TOPIC No.6-25 万能細胞/ヒト胚性(はいせい)幹細胞(ES細胞)の研究/


01. 幹細胞研究 YAHOO! NEWS
02.  再生医療(幹細胞移植)について
03.  再生医療 ES細胞、幹細胞、万能細胞について by「進化研究と社会」科学ニュース&基礎用語
04.  ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針について (平成13年9月25日)
05.  生命倫理学資料
06.  ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針 2003/12/15
07. 韓国/胚(はい)性幹細胞(ES細胞)研究論文捏造(ねつぞう)事件

再生医療実用化に「安全性」クリア 感染の恐れないiPS細胞作製

2008.10.10 MSN産経新聞

 感染の恐れがないプラスミドを使ったiPS細胞の作製方法の樹立は、再生医療などへの実用化に向けて障壁となる「安全性」のクリアという点で、大きな成果となる。しかし、新製法自体も万全性が立証されたわけではなく、さらなる研究が続けられる。

 山中伸弥教授がセンター長をつとめる京都大学iPS細胞研究センター(今年1月設立)では、すでに日本人の子供や高齢者の体細胞を使ってのiPS細胞作製に成功している。しかし、作製手法はわかったものの、発生のメカニズムや、細胞そのものの性質などははっきりしておらず、まだ謎の多い細胞でもある。

 今回、山中教授らは従来の方法を改良し、4遺伝子を体細胞に導入する「運び屋」をウイルスからプラスミドに変更。iPS細胞の染色体まで入り込み、がんを発生を発生させるウイルスの危険性を取り除いた。

 だが安全性は依然確認されていない。山中教授自身「時間をかけていろんな角度から調べないとわからない。プラスミドで成功したが、レトロウイルスの方がよかったということになるかもしれない」とも話す。

 一方、京大ではiPS細胞を将来の基礎医学研究・再生医療の核と位置づけ、国の支援を受けながら応用研究や知財戦略を着々と進めている。

 京大が知財管理を重視するのは、将来iPS細胞の医療が実現した際、患者が大きな負担を強いられない環境をつくるためだ。そのため、内外のどの研究機関より早く、国際的な作製特許の取得を目指している。

 京大は平成18年12月、iPS細胞作製の国際特許を出願し、今年9月、国内特許の取得を発表。海外二十数カ国でも特許取得のための作業を進めている。また、学内に知的財産管理室を設置し、7月には知財管理を行う会社も設立。研究成果を産業界に技術移転し、その実用化を進める。

 米国・スタンフォード大学は遺伝子組み換え技術の開発で250億円近いライセンス料を得たとされるが、1件あたりの代金は高くならないように設定された。京大もこれにならい、ライセンス料が高くならないようにする意向で、「国民に広く使ってもらえるようにしたい」としている。

iPS細胞作製 京大が国内特許

2008.09.12 MSN産経新聞

 京都大学は11日、山中伸弥教授が世界で初めて作製に成功したとされる新型万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」の作製方法をめぐり、特許庁に出願していた国内特許が認められたと発表した。京大によると、iPS細胞に関する特許の成立例は世界初。今年4月に外資系のバイエル薬品(大阪市)の研究チームが山中教授よりも先にヒトの皮膚細胞からiPS細胞を作製した可能性が浮上したが、国内では京大の優位性が認められた形だ。

 京大によると、今回認められたのは動物の体細胞に4種類の遺伝子を導入してiPS細胞をつくる技術。マウスやヒトに限定しない基本特許で、平成18年12月に特許庁に国際出願し、国内特許を取るために今年5月に再度、分割出願していた。

 再生医療の切り札とされるiPS細胞は、実用化に向けて国際競争が激化。京大は世界二十数カ国にも分割出願しており、「各国で審査中の国際特許に対する直接の影響はないが、日本の特許庁が認めたことによる間接的な効果が期待できる」としている。

「バイエルより山中氏が優位」…特許めぐり京大

2008年04月12日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 バイエル薬品(大阪市)が昨春、人の新型万能細胞(iPS細胞)の作製に成功していたことについて、京都大は11日、記者会見を開いた。中畑龍俊・iPS細胞研究センター副センター長は「山中伸弥教授は動物の種類を限定せず、iPS細胞を作ること自体を発明した」と、特許の優位性を強調した。

 特許庁の調査では、今年2月末までに公開されたiPS細胞に関する特許出願は、山中教授と京大がそれぞれ申請した2件だけ。松本紘・副学長は「知的財産が一部に独占され、国民が不利益を受けないようにしたい」と話した。

 特許出願は、特許庁に出した後、1年半過ぎると無条件で公開される。申請から30か月以内に翻訳文を提出すれば、海外でも同じ日に申請したことになる。米国だけは出願順でなく、発明した時期で決まる。

iPS細胞で京大が会見、特許の優位性を強調

2008年04月12日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 バイエル薬品(大阪市)が昨春、人の新型万能細胞(iPS細胞)の作製に成功していたことについて、京都大は11日、記者会見を開いた。

 中畑龍俊・iPS細胞研究センター副センター長は「山中伸弥教授は動物の種類を限定せず、iPS細胞を作ること自体を発明した」と、特許の優位性を強調した。

 特許庁の調査では、今年2月末までに公開されたiPS細胞に関する特許出願は、山中教授と京大がそれぞれ申請した2件だけ。松本紘・副学長は「知的財産が一部に独占され、国民が不利益を受けないようにしたい」と話した。

 特許出願は、特許庁に出した後、1年半過ぎると無条件で公開される。申請から30か月以内に翻訳文を提出すれば、海外でも同じ日に申請したことになる。米国だけは出願順でなく、発明した時期で決まる。

ヒトiPS細胞、バイエルが先に作製…特許も出願か

2008年04月11日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 外資系製薬会社のバイエル薬品(大阪市)が2007年春に、様々な臓器や組織に変化する、人の新型万能細胞(iPS細胞)の作製に成功していたことがわかった。

 京都大の山中伸弥教授が人のiPS細胞を作製した時期(07年11月発表)よりも早く、すでに特許出願しているとみられる。

 グループ筆頭企業のバイエル社が特許を日本で取得した場合、内容次第では医療への応用で影響を受ける恐れがある。作製したのは、07年12月に閉鎖されたバイエル薬品神戸リサーチセンター(神戸市)の桜田一洋センター長(当時)ら。06年8月、山中教授によるマウスでのiPS細胞の作製発表を受けて、直後に人のiPS細胞づくりに着手した。

 今年1月にオランダの科学誌「ステム・セル・リサーチ」(電子版)に掲載された論文や桜田さんによると、新生児の皮膚細胞に、山中教授の初期の手法と同じ四つの遺伝子を組み込んでiPS細胞を作製。遺伝子の導入に使うウイルスが1種類異なっていた。

 作製日時や特許出願については「バイエルとの秘密保持契約があり、明らかにできない」としている。しかし、センターの実質的な研究が07年10月中に終わったことやiPS細胞の培養を約200日していることなどから、山中教授に先行しているとみられる。一般に外国企業が医療関連の特許をとると、医療費が割高になることが多い。山中教授がマウスで基本特許を取得しても、人のiPS細胞の作製や臓器に変化させる方法など応用面で特許を押さえられると、日本の医療に影響が出る恐れがある。

京大が難病解明に万能細胞、患者細胞から作成・研究を計画

2008年03月09日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 様々な細胞に変化できる新型万能細胞(iPS細胞)を開発した山中伸弥・京都大学教授らが、筋ジストロフィーなど治療の難しい約10種類の病気に苦しむ日本人患者の細胞からiPS細胞を作製する計画を進めていることが8日明らかになった。

 近く学内の倫理委員会に申請し、早ければ4月から、新薬開発などにつなげる研究に取り組む。

 これまで、病気の原因を研究するには、すでに病気の状態になった細胞を調べる方法が主流だった。だが、患者の細胞からiPS細胞を作製し、それをさらに病気の細胞に変化させれば、細胞が健康な状態から病気に変化する過程も観察でき、詳しい仕組みも明らかになると期待される。

 研究代表者の中畑龍俊・京大教授や、講演先の川崎市で記者会見した山中教授によると、対象の病気は若年性糖尿病や筋ジストロフィー、神経変性疾患、先天性の貧血などで、京大病院で治療を受けている患者に協力を求める。

 採取する細胞は、皮膚や血液のリンパ球、胃の粘膜など。健康な人の細胞からもiPS細胞を作製し、病気の細胞と比較する。

 山中教授はこれまで、米国人の細胞からiPS細胞を作製。薬によっては、効果や副作用に人種差があり、日本人患者の細胞を使って研究を進める。

ES細胞から赤血球のもと 理研がマウス実験で成功

2008年02月06日 中国新聞ニュース

 マウスの受精卵からできる万能細胞の胚性幹細胞(ES細胞)から、血液に含まれる赤血球のもとになり、試験管内で半永久的に増やせる「赤血球前駆細胞」をつくることに成功したと、理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)の中村幸夫室長(血液学)らが、6日付で米科学誌に発表した。

 赤血球の人工的な大量生産に道を開く成果。人間の万能細胞であるES細胞や京都大が開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞)でも再現できれば、感染症の恐れがない安全な輸血用血液の確保に役立つと期待される。

 ES細胞から血液細胞をつくる研究はこれまでにもあったが、半永久的に増やせる前駆細胞づくりに成功したのは初めてという。

iPSからの生殖細胞製造禁止 文科省部会が決定

2008年02月01日 中国新聞ニュース

 文部科学省の生命倫理・安全部会(部会長・笹月健彦国立国際医療センター総長)は1日、多様な組織に成長できる万能性がある、京都大が開発した「人工多能性幹細胞」(iPS細胞)から、精子や卵子など生殖細胞をつくる研究を、当面禁止することで合意した。

 近く、大学などの関係機関に通知する。生殖細胞ができる可能性がある、他の体性幹細胞からの作製も禁止対象とした。

 受精卵を材料にする胚性幹細胞(ES細胞)から生殖細胞をつくる研究は、同省の指針で既に禁止されているため、同様に取り扱うのが妥当と判断した。

 ただし、こうした万能細胞からの生殖細胞づくりは「不妊症の研究に役立つ」との意見もあり、同部会の専門委員会が、指針を見直すべきかどうかを検討しているため、禁止期間は専門委の結論が出るまでの間とした。

 同部会はまた、再生医療研究のため、生殖補助医療で不要になったり、病気で摘出した卵巣から採取したりした卵子を基に、クローン胚をつくることを認めるなどとした作業部会報告書を承認した。

国が助成強化など表明 万能細胞研究、部会が初会合

2008年01月10日 中国新聞ニュース

 京都大の山中伸弥教授が開発し、再生医療の切り札になると期待される万能細胞「iPS細胞」の研究推進策を話し合う、総合科学技術会議作業部会の初会合が10日開かれ、厚生労働省が将来の臨床応用をにらみ、研究費増額の方針を新たに表明するなど、政府の支援策が報告された。

 厚労省の研究費は、医薬基盤研究所を通じて支給。本年度の9000万円をさらに増額する予定とした。同省はこのほか、iPS細胞で人を対象とした臨床研究が実施される場合には安全面、倫理面の検討が必要になるとして、「今後の基礎研究の進展を見ながら、取り組みを開始したい」とした。

 山中教授は、大人の皮膚細胞に複数の遺伝子を組み込む方法でiPS細胞を作製。経済産業省は、別の遺伝子でもiPS細胞がつくれるかの調査をスピードアップさせるため、同省所管の遺伝子データベースの活用などを提案。文部科学省は、昨年末に決めた研究拠点整備などを報告した。研究拠点は、山中教授をセンター長とする「iPS細胞研究センター」。既に京大で実質的に発足したという。

【やばいぞ日本】第5部 再生への処方箋(11)受精卵に娘の顔が重なった

2007.12.15 MSN産経新聞

 すさまじい国際競争が展開される中で、まずは日本の勝利だった。夢の再生医療を実現に近づけるヒトのiPS(人工多能性幹)細胞の作成に山中伸弥京都大学再生医科学研究所教授(45)が成功した。

 厳しい倫理的制約を逆手にとって、いち早く日本独自の発想で隘路(あいろ)を抜け出した。少数精鋭の態勢の中で、的確な洞察力を頼りに研究を進めるという不退転の努力が功を奏した。

 iPS細胞は皮膚などの体細胞に、リセットの作用がある遺伝子を導入して受精卵に近い細胞にもどす。

 現在、万能細胞としてよく研究されているES(胚(はい)性幹)細胞は、生命の萌芽(ほうが)とされる受精卵を壊して取り出す。このため、倫理的な問題が避けられず、別の方法での万能細胞の作成が待たれていた。

 山中教授が再生医療研究に挑むきっかけは、整形外科医時代に、リウマチなどの難病患者を診察し、「神経細胞などの再生医療の必要性を痛感した」ことだった。

 iPS細胞に直接結びつく発想は、研究室で顕微鏡をのぞき、受精卵を観察しているときに芽生えた。

 「ちょうど娘が生まれたときで、その顔と受精卵細胞の姿がダブってきました。受精卵もかわいい子供に育つはず。これを壊さないですむ方法はないか、と真剣に考えるようになりました」と振り返る。受精卵を使わない万能細胞を開発することへの情熱がわいてきたという。

 山中教授が強い動機に支えられて研究を重ねた京大再生研は、ヒトES細胞を国内で唯一培養し、配布する再生医療の拠点である。研究環境には恵まれたが、国の指針でヒトES細胞について厳しい審査があった。ヒト細胞を慎重に扱うのは当然とはいえ、ひとつの研究テーマに対し研究計画などの分厚い報告書を提出し、大学の倫理委員会と国のダブルチェックを受けるというシステムは研究の着手を遅らせた。

 「日本の研究は優れているが動物実験ばかり」との評価が出るほどだった。

 この中で山中教授はマウスの実験から得たデータをもとに、確実にヒトに応用できるものに絞り込んだ。幸い、これまでの常識と異なり、マウスとヒトの間に大きな違いがなく予想外に早く成功した。

 世界中から研究者と最新情報が集まる米国の研究所に拠点を持ったことも効果的だった。「米国内でヒトiPS細胞ができそうだ」と日本では得られない情報が舞い込み、論文作成を急ぐことができた。

 結果的には、その後の臨床応用という面でもかなり優位に立てた。たとえば山中教授のiPS細胞は成人の細胞から作成することができ、多くの患者に使える可能性があるが、米国は新生児の細胞からでしかできていない。

 米国はこれまでブッシュ政権がES細胞の研究に反対していたこともあり、倫理的問題がないiPS細胞には賛意を示している。膨大な資金と物量で圧倒するであろう米国に対し、日本は「オールジャパン」態勢で臨むしかない、と山中教授は強調する。だが、人材、資金、制度の制約をバネに新たな発想でリードするには限界がある。

 日本の科学技術政策も大きな転換点を迎えざるを得ない。

                ◇

 ■オールジャパンで主導権を

 失った手足や病んだ臓器を細胞の増殖・分化により再生させる。再生医療が実現すれば、たとえば臓器移植でドナー(提供者)を待たずに手術でき、患者本人の細胞が使えれば拒絶反応もない。難病に苦しむ患者にとっては、大きな福音だ。医療産業にとっても多大な利益が予測される。

 しかし、再生医療は複雑な生命のシステムである細胞を扱うだけに、臨床応用までにいくつかのハードルがある。

 万能細胞を作成する際の倫理的、技術的な問題。臨床応用したときに、がん化するなど予想外の働きをしないかなどの問題だ。

 再生医療の有力な材料であるES(胚(はい)性幹)細胞は、受精卵を壊すことのほか、卵子の提供が母体に負担となるなど倫理的、医学的な問題の解決が迫られている。

 体細胞からクローン細胞をつくり、その細胞からES細胞を取り出す方法があるが、高度な技術が必要だ。クローンES細胞は動物実験では得られたものの、ヒトではできていない。この方法については、韓国のソウル大学の捏造(ねつぞう)事件が研究の進展に大きく影響した。

 山中教授が作成したヒトのiPS(人工多能性幹)細胞は、皮膚などの体細胞にリセット用の遺伝子を導入する方法なので倫理問題を回避できる。そのうえ、神経、心臓の筋肉、膵臓(すいぞう)などの10種類の細胞に分化できる能力も備えていることが実験でわかっている。新薬の効果や副作用を確かめる細胞としても有用だ。

 最初の発表では、作成に使った4種類の遺伝子にがん遺伝子が含まれていることが指摘されたが、すでにがん遺伝子を除き3種類の遺伝子セットでできるというデータを持っており、10日後に追加発表するという手回しのよさだった。

 これは、さらに数少ない遺伝子の導入でiPS細胞をつくることができるという科学的に重要な発見でもある。

 ライバルの米ウィスコンシン大のグループは、一足遅れてiPS細胞をつくったが、それは4種類の遺伝子を使っているとはいえ、一部は別の遺伝子だった。つまり、別の遺伝子セットも考えられることになり、日本は一歩リードしているものの油断はならない。

 山中教授は「別の遺伝子セットが有効で、そちらの方が臨床に役立つとわかれば、すぐに方向を切り替える」といさぎよい。それだけ、最終ゴールが勝敗を決めるということでもある。

 このような1日を争う競争の中で、今後、日本はリードし続けられるのだろうか。結果を早く出して特許を取得することなどは、その後の研究の進展や、産業化にも影響が出てくる。

 文部科学省は、異例の早さで対応し、科学技術審議会などで、緊急の支援策を練るとともに、再生医療研究の倫理面でのルール作りの見直しを始めた。

 1990年代に日本が全ヒトゲノム解読を先に提唱しながら、最終的に米国に主導権を取られた例もある。今後、世界に向けてプレゼンスを示す成果を期待したい。(坂口至徳)

万能細胞に追加資金支援 07年度中に数億円規模

2007年12月03日 中国新聞ニュース

 国の科学技術政策の実施機関、科学技術振興機構は3日、人の皮膚から万能細胞の一種「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」の作製に成功した京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授の研究について検討会を開き、研究態勢を整えるために2007年度中に追加の資金支援を行うことを決めた。

 関係者によると、数億円規模になる見通しで、スタッフ増員や研究スペース確保に補助する方針。iPS細胞をめぐっては渡海紀三朗文部科学相が研究支援に乗り出す考えを表明。総合科学技術会議も作業部会の設置を決めており、国際競争に備えた国の態勢づくりが加速してきた。

 振興機構は既に、山中教授の研究に対し04−08年度の5年間に計2億6400万円を計上しているが、今回のiPS細胞づくりの成功を再生医療につながる世界的な成果と評価。来年度の予算配分を待たずに追加支援する必要があると判断した

万能細胞の安全性向上 がん遺伝子なしで成功

2007年12月01日 中国新聞ニュース

 人の皮膚から、さまざまな細胞に成長できる万能性をもつ「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を世界で初めてつくった京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らが、作製法を改良し、より安全なiPS細胞を得ることに成功、米科学誌ネイチャーバイオテクノロジー電子版に30日付で発表した。

 これまでは、がん遺伝子を含む計4つの遺伝子を皮膚細胞に組み込んでいたが、がん遺伝子を除く3つの遺伝子でもできることを確認した。

 人体に有害な恐れがあるウイルスは依然として使っているが、安全性をめぐる問題の一つが解決できたことで、傷んだ組織を修復する再生医療の実用に向け前進した。

 山中教授は「ゴールは先だが、一歩一歩着実に前進している」と話し、今後は細胞作製の効率をいかに向上させるかが課題だとしている。

「万能細胞」国が支援、再生医療実用化へ5年で70億円

2007年11月23日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 文部科学省は、京都大のグループが、あらゆる臓器・組織の細胞に変化する能力を持つ「ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)」の作製に世界で初めて成功したのを受け、iPS細胞利用を中心に据えた再生医療の実用化研究に本格的に乗り出すことを決めた。

 内閣府も早期の臨床応用のための枠組みを早急に策定し、国内での研究を加速する「オールジャパン」体制を構築する方針だ。米国でもブッシュ大統領が、同様にiPS細胞を作製した米大学の研究を支援する意向で、再生医療の実用化を巡って、国際競争が激化するのは必至だ。

 文科省の計画は、今後5年間に70億円を投入し、〈1〉ヒトiPS細胞などの万能細胞の大量培養法の開発〈2〉サルなどの動物を使った再生医療研究〈3〉研究用ヒトiPS細胞バンクの整備――などを重点的に進める。

 ヒトiPS細胞は、受精卵を壊して作る胚(はい)性幹細胞(ES細胞)と違い、倫理的批判は少ないが、作製の過程で、がん遺伝子を組み込むなど安全性に課題を残すため、こうした課題を克服する。iPS細胞を使った再生医療の実用化を担う研究機関を年度内に公募、有識者による評価委員会を新設して絞り込む。

 一方、内閣府は、ヒトiPS細胞を用いた再生医療研究が、臨床応用に円滑に結びつくように、早期に安全基準の策定を検討する。総合科学技術会議(議長・福田首相)を中心に、文科省や厚生労働省などと早急に協議する。

 ただ、理論上、卵子や精子を作製し受精させることも可能で、新たな生命倫理問題につながることから、内閣府では研究倫理基準の検討も始める。岸田科学技術相は22日、閣議後の記者会見で、「(ヒトiPS細胞の作製は)素晴らしい成果。政府としても、日本が主導権を握れるような環境作りをしていかなければならない」と語った。

 iPS細胞 体を構成する皮膚などの細胞が持つ機能を“リセット”し、受精卵のようにあらゆる細胞に変化する万能性を持たせた細胞。京大では、4種類の遺伝子を、ウイルスを使って人間の皮膚細胞に組み込み作製した。米大学も同じ手法だが、組み込んだ遺伝子の一部が異なる。

万能細胞の成功を称賛 ローマ法王庁立アカデミー

2007年11月23日 中日新聞

 【ローマ23日共同】京都大と米ウィスコンシン大がそれぞれ人の皮膚から万能細胞をつくったことについて、ローマ法王庁(バチカン)の生命科学アカデミー所長でカトリック聖職者のスグレッチャ氏は「人(受精卵)を殺さず、たくさんの病気を治すことにつながる重要な発見だ」と称賛した。22日、ウェブ版バチカン放送が伝えた。

 法王庁は、生命は卵子が受精したときに始まるという考え方に立ち、受精卵を壊してつくる胚性幹細胞(ES細胞)による研究に強く反対してきた。法王庁の公的機関の長が、今回の研究を論評するのは初めて。

 スグレッチャ氏は「(受精卵を壊す)これまでの研究方法は『人を助けるために人を殺す』という考え方に立った、誤った科学と言える」とした上で「日本人と米国人はわれわれの声を聞いてくれ、研究に成功した」と話し、科学者たちの努力をたたえた

皮膚で万能細胞「画期的な技術」・海外メディア反響

2007/11/22 BizPlus/NIKKEI NeT

 【ロンドン=田村篤士】「多様な病気の治療に役立つ画期的な技術革新だ」(英BBC放送)。欧州のメディアは21日、日米の研究チームが人の皮膚細胞から「万能細胞」を作ったことを大きく報じた。BBCは「倫理面で論争の的だった人の受精卵に頼らずに、より簡潔に万能細胞を手にすることができる」と指摘した。

 英紙タイムズはほぼ1ページをあてて「パーキンソン病や糖尿病の将来の治療に役立つ」などと解説。独紙フランクフルター・アルゲマイネも1面で取り上げ、バイオ技術は転換点を迎えたと説明した。

 英国では世界初のクローン羊「ドリー」を作ったイアン・ウィルムット教授が受精卵から取り出した細胞を利用するクローン技術をやめる意向をすでに表明している。

米日研究チーム、人の皮膚から‘万能細胞’作成

2007.11.22 中央日報 朴邦柱(パク・バンジュ)科学専門記者

米国と日本のメディアは21日、皮膚細胞から‘万能細胞’を作った米ウィスコンシン大ジェームス・トムソン教授チームと日本・京都大の山中伸弥教授チームの研究結果を大きく報道した。 ニューヨークタイムズや読売などほとんどの新聞が1面トップ記事で新しい多能性幹細胞作成技術を開発したことを詳しく伝え、賛辞を送った。

両研究チームの研究結果は幹細胞の歴史を塗り替える画期的な内容だ。 その間、万能細胞を作りながら発生した‘受精卵破壊’‘卵子確保’など倫理的な問題を解決できる可能性が開かれたからだ。 卵子を得るために女性に排卵促進剤を注射する必要も、核を除くために生命が育っている受精卵を破壊する必要もない。 ウィスコンシン大のアルタ・チャロ教授(生命倫理専門家)は「今回の研究の最も大きな成果は障害の一つだった倫理問題を解決したこと」と語った。

◆患者治療も可能=人体は他人の組織を移殖する場合、拒否反応が避けられない。 各種臓器移植で拒否反応は致命的だ。 従来の胚性幹細胞は患者とは全く関係がない精子や卵子から作るため、拒否反応が頻繁に生じる。 今までは主に試験管ベビー手術をした後、残った胚から胚性幹細胞を作った。 さらに多くの卵子を確保する必要がある。こうした過程で倫理的な問題が浮上した。 宗教界では生命を破壊するという理由で胚性幹細胞研究に反対し、女性界では卵子売買論議が絶えなかった。

しかし米国と日本の研究チームは単純に皮膚細胞に遺伝子を導入して万能細胞を作り、移植拒否反応の憂慮をなくした。 各患者向けの万能細胞が作られる可能性が開かれたのだ。

これと関連し、抱川 中文医大のチョン・ヒョンミン教授は「治療に適用するためには導入した遺伝子の安全性を検証しなければならない。また作られた万能細胞から患者治療用の細胞を生産できているかを確認する必要がある」と指摘した。

ヒト皮膚から万能細胞…拒絶反応なし、臨床応用に道

2007年11月21日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 人間の皮膚細胞から、さまざまな臓器・組織の細胞に成長する能力を秘めた「万能細胞」を作ることに成功したと、京都大学の山中伸弥教授(幹細胞生物学)らの研究チームが発表した。

 患者と遺伝情報が同じ細胞を作製でき、拒絶反応のない移植医療の実現に向け、大きな前進となる成果だ。山中教授は「数年以内に臨床応用可能」との見通しを示している。米科学誌「セル」電子版に20日掲載される。

 山中教授らは、やはり万能細胞として知られる「胚(はい)性幹細胞(ES細胞)」の中で、重要な働きをしている4個の遺伝子に着目。30歳代の白人女性の顔から採取した皮膚細胞(研究用市販品)にウイルスを使ってこれらの遺伝子を組み込み約1か月培養したところ、ヒトES細胞と見かけが同じ細胞が出現した。

 培養条件を変えることにより、この細胞が、神経細胞や心筋細胞などに変化できる「万能性」を備えた「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」だと確認した。作製効率は皮膚細胞約5000個につき1個で、臨床応用するのに十分という。

 岡野栄之・慶応大医学部教授(生理学)の話「非常に重要な成果だ。細胞移植医療への応用が見えてきた。我々が行っている脊髄(せきずい)損傷患者への再生医療研究にも、ヒトiPS細胞を利用したい。医療に応用するには、がん化の危険性を払しょくすることが課題だ」

 これまで再生医療で脚光を浴びていたES細胞には〈1〉人間に成長する可能性がある受精卵を壊して作るため、倫理的な批判を伴う〈2〉移植に使うと拒絶反応が避けられない――という問題があった。クローン技術を利用するクローンES細胞を使うと拒絶反応を回避できるが、材料となる卵子の確保が困難だ。iPS細胞なら、これらの問題をすべて克服できる。

 ただ、山中教授らが遺伝子の組み込みに利用したウイルスは、発がん性との関連が指摘されているほか、組み込んだ遺伝子の一つはがん遺伝子だ。移植後にがん化しないような工夫が課題として残る。

 山中教授らは昨年8月、同じ4遺伝子をマウスの皮膚細胞に組み込み、iPS細胞作製に成功したと報告。人間でも可能かどうか実験していた。

 米ウィスコンシン大のチームも人間の皮膚細胞からiPS細胞の作製に成功したと発表、こちらの成果は米科学誌「サイエンス」電子版に20日掲載される。方法はほぼ同じだが、京大とは組み込んだ4遺伝子のうち2個が違うという。今後、万能細胞を用いる再生医療は、iPS細胞を中心に展開していく可能性が高い。

ヒトの皮膚から「万能細胞」 日米の研究者が別々に

2007.11.21- CNN/AP

 ニューヨーク──日本と米国の研究者がそれぞれ別々に、ヒトの皮膚から胚性幹細胞(ES細胞)と同等の全能性を持つ「万能細胞」をつくり出すことに成功したと発表した。いずれも、ヒトの胚を破壊せずにES細胞と同等の全能性細胞が得られるため、倫理的な論争の的にならずに再生医療への道が開かれる可能性が高いとして、注目を集めている。

 皮膚の細胞から「万能細胞」をつくったのは、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授と、米ウィスコンシン大学マディソン校ジェームズ・トムソン博士の研究グループ。

 山中教授は米科学誌「セル」に、トムソン博士は米科学誌「サイエンス」に、それぞれ研究成果を発表した。

 山中教授のグループは36歳女性の顔の皮膚を用いて、トムソン博士のグループは新生児の包皮細胞を用いて、それぞれES細胞と同等の万能細胞をつくり出した。

 ES細胞は、受精後間もない胚から取り出される細胞で、血液や脳、骨などあらゆる臓器や器官を形成することから「万能細胞」とも呼ばれる。人間のES細胞研究は、脊髄(せきずい)損傷や糖尿病、アルツハイマー病など、さまざまな疾病の治療に役立つとの期待が寄せられる一方で、将来はヒトに成長する胚を壊すため、生命尊重の立場から研究に反対する声も根強い。

 今回、両研究グループが発表した内容は、将来はヒトに成長する胚を破壊しなくてよいため、各方面の科学者が業績を評価。

 また、1996年に体細胞クローンのヒツジ「ドリー」をつくったスコットランドの研究者イアン・ウィルマットは、英紙デーリー・テレグラフに対し、山中教授らの研究成果を見て、ヒト・クローン胚の研究を断念したと述べている。

米大統領、万能細胞研究に支持を表明

2007.11.21 MSN産経新聞

 【ワシントン=山本秀也】京都大など日米の研究チームがヒトの皮膚細胞を使って「万能細胞」を作り出したことで、米ホワイトハウスは20日、「ブッシュ大統領は重要な進展を非常に歓迎している」との支持声明を発表した。

 ブッシュ政権は、受精卵を使って作った胚性幹細胞(ES細胞)研究法案に対し、「受精卵は生命の始まり」という立場から、拒否権を2度行使しており、今回の成果は再生医療の実現に向けた米国の研究促進に扉を開いた形だ。

 声明は「医学問題は、高度な科学目的と、ヒトの生命の聖域を混同することなく解決し得ることを確信する」として、再生医療への応用が期待できる万能細胞の研究拡大に期待を表明。「倫理的に許容される範囲での進展を促す」として、ブッシュ政権が研究を後押しする方針を明確に打ち出した。

 これまでのES細胞研究は、キリスト教福音派の強い影響を受けるブッシュ大統領が強硬な反対を打ち出したことで、研究継続の是非が妊娠中絶や同性婚とならぶ米次期大統領選での倫理的な争点となっていた。

 万能細胞の研究成功は、京都大チームの成果が米科学誌「セル」に、米ウィスコンシン大チームの成果が「サイエンス」誌に同時掲載された。米メディアは20日、パーキンソン病など難病治療への期待から日米専門家の成果を大きく報じていた。

ドリー生みの親 クローン研究断念

2007.11.18 MSN産経新聞

 【ロンドン=木村正人】クローン羊ドリーを誕生させた英エディンバラ大学のイアン・ウィルマット博士がヒトクローン胚(はい)の研究を断念する方針を決めたと17日付の英紙デーリー・テレグラフが伝えた。京都大医科学研究所の山中伸弥教授らがマウスの皮膚細胞から新たな「万能細胞」をつくるのに世界で初めて成功したことに注目、研究方針を切り替えるためという。

 クローン研究のパイオニアの転換は世界の研究者に衝撃を与えそうだ。

 ヒトクローン胚からはさまざまな臓器や組織に成長する万能性を備えた胚性幹(ES)細胞をつくることができ、同博士は2年前に英政府機関の承認を得て研究に取りかかっていた。

 しかし、ヒトクローン胚研究には卵子が必要で生命倫理上の問題が指摘されていた。

 山中教授は昨夏、マウスの皮膚細胞に遺伝子操作を加えES細胞と同じ働きをする新たな「万能細胞」をつくるのに成功。ヒト細胞への応用も可能とみられており、同博士は山中教授の研究の方が「社会的に受け入れられやすい」と評価している。

猿クローン胚からES細胞 霊長類初の成功 米チーム

2007.11.15 MSN産経新聞

 アカゲザルの体細胞クローン胚(はい)から胚性幹細胞(ES細胞)を作成することに成功したと、米オレゴン健康科学大などのチームが14日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表した。

 霊長類のクローン胚からES細胞作成に成功したのは世界初。自らの体の細胞から拒絶反応の心配がない治療用のES細胞をつくる「究極の再生医療」の人への応用が、実現に一歩近づいたことになる。

 チームはアカゲザルの皮下組織にある線維芽細胞から核を採取。核を抜き取っておいた未受精卵の中に注入し、電気ショックを与えて融合させた。その後、細胞分裂が進み100個程度まで増えた「胚盤胞(はいばんほう)」という段階の20個を使い、2種類のES細胞を得た。

 ただし未受精卵は304個を必要としており、成功率は0.7%。チームは「人への応用には、さらに効率を上げる必要がある」としている。

 この技術をめぐっては、2004年に韓国・ソウル大の黄禹錫教授(当時)らが、人のクローン胚からの作成に成功したと発表したが、その後、捏造(ねつぞう)と判明した。

 鳥居隆三滋賀医大教授(実験動物学)の話「捏造の問題があったためか、極めて慎重に検証を重ねており、信頼できる結果だ。これまでサルの体細胞クローン胚からのES細胞作成が難しかったのは、未受精卵から核を取り除く際、核周辺の細胞質を一緒に取り除いてしまうことにあると考えられていた。オレゴンのチームは、うまく核だけを取り除くことに成功したようだ」

皮膚から万能細胞 マウス実験…京大再生研

2006年08月11日 読売新聞 Yomiuri On-Line

拒絶ない移植に道

 皮膚の細胞から様々な臓器や組織に育つ能力を秘めた新たな“万能細胞”をつくることに、京都大再生医科学研究所が、マウスの実験で世界で初めて成功した。胚(はい)性幹細胞(ES細胞)に似た性質を持ち、人間でもこの万能細胞をつくることができれば、患者と同じ遺伝子を持つ臓器が再生でき、拒絶反応のない移植医療が実現すると期待される。11日の米科学誌「セル」電子版に掲載される。

 成功したのは、同研究所の山中伸弥教授と高橋和利特任助手。

 山中教授らは、ES細胞で重要な働きをしている遺伝子には、体を構成する普通の細胞を“リセット”して、発生初期の細胞が持っている万能性を備えさせる遺伝子があると考え、その候補として24種類の遺伝子を選定。その中から、「Sox2」などの遺伝子4種類を、ウイルスを使って、マウスの尾から採取した皮膚の細胞に組み込んで培養した。その結果、皮膚細胞は2週間後にES細胞と似た形態の細胞に変化した。

 また、この細胞の性質をマウスの体内で調べたところ、3週間後に神経や消化管組織、軟骨が入りまじった塊に成長したほか、シャーレ上でも拍動する心筋や神経の細胞に変化した。

 ES細胞に近い能力があるとして、「誘導多能性幹細胞(iPS細胞)」と命名した。ES細胞は、受精卵や卵子を材料に作製しており、倫理的に問題があるとの指摘が根強いが、iPS細胞は生殖細胞を使わずに作製できる。

 山中教授は「人間の皮膚細胞からiPS細胞を作製し、それを用いた再生医療が実現するよう研究を進めたい」と話している。

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希望もたらす成果

 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の若山照彦チームリーダー(発生工学)の話「皮膚などの体細胞からクローン技術を用いずにES細胞を作製するのは不可能だと思われていたが、今回マウスで体細胞からES細胞に似た細胞の作製に成功したことで、人間でもできるのではないかという希望をもたらす成果だ。再生医療の研究の流れは今後、今回のような細胞を作製する方向に必ず進むだろう」

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胚性幹細胞

 受精卵が細胞分裂を始めて数日後の「胚盤胞(ほう)」から、全身の組織に分化してゆく部分を取り出し、培養して作製する細胞。クローン技術を応用すれば未受精卵でも可能。心臓や神経などの臓器や組織の細胞に分化する万能性を秘めており、けがや病気で傷んだ臓器などを治す再生医療への応用が期待されている。

ES細胞の倫理問題回避

皮膚から万能細胞、治療応用へは課題も

<解説>

 京都大再生医科学研究所の研究は、皮膚の細胞から簡単にES細胞のような、組織に変わる前の万能性を備えた細胞をつくれる可能性を示した点で画期的な成果といえる。この方法が人で応用できれば、ES細胞が抱える倫理問題も回避できる。

 ES細胞は、神経や心筋などあらゆる組織の細胞になる可能性があり、パーキンソン病や糖尿病など病気で失われた臓器の機能を修復する「再生医療」の切り札として期待されている。

 しかし、受精卵を壊してつくるため、倫理的な問題があるとして研究に反対する声も根強い。米国では、キリスト教右派の支持を受けるブッシュ政権が2001年に、新たにES細胞をつくる研究への連邦資金の拠出を禁止。大統領は今年7月、上院が可決した研究規制を緩和する法案に拒否権を発動したほどだ。

 今回の方法なら、患者自身の遺伝情報を持った拒絶反応のない細胞をつくることができる。同じような細胞はクローン技術を使ったES細胞からもつくれるが、クローン人間の誕生につながる恐れがある。こうした倫理問題も避けられる。それだけに、セル誌の発表の1か月以上も前から「ネイチャー」や「サイエンス」といった他の一流科学誌が話題に取り上げ、世界中からも注目を集めている。

 ただし、実際の治療に応用するには、道はまだ遠い。人から同じ細胞ができたとしても、神経などねらい通りの細胞にする方法を確立しなければならない。体内に移植した場合、むやみに増えたり、他の細胞に変化したりしないよう安全面を確保する研究も必要だ。(科学部 行成靖司)

[解説]皮膚から「万能細胞」

2006年08月11日 読売新聞 Yomiuri On-Line

細胞「初期化」倫理面クリア

 京都大再生医科学研究所が新たな“万能細胞”を作製した。医療応用面では、生殖細胞を材料にする倫理的問題を回避できる点で意義は大きい。クローン技術を使わずに細胞を発生初期の状態に戻し、発生生物学の謎だった「初期化」の解明に手がかりを与えた。

 胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の作製には、受精卵を材料にする方法とクローン技術を応用する方法がある。

 前者の方法では、すでに人間のES細胞も作製されている。しかし、受精卵を壊すため、問題視する勢力も少なくない。米国では、保守的な宗教右派の支持を受けるブッシュ政権が連邦予算を使ってヒトES細胞を新たに作製することを禁止している。

 後者の方法では作製には卵子が欠かせない。その上、これまで成功例はないが、作製途中にできるクローン胚を子宮に戻すとクローン人間の誕生につながると危惧(きぐ)する声が絶えない。

 生命倫理問題に敏感な欧米では今回の研究は早くから注目され、正式発表の1か月ほど前から、「ネイチャー」「サイエンス」という有力科学誌が研究の動向を取り上げていた。

 発生の初期に戻す「初期化」に関与する遺伝子の特定は大きな成果だが、課題も残る。岡野栄之慶応大教授は「初期化メカニズムは生物種によって大きく異なる可能性がある。今回の四つの遺伝子の組み合わせで、人間でも同様の細胞が作製できるかどうか確認する必要がある」と指摘する。

 将来、人間で同様の細胞が作り出せた場合でも、再生医療に応用するには、“万能細胞”から目的の細胞だけを作製する手法を確立しなければならない。さらに、移植した場合、むやみに増えたり、他の細胞に変化したりしないよう安全を確保する研究も必要だ。(科学部 吉田昌史)

 クローン胚  未受精卵の核を取り除き、皮膚などから採取した細胞の核を組み込むクローン技術で作り出した細胞。これを培養して作られたES細胞は、いろいろな臓器や組織に成長する能力を持つ。こうして作った臓器などを移植しても、拒絶反応が起きないのが特長。

受精卵からクローンES細胞…ハーバード大チーム

2006年06月07日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 クローン技術の応用で、様々な臓器・組織に成長する能力を秘めた胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を、受精卵を使って作ることに、米ハーバード大チームが動物実験で成功し、7日付の英科学誌ネイチャーに発表した。

 クローンES細胞の作製には、体細胞核を移植する卵子が不可欠だが、入手が難しかった。今回の手法が人でも可能になれば、不妊治療用に作って残った受精卵を卵子の代わりに活用でき、ES細胞研究に弾みがつくと期待される。

 研究グループは、マウスの受精卵の染色体を、細胞分裂の初期の段階で除去して、別のマウスの皮膚細胞の染色体を入れたところ、そのまま分裂を続け、ES細胞になった。クローンES細胞は、患者と同じ遺伝子を持ち、拒絶反応が起きない臓器・組織を作り出せると期待されている。

京大チーム…人工幹細胞能力高める

 一方、京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らのチームは、ES細胞と同様に、様々な臓器や組織の細胞に育つ能力のある「人工多能性幹細胞」(iPS細胞)で、昨年の報告よりもさらに能力を高めた第2世代の開発にマウスの実験で成功し、6日付のネイチャー誌電子版で発表した。

 iPS細胞は遺伝子操作により体細胞から作製できるため、人に応用できれば受精卵を材料にするES細胞で指摘される倫理面の問題を回避できる。

 昨年作製した第1世代の細胞は、ES細胞よりも変化の能力が劣るなど、有用性に課題があった。山中教授らは、iPS細胞を作製する際、第1世代よりも有用な細胞を選別する方法を確立。この方法で作った第2世代iPS細胞を調べたところ、遺伝子の構成や性質が、第1世代よりもES細胞に近く、変化の能力も高いことを確認した。

「ES細胞」研究法案で初の拒否権 米大統領

2006/07/20 The Sankei Shimbun

 【ワシントン=山本秀也】ブッシュ米大統領は19日、上下両院で可決されていたヒト胚性幹細胞(ES細胞)研究の促進法案に対し、現政権で初めて拒否権を行使した。生命倫理を優先させた政権側に対し、学術界からは米国の研究水準の維持を懸念する声が強まりそうだ。

 この法案は、米国内の研究機関が行う臓器再生などES細胞を使った研究に対し、助成金に関する連邦予算の歳出規制を緩和する内容。ブッシュ政権の規制方針を立法側から覆す法案で、昨年の下院可決に続き、上院本会議も18日、賛成多数で可決していた。

 ブッシュ大統領は、「米国は基本的なモラルを捨て去るべきではない」と、法案拒否の理由を語った。

親知らずの元から“幹細胞”再生医療への利用期待

2006年03月07日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 産業技術総合研究所セルエンジニアリング研究部門(兵庫県尼崎市)は7日、大阪大と共同で親知らずの元になる歯の細胞=歯胚(しはい)=を使って、肝臓、骨などに効率よく変化する“幹細胞”を取り出すことに成功したと、発表した。

 この“幹細胞”を使って傷んだ肝臓や骨が再生することをラットを使った動物実験で確認しており、歯列矯正などの際に捨てられてきた親知らずの歯胚を使った再生医療に道を開くと期待される。

 歯胚は歯が形成されると消失するが、成長が遅い親知らずの歯胚は、10〜16歳ごろまであごの骨に埋まっている。歯列矯正の際に抜かれてしまうことが多いが、研究グループは、この歯胚の増殖能力に着目した。

 細胞1個を取り出し培養すると、短期間で急速に増殖することが判明。さらに、ホルモン投与などで刺激を与えることで、骨細胞や神経細胞だけでなく肝細胞にも、変化することを突き止めた。

 研究グループは、骨髄から採取した幹細胞で骨や心筋細胞など様々な組織の細胞を作り、実際に治療に応用しているが、今回の歯胚を使った方法は、骨髄の幹細胞を使う方法に比べて、骨細胞、肝細胞などへの増殖効率がはるかに高いという。また、実際に人の歯胚から採取した細胞を、肝臓障害を起こしたラットに移植したところ、3週間で障害が治癒したという。

ヒトクローン胚研究、女性研究者からの卵子提供を禁止

2006年03月06日 読売新聞Yomiuri On-Line

 ヒトクローン胚(はい)研究の指針作りを進めている文部科学省は、胚の作製や利用にあたる研究チームが、チーム内の女性や研究者の親族の女性から卵子提供を受けるのを禁止する方針を固めた。

 6日の同省科学技術・学術審議会の作業部会で決定する。

 研究に必要な卵子の確保は、ボランティアで提供してくれる人は少なく、非常に難しいのが実情だ。このため、上司の研究者が、部下の女性研究者に卵子の提供を強要する“アカデミック・ハラスメント”が起こる恐れがある。

 実際、ヒトクローン胚由来のES細胞の論文をねつ造した韓国ソウル大の黄禹錫(ファン・ウソク)教授は、研究チームの女性研究者から卵子提供を受け、倫理的問題が指摘されていた。作業部会はそれを教訓にした。

 指針では、研究チームに属する女性研究者からの卵子提供は全面的に禁止する。男性研究者の妻や女性親族なども禁止するが、どこまでを禁止の対象とするかは今後検討する。

 ヒトクローン胚 人間の未受精卵から核を除き、体細胞の核を組み込んで作製した胚(受精卵)。これを培養して作られる胚性幹細胞(ES細胞)は、あらゆる臓器・組織に成長するとされ、拒絶反応のない移植医療の切り札と期待される。しかし、胚を子宮に戻すとクローン人間になることから批判もある。

ヒトES細胞から肝細胞 岡山大が国内初

2006/03/03 The Sankei Shimbun【東京朝刊から】

 さまざまな細胞に分化する能力があるヒトの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から肝細胞をつくることに岡山大の田中紀章(たなか・のりあき)教授(消化器・腫瘍=しゅよう=外科)、小林直哉(こばやし・なおや)助手らが3日までに成功した。ヒトES細胞から肝細胞をつくったのは国内初という。8日から岡山市で開かれる日本再生医療学会で発表する。

 京都大がつくった国産ES細胞を使った。

 従来ES細胞を維持させるには、容器内でES細胞を培養するのにフィーダー細胞という特定の細胞を使う必要があった。小林助手らは、代わりに細胞間の接着力を高める特殊な布を使う方法を開発、コストや手間が少なくなった。

 肝細胞への分化を促進するタンパク質を使い、ES細胞から平均約20日で肝細胞に分化させることができた。

 分化させた肝細胞からは、肝臓でしか合成されないアルブミンという物質ができていた。また、一部の麻酔薬を解毒する代謝機能があることを確かめた。

 今後は物質の分解や合成、代謝といった肝臓の機能を果たすのかを確認する。ES細胞が肝細胞へ分化するメカニズムも解明したいという。

 小林助手は、こうしてつくった肝細胞を組み込んだ人工肝臓を想定しており、「倫理的課題が解決されれば、人工肝臓を重症の肝臓病患者の治療に応用したい」と話している。

新薬開発にES細胞利用 期間短縮、費用削減

2005/10/31 The Sankei Shimbun

 胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から病気のモデル細胞をつくり、新薬開発に利用するプロジェクトを京都大などが本年度から5年計画で始めることが31日までに決まった。

 新薬の候補化合物について、基礎研究段階で毒性や安全性、効果を確認でき、開発期間短縮や費用削減ができるのではないかという。

 独立行政法人、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が京都大再生医科学研究所(中辻憲夫(なかつじ・のりお)所長)やアステラス製薬などに委託、埼玉医大や熊本大も参加する。事業費は毎年度約2億円の見込み。

 代表の中辻所長によると、ES細胞を心筋細胞や神経細胞に分化させ病気のモデル細胞をつくり、化合物の試験に使う。臨床試験前に新薬候補を絞り込め、数種類のES細胞で効き目の違いを確かめることで、個人に応じたテーラーメード医療につなげたいという。

 当面サルやマウスのES細胞で研究、来年以降にヒトES細胞での研究計画を文部科学省に申請する。(共同)

血管再生医療:骨髄幹細胞移植、新しい毛細血管 信大病院

2005年10月12日 毎日新聞 Mainichi INTERACTIVE

 信州大付属病院(長野県松本市)は12日、長野県内に住む重症狭心症の男性患者(61)の心臓に、血管を再生させる作用のある骨髄の幹細胞を分離して移植し、新しい毛細血管を作り出すことに成功したと発表した。男性は血流の改善が認められ、副作用もなかったことから、今月2日に退院した。

 同病院によると、心臓への自己骨髄細胞移植治療で、幹細胞のみを分離・移植したのは国内では金沢大に続いて2施設目。同病院の池田宇一・循環器内科科長は「狭心症や心筋梗塞(こうそく)でバイパス治療が出来ない場合や、従来の治療を受けても狭心症発作を繰り返す患者に対しても有効な治療法となりうる」と話している。

 男性は01年1月に狭心症の症状が出て、03年5月に同病院に入院した。心臓周囲を取り巻く血管のうち3本が狭さく状態になり、1本はバイパス手術ができる場所ではなかった。このため、今年9月1日に血管2本をバイパス手術、残り1本は骨髄細胞移植による血管再生治療を試みた。

 患者本人の腰の骨から骨髄液約550ミリリットルを採取。その中から磁気を利用して、血管を再生させる幹細胞のみ約5ミリリットルを分離し、患部の心筋へ直接移植した。分離した骨髄液の幹細胞の濃度は80%以上で、金沢大が昨年実施した事例よりも濃度が高いという。【藤原章博】

脂肪の幹細胞で骨髄再生 日本医科大が成功

2005年09月24日 asahi.com

 肥満の原因になる脂肪から、様々な組織のもとになる「幹(かん)細胞」を取り出し、骨髄を再生することに、日本医科大学のグループがマウスとラットの実験で成功した。骨髄は血液を作る働きをもち、将来は様々な血液疾患治療への応用が期待できる。10月の日本形成外科学会で発表する。

 研究をしたのは、形成外科学(百束比古主任教授)と生化学第二講座(島田隆主任教授)のグループ。マウスとラットの脂肪組織を酵素で処理し、遠心分離器にかけて幹細胞を取り出して培養し、「足場」とともに皮下に移植したところ、骨髄をもつ骨が再生した。

 幹細胞は骨や筋肉、神経など様々な組織や臓器になる可能性をもつ。再生医療では、受精卵から作る胚(はい)性幹細胞(ES細胞)や骨髄にある幹細胞を使った研究も進められている。だが、血液疾患の多くは骨髄に原因があり、骨髄幹細胞を利用するのは難しい。また豊富にある脂肪を利用できれば、倫理的な問題や移植による拒絶反応、患者の負担などの軽減も考えられる。

 同大形成外科の小川令助手は「骨髄が再生したことで、正常な血液を作る環境が整うと予測される。骨髄線維症や大理石病、白血病などの治療への応用が期待できる」と話す。

心筋の幹細胞を確認、分離に成功 ヒトで初

2005/09/09 The Sankei Shimbun

≪京大チーム、再生医療に利用へ≫

 心臓の筋肉(心筋)のもとになる幹細胞がヒトの心臓にあることを確認し分離することに京都大の松原弘明(まつばら・ひろあき)客員教授(循環器内科)と王英正(おう・ひでまさ)助教授らが9日までに成功した。

 重症心不全などで心筋が傷んだ患者に投与し心筋の再生を目指す。19日から大阪市で開かれる日本心臓病学会で発表する。

 松原客員教授らは、患者の同意を得て、手術で取り出した心臓の一部に特定の酵素をかけて細胞をバラバラにすると、8000分の1の割合で幹細胞が入っていた。

 これを培養すると心筋のほか、骨格筋、内皮、脂肪細胞などに分化した。ヒトの足の筋肉を調べ、骨格筋の中にもこの幹細胞があることを確認した。

 拒絶反応をなくし心筋梗塞(こうそく)を起こしたマウスの心臓に移植すると、心筋や血管の細胞ができたという。

 これまでマウスでは心筋の幹細胞が確認されていた。

 松原客員教授は「動物実験を重ね、来年の早い時期に京都大の倫理委員会に申請し、臨床試験を目指したい」と話している。臨床試験では、心筋の再生とともに血管再生を目指すため、骨髄の幹細胞も一緒に移植するという。

 澤芳樹大阪大助教授(心臓血管外科)の話 詳しいデータを見ないと分からないが、ヒトの心筋幹細胞が本当に見つかったのであれば科学的に大きな発見だ。治療に使えるのであればさらに画期的な成果となるため、心臓への細胞の導入方法など、再生医療の具体的な方法を今後研究する必要がある。(共同)

卵子不要のES細胞、米大学が開発…倫理論議解決か

2005年08月23日 読売新聞Yomiuri On-Line

 【ワシントン=笹沢教一】再生医療に応用が期待されるヒト胚性(はいせい)幹細胞(ES細胞)と同等の能力を持つ細胞を、既存のES細胞と皮膚細胞との融合だけで、新しく作り出す画期的な技術を米ハーバード大の研究チームが開発した。

 患者の皮膚細胞を使えば、患者の遺伝子を持つES細胞となり、拒絶反応のない移植医療の実現が期待される。

 今回の論文は、26日付の米科学誌サイエンスに掲載されるが、雑誌掲載の5日前にもかかわらず、米メディアの注目を浴び、サイエンス誌は、急きょ論文をネット上に公表した。

 ES細胞は通常、受精卵を材料にしている。さらに、患者自身と同一の遺伝子を持つES細胞を作製するには、女性が提供した卵子でクローン胚を作る必要があり、クローン人間誕生の恐れなど倫理面で課題が残っていた。今回の方法は、これらの問題を解決しうると期待される。

 研究チームは、既存のヒトES細胞に、ヒトの皮膚細胞を融合させて、皮膚細胞の“若返り”に成功。融合細胞は、神経、筋肉、消化管の3種類の原型になる組織に分化し、ES細胞としての能力が確認された。

 ただし、この細胞は完全なES細胞ではなく、細胞の染色体の数も、通常細胞の2倍になっている。研究チームは「作製の段階で余分な染色体を除去する技術が必要だが、除去後も分化能力が保たれていれば、受精卵利用に代わる選択肢になりうる」としている。

 ES細胞 分裂が始まって間もない受精卵から取り出した細胞を培養して得られる。様々な臓器や組織の細胞に分化する能力があり、万能細胞とも呼ばれる。神経細胞や、インスリン分泌細胞などを作れば、パーキンソン病や糖尿病など、再生医療の切り札となりうる。クローン技術を応用すれば、拒絶反応のない移植医療が可能になるとされる。

英政府機関、ヒトクローン胚作成を認可 「ドリー」の研究所に

2005/02/08 The Sankei Shimbun

 英政府のクローン研究監視機関、「ヒト受精・発生学委員会」(HFEA)は8日、英スコットランドのロスリン研究所が申請した運動ニューロン疾患の治療法研究を目的とするヒトクローン胚(はい)の作成を認可したと発表した。

 HFEAのヒトクローン胚作成認可は2例目。同研究所は世界初の体細胞クローン動物である羊の「ドリー」(2003年に死亡)を誕生させたことで知られる。責任者のウィルマット教授は「純粋な研究目的で幹細胞を作成する」と述べており、クローン人間をつくるのが目的ではないことを強調した。

 同教授らは認可を受け、患者の細胞の核を使ってクローン胚を作成、その胚で疾患の進行状況などを研究するもよう。

 HFEAは昨年8月、医療目的でヒトクローン胚を作成し胚性幹細胞(ES細胞)をつくる研究の許可を英ニューカッスル大学に出している。

 運動ニューロン疾患は脳からの命令を筋肉に伝える神経系の病気で、世界に約7万人の患者がいるとされる。(共同)

ヒトクローン胚を使用した治療、英政府が認可

2004/08/11 読売新聞 Yomiuri On-Line
 【ロンドン支局】英BBCなどの報道によると、英政府の「ヒトの受精・胚(はい)研究認可局(HFEA)」は11日、ヒトクローン胚を使った糖尿病などの治療計画を認める決定を出した。

 ヒトクローン胚の利用の是非を巡り、各国で意見が分かれる中、国としてヒトクローン胚作りを認可したのは世界で初めてという。

 認められたのは英ニューカッスル大学などの研究チーム。計画では、糖尿病のほかにパーキンソン病やアルツハイマー病への使用を予定。ただし、実際に治療に用いるまでには5年はかかると見ている。

 ヒトクローン胚の作製について、英国は医療目的の研究などに限り認めているが、独仏は全面的に禁止。米政府は胚作製に対する予算拠出は認めていない。

 日本は、政府の総合科学技術会議が先月の会合で、厳しい条件付きながら認める方針を打ち出している。

ヒト肝細胞をマウスで置換 広島大

2004/06/05 中国新聞地域ニュース
 <吉里教授チーム 新薬実験に利用>

 マウスの肝臓をヒト肝細胞に換え、薬の代謝実験に利用することに広島大副学長の吉里勝利・大学院理学研究科教授率いる広島県産業科学技術研究所(東広島市)のチームが世界で初めて成功した。ベンチャー企業のフェニックスバイオ(同市)が八月、国内外の製薬会社からの実験受託を本格化させる。

 技術を開発したのは産学官連携で進める「吉里プロジェクト」の向谷知世主任研究員たち。一九九二年の研究開始から十二年間で新事業創出にこぎつけた。この間、科学技術振興機構や県などは計約四十億円を投入。再生医療やバイオをキーワードにした事業展開に地域の期待が高まる。

 向谷主任研究員たちは九九年から免疫反応を起こさない特殊なマウスを開発。ヒト肝細胞を移植、増殖させ、約六十日間で最大99%まで置き換えることに成功した。

 さらにこのマウスの肝臓が人間の肝臓同様、薬物を分解するかぎとなる酵素「シトクロームP450」を作ることも確認した。

 新薬の開発はマウスや犬、猿で実験し、薬効と安全性が確認されて後に人間での臨床実験に移行する。しかしそのうち約60%は、種が違うため適合しないなどとして、製造を見送られている。今回の技術を使うと、動物実験の段階で人間への影響が分かる。

 このため、現在は十五年間二百億円とされる新薬の研究開発期間と費用が大幅に圧縮されると期待されている。

 また共同研究をしている広島大大学院医歯薬学総合研究科の茶山一彰教授はこのマウスにヒトのB型、C型の肝炎ウイルスを感染させ、人間と同レベルまでウイルス量が上がることを実証。肝炎の治療実験にも期待が掛かっている。

 マウスの研究成果は近く国際的に権威のある米国研究病理学会の機関誌で発表される。

 吉里教授は「新薬開発への貢献のほか学問的にも、異なる種の動物にヒトの細胞を大量に増殖させる道が開けた。再生医療研究に役立つ画期的な成果だ」と喜んでいる。

 実用性の高い研究

 金沢大大学院医学系研究科の横井毅教授(薬物代謝学)の話 ヒト肝細胞への置き換えは世界的になかなか超えられなかった壁を破った。何より薬の開発に実際に使える研究をされたのは素晴らしい。

 <ヒト肝細胞への置換技術>  免疫不全で肝障害を持つマウスを開発し、その肝臓に注射でヒト肝細胞約50万個を移植する。増殖により約1億個あるマウスの肝細胞がヒト肝細胞に入れ換わっていく。移植技術の向上などにより、ほぼ半数が60日間に70パーセント以上、ヒト肝細胞に置き換わるようになった。最大は99%。世界レベルは30―50%で、吉里プロジェクトの技術は突出している。

ES細胞から造血幹細胞など作製する研究、京大委が承認

2004/07/21 asahi.com

 京都大の「医の倫理委員会」(小杉眞司委員長)は21日、さまざまな細胞になる能力をもつヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を使って、血液のもとになる造血幹細胞や神経をつくる神経幹細胞などを作製する研究を承認した。

 研究を率いるのは中畑龍俊教授(発達小児科学)。同教授らはすでに、マウスなどの動物のES細胞から造血幹細胞や神経幹細胞などをつくり出すことに成功している。今後、京大で作ったヒトES細胞を使って同様の研究を進める。

 ヒトES細胞研究ではこれまで、神経や血液の細胞をつくって患者に移植することを狙ったものはあるが、その細胞が死ねば患者の症状は元に戻ってしまう。幹細胞の状態で移植できれば、新たな細胞が次々補給されるので長期間の治療効果が期待できるという。

米政府がES細胞バンク 公認株だけ集め研究へ

2004/07/14 The Sankei Shimbun

 ブッシュ大統領の方針で胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の研究を厳しく制限している米政府が、政府公認の細胞株だけを集めたES細胞バンクの設立を計画していることが13日明らかになった。AP通信が伝えた。

 現存する細胞を最大限に利用することで、政府が重要研究の進展を阻んでいるとの批判をかわす狙いがあるとみられるが、研究者からは「見せかけだけのごまかし」と不満が出ている。

 大統領は2001年8月までにつくられたES細胞については連邦政府の資金拠出を認めており、バンクはこれら公認の細胞を集めて培養し、研究者に提供する。また今後4年で計1800万ドルを投じ、3カ所の施設でES細胞を治療に役立てる研究などを集中的に進めるとしている。(共同)

血管を印刷技術で再生…心筋こうそくなど治療に期待

2004/07/13 読売新聞 Yomiuri On-Line

 特殊な印刷技術を活用して、元の形通りに毛細血管を作り出すことに成功したと、東京医科歯科大と大日本印刷が12日発表した。

 従来の再生医療では、血管の元になるとされる細胞を体内に注入して治療を試みているが、体外で分岐型や網目状の血管など思い通りの形に血管を作ったのは初めて。実用化すれば、心筋こうそくなどの治療に役立つと期待される。

 同大大学院医歯学総合研究科の森田育男教授らは、眼底の毛細血管を撮影した画像を、光触媒で覆った基板に紫外線を当てて型どりし、血管の形をそっくり“印刷”した。“印刷”部分は水分を含み、細胞が付着しやすい。ここに「インク」となる別の静脈から採取した血管内皮細胞をはり付け、培地に「転写」すると、約2日後に血管が生まれ、管状の構造まで再生できた。今のところ、長さ約5―6センチ、太さ30―60マイクロ・メートルの血管を作ることが可能という。

 森田教授は「毛細血管と同じパターンで並べた内皮細胞を、心臓の表面などにはり付けるだけで、自然に血管が形成されると考えられる。臨床応用できれば患者本人の細胞なので、体への悪影響も少ないはずだ」と話している。

 ◆再生医療=病気や事故で失われた臓器・組織をよみがえらせる医療。受精卵から作る胚(はい)性幹細胞(ES細胞)や、臓器・組織のおおもとの細胞(体性幹細胞)などの活用が主に研究されており、神経難病などの治療が期待される。

ヒト胚を限定容認、生命倫理調査会が最終報告書

2004/07/13 読売新聞 Yomiuri On-Line

 生命の始まりであるヒト胚(はい)の研究の是非を検討してきた総合科学技術会議・生命倫理専門調査会(薬師寺泰蔵会長)は13日、厳しい条件つきでヒト胚の作製・利用を容認するとした最終報告書をまとめた。

 研究は法律では規制せず、従来の指針の改定や新たな指針で対応する。ヒト胚の作製・利用に関する初の包括的見解となるが、「論議が不十分」との意見が続出して決着は深夜にもつれ込んだ。

 最終報告書案は、受精胚、クローン胚といったヒト胚を「人の生命の萌芽(ほうが)」と位置づけ、研究目的で作製・利用するのは原則的に許されないとした。ただ、研究によって得られる生命科学や医学の恩恵が大きく、ヒト胚を使うことでしかその恩恵が得られない場合、例外として認めている。研究規制に新たな法整備を求める意見もあったが、最終報告書案では「国民の意識は多様である」とし、強制力をともなわない国の指針で対応すべきだとしている。

 そのうえで、受精胚の作製は、不妊治療研究に限って認めた。日本産科婦人科学会も容認の見解を出しており、すでに実施されている。最終報告書案は学会の見解を追認した形だが、今後、文部科学省と厚生労働省が研究指針を作り、個別の研究を審査する体制の基準を定める。

 一方、クローン胚は基礎研究に限定して作製を認め、検証を行う組織の整備を求めた。今後、クローン胚作製を禁じているクローン技術規制法の特定胚指針を改正する一方、必要に応じて新たな指針で補完する。

 ◆ヒト胚=人間が誕生する初期の段階で、胎児に成長する可能性を持つ細胞や、細胞の塊を指す。総合科学技術会議では、精子と卵子が受精してできる「受精胚」と、クローン胚のように人間の通常の受精過程を経ない「特定胚」を含めた総称として用いている。

ヒト胚研究を5年間容認 フランス議会

2004/07/10 The Sankei Shimbun

 パリからの報道によると、フランス議会は9日、ヒトクローン胚(はい)の研究を5年間の期間限定で容認する生命倫理法を採択した。一方でクローン人間づくりを「人類に対する罪」として禁じ、ロイター通信によると、禁固30年と罰金750万ユーロ(約10億2000万円)の罰則規定を設けた。

 同法は、これまで禁止していたヒトクローン胚研究を期間限定で認めるとともに、人体のあらゆる細胞に成長する能力があるヒトの胚性幹細胞(ES細胞)の研究も容認する。今回の措置は1994年に制定された同法を改定する形で行われ、研究者らはアルツハイマー病などの治療法開発に役立つと期待している。

 韓国の大学グループがクローン胚からES細胞をつくることに世界で初めて成功したことなどを受け、フランス議会は同法をめぐって審議を続けてきた。同法に反対する野党、社会党は異議申し立てを検討している。

 ヒト胚研究は、再生医療への応用が期待される一方、クローン人間づくりにつながる恐れが指摘され、その是非が世界的な議論になっている。(共同)

ヒトES細胞の産業化、経産省が支援へ

2004/07/09 読売新聞 Yomiuri On-Line

 経済産業省は、ヒト胚性(はいせい)幹細胞(ES細胞)を産業に利用する技術の開発を支援することを決めた。ES細胞は、あらゆる臓器や組織の細胞に分化できる能力を持ち、傷んだ臓器などを回復させる再生医療や、創薬に生かす技術などの産業化を目指す。来年度から5年計画で、初年度は10億円を投入する。

 経産省は、〈1〉ES細胞を肝細胞や神経細胞に分化させ、新しい薬の効果を試験する〈2〉ES細胞に特定の遺伝子を導入したり欠損させたりして、病気の仕組みを解明する――といった応用技術の確立を検討。大学や製薬企業などを公募して有望な計画をとりまとめ、研究資金を助成する。

 ES細胞は無限に増やすことができるため、利用技術を確立できれば産業化しやすいとみられる。

 国内では主に海外で作られたヒトES細胞を使って研究が行われてきたが、実用化の際、特許の問題が生じる恐れがある。今回の計画では、昨年、京都大が作製に成功した国産の細胞を用いる。

 倫理面で問題がないかを確認するため、研究を実施する際は、一般のヒトES細胞研究と同様、文部科学省の専門委員会で個別審査を受けることになる。

 ◆ヒトES細胞=細胞分裂が始まって数日後の受精卵の内部から細胞を取り出して作り出す。再生医療への利用が期待される一方、生命の始まりである受精卵を壊すため、倫理面で問題がある。日本では、不妊治療で使われず廃棄される余剰胚から作ることが認められている。

ヒト、豚細胞:マウス体内で腎臓に成長 臓器不足解消に道

2002年12月23日 THE MAINICHI NEWSPAPERS

 将来、腎臓に成長するヒトや豚の細胞をマウスに移植、マウスの体内でほぼ正常な機能を持った腎臓にまで成長させる実験にイスラエルのワイツマン研究所などのグループが成功、22日、米医学誌ネイチャーメディシンの電子版に発表した。細胞から臓器を再生し、移植用の臓器不足の解消に道を開く成果で、グループによると早ければ数年後の臨床応用も可能という。

 グループは人工妊娠中絶された7〜14週のヒトの胎児から、将来腎臓に成長する「腎臓前駆細胞」という細胞を取り出し、免疫反応を抑えたマウスの腎臓周辺に移植。豚でも同様の実験を試みた。移植された細胞はマウスの体内で成長。約8週間後には、大きさはマウスの腎臓に近いが、形はヒトや豚の腎臓に似て、尿をつくる機能なども正常な腎臓に近いレベルの組織ができた。

 ヒトの場合は受精後7、8週間、豚は同4週間後の前駆細胞が、最も腎臓に成長する確率が高いうえ、この時期にはまだ、免疫反応の原因となる細胞が形成されていないため、移植時の拒絶反応が起きにくいことも分かった。

 研究グループは「豚の細胞からつくられた腎臓であっても、ヒトへ移植した時の拒絶反応は少ないとみられ、移植臓器不足の解消につながる可能性がある」としている。(ワシントン共同)

ヒトの胚から臓器つくる研究認める法案、英上院が可決

2001.01.23(21:46)asahi.com

 英国上院は22日、クローン技術を利用してヒトの胚(はい)から臓器や組織をつくる研究を認める法案を可決した。法案は下院を通過しており、近く成立する運びになった。

 認めるのは、クローン技術を利用して育成した受精後14日以内のヒトの胚から移植用の臓器や組織をつくる研究。政府機関による監督を義務づける条件がついている。パーキンソン病など難病治療に道を開くと期待されている。ヒトの個体複製(クローン人間)の研究は認めない。

 上院では英国国教会やカトリックなど宗教関係者の議員を中心に、「ヒト複製への第一歩になりかねない倫理的問題があり、もっと論議を尽くすべきだ」と慎重論が強かった。賛成派は「研究の遅れは難病患者をかえって苦しませる」と反論。クローン胚研究のあり方を討議する特別委員会を上院に設けることで合意し、法案を可決した。

京大グループ、「万能細胞」から血管づくりに成功

2000.11.02(03:02)asahi.com

 さまざまな臓器や組織になる潜在能力があり、「万能細胞」とも呼ばれる胚(はい)性幹(ES)細胞から血管をつくることに、京都大学大学院医学研究科の山下潤研究員、西川伸一教授、中尾一和教授らのグループが動物実験で成功した。2日発行の英科学誌ネイチャーに発表する。ES細胞を特定の細胞に分化させるだけでなく、それらをもとに管状の立体構造までつくり上げた点が画期的。損なわれた臓器や組織を人工的につくる再生医療に一歩近づく成果で、心筋こうそくなどの患者の血管再生や、人工血管づくりなど、応用の芽を秘めている。

 血管は、内側の内皮細胞と外側の壁細胞からできている。山下さんらは、マウスのES細胞を培養。さまざまな種類の細胞ができた中から、血管の内皮細胞のもとになる前駆細胞を選び出した。この前駆細胞には壁細胞になる能力もあることも確かめた。

 そこで、まず前駆細胞を培養液の中で浮遊させて培養、細胞の塊をつくった。次に細胞の塊をコラーゲンというたんぱく質の上で培養すると、管状のものが網の目のようになった構造ができた。

 さらに、前駆細胞をニワトリの胎児に移植すると、血管の一部になることも確かめた。

 心筋こうそくなどの患者に対する血管再生では、この前駆細胞を移植する治療が考えられる。一方、ほかの材料と組み合わせて、「成長する人工血管」をつくることもできるとみられている。

さい帯血で骨つくる研究に着手へ 名古屋大グループ

2000.06.17(15:17)asahi.com

 名古屋大学大学院の研究グループが、赤ちゃんのへその緒に含まれるさい帯血などの細胞から骨や軟骨をつくる再生医療の研究を始める。近く名大の倫理委員会に研究計画を申請する。骨髄の細胞を使った同種の研究はほかにあるが、さい帯血を利用する例はないという。病気や事故で骨が損傷したり、衰えたりした患者の移植に広く使うため、骨髄利用も含め、ベンチャー企業と共同で実用化に向けた技術開発も目指す。  研究に着手するのは頭頚(とうけい)部・感覚器外科学講座(上田実教授)のグループ。

 上田教授らによると、さい帯血は、へその緒や胎盤に含まれる。骨髄と同様に、さまざまな組織や臓器のもとになる未分化細胞が含まれている。この1つに骨や軟骨に分けて取り出しやすい細胞だとされる間葉系幹細胞がある。今回の研究はこの間葉系幹細胞を使う。

 上田教授らは昨年、ラットの骨髄中の未分化な細胞に化合物で刺激を与えて骨や軟骨になるまでに培養することに成功した。この方法が、ヒトのさい帯血や骨髄にも応用できるかどうかを研究する。

 そのうえで間葉系幹細胞を速く大量に培養、骨や軟骨に分化させ、高分子などでつくった支持組織を足場にして育てる手法の開発を目指す。長期間保存して、いつでも使えるように凍結したり、簡単に移植できるようにしたりする方法も開発していくという。

 上田教授は、人間の皮膚や軟骨から医療材料を開発、販売する愛知県のベンチャー企業と技術協力を進めている。再生医療ビジネスは世界で50兆円近い市場になると見られ、複数の企業が上田教授の技術をもとにビジネスに乗り出すことを検討している。

 細胞をもとに皮膚や軟骨、神経、血管などを再生させる研究はここ数年、活発になってきた。とくに骨や軟骨の再生は需要が大きい。交通事故やがんなどの病気で骨のほか、鼻や耳、関節の軟骨が損傷して苦しむ患者は多い。今後股関節(こかんせつ)など、関節の老化に悩む患者が増えることが予想されるという。

 これまでの骨の移植は、患者の正常な部分から骨を削って使う「自家骨移植」や、他人から提供を受ける「同種骨移植」が行われてきた。ただ、自家骨移植は患者の負担が大きく数が限られる。同種骨移植は、提供を呼びかける活動がまだ少ない。

 一方、上田教授らのグループは将来、体外受精で余った受精卵を使って骨を造る研究にも取り組む方針だ。受精卵には未分化細胞が豊富な胚(はい)性幹細胞(ES細胞)がある。国が研究のための指針を検討中のため、当面、動物実験の準備を進める。

再生血管移植の女児、経過は順調 東京女子医大が発表

8:42p.m. JST May 15, 2000 asahi.com

 心臓病の女児(4つ)に12日、患者自身の血管の細胞を増殖させて作った「再生血管」の移植をした東京女子医大循環器小児外科の今井康晴教授らは15日、手術後の経過について「容体は安定しており、3―4週間もすれば退院できそうだ」と発表した。

 女児は生まれつき心臓に障害があり、肺動脈に再生血管を移植された。再生血管の土台は高分子でできていて、6―8週間で体内で分解、吸収されるという。

 同大はほかに5人の患者から細胞を採取して培養しており、今後、手術を予定している。

 今井教授は「合成繊維などで作った人工血管は、血栓ができやすく、成長とともに再手術が必要になるなど問題がある。自分の細胞から作った再生血管なら拒絶反応はなく、成長に合わせて大きくなることも期待できる」と話した。

臓器再生市場48兆円狙い開発に熱

4:57p.m. JST April 16, 2000

 失われた臓器をもう一度元に戻せたら……。そんな夢が現実になる時代が、すぐそこだ。米国では、細胞を材料に組織や臓器の再生をめざすベンチャー企業が、関連産業も含めて世界で48兆円ともいわれるビジネスチャンスをねらって、技術開発を急ピッチで進める。皮膚はすでに実用化され、神経、血管、肝臓、心臓などに向けて研究が続いている。日本でも厚生省が指針を策定中で、本格的な取り組みが始まろうとしている。

 生きた「細胞商品」が毎日出荷される光景はすでに現実となっている。米マサチューセッツ州ボストン郊外のオルガノジェネシス社は、ピンク色の液体に浮かぶ人工皮膚を、全米に出荷している。

 原材料はユダヤ教の割礼儀式の手術で採取された男の子の皮膚。切手サイズの大きさの皮膚があれば、培養でシャーレ20万枚分にすることもできる。

 「ピンク色の液体は、細胞の食物。生きているので栄養が必要です」とナンシー・パレントー副社長。

 生きた細胞を材料にするこのような商品では、ウイルスなどに感染していないか、がん細胞は混ざっていないかなど、米食品医薬品局(FDA)は厳しい規制を設けている。

 米マサチューセッツ州ケンブリッジ市のリプロジェネシス社。二重ドアの向こうではガウン、帽子、マスクに身を固めて作業中だ。まるで半導体工場のクリーンルームだ。「培養中の細胞が汚染されないよう厳重な管理が必要」とダニエル・オムステド社長。

 同社は細胞から人工ぼうこうをつくる技術の独占権をもつ。体内吸収される高分子で袋をつくり、ぼうこうから取った細胞をはりつけ体内に戻す。数カ月後には高分子が消え、細胞は増えて本物のぼうこうができている。イヌを使った実験で成功し次は人をねらう。

 これまで、失った臓器を復活させる代表的な方法は他人からの臓器移植だった。しかし提供臓器の不足、拒絶反応など難問が残る。人から提供されたわずかな細胞から、臓器や組織に育てられれば、数量不足は解決できる。さらに患者自身の臓器を生き返らせることができたら、拒絶反応もなく、臓器移植にとってかわるのは間違いない。再生医学の究極の目標だ。

 組織を再生する試みは1980年代から盛んになった。培養皮膚による治療が報告され、高分子などでつくった「足場」に細胞を植えて望む形にする研究も進んだ。神経、気管、血管、消化管など次々と広がった。より複雑な構造の心臓や肝臓も研究されている。

 今年6月までにリプロジェネシス社は、骨の再生を促すたんぱく質の特許をもつ企業、髪の毛やすい臓の形成を進める別の企業と合併し、総合的臓器再生企業を目指す。

 昨年4月、米メリーランド州ボルティモアにあるオシリス社の研究者が、大人の骨髄中の特定の細胞を取り出し、培養して骨、軟骨、脂肪にできたという論文を米科学誌サイエンスに発表した。同社は、この細胞が商品だ。がんの治療後の血液の再生薬として臨床試験中で、将来は心臓の筋肉再生用にも期待される。

        ◇

 再生医学については、日本でも、研究レベルでさまざまな試みがある。たとえば、奈良県立医科大学の整形外科グループは骨髄の細胞を培養して骨の再生をめざす治療計画を倫理委員会に提出し、3月に承認を得た。また、東京女子医大の心臓血圧研究所などのグループも、患者の細胞から人工血管をつくる治療計画を進めている。

 しかし、米国に比べ、細胞を使った製品の商業化では遅れが目立つ。厚生省の外郭団体の援助を受けて、培養皮膚や培養軟骨の製品化をめざすベンチャー企業であるジャパン・ティッシュ・エンジニアリングが昨年2月に設立されるなど、ようやく本格的な動きが出てきたところだ。細胞や組織からうつる可能性のある感染症のチェックなど細胞利用にあたってのガイドラインについて、厚生省が策定を進めている。

体細胞クローン豚出産成功、「移植用臓器」へ期待も

6:58p.m. JST March 15, 2000

 体細胞クローン羊「ドリー」を英国のロスリン研究所とともに誕生させた同国のバイオ企業「PPLセラピューティクス」は14日、「体細胞クローン豚を出産させることに世界で初めて成功した」と発表した。同社は人に臓器を移植できるよう、遺伝子を操作したクローン豚の開発を目指しており、今回の成功で実現性が増したとしている。

 同社によると、クローン豚は米国で今月5日、5頭生まれた。同じ技術を使ったクローン動物は羊のほか、牛やマウスなどでも誕生している。豚は卵子などの体外操作が難しく、これまで実現していなかった。

 豚は臓器のサイズが人に近いことなどから、不足している移植用臓器の提供動物として有力視されてきた。しかし、人と異なる種の臓器を移植すると、急激な拒絶反応を避けられない。このため、免疫にかかわる遺伝子を操作し、人に移植しても強い拒絶反応を起こさない豚をつくる必要がある。

 同社は昨年、特定の遺伝子を操作した体細胞を使い、クローン羊を誕生させることに成功したことを明らかにしている。この技術を豚に応用すれば、拒絶反応を抑えるように遺伝子操作したクローン豚をつくれるという。ただ、異種の臓器を移植することで未知のウイルスに感染する危険性などの課題は残っている。

「万能細胞」研究を正式承認 科学技術会議生命倫理委

9:38p.m. JST March 13, 2000

 あらゆる組織や臓器に育つ可能性を秘め、「万能細胞」とも呼ばれる人の胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の研究について、首相の諮問機関である科学技術会議の生命倫理委員会(委員長=井村裕夫・京都大学前学長)は13日、体外受精でつくられる受精卵の一部に限り研究を認めるなどとした同委員会の「ヒト胚研究小委員会」の報告を了承した。これを受け、国は夏までに指針を作る予定で、人のES細胞研究が国内でも始まることになる。

 ES細胞は、体外で受精させた胚(受精卵)を胚盤胞という段階まで育て、内部細胞塊という部分を取り出し、特殊な条件で培養してつくる。すでにマウスのES細胞を使い、神経細胞や血液細胞などに分化させる研究が進んでいる。1998年11月、米国の研究者が人のES細胞をつくったと報告した。

 ただ、ES細胞をつくるには、受精卵を壊す必要があることなどから、生物学者や法学者らでつくる同小委員会で論議してきた。同小委は今月6日、「人のES細胞をつくる胚は体外受精で余り、捨てることが決まったものに限る」「研究機関と国の2重の審査を受ける」などの条件付きで研究を認める報告をまとめた。

 13日の倫理委では「一般の人のES細胞についての理解はまだ十分ではなく、結論を急ぐべきではない」との声もあったが、「研究の枠組みを早く決めるべきだ」という意見が通り、承認が決まった。同委の議事はこの日、初めて公開された。

万能細胞の研究、開始へ

2000年3月13日 19時26分
 

 科学技術会議(首相の諮問機関)の生命倫理委員会は13日、人の受精卵からつくられ、どんな臓器にも成長できる「万能細胞」研究を条件付きで容認するとしたヒト胚(はい)研究小委員会の報告書を了承。

 同委員会は政府に対し、研究を規制するガイドライン(指針)を早急に整備するよう要請。また万能細胞とは別に、人の受精卵を使う研究全般について、小委員会で検討を始めることを決めた。

万能細胞研究の容認を報告

2000年3月6日

 科学技術会議(首相の諮問機関)のヒト胚(はい)研究小委員会(岡田善雄委員長)は6日、どんな臓器にも成長できる能力を持つ「万能細胞」を人の受精卵からつくる研究を、研究機関と国の2重審査をクリアするなどの条件付きで容認する報告書をまとめた。

 上部組織の生命倫理委員会に近く提出するが、基本的に了承される見通しだ。

万能細胞を遺伝子操作、マウス誕生 米の日本人研究者ら

February 20, 2000

 遺伝子を操作したクローンマウスを、どんな臓器や組織の細胞にもなる能力を秘め、「万能細胞」と形容される胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から誕生させる。こんな研究に、米国ロックフェラー大学の若山照彦助教授、ハワイ大学の柳町隆造教授らが世界で初めて成功した。ES細胞は遺伝子を改変しやすく、広く研究に使われる。今回の研究は、人の遺伝病のモデル動物など、遺伝子改変動物の効率的な生産に道を開く一方、病気の原因を人の発生段階で取り除く「究極の遺伝子治療」も理論的に可能なことを示した。

 ES細胞は、受精卵(胚)を胚盤胞という段階に育て、子どもになる部分を培養してつくる。

 若山助教授らは、核を除いたマウスの卵子を準備。これにマウスのES細胞から取り出した核を入れ、メスに移植。46匹のクローンマウスができた。1匹は、ある遺伝子を組み入れていたES細胞から生まれた。研究は、米科学アカデミー紀要と米科学誌ネイチャー・ジェネティクスに掲載された。

 マウスのES細胞は、特定の遺伝子の機能を失わせたマウスをつくる研究などに使われる。どんな症状が出るかを調べるのだ。

 このマウスをつくるには、ほかのマウスの遺伝情報も持つ親をつくり、子どもを産ませる必要があった。若山助教授らは、ES細胞を使うと、遺伝子を操作した子どもを直接生み出せることを示した。薬の原料を母乳中に分泌する乳牛の生産などにも役立つ。

 重い遺伝病がある夫婦が体外受精し、その胚からつくったES細胞で異常遺伝子を正常なものと交換、核を卵子に移植し、母体に戻すのも可能になり得る。

<ES細胞>ヒト胚での研究を容認 科学技術会議小委

毎日新聞社 1月10日(月)3時01分

 どんな臓器や組織にもなる能力を持ち、再生・移植治療に新局面を開くものとして注目されている胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の研究について、科学技術会議(首相の諮問機関)のヒト胚研究小委員会(岡田善雄委員長)は9日までに、研究の指針となるガイドラインの骨格をまとめた。使用する胚を限定し、二重の審査を義務付ける一方で、研究そのものは認めた。今月末にも中間報告の形で公表するが、ES細胞をめぐってはヒトの胚を使うため、生命倫理の観点から研究そのものを否定する意見もあり、今後論議を呼びそうだ。

 研究について、ヒト胚小委は、医療上の有用性が高いことを理由に、研究は進めるべきだとした。その上で、生命倫理上の問題を伴うため、歯止め策を提示することにした。

 まず、研究で使用するヒト胚は、受精後14日以上のものの利用を禁止し、ヒト胚の提供は無償であることを条件にした。そのうえで、不妊治療で使われなかった胚に限定して使用できることにした。

 また、研究を始める場合、まず所属する研究機関に設置される審査委員会(IRB)のチェックを受け、次に、国にも研究計画を報告し、二重の審査を可能にした。研究結果も国への報告書提出を義務付けた。研究機関の審査委員会は生物学や医学、生命倫理に詳しい有識者で構成するとしている。

 さらに、ES細胞をつくり出した機関は、国が認めた機関以外にES細胞を分配することを禁じた。また、ガイドラインは、研究の実施状況や社会動向をみて随時見直すこととし、そのまま3年が経過した場合は必ず見直すことを定め た。

 この骨格はヒト胚小委の了承を経て今月末に中間報告としてまとめられた後、2月末に科学技術会議に報告される予定だ。

【「いのちの時代に」取材版】

【ことば】ES細胞

Embryonic Stem Cellsの略語。受精卵が分化を始める前の段階の胚(胚盤胞)の内部細胞塊から取り出した細胞のことで、後に体のさまざまな部位になる。

 1981年に初めてマウスから取り出すことに成功(樹立)したが、98年11月、米・ウィスコンシン大のトムソン博士が科学誌「サイエンス」に、不妊治療の不使用胚からヒトのES細胞を樹立した、と発表した。ES細胞にさまざまな条件を与えて培養することで、特定の細胞や臓器までつくり出すことができるため、再生医学の柱になると期待されている。

ヒト組織バンクの設置にらみ製薬7社が倫理委設置

03:21a.m. JST January 10, 2000

 肝細胞や消化管などのヒト組織を使った研究に本格的に取り組もうと、国内の製薬会社が独自に倫理委員会を設置し始めた。厚生省の依頼を受けてヒューマンサイエンス振興財団(HS財団)が準備しているヒト組織バンク設立に備えたもので、すでに武田薬品工業や塩野義製薬など7社が設置した。ヒト組織は売買の対象になる恐れがあるなど多くの問題を含み、国がまとめた指針も研究機関に適正な態勢を求めていた。近い将来、個人の遺伝子タイプに応じた新薬開発が主流になると見られ、遺伝子分析用のヒト組織が多数必要になってくる状況を踏まえた。

 HS財団は年内にも、病院から手術で患者の病巣と共に摘出する必要があった臓器や組織の一部の提供を受け、研究機関に公平に分配するバンクをつくる。また、国立医薬品食品衛生研究所(東京都)を中心に20余りの製薬会社の協力を得て、製薬会社の自主ルールづくりの研究事業も始めた。今回の倫理委設置はその一環だ。

 研究事業の責任者でもある同研究所安全性生物試験研究センターの大野泰雄薬理部長によると、中外製薬、吉富製薬、ファイザー製薬、第一製薬、三共も昨秋までに倫理委を設置した。当面は海外から入手した肝細胞を使い、手続きの問題点を報告してもらい、それに基づいて倫理委のモデルをつくる。これと並行して、業界で倫理委設置の動きはさらに広がる見通しだ。

 製薬会社の倫理委は、同研究所の倫理委規定を参考にしているという。ある会社では、社員のボランティアで、新薬の人体への影響を調べるために血液や尿を提供してもらう場合や、バンクなど第3者機関から提供を受ける場合、国内の病院などから供給を受ける場合の3つを想定。提供者のプライバシー保護やインフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)の適正さを確かめる。

人の万能細胞研究、容認へ

1999年11月30日 17時35分 共同通信社

 首相の諮問機関である科学技術会議の「ヒト胚(はい)研究小委員会」が30日、科学技術庁で開かれ、どんな細胞にも分化できる「胚性幹細胞」を人の受精卵からつくる研究を、厳しい条件下に容認してよい―とする意見が大勢を占めた。

 審査制度など、具体的な条件については今後検討を進める。

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