バルネチールという薬の特徴を教えて下さい。
バルネチールは、抗精神病薬の1つです。フランスで開発されました。バルネチールは商品名であり、一般名はスルトプリドです。日本では、錠剤が平成1年4月に、細粒が平成3年12月に発売されました。大日本製薬、三井製薬から発売されています。同じ成分で、スタドルフという名前で協和薬品からも発売されています。錠剤は1錠の中に、50mgが含まれるもの、100mgが含まれるもの、200mgが含まれるものがあります。通常使用量は、1日300〜1200mgくらいで、最大1800mgまで使用できることになっています。ベンズアミド系に属します。非常に良く似た構造を持つものに、スルピリド(商品名として、ドグマチール、ミラドールなど)がありますが、性質は全く異なります。抗精神病薬ですから、情動面の安定化や幻覚・妄想をとる、思考をまとまらせるといった他の抗精神病薬と同様の作用はありますが、特徴として鎮静作用が強いことがあげられます。

以下は私の使用経験によるもので一般的なことではないかもしれません。
バルネチールは興奮状態や、躁状態の鎮静にはすぐれた効果を発揮します。ただ、錐体外路系の副作用が出やすいので慣れなければ使いにくいかもしれません。特に興奮状態ではない方に使用すると副作用が出やすく動きが硬くなる気がします。
スルトプリド単剤よりもレボメプロマジン(商品名として、レボトミン、ヒルナミンなど)との併用において特に効果があり、副作用が出にくい印象があります。入院時、隔離室を要するほどの興奮状態にある場合は、もちろん年齢や体格、興奮の程度にもよりますが、1日量として、レボメプロマジン200〜400mgにスルトプリド800〜1600mgを併用する処方を私は好みます。
ある程度、鎮静された後、病状を維持するのには、過鎮静になったり、錐体外路系の副作用が出たり、うつ状態をきたすために使いにくい薬と思われます。
つまり、急性増悪期には威力を発揮するが、病状の維持には使いにくい薬と言えるでしょう。
もちろん、これは、私がそういう傾向があるように思うと言っているだけであって、バルネチールを2000mgまで使用しても鎮静されない時はもちろんあるし、バルネチール単剤でうまく維持されている例もあります。毎年のように春になると入院を要するほどの躁状態を繰り返していたのに、バルネチール100mg錠を1錠、毎日寝る前に1回飲み続けるだけで、安定した状態が保たれている例があります。また、単剤で1日1200mgを飲むことで安定している例もあります。この例は、意欲低下を訴え、バルネチールを減量すれば、意欲低下はむしろ悪化し、さらに幻聴や思考のまとまりのなさが現れ、増量するとすっと落ち着き、逆に意欲低下もやや改善します。鎮静作用が強い薬だからといって、減らせば体が楽になるとは限らないわけで、このあたりがなかなか理解されないところです。
私にとって診療上、バルネチールは絶対になくてはならない薬であり、この薬で救われた人がけっこうおられると思っています。