TOPIC No.4-23-1 1998年度エシュロン(echlon)


政府が国民を監視する?

Judy DeMocker1998年11月26日 3:00am PST by Wired News
  陰謀スリラー映画『国家の敵(Enemy of the State)』[日本未公開]が示唆していることでもっとも恐ろしいのは、米国政府が国民をスパイするのは技術的には簡単で、それを法律だけが押しとどめている、ということだ。

 全米の映画館で11月20日(米国時間)公開が始まったこの映画で描かれている、第1級のスパイ技術のうち多くのもの――精巧な衛星監視システム、銀行の記録へのアクセス、令状なしの盗聴――は、現在既に可能なものだ。そして、「国家の安全は、法を遵守する市民の市民権に優先されうる」というこの映画の前提に、観客も映画制作者たちも同様に感情を揺り動かされた。

 「観客には、劇場を出るときに後ろを振り返って『こんなことが本当に起こるんだろうか?』と考えてほしい。そして実際に起こりうることに気付いてほしい」と監督のトニー・スコット氏は録音されたインタビューの中で語っている。

 無実の男がトンネルやビルの中をコンピューターで追跡され、公衆電話やセブンイレブンの監視システムを通じて後を追われ、個人情報データを手がかりに見つけだされる、というストーリーは大げさなものだ。ほとんどの店舗用カメラは外部のシステムとはつながっていないし、政府関係者が容疑者の過去の住所、履歴、銀行や電話の記録をまたたくまに集められるほど、データベースは完備されていない。

 「全体としてこの映画は、いろいろなデータベースがどううまく接続されているかということと、リアルタイムで記録検索が出来る範囲について、過大評価していると思う」と電子的プライバシー情報センターの上級責任者、マーク・ローテンバーグ氏は語った。「だが将来は、追い求める人物に対して、常にこの映画のように監視できるようになるだろう」

 法律は市民を、家庭内で監視されることから保護している。憲法修正第4条は、捜索・押収の制限を設けている。だが世界がますます通信やインターネット技術を利用するようになっている現在、公と私のデジタル的な境界はぼやけてきている。

 「修正第4条には、われわれは住居と書類の中で自由である権利を有すると述べられている。しかし情報の中のプライバシーに関しては、明示的な憲法上の保護はない」というのはキャシディ・シーガル氏。同氏は米国自由人権協会(ACLU)で情報問題に関する相談役を務めている。「デジタル電話によって、ポータルが増大する可能性が出てきたので、政府がデータをこれまでよりずっと速く入手できる可能性が出てきている。伝送をリアルタイムに傍受することは確かに可能だ」

 監視からの法的な保護は、1968年に可決された犯罪防止・街頭安全総合法第3編『盗聴および電子的監視』のもとで保証されている。だがこれらの法律は、技術の進歩と足並みを揃えてはいない。たとえば映画で描かれていたように、政府機関は衛星経由で低レベルの送信機を使って人間を追跡することができる。そしてそれを抑制する法律はない。

 そして盗聴に関する法律は最近弱体化している。「現時点で、法律は最悪だ」と、ワシントンの自由議会調査・教育協会技術政策部門のリサ・ディーン副会長は語った。「議会は、なかなか決まらなかった盗聴に関する提案を通したところだ。これによって、政府は標的とする人間の周辺に居るいかなる人も盗聴することができる」

 電話会社のシステムがアナログからデジタルに移行するにつれて、盗聴をするのはより速く、簡単になっている。警察はもはや、物理的に電話回線を盗聴する必要はない。そして、国家安全保障上の要請という名目で、令状を取るプロセスを省略した場合は、数分のうちに盗聴することができると、ACLUのシーガル氏は語った。

 映画では、元国家安全保障局(NSA)の局員で事件の全貌を知る男であるブリルが、現実と陰謀説とのあいだの境界を消してしまうような意見をいくつも述べる。

 「軍事基地フォート・ミードの地下には、14エーカー(約5万6700平方メートル)の面積を埋め尽くすほどのメインフレーム・コンピューターが存在し、それらが自動的に電話での会話を記録し分析している」と、ジーン・ハックマン扮するブリルは言う。

 「NSAは何エーカー分にも及ぶコンピューターを所有しているかもしれないが、それらは数字を処理しているだけで、電話を盗聴しているわけではない。この映画は2つの事実を組み合わせて、誤った結論を導きだしている」とジェームズ・バンフォード氏は言う。同氏は、NSAの歴史と概要を描いた、権威ある著書『パズル・パレス』の著者。

 NSAが国内の電話を盗聴するとは考えられない、とバンフォード氏は語る。70年代にはNSAが違法な盗聴を行なうこともあったが、それ以後そのような行為はすっかりやめている、と彼は述べた。

 「技術的には、政府は確かに世界の大部分の電話通信を記録し分析する能力を持っている。それがNSAのおもな機能だからだ」と、ワシントンの民主主義・技術センターの上級相談役ジェームズ・デンプシー氏は語った。

 だが政府は、米国内で電話を秘密裏に記録することは違法とされているので、NSAは国外での盗聴活動に力を入れている、とデンプシー氏は言う。

 フォート・ミードは衛星監視システム『エシュロン』の中心で、その目的はファクス、電子メール、音声による通信を傍受することだと、自由議会協会のディーン氏は語った。「それはおそらく違法だが、彼らにはそれができるのだ」

 「NSAは君の腕時計の時間を読みとることさえできる」と映画の中でブリルは主張する。

 NSAのために衛星ネットワークを維持している国家探偵局は、衛星監視システムの解像度についてコメントすることを拒否した。また、広報担当のアート・ホーボールド氏は、同局は合衆国に監視システムを向けることを法的に許されていないと指摘した。

 だが映画の中で描かれていたように、軍の現在の監視衛星が、人間や車をどこでも追跡できるというのは事実らしい。またそれをコンピューターでダウンロードすることもでき、その映像は毎秒10コマのビデオ並みだ、とマサチューセッツ工科大学で地球物理学を教えているトム・へリング教授は言う。同教授が調査のために使っている衛星は最高1mまで解像できるが、これは10年から15年前の技術に基づいている。

 「軍の衛星の解像度は、これより10倍優れていると思う」とへリング教授。「10cmのものを映し出す能力があれば、人間を追跡するのは可能だろう。顔の特徴も見分けられそうだ」。もっとも腕時計の文字盤は無理だろうが。

 念のため一言。ハッブル宇宙望遠鏡にはスパイ衛星機能は付いていない。

米国スパイ情報網を調査する

Niall McKay1998年10月27日 12:55pm PST by Wired News
 ワシントンDCの市民的自由擁護団体が米国国家安全保障局(NSA)の極秘スパイネットワークに関する詳細な調査報告書を、今週国会議員に提出する予定。

 この報告書『エシュロン:滞空するアメリカのスパイ(Echelon: America's Spy in the Sky)』は、NSAの世界的な電子的情報収集システムに関するすでに知られた歴史や業務について詳説している。このシステム『エシュロン』は、世界中で送信される電話、データ、携帯電話、ファックス、電子メール、テレックスなど、全てのかたちの電子的通信を傍受、記録、翻訳できると報道されている。

 「米国の安全に対して、敵からの脅威は現在、現実的に存在する」と、この報告書の筆者で、自由議会財団の副代表であるパトリック・プール氏は語る。「しかし、この(エシュロン)システムがどのように、そして誰に対して使われるのか、ということに関しては、民主的で憲法に合致した監督がなされるべきだ」

 自由議会財団は、米国議会が、欧州議会が行なったように注意深くエシュロンを調査することを希望している。欧州議会は今年、エシュロンに関していくつかの調査を委任し、それ以来この問題は熱心に議論されている。

 NSAはエシュロンの存在について確認も否定もしていないが、ジャーナリストや市民的自由活動家たちは、近年多くの詳細を明らかにしてきている。

 欧州議会の英国メンバーであるグリン・フォード氏は、プール氏同様、エシュロンの必要性は認めるものの、NSAが明らかに説明責任を欠いていることを懸念する。

 「電子的な鍵をドアマットの下に置いて出かけるとしたら、その鍵を拾い上げた者が家宝の銀食器を盗まないという保証が欲しい」とフォード氏は語った。

NSAはエシュロン論争を闇に葬ったのか?

Niall McKay1998年10月5日 5:15pm PDT by Wired news
 ヨーロッパの緑の党に所属する欧州議会メンバーが5日(米国時間)語ったところによると、同議会は、かねてからその存在が取りざたされている米国政府の欧州における監視およびスパイ活動に対する懸念を取り下げた。

 具体的に言えば、欧州連合(EU)は先月末、『エシュロン(Echelon)』監視組織についての議会討論を断念した。エシュロンとは、米国家安全保障局(National Security Agency:NSA)が運営の一翼を担う、伝説的な秘密情報収集網の名だ。

 「審議そのものが完全に葬り去られてしまった」と、緑の党代表の欧州議会メンバー、パトリシア・マッケナ氏は語る。

 米国政府はエシュロンの存在すら認知していない。しかし、1988年以来、ジャーナリストたちの独自の調査やプライバシー監視組織によって、そのベールははがされつつある。それによると、この強力な秘密組織は、欧州内で行なわれるいかなる通信もすべて傍受することができるらしい。

 オンラインや新聞紙上で発表された多数の報告によれば、エシュロンは世界中のどこへ向けて送られたどんな電子的通信──電話、データ通信、携帯電話、ファクス、電子メール、テレックスなど──でも、すべて傍受、記録、翻訳することができるという。

 エシュロンの存在が欧州議会で取り上げられたのはごく最近のことだが、同議会ではEU行政機関や民間の秘密情報が米国の手に渡ることに懸念を募らせている。

 討論は不可解な経過をたどって立ち消えになった、とマッケナ氏は言う。EU・米国間の関係が悪化するのを恐れ、欧州議会がこの問題を徹底追及することをしぶったのだと同氏は示唆する。「要するに、議会は波風を立てたくないのだ」

 さらに、同氏によれば、討論は予定より2日も前倒しで行なわれ、同議会のメンバーたちに議論の準備をする猶予が与えられなかったという。

 NSAはエシュロンの存在について一度も公式に認めていないものの、欧州議会の技術諮問委員会である『科学技術選択肢評価(Scientific and Technical OptionsAssessment:STOA)』が予備的報告書を提出して以来、欧州では激しい論争の的となっている。

 9月19日、欧州議会はEU・米国間の関係、そしてエシュロンの存在とその目的、この双方について討論を行なった。

 緑の党では、エシュロン対策の決定を先延ばしし、さらなる調査を保留するとの決断が同議会で下された背後には、この組織を隠しておきたい米国政府からの圧力があったと考えている。

 英国労働党代表の同議会メンバーで、STOAの責任者でもあるグリン・フォード氏は、日程変更のため討論会には出席できなかったが、緑の党とは違う意見を持っている。

 「存在するという以外、エシュロンに関する情報がなさすぎる。問題として討論するには不十分だ」とフォード氏。

 フォード氏によれば、欧州議会委員会の要請で最初にエシュロンに関する報告書を担当したのは、英国の人権擁護団体、オメガ財団(Omega Foundation)だという。

 「オメガが再びその任に指名されることは大いにありうる」とフォード氏は述べる。「しかし今度は、EUはNSAにもじかに情報の提出を求めるだろう」

 プライバシー問題監視組織『プライバシー・インターナショナル』の責任者、サイモン・デイビス氏は、この討論を市民権の大いなる勝利だと見ている。

 「議会が国家の安全問題について公に論じ合うなど、これまで聞いたことがない。今回の討論は、NSAに対する本格的な警告となった」

 エシュロンは原則的にNSAと英国の情報機関である「政府通信本部(Government Communications Headqaurters:GCHQ)」によって運営されているといわれる。また、ほかにもカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの各諜報機関が協力しているらしい。

 「こうしたスパイ組織は、冷戦の時代には世界の安全保障のために必要なものとみなされていた」とフォード氏は言う。「しかし今日では、ロシアを偵察したところで軍事的には何の意味もなく、彼ら(NSA)の耳に聞こえてくるのは、原始資本主義経済が崩れ去る音だけだ」

欧州議会、米の盗聴システムを調査へ

Niall McKay1998年9月30日 4:00am PDT by Wired News
 欧州議会は、歴史上もっとも強力で地下深く潜行し、幅広い広がりを持つスパイネットワークの1つとされるものの全容を明らかにしようとしている――もし、実際にこれが存在するのであれば。

 欧州委員会は10月、『エシュロン(Echelon)』の活動についての完全な報告を命じる予定だ。エシュロンとは、米国最大の秘密情報組織『国家安全保障局(NSA)』が運営の一翼を担う、国際的な秘密情報収集網だ。

 「率直に言って、エシュロンの存在を少しでも疑うのは米国人だけだ」と述べるのは、欧州議会の英国メンバーで、同議会の技術諮問委員会『科学技術選択肢評価(Scientific and Technical Options Assessment:STOA)』の責任者、グリン・フォード氏。

 エシュロンは、世界中に送信された全ての電子的通信(電話、データ、携帯電話、ファクス、電子メール、テレックス)の傍受や記録、翻訳ができるとされている。欧州議会の報告書は、このシステムが拡張され、欧州の企業や議員の秘密に照準を合わせているのではないかという懸念に焦点を当てることになる。

 同議会は、エシュロンの驚くべき能力に関する複数のレポートに接して警戒を強めている。欧州連合(EU)は9月19日にこの件に関して事実確認を求めた。同議会は、NSAおよびエシュロンを共同運営する英国の『政府通信本部(Government Communications Headquarters:GCHQ)』は、このシステムの乱用を防止する方策を取らなければならないと強く主張している。

 法的規制に関して国際的協力が重要だとフォード氏は語るが、これには限度がある。「我々はEU市民と政府を保護するために、このシステムの運営基準の確立を求めたい」と述べる。

 一方米国では、保守系の政治シンクタンク『自由議会財団(Free Congress Foundation) 』の副代表、パトリック・プール氏が、議会共和党メンバーに提出するエシュロン報告書の準備を進めているところだ。「この問題を我が国の議員に提示する時期だと考える」と彼は言う。

 プール氏とフォード氏の仕事は困難なものだ。英国、米国ともにエシュロンの存在さえ認めないだろう。この件に関する一連のファクスによる質問がNSAに送付されたが、NSAはコメントを拒絶した。

キーワードは爆弾

 数年にわたって、このスパイネットワークはSFではないと示唆する多くの情報がリークされ続けてきた。昨年STOAが依頼した報告書が、エシュロンに対するEU議会の注目を集めることとなった。

 この報告書は、「エシュロンは、冷戦時代に開発された多くの電子的スパイ・システムとは性格を異にし、事実上すべての国家の、主として政府、組織、企業など非軍事組織を目標にするもの」だと述べている。

 このSTOA報告書、および『ニューヨーク・タイムズ』紙、『デイリー・テレグラフ』紙、『ガーディアン』紙の記事を総合すると、エシュロンは、情報収集ネットワーク、アンテナ基地、レーダー基地局から構成される。このシステムを支えているのは、言語翻訳や音声認識を行ない、さらに電話、電子メール、ファクス、テレックスのトラフィックを自動的にキーワード検索するコンピューターだ。

 主にNSAとGCHQによって運営が行なわれているが、両国以外の「通信の高度利用」運営主体との協力体勢も整えていると言われている。そうした運営主体には、カナダの『通信安全機構』や、オーストラリアの『通信防衛理事会』、ニュージランドの『政府通信安全局(Government Communications Security Bureau)』などが含まれる。

 『米国科学者同盟』のセキュリティ・アナリスト、ジョン・パイク氏は、この5カ国の政府当局は、それぞれ自国地域に対する責任を負っていると語る。

 各国当局はキーワード集を持っていると言われている。このキーワード集に記載されている「爆弾」などの単語や字句を含む伝送をエシュロンが傍受すると、その完全な会話、電子メール、ファクスが記録され、当局間で共有される。

 パイク氏は、「エシュロンがインターネットを傍受するのはTCP/IPなどのトランスポート層においてだ。従って、伝送されるものが何であるか、どこから送信されたのかなどについて、このシステムはほとんど構わない。電話を使った会話などアナログ・トラフィックの場合は、自動音声認識技術を用いて会話をスキャンする」と語る。

権力の乱用?

 エシュロンが国際テロリスト、麻薬の元締、国際犯罪者を追跡するのに有益な道具となる可能性のあることはEUも承知している。しかしフォード氏によれば、欧州議会は、このシステムが平和的国家に対する偵察スパイ活動に使われたり、非メンバー国に対して不公正な経済的アドバンテージを得る恐れを懸念している。

 確かに、英米情報機関が共同で、問題視されうるやり方で情報収集にあたった例も多く報告されている。

 1993年にBBSが英国にあるNSAのメンウィズ・ヒル施設に関するドキュメンタリーを作成した。その中で、平和主義活動家らが同施設に侵入し、『ディクショナリー』として知られるキーワード集の一部を盗み出したことが報道された。このドキュメンタリーは、およそ230ヘクタールに点在する施設で、1200人以上を雇用するメンウィズ・ヒルはエシュロンの中枢だと主張した。

 昨年さらに証拠が持ち上がった。英ブリティッシュ・テレコム社は法廷で、同社はメンウィズ・ヒル施設に広帯域電話を提供しており、同施設から米国への広帯域電話も、大西洋間光ファイバーネットワークを使って提供していると証言したのだ。

 パイク氏は、「これら5カ国の情報機関は1つの計画に従って活動していると私は考える」と語る。

 英国人ジャーナリスト、ダンカン・キャンベル氏は、1988年に『ニュー・ステイツマン』でエシュロンについて報じた初めての人物。同氏は、情報収集と産業スパイの間の境界は非常に曖昧だと考えている。

 米国科学者同盟のパイク氏は、これらの情報機関は国際法のグレーゾーンで活動していると考えている。例えば、英国内でNSAが電話やデータトラフィックを傍受することを禁止する法律もなければ、米国内におけるGCHQの同様な活動を禁止する法律もない。

 「傍受できるものを扱う限り公正なゲームだとNSAは考えているらしい。制限をかけられるとすればどんな制限がかけられるのか、見つけるのは大変難しい」とパイク氏は語った。

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