタインハート氏は言う。「現時点では、それが存在するのは事実だと思う」

 ACLUは、このサイトの制作・管理にあたって、電子プライバシー情報センターと、英国のオメガ財団(Omega Foundation)と協力している。後者は、この問題について欧州議会向けの報告書を用意した団体。

 米国の情報機関は、どこもエシュロンの存在を認めていない。しかしスタインハート氏は、議会による調査を要求するのに十分な証拠があると考えている。

 「われわれが、全ての詳細を知らないことは認めよう」とスタインハート氏は言う。「しかし、信頼できる諸報告に基けば、エシュロンは非常に大規模で、非常に巧妙だ」

 ACLUの立場は主に、欧州議会によって委託された2つの報告書と、オーストラリアのある情報機関職員が書いた手紙に基いている。この手紙は、英国、米国、オーストラリアが関わる、エシュロンによるものと思われる活動の様相について確認したものだ。

 欧州議会が求めた報告書によると、エシュロンは、米国の国家安全保障局(NSA)と、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの同様の機関によって率いられていると言う。

 このような報告は、国際的に統合された監視システムの様相を明らかにするものだ。そこには、インターネットなどの地上および宇宙の通信ネットワークを傍受して分析する、世界的な監視システムが見えてくる。世界中の情報機関によって行なわれるこの監視活動は、日常的な電話やデータ、携帯電話、ファックス、電子メールの通信をキャッチできるものだと言われている。これらの通信はその後、テロリズムなどの疑わしい活動がないか分析されて、適切な政府に引き渡されるとされている。

 各国政府は、国境を越えて協力しあうことによって、お互いのトラフィックを監視し合い、政府による市民の偵察を禁止する国内法の適用を回避することができる。報じられるところによると、エシュロンは、衛星通信やマイクロ波通信、携帯電話通信、光ファイバー通信をとらえようと試みているという。

 稀にエシュロン的活動が明るみに出る場合、たいていはその存在が示唆される程度だ。最近明らかになったこととしては、米特許商標庁が8月にNSAに対して発行した特許がある。この特許は音声認識技術に関するもので、スタインハート氏は、この技術は、音声通信を要約してさらに詳しく調査するために設計されたものだと指摘する。

 このような技術はいかにもエシュロン的に聞こえる。しかし、これはあくまで1つの情報収集機関に発行された特許なのだ。

 ACLUがこの問題を、ばらばらの報告書や理論や噂を超えて考えたいと望むのには、こういう理由もあるのだ。

 「エシュロンは、ブラックボックスのなかで――つまり、司法的な監督や、一般への通知なしに――活動している」とスタインハート氏は言う。「ACLUが求めているのは、現時点では、エシュロン活動の法的なよりどころについて、完全に明らかにすることだ。NSAは、議会に対してさえもそれを拒んでいる」

 欧州議会への報告では、英国はエシュロンシ・ステムを用いて、『アムネスティ・インターナショナル』や『クリスチャンエイド』などの慈善団体を偵察しているとされている。

 米国は、エシュロンの存在を公式に認めたことは一度もない。エシュロンに関連した事実について話をしようとアプローチされても、NSAは繰り返しコメントを断わっている。

 ボブ・バー下院議員(共和党、ジョージア州選出)は今年、下院で情報法を修正した。米国の情報機関に対し、監視活動が基いている法的基準について報告するよう求めるというのがその内容だ。

 NSA、中央情報局(CIA)、司法省を対象にしているこの法律は、現在上下院会議委員会に留まっており、何らかの動きを待っている状態だ。

 バー議員は、かつてCIA局員および合衆国地方検事だった人物で、現在は下院の司法委員会および行政改革委員会に所属している。同議員はNSAを、通信の「捜査網」をはり、「アメリカ市民のプライバシーを侵害している」と非難している。

 エシュロン・ウォッチに掲示されている文書のなかには、ある手紙のファックス画像がある。これは、オーストラリアの通信防衛理事会(Defence Signals Directorate:DSD)のマーティン・ブレイディー理事長室から、あるオーストラリア人ジャーナリストに送られたものだ。

 その手紙によると、DSDの活動規則は、「オーストラリア人が関係する海外の通信を、ある特別な、慎重に定義された条件下で、DSDが監視・報告するのを認めるメカニズムを提供している」という。「DSDは確かに、英国―米国間の関係のもとで、海外の同様の通信情報機関と協力している」

 新しいACLUサイトは、このようなエシュロンに関連する文書を集めるほかに、既にACLUにあるサイトへのトラフィックをさらに増やして、市民的自由に対するエシュロンの影響について、一般の議論を活発にしていく予定だ。このサイトには、ユーザーに議会の調査を要求するよう促すリンクが設けられている。

 「この問題は、ワシントンで真剣に受け止められ始めていると思う」とスタインハート氏は言う。「世界の他の場所では、間違いなく真剣に受け止められている。次のステップは公聴会になるだろう」[日本語版:中嶋瑞穂/合原弘子]

遠くからパソコンをスパイできる『テンペスト』技術

Declan McCullagh1999年10月26日 3:00am PDT  ワシントン発 by Wired News
――オンライン上のプライバシー流出を心配する人々は大勢いるが、自分がコンピューターに入力している内容を、その場で――隣の部屋から、または通りの向こう側から――誰かが盗み見しているかもしれない、と考える人はまずいない。

 ところが、米国家安全保障局(NSA)が新たに公開した文書によると、政府のスパイにはそんなことが少なくとも10年前から可能だったらしい。スパイ機関はこの概念を『テンペスト』(TEMPEST)と称していた。これは、すべてのコンピューターが発する電磁信号を傍受して解読するための技術につけられたコードネームだ。

 スパイたちはテンペスト技術のことを1960年代にはすでに知っていた――なかには、コンピューターを保護する方法の特許を取得した者さえいる。しかし、その詳細のうち、機密扱いにされていない情報は比較的まれだ。

 こんな状況を全面的に変えたいと望んでいるのは、ジョン・ヤング氏(英文記事)。彼は、情報自由法に基づく要求によりNSAから得たテンペスト文書の内容を、今週自分のウェブサイトで公開した。

 「テンペストを使ってスパイ行為が行われているのを、世間は知らないのだ」と、元建築家で暗号関連文書を収集しているヤング氏は言う。「防衛産業がテンペスト技術を手にしていることは公開されていない。かなり慎重に保護されている」

 英国の研究者、ロス・アンダーソン氏とマーカス・クーン氏の行なった研究は、機密扱いにされていない数少ないものの1つだ。2人は、離れたところにあるコンピューター・ディスプレーの画面をキャプチャーしてくることは可能であると明らかにした。政府仕様の防護システムではこれを防ぐようになっているが、民間でこれを行なうのは高くつく上に、供給されているシステムも限られている。

 ヤング氏がNSAから提供を受けた184ページに及ぶ文書は、技術標準と専門用語ばかりだった。ここからヤング氏が発見した最も興味深いものは何だったのだろうか?

 「彼らは、有線の傍受を行なわずに遠隔監視することができる」とヤング氏は述べた。「これが、書かれていた中で最も決定的なことだった」

 約半数のページが太い黒線で塗りつぶされており、ほとんどすべての重要な数字――信号強度、最大データ帯域幅、周波数――には手が加えられていた。「国家の安全保障」という理由から、ヤング氏が要求した24の文書のうち、NSAが公開したのはたった2つだ。

 そのうちの1つ、『信号危険漏出試験必要条件、電磁気学』(Compromising Emanations Laboratory Test Requirements, Electromagnetics)を作成したのは、NSAの通信・情報システム安全保障グループだ。同文書には、コンピューターからの放射される電磁波を測定する試験手順が記されている。電波を使う測定法と、コンピューターに繋がれた電話線やシリアルケーブル、ネットワークケーブル、電源ケーブルを使う測定法の両方の手順が記されている。

 このマニュアルには、「本文書のレベル1制限を満たす機器は、許容できる範囲で機器単体で伝導・放射テンペスト・セキュリティーを満たしている。本文書のレベル2、レベル3制限を満たす機器は、適切に保護された環境に設置された場合に、許容できる範囲で機器からの放射によるテンペスト・セキュリティーを満たしている」とある。

 この文書が条件としているこれらの放射制限は明らかに、軍事基地や下請け業者、大使館、その他の政府機関で、コンピューターを監視から守るために使われているもののようだ。

 NSAが提供した2つめの文書は、同局の『技術セキュリティー・プログラム』について記したものだ。このプログラムは電子的安全性を査定し、「技術的安全設備対策」を提供するためのもの。

 このプログラムでは、NSAとその下請け業者のための安全基準を設定し、必要な研修を考案し、さらに同局の専門技術の「米国防総省の他の部局や、米国の他の政府部局への」の貸し出しも行なう。

 電子フロンティア財団の共同設立者であるジョン・ギルモア氏によると、NSAに残りの22の文書も提出させるには訴訟が必要になるだろうと言う。「NSAは例によって、とことん時間をかけるという戦術に出ている。これは法律に違反する行為であり、法律に従わせるためには市民が訴訟を起こさなければならない」

 ヤング氏は、NSAが機密扱いに分類するのが「ふさわしい」とする文書に対して、異議があるとする訴えをNSAに送った。「これらの文書は、公開することによって国家の安全保障に深刻な損害を引き起こすことが十分に予想されるため、機密扱いにされている」というのがNSAの言い分だ。

 スパイ部局はテンペスト技術をしょっちゅう使っているが、刑事訴追においてそれを証拠として扱うことについてはおそらく法律による規制が行われるだろう、とプライバシー専門家は言う。

 「これを用いるには相当の根拠に基づいた裁判所命令が必要となるだろうが、扱っている内容が非常に似ているという理由から、裁判所はおそらく電話盗聴法に従うことを求めるだろう」と、『エレクトロニック・プライバシー・ペーパーズ』の共著者、デーブ・バニサー氏は言う。

 一方、NSAにだってユーモアのセンスはある。文書の1つには、今まで公開されていなかった新しいコードネーム、『ティーポット』(TEAPOT)が記載されているのだ。[英語にa tempest in a teapot(=空騒ぎ)という言い回しがある]

 「ティーポット」とは、「通信や自動情報システム機器からの故意の信号危険漏出(敵意を持って誘導または誘発したもの)に対する捜査、研究、管理を指す略称」とされていた。[日本語版:中嶋瑞穂/岩坂 彰]

『エシュロン』を陥れるハッカーたち

James Glave1999年10月6日 3:00am PDT by Wired News
 モサド。爆弾。ダビディアン。MI5。

 もし、あちこちに散らばっているサイバー活動家グループの直感が正しければ、上に挙げた単語は、米国家安全保障局(NSA)が一部を管理している世界的なスパイ組織のキーワード認識フィルターにひっかかってしまう。

 まるで神話のように実体の見えない世界規模のコンピューター・スパイ・ネットワーク、『エシュロン』(Echelon)は、テロリストの疑いのある者や敵側の通信を探り出すために世界中のあらゆる電子メール、パケット通信、電話での会話などをチェックしていると報じられている。

 ひとたびこれらの特定のキーワードが電子の雲の中から引っ張り出されると、その会話や電子メールは記録されてしまうと言われている。

 プライバシー擁護活動家たちは、何年もの間、自分の署名ファイル中にこれらの単語を入れてオトリとして使用してきた。しかし10月21日、『ハックティビスト』メーリングリストから生まれた活動家グループが、もっと大規模にエシュロンを罠に掛けようとしている。

 「(エシュロンが)何の役に立つのか?」と、人権擁護派の弁護士であり、米国公正連盟(American Justice Federation)の議長であるリンダ・トンプソン氏は言う。

 「そうすることで犯罪者を捕まえられると主張したいのかもしれないが、誰かがどんな人の会話をも盗聴できるようにすべきだというのは、常軌を逸している」

 「犯罪者は、犯罪を犯してから逮捕されるべきだ。警察は、たった2%(の犯罪絡みの通信)を傍受する目的でわれわれ全員のプライバシーを侵害するために存在しているわけではない」とトンプソン氏。

 トンプソン氏については、1994年の名誉毀損反対同盟の報告には、「国民軍運動に関しては全国的に影響力のある人物」と述べられている。また、米国公正連盟についても、同報告は「新世界秩序を無力化し、一般米国市民に真実を明らかにすることに力を注ぐ団体」と評している。

 名誉毀損反対同盟によると、トンプソン氏は、全50州の国民軍と接触があると主張しているという。

 トンプソン氏は、米国公正連盟のニュース・サービスの記者であるダグ・マッキントッシュ氏やハッキング活動家メーリングリストのコミュニティーのメンバーたちとともに、このシステムに関心のある人たちに対して、10月21日に引き金となる単語のリストを自分の電子メールに付記するように呼び掛けた。

 彼らは、特に以下のキーワードを提案している。

 FBI(米連邦捜査局)、CIA(米中央情報局)、NSA(米国家安全保障局)、IRS(米国税庁)、ATF(アメリカ教育連盟)、BATF(米アルコール・タバコ・火器局)、DOD(米国防総省)、WACO(ウェーコ)、RUBY RIDGE(ルビーリッジ)、OKC(オクラホマシティー)、OKLAHOMA CITY(同左)[以上4つテロ事件があった場所]、MILITIA(米国民軍)、GUN(銃器)、HANDGUN(拳銃)、MILGOV(軍事政府)、ASSAULT RIFLE(突撃銃)、TERRORISM(テロリズム)、BOMB(爆弾)、DRUG(薬物)、HORIUCHI、KORESH(コレシュ)[米国の宗教家]、DAVIDIAN(ダビディアン教団)、KAHL、POSSE COMITATUS(民兵隊壮年団)、RANDY WEAVER(ランディー・ウィーバー)、VICKIE WEAVER(ビッキー・ウィーバー)、SPECIAL FORCES(特殊部隊)、LINDA THOMPSON(リンダ・トンプソン)、SPECIAL OPERATIONS GROUP、SOG、SOF(以上3つ特殊戦部隊)、DELTA FORCE(デルタ部隊)、CONSTITUTION(憲法)、BILL OF RIGHTS(権利章典)、WHITEWATER(ホワイトウォーター)、POM(パークオンメーター)、PARK ON METER(同左)[イランコントラに関わった企業]、ARKANSIDE、IRAN CONTRAS(イランコントラ)、OLIVER NORTH(オリバー・ノース)[イランコントラ関係者]、VINCE FOSTER(ビンス・フォスター)[クリントン大統領弁護士]、PROMIS、MOSSAD(モサド)[イスラエルの情報機関]、NASA(米航空宇宙局)、MI5(英国諜報部)、ONI(海軍情報部)、CID(ロンドン警視庁刑事部)、AK47[旧ソ連製突撃銃]、M16[米軍突撃銃]、C4[爆薬]、MALCOLM X(マルコムX)、REVOLUTION(革命)、CHEROKEE(チェロキー)、HILLARY、BILL CLINTON(ヒラリー/ビル・クリントン)、GORE(ゴア)、GEORGE BUSH(ジョージ・ブッシュ)、WACKENHUT、TERRORIST(テロリスト)、TASK FORCE 160、SPECIAL OPS、12TH GROUP、5TH GROUP、SF[以上5つ特殊部隊関係]。

 このキャンペーンは、ネットで広まり、ドイツ語に翻訳された。主催者たちは、このシステムに対する意識を高める手段としてこの『エシュロンを窒息させる日』(gag Echelon day)が世界中で実施されることを望んでいる。

 NSAも、英国のGCHQ(Government Communications Headqaurters)も、エシュロン・システムの存在を認めている。その能力に関しては、欧州議会で議論がなされている。

 エシュロンに関係しているとされるオーストラリアの防衛信号理事会は最近、『UKUSA』の存在を認めた。UKUSAとは、5ヵ国の通信機関が交わした合意で、このシステムを管理していると伝えられている。

 昨秋、ワシントンに本拠を置く市民権利擁護団体、自由議会財団は、このシステムに関する詳細な報告書を議会に送付したが、このシステムは議題に上らなかった。

 10月21日のキャンペーンは、このシステムについて一般の意識をさらに高めたいと願ってのことだ。

 「大部分の人がこのシステムに対して腹を立てている」とトンプソン氏は述べた。「これがSF映画などではないことを知れば、大半の人は激怒するだろう」

 しかし、活動家のコミュニティーに所属するオーストラリアの会員の1人は、『エシュロンをやり込める日』が、一般市民が政治的に管理されている技術について知る日となって、被害妄想を育む日とはならないで欲しいと願っている。

 「一般市民の意識を高めることによって力を与えるべきで、怖がってインターネットを使わなくさせるようなことがあってはならない」と、サムとだけしか名乗らないこの活動家は語った。[日本語版:喜多智栄子/岩坂 彰]

監視ネットワーク『エシュロン』を監視するNiall McKay

1999年5月10日 12:15pm PDT by Wired News
 米国家安全保障局(NSA)は世界中の通信を聞く能力を持っているが、すべての人を一度に盗聴しているわけではない。

 これは、先週後半に欧州議会の科学技術選択肢評価(Scientific and Technical Options Assessment:STOA)委員会が受け取った新しい報告書、『盗聴能力2000』の結論の1つだ。

 同委員会は英国の調査報告員ダンカン・キャンベル氏に、米国が主導している衛星監視ネットワーク『エシュロン』(Echelon)についての報告書をまとめるよう要請していた。

 「私は、重大な犯罪者やテロリストを監視するこのようなシステムに反対はしていない」と、欧州議会の英国労働党メンバーでSTOA委員会のメンバーでもあるグリン・フォード氏は語った。「だが、欠けているものがある。説明責任、誰を盗聴できるのかという明確なガイドライン、そしてどのような状況でこれらの法が適用されるのかだ」

 昨年、欧州議会内で、エシュロンを利用してヨーロッパ政府や産業界の秘密が合衆国に流されているという告発がなされ、キャンベル氏がこのシステムを調査するよう依頼された。

 「この報告書の重要な点は、エシュロン・システムに関して、資料による証拠を初めて掲載したということだ」とキャンベル氏は語った。キャンベル氏はこの資料を、英国北部のハロゲート近郊にあるNSAの主要な通信監視所メンウィズ・ヒルの、ある情報源から入手した。

 報告書には、諜報機関がどのようにしてインターネットのトラフィックやデジタル通信を傍受しているかが詳しく述べられ、NSAのコンピューター・システムがトラフィック分析をしている画面の写真も掲載されている。

 『盗聴能力2000』はまた、これまではその存在が知られていなかった、米連邦捜査局(FBI)が率いる秘密の国際組織についても説明している。キャンベル氏によると、この「秘密の」組織は『国際法執行通信会議』(ILETS)と呼ばれ、衛星通信システムなど現代のあらゆる通信機器に、ひそかに盗聴機能を取りつけているという。

 「(この報告書は)細部……およびNSAのテクノロジー利用法にまで注意を払っているという点で、これまでで最も包括的なエシュロン調査だということは間違いない」とニューヨークのプライバシー活動家ジョン・ヤング氏は語った。

 合衆国政府はエシュロンの存在を公式に認めたことはないが、この10年間で多数の調査報告書が、この迷路のようなシステムについて明らかにしてきた。エシュロンは、世界中のどんな場所に送られる通信でも、その電話、データ、携帯電話、ファックス、電子メールの内容を傍受できるとされる。

 エシュロン・コンピューターは、以前には、何百万もの電話回線やファックスを走査して「爆弾」や「テロリスト」などのキーワードを探すことができると考えられていた。だがキャンベル氏は報告書のなかで、そのように世界中に捜査網を張り巡らせるような技術は存在しないと主張している。

 だがそのかわりにエシュロンは、有名な外交官、犯罪者、実業家など、諜報界が関心を持つ人々の通信ネットワークを標的にしているとキャンベル氏は言う。

 この報告書では、米IBM社ロータス部門の『ノーツ』やウェブブラウザーなど人気のあるソフトウェア・プログラムに「裏口」があり、ここを通じてNSAが個人情報にアクセスできると告発している。

 スウェーデンの新聞『スベンスカ・ダグブラデト』の1997年11月の記事を引用して、報告書には次のように書かれている。「スウェーデン政府はロータス社がノーツ・システムにNSA侵入用の裏口を組み込んでいることを発見し、困惑している」

 報告書はさらに、ノーツに組み込まれている、アメリカ人以外のノーツ・ユーザーが送信するすべての電子メールに組み込まれる『ワークファクター・リダクション・フィールド』という機能について説明している。この機能は、それぞれの通信で使われるキーの64ビットのうち24ビットを伝える機能で、公開鍵に関連しており、NSAだけが読むことができるとされている。

 ロータスからのコメントは得られなかった。

 この新しい報告書は、大西洋の西側と東側双方の政治家が、エシュロンとその能力についての懸念をますます募らせている中で提出された。

 「エシュロン計画について、議会が何らかの調査を行なって良い時期だと私は思う。そして今、私はその方法を考えているところだ」とボブ・バー下院議員(共和党、ジョージア州選出)は語った。「秘密が必要だということは理解できる――私自身、かつてはCIAにいた。だがエシュロンは、基本的な政策や憲法上の権利について、いくつかの疑問を提起している」

 合衆国政府は国民を監視してはならないという法律があるものの、NSAは、エシュロンに関する提携機関を利用して、この法の目をくぐっているのではないかとバー下院議員は懸念している。

 これまでのところ、合衆国の監視システムに関する調査はほとんどない、とパトリック・プール氏は語る。同氏はプライバシー運動家で、テネシー州フランクリンのバノック・バーン大学で政治経済を教えている。

 「合衆国のスパイシステムに関する唯一の重要な調査はチャーチ報告だった。これは70年代前半のウォーターゲート事件によって触発されたものだ」とプール氏。「ヨーロッパがエシュロン・システムに興味を持ったことによって、米国でも新たな議論が始まることを私は期待している」

 エシュロンはおもに、NSAと、イギリスの諜報機関GCHQ(Government Communications Headquarter)によって運営されていると考えられている。このシステムはまた、カナダの『通信安全機構』(Communications Security Establishment)、オーストラリアの『通信防衛理事会』(Defense Signals Directorate)、ニュージーランドの『政府通信安全局』(Government Communications Security Bureau)など、他国の同様の諸機関との協定に頼っているとも伝えられている。[日本語版:大津哲子/岩坂 彰]

情報を盗聴する政府機関

Declan McCullagh1999年4月7日 3:00am PDT ワシントン発by Wired News
――ボブ・バー下院議員が市民的自由の援護者となるとはおよそ考えにくいことだ。

 元連邦検察官で、ゲイの権利と中絶の反対論者である同議員は最近、下院で大統領弾劾演説を長々とぶって議場の論調を弾劾賛成に導き、全国の悪評を得た。

 だが6日(米国時間)、ジョージア州選出の頑固なこの保守派議員が、ここワシントンで開催中の『コンピューター、自由、プラバシー』会議に姿を現し、でしゃばりすぎる政府の脅威について警鐘を鳴らした。

 バー議員によれば、19世紀初頭のアメリカにとって、欠かせないのは天然資源だった。それが1世紀後には財源となり、そして今は、情報が「21世紀における力を意味する」と同議員は言う。

 さらに、企業と政府による情報収集を非難し、議会の介入が必要だと語った。

 「われわれは、この問題に超党派で取り組む道を探らなければならない」とバー議員は述べ、議員や連邦機関に対するロビー活動を積極的に行なうよう聴衆に説いた。

 当局に、銀行の悪名高い「顧客をよく知る」プランや、事実上の国民身分証明書制にまでなったかもしれないプランを禁止させたのは大衆の声だったと同議員は語った。「大衆が深く関わったのだ」

 別のパネリストたちは、ジェームズ・バムフォードの『The Puzzle Palace[迷宮、国防総省の俗語]』の中ではじめて明かされた米国家安全保障局(NSA)の監視システムの最近の進展を含め、世界的な電子モニタリングの発展傾向について説明した。

 イギリスのオメガ財団のスティーブ・ライト氏は、『エシュロン』についての調査内容を詳細に報告した。エシュロンは極秘情報収集国際ネットワークで、NSAがその運営の一部を担っている。

 ライト氏によれば、エシュロンは1時間に200万の通話を盗聴でき、欧州議会の調査対象となってきた。報告書は2週間以内に発表される予定。

 オーストリアも問題を抱えている。警察の監視能力をナチス以来の水準まで押し上げる法案の成立がほぼ確定的なのだ。オーストリアのオンラインマガジン『クビントエッセンツ』のエーリッヒ・メーヒェル氏によると「この法律によれば、警察は独立裁判所の命令なしに盗聴ができる」とのことだ。

 そしてロシアは? 言うまでもない。ロシアはすでに、詮索好きの目から機密情報を守るための暗号化ソフトを禁止した。さらに最近になって、KGBの後身であるFSBが、インターネット・サービス・プロバイダーに対して、すべての通信をFSBが監視できるようすることを求めた。

 「(プロバイダーは)ハード、ソフト、それに専用線を、地域のFSBのために維持しなければならない」とメーヒェル氏は言う。アメリカ政府も、これに似た機能を用意するよう電話会社に要請した。ただし監視が行なわれるのは裁判所命令があった場合のみとされている。

 米司法省から出席したスコット・チャーニー氏は、社会は自由と安全を秤にかけなければならないと語った。「まったく監視をしないというのも結構なことだ。もし誰もが法を守るなら。ところがそうではないのだ」

 司法省のコンピューター犯罪班を率いるチャーニー氏は、児童ポルノ、テロ、それにケビン・ミトニックのようなハッカーの脅威が存在する限り、テクノロジーの制限は実施しなければならないと言う。

 司法省による海外への暗号販売の制限は正当化されるものかどうか、質問した参加者がいた。この制限によって、コソボの人権活動家が暗号を使えなくなっているのだ。これに対しチャーニー氏は「公正さには数多くのものがあり、それぞれ対立しているが、そのバランスを考えなければならない」と答えた。

 『コンピューター、自由、プラバシー』会議は8日の晩まで続けられる。[日本語版:寺下朋子/岩坂 彰]

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