TOPIC No.5-54 着床前診断


01. 生殖医療 YAHOO! NEWS
02. 着床前診断 -生命の選択- 2004/03/02(火)放送
03. 着床前診断ネットワーク
04. 出生前診断・着床前診断のこといろいろ
05. 出生前診断/着床前診断に関する基礎資料
06. 「着床前診断プログラム」とは

学会承認経て初の妊娠 習慣流産で受精卵診断2組

2007年08月12日 中国新聞ニュース

 流産を繰り返す「習慣流産」の患者に受精卵診断(着床前診断)を実施した北九州市のセントマザー産婦人科医院で、2組の夫婦が妊娠、年内に出産予定であることが12日、分かった。30日に仙台市で始まる日本受精着床学会で発表される。

 受精卵診断は体外受精卵を検査し、異常のないものだけを母体に戻す。日本産科婦人科学会は重度の筋ジストロフィーを防ぐ目的に限り認めてきたが、昨年4月に一部の習慣流産にも拡大を決定。その後、同医院などの申請を承認した。承認後の妊娠は初めてとみられ、11月から12月に出産予定という。

 同医院によると、妊娠したのは東京都の30歳の女性(夫29歳)と、福岡県の32歳の女性(夫30歳)。ともに夫婦のどちらかに染色体の異常があり、これまで各3回の流産を経験していた。胎児の染色体は正常で発育も順調という。

着床前診断「習慣流産」も対象に 産婦人科学会が承認

2006/04/22 The Sankei Shimbun

 日本産科婦人科学会(理事長・武谷雄二東京大教授)は22日、横浜市で総会を開き、染色体異常のために流産を繰り返す習慣流産の治療法として、受精卵の段階で染色体や遺伝子を調べる着床前診断を実施する方針を承認した。

 学会は筋ジストロフィーなど重い遺伝性疾患については着床前診断を既に認めている。今回、着床前診断対象として明確にしたのは、染色体の一部が入れ替わっている染色体転座が夫か妻にあり、流産を繰り返している夫婦。染色体転座を、重い遺伝性疾患と解釈した。

 一般的には200組に1組が流産を3回以上繰り返す習慣流産になり、その4.5%に染色体転座の異常があるとされる。夫か妻のどちらかに染色体転座がある場合、流産する率は68%とする報告もある。

 子供が欲しい夫婦にとっては、高い確率で流産を繰り返すことは、精神的にも肉体的にも大きな苦痛だった。既に染色体転座に関する着床前診断をしたいとの申請が4件あり、今年2月の理事会で、着床前診断の対象とする方針を決めていた。

 学会の吉村泰典・倫理委員長(慶応大教授)は「子供を得るために着床前診断を行うことは万能な治療ではないが、流産は回避できる。患者のためにも治療の選択肢の1つとしてあっていいのではないか」と話した。

習慣流産にも受精卵診断 重度筋ジストロフィーに次ぎ容認

2006/02/18 The Sankei Shimbun

 日本産科婦人科学会(理事長・武谷雄二東京大教授)は18日の理事会で、重度の筋ジストロフィーを防ぐ目的に限って認めてきた受精卵診断(着床前診断)を、習慣流産の一部でも容認することを決めた。

 4月に横浜市で開く総会に諮り正式決定。実施申請に対しては小委員会で個別に審査する。

 体外受精卵の異常の有無を調べ、異常がなければ子宮に戻して流産を回避する狙い。学会は1998年に重い遺伝病に限って受精卵診断を承認しており、染色体の構造異常が原因の習慣流産も出生に至らない重い遺伝病と判断した。

 これまでに学会が認めた受精卵診断は、慶応大と名古屋市立大の重い筋ジストロフィーの計6件。「命の選別につながる」との批判が根強くある一方で、大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎院長は学会に申請せずに約70人に実施し10人以上が出産するなど、評価は分かれている。

 習慣流産は染色体の数の異常や自己免疫疾患などさまざまな原因で起き、2回繰り返すのは50組に1組、3回は200組に1組とされる。新たに対象になるのは、夫婦のどちらかに染色体の一部が入れ替わる「転座」という構造異常がある患者で、習慣流産全体の約4.5%という。

 学会によると、受精卵診断をしてもしなくても子供が生まれる確率は約68%だが、流産を繰り返す身体的、精神的苦痛を回避する手段の一つとして認めることにした。

 学会は、昨年申請している名古屋市立大とセントマザー産婦人科医院(北九州市)について、患者へのカウンセリングが十分されているかなどを審査する予定。

 学会の作業部会は昨年12月、習慣流産を対象に認める見解をまとめた。その後、一般からの意見を募集したところ、賛成が62件、反対が16件あったという。(共同)

 <受精卵診断(着床前診断)> 体外受精した受精卵が4―8個に分裂した段階で1―2個の細胞を取り出し、染色体や遺伝子を検査、異常がない受精卵を子宮に戻して出産につなげる狙い。遺伝病の回避や男女産み分けに利用でき、海外では1990年代から臨床応用が広がった。日本産科婦人科学会は98年、重い遺伝病に限り実施を認め、これまでに重い筋ジストロフィーで慶応大の5件と名古屋市立大の1件を承認している。(共同)

受精卵診断の容認求める 神戸の医師、患者が会見

2006年01月29日 YAHOO! NEWs(共同通信)

 染色体異常のため流産を繰り返す習慣流産を予防するとして、日本産科婦人科学会が認めていない受精卵診断(着床前診断)を実施している大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎医師が29日、大阪市で記者会見し「なぜ学会が止めるのか理解できない」と同診断を広く認めるよう訴えた。

 大谷医師は、昨年治療した夫婦が国内のほかの2つの病院でも受精卵診断を受けたと話したことを明らかにし「公表しないだけでほかでもやっている。学会は硬直的な見解で縛るべきではない」と話した。

 会見には、4回流産した後、受精卵診断を経て昨年子供が生まれた関西の30代夫婦も出席。妻が「流産を繰り返すつらさが分かる医師が増えてほしい」と話した。

 大谷産婦人科では既に流産予防目的で受精卵診断を受けた25人が妊娠し、11人が出産。12人が出産を控えているという。

受精卵診断で妊娠25組 神戸・大谷医師が公表

2006年01月29日 Gooニュース(asahi.com)

 習慣流産を予防する目的で受精卵診断を実施している大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎院長は29日、04年9月から現在までに計25組が妊娠し、11組が15人を出産、12組が妊娠中であると公表した。2組は流産した。

 日本産科婦人科学会は、両親のいずれかに「均衡型転座」という染色体異常があって起きる習慣流産に受精卵診断を認めるかどうかについて、国民や会員の意見を1月末まで公募中だ。

 大谷院長によると、出産した3組と妊娠中の5組は、親に異常がないのに子どもの染色体数が変化する「数的異常」が原因で流産した夫婦。たとえ学会が診断の対象を拡大しても、認められない例に当たる。

受精卵診断訴訟で和解勧告 東京地裁

2005年12月15日 YAHOO!NEWS (共同通信)

 遺伝病や習慣流産などの原因となる染色体異常を調べる受精卵診断(着床前診断)を希望する夫婦と神戸市の産婦人科医らが、診断を制限する日本産科婦人科学会の会告の無効確認などを求めた訴訟で、東京地裁(富田善範裁判長)は15日、和解を勧告した。

 具体的な内容は示されていないが、和解するかどうかも含めて来月17日に再度、双方が話し合う予定。

 学会側は、重篤な遺伝病に限定している着床前診断の対象について、一部の習慣流産を認めることも視野に入れて会告の変更を検討している。

 一方で、原告の1人で大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎院長は、男女産み分けを目的に無断で受精卵診断を行ったとして学会を除名された後も、習慣流産の患者らに診断を実施、11月までに13人が出産している。

男女産み分け、子どもの健康など調査…米医師チーム

2005年10月27日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 男女産み分けで生まれた子どもの健康や社会的な影響を調べる本格的な臨床試験が、先月、米国内で始まったことがわかった。27日付の英科学誌ネイチャーで報じられた。

 臨床試験をスタートさせたのは、米ベイラー医科大のサンドラ・カーソン医師らの研究チーム。体外で受精させた受精卵が4〜8個に分裂した段階で、うち1個の細胞を取り出し、染色体を調べる「着床前診断」と呼ばれる手法を用い、夫婦が希望する性別の受精卵を子宮に戻すという手順で行われる。

 産み分けを希望しているカップルは少なくとも50組登録されているが、臨床試験にはそのうち、すでに子どもをもうけているが、もう一方の性の子どもを希望しているカップルが参加するという。研究チームは、生まれた子どもの健康状態や、社会環境から受ける影響の有無などを調べる。

「習慣流産」で受精卵診断を申請 名古屋市大など

2005年10月22日 asahi.com

 染色体の異常が原因で流産を繰り返す「習慣流産」への受精卵診断の実施について、名古屋市立大産婦人科とセントマザー産婦人科医院(北九州市)が、日本産科婦人科学会にそれぞれ申請していたことが22日までにわかった。同学会は受精卵診断の対象を「重篤な遺伝性の疾患」に限定し、過去、習慣流産への実施を認めてこなかった。

 申請したのは、名市大が1組、セントマザーが2組の夫婦について。いずれも夫か妻かどちらかの染色体に、習慣流産につながる「均衡型相互転座」という異常があるため、流産する可能性の低い受精卵をあらかじめ診断で選び出して、子宮に戻すのが目的だ。セントマザーは99年と00年に続き、3回目の申請となる。

 同学会は現在、作業部会を設けて受精卵診断の対象とすべき病気について改めて検討しており、習慣流産についても見直しを進めている。12月の理事会までに報告がまとまる予定で、その結果を受けて、今回の申請について審議を始める。結論は来年4月までに出される見通しだ。

読者の反響(下)遺伝病受診 賛否尊重して

2005年08月24日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 自ら難病のレックリングハウゼン病を患い、長女にも遺伝した30歳代のB子さんが、第2子への着床前診断を望んでいることを紹介したところ、同じ病気を持つ50歳代の高校非常勤講師の女性から次のような手紙をいただいた。

 私には2人の子がいて、長男も私と同じレックリングハウゼン病です。この病気で就職や結婚で大きなハンデになることもあるし、学齢期にはいじめを受けることもあります。

 B子さんの苦しくつらい思いは人ごとではありませんが、少し立ち止まって考えてほしい。病気を子供に遺伝させたくない気持ちはわかります。私も出産の時に悩みましたが、命の選別はしたくなかった。

 着床前診断は命の選別に違いありません。病気を抱えて生きる人に「あなたはかわいそう。生まれてこなければよかった」と言っているのと同じです。

 B子さんも、つらいことばかりではなかったはずです。この病気の子は生まれない方がよいと考えるのは、ご自分も生まれなければよかったということになるのではないでしょうか。

               ◇

 B子さんは「長女は病気を持って生まれてきたけれど、私たち夫婦にはかけがえのない、この世で一番いとおしい存在です。次の子の着床前診断を希望することが、長女の存在の否定になると思ったことは一度もありません」と話している。そこで、小紙は教員の女性に返事を書いた。

 記者はB子さん一家に会いましたが、ご夫婦は長女に深い愛情を注いでいる様子でした。「着床前診断は、病気の人に『生まれてこない方がよかった』と言うのと同じ」との指摘は、B子さんには当てはまりません。病気の子供に愛情を注ぐことと、「次の子に同じ病気にかかってほしくない」と願う気持ちは、矛盾しないと思います。

 着床前診断を強制することはできないのと同様、高い確率で遺伝病の子が生まれることがわかっている場合、そうした出産を強要することもできません。着床前診断を希望する人も希望しない人も、互いの立場が尊重されることが大切ではないでしょうか。

 教員の女性から返信が届いた。

 B子さんを非難するような内容になって申し訳なく思います。ただ、同じ病気の方の考えということで、ショックだったのです。

 私が第2子を産むことにしたのは、健康でも遺伝病を抱えることになっても、きょうだいで助け合ってほしいと思ったからです。大切なのは、どう生まれたかではなく、どう生きるかだと思います。(田中秀一)

 (次は「健康へのデザイン・ヨガ」です)

 <レックリングハウゼン病> 茶色のしみや、しこりが全身の皮膚にできる。根本的治療法はなく、厚生労働省の特定疾患(難病)。受精卵の段階で病気の有無を調べる着床前診断が可能だが、日本産科婦人科学会の指針では実施の対象にならない。

読者の反響(上) 流産のつらさ理解して

2005年08月23日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 受精卵の段階で病気の有無などを調べる「着床前診断」の連載(7月12日〜16日)には、多数の反響が寄せられた。

 埼玉県の女性(31)は、2度の流産の後、昨年3度目の妊娠をした。

 医師から「流産しやすい体質」と言われ、「予防のため」と出された薬の内服を続けた。だが、流産の不安は消えず、毎日のように産婦人科に通った。

 医師は「そんなに来ても仕方ない」「流産するかしないかは受精卵の時に決まっている」と冷ややかだった。それでも赤ちゃんの心拍を確かめてもらわずにはいられなかった。切迫早産の危機を乗り越え、無事に長女を出産した。

 この女性は「流産は本当につらい。学会の医師たちは、もっと女性の声を聞き、不妊や流産で苦しむ人のために着床前診断を認めてほしい」と訴える。

 このほかにも流産を繰り返した女性たちから、同様の意見が相次いだ。

 染色体異常が原因で流産を繰り返す習慣流産の患者に、神戸市の大谷徹郎・大谷産婦人科院長が着床前診断を実施し、これまでに5人が出産した。日本産科婦人科学会は、従来は認めていなかった習慣流産への着床前診断を容認するかどうか検討を始めたが、こうした女性たちの声を重く受け止める必要がある。

 一方、遺伝病の着床前診断には賛否が分かれた。

 全身にしみ、しこりができる遺伝性難病レックリングハウゼン病の女性(25)は子供のころ、病気のために学校でつらい思いをしたという。だが、病気のことを告げても「気にしない」という男性と巡りあった。

 「好きな人の子を産みたい気持ちと、子供には遺伝させたくないという思いの板挟みになっている。この病気にも着床前診断の実施が認められることを望む」とつづる。

 一昨年、37歳で女児を出産した女性の場合、女児に重い先天障害があり、「1歳までに90%以上の確率で亡くなる」と告げられた。その子は1歳になった数日後、息を引き取った。

 この女性は「とてもかわいい子だったが、娘にとっては苦しく短い人生だった。障害を持って生まれた子には医療保障などを手厚くすべきだが、生まれる前に病気を診断する検査を認めてほしい」という。

 一方、2児を持つ女性(25)は「受精卵の時からが『命』だと思うので、着床前診断で障害の有無を調べて選別することには共感できない。『わが子に障害を負わせたくない』という親の気持ちは理解できるが、どんな子供が生まれたとしても受け止める覚悟が必要だと思う」としている。

 着床前診断 体外受精でできた受精卵が4〜8個に分裂した時点で、1、2個の細胞を取り出して染色体や遺伝子を検査、異常がないと判断した受精卵を子宮に入れる。日本産科婦人科学会は、成人前に命にかかわるなど重い遺伝病に限り、個別審査して実施を認めている。

[着床前診断](5)「倫理」の議論深めたい 

2005年07月16日 読売新聞 Yomiuri On-Line

「妊娠中、子供の遺伝病発症の不安を40週間抱える心理的負担の大きさは本人でないと分からない」「中絶は様々な理由で行われているのに、着床前診断を重い遺伝病にしか認めないのはおかしい」

 受精卵の段階で病気の有無を調べる着床前診断について、日本大学板橋病院の看護師約800人に行われたアンケート調査に、こんな意見が寄せられた。神戸市の大谷徹郎・大谷産婦人科院長が着床前診断を実施していたことが昨年2月に明らかになり、生命倫理について調査を続ける日本大学板橋病院透析室長の岡田一義さんらが実施した。

 日本産科婦人科学会の指針では、着床前診断の対象は、成人前に生命にかかわるなど重い遺伝病に限られる。だが、この調査では、致死的でない遺伝病の場合でも、「着床前診断を行い、病気がない場合に産みたい」との回答が54%にのぼった。学会の方針を支持したのは30%にとどまった。

 岡田さんは「どれが重い遺伝病か、人によって考え方が違う」と話す。致死的な病気か否かを問わず、遺伝病を抱えて出産をためらう患者も少なくない。

 海外では、着床前診断は米、英、仏、豪など多くの国で実施され、既に1000人以上が生まれたとされる。「重い遺伝病」を対象とする場合が多いが、疾患の内容は様々で、染色体異常によって流産を繰り返す習慣流産に認めている国も少なくない。

 大谷院長が習慣流産の患者に着床前診断を実施、先月までに5人が出産したことなどから、日本産科婦人科学会は、習慣流産にも認めるかどうか検討することになった。致死的な病気などに限った「重い遺伝病」の定義も再検討する。

 大谷院長のもとには、多くの患者から「結婚して5年間に、流産でいくつもの命が私たちの元を去っていったと思うと、胸が張り裂けそうです」といった訴えが寄せられている。そうした声に耳を傾け、新たなルールを作る必要がある。

 欧米では、着床前診断はさらに広い形で使われ始めた。ベルギーで今年、重い血液疾患の子供に骨髄を移植する目的で、母親2人が着床前診断を行い、次の子を出産した。上の子に適合する組織型を持つ受精卵を選んで子宮に戻した。

 日本では「新生児を治療の道具とすることにつながり、倫理上の疑問も指摘される」などと報道された。それでは、着床前診断を認めず、移植でしか助からない子供を放置する方が「倫理的」だろうか。病に苦しむ人々にとって何が倫理的なのか、議論を深めることが望まれる。 (田中秀一、石塚人生)

<海外の着床前診断>

 1990年に英国で初めて報告され、欧米のほかインド、中国、アルゼンチンなどにも広がった。英、仏、豪ビクトリア州では国や公的機関の認可を受けた施設で実施されている。米国では規制はない。ドイツ、スイスなどは実質的に禁止している。

[着床前診断](4)欠かせぬカウンセリング

2005年07月15日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 子供に病気が遺伝しているのではないか。昨年1月、妻(34)が長男を妊娠していることが分かり、東海地方のAさん(36)は気が気ではなかった。

 長女(7)は、全身の筋力が徐々に落ちる難病、福山型筋ジストロフィーを患う。歩けず、つきっきりの介助が必要だが、この上なくいとしい。

 夫婦はともに、筋ジストロフィーの原因遺伝子を持つ。夫婦は健康でも、子供は25%の確率で発病する。

 妻は3年前、2人目を妊娠した。だが、同じ病気の子を2人育てられるか悩んだ。胎盤の細胞を取り、遺伝子を調べる「出生前診断(胎児診断)」を受けた。この病気が遺伝しているとわかり、中絶を決断した。

 「自分たちの都合で、生まれるはずの子をあきらめるのか……」。中絶の処置の前日、涙に暮れた。

 それでも、「もう一人、欲しい」との思いは揺るがなかった。「3人目」となる長男を妊娠、「もう自分たちの子を死なせたくない」と、祈るような気持ちで出生前診断を受けた。結果は、異常なし。昨年8月、健康な長男が生まれた。

 長男の妊娠を支えたのは、東京女子医大教授の斎藤加代子さん(現・同大遺伝子医療センター所長)に遺伝カウンセリングを受けたことだ。遺伝の仕組みや子供の将来、出生前診断の意味などについて詳しい説明を受けた。

 「障害のある子を産んでも中絶しても、悩まない人はいない。カウンセリングを通して、次の子を持とうと前向きになれた」とAさんは言う。

 Aさん夫妻が受けた遺伝子診断は大学病院などでしか行われていないが、染色体を調べる一般的な出生前診断は、希望すれば誰でも受けることができる。血液を調べる血清マーカー検査の受診者は年に約1万5000人。その1割ほどが、さらに詳しい羊水検査などを受ける。異常があれば、ほとんどの人が中絶しているとみられる。ただし、保険はきかず、心身の負担は大きい。

 「障害を持つ子が生まれると、次の子をあきらめる場合が多い。出生前診断はそうした夫婦の選択肢になるが、出産を断念せざるを得ない場合もある。心のケアと、患者の決断を支援する取り組みが重要だ」と斎藤さんは言う。

 一方、受精卵の段階で病気の有無を判定し、中絶を避けることができる着床前診断は、日本産科婦人科学会が厳しく規制し、「出生前診断が自由に受けられるのと比べ、バランスを欠く」との指摘もある。学会は規制の再検討を始めるが、斎藤さんは「着床前診断も生命への介入につながる点を踏まえた議論と、遺伝カウンセリングが欠かせない」と指摘する。

 出生前診断 血清マーカー検査は母親の血液に出るホルモンの値から、染色体異常の確率を判定する。羊水検査は、針を妊婦の腹部に刺し、羊水を取って行う。

 遺伝カウンセリング 日本遺伝カウンセリング学会のホームページ(http://www.jsgc.jp/)に臨床遺伝専門医約560人が掲載されている。

[着床前診断](3)中絶回避へ最後の手段

2005年07月14日 読売新聞 Yomiuri On-Line

20歳代のA子さんの妊娠は順調だった。ところが、出産が近づくと、おなかが張って緊急入院。

 羊水が過剰にたまり、針で抜いては再びたまる繰り返しだった。

 切迫早産を防ぐ薬で強い副作用が出たため、血液検査したところ、A子さんは「筋強直性ジストロフィー」であることがわかった。

 医師は「進行は遅いし、赤ちゃんも心配ない」と説明した。しかし、夫が調べると、5割の確率で子供に遺伝することがわかった。

 入院中に破水し、出産した。産声が聞こえない。死産だった。まだ温かい赤ちゃんを抱き、何度も「ごめんね」と繰り返した。

 検査の結果、赤ちゃんにこの病気が遺伝しており、死産になったとみられた。

 子供は欲しいが、次も同じことを繰り返したくない。妊娠後、羊水を調べる出生前診断(胎児診断)を行い、異常がわかれば妊娠中絶する方法もある。だが、中絶はしたくなかった。

 残された方法が、着床前診断だった。受精卵の段階で検査するので、中絶を回避できる。名古屋市立大で相談し、同大が日本産科婦人科学会に申請した。

 重い遺伝病に限って着床前診断を認めている同学会は、過去にこの病気への実施を認めた例がなかった。夫婦は学会に「認めないなら、海外の医療機関を受診するか、無申請で実施した大谷徹郎院長(神戸市)を頼ります」と訴えた。

 学会は先月、「成人前に日常生活を著しく損なうか生命にかかわる重い病気」と判断し、承認した。

 一方、命にかかわらない難病でも、着床前診断を求める患者がいる。

 30歳代のB子さんは一昨年、勤務先の健康診断で「レックリングハウゼン病」と言われた。数年前から、茶色いしみ、しこりの症状が全身に現れ始めていたが、仕事に支障はなく、病気と気づかなかった。

 B子さんが子供の時から病気のことを知っていた両親は、就職や結婚の際に不利になると考え、伝えていなかったのだ。

 この時、B子さんは長女を妊娠中だった。生まれた長女にも、病気が遺伝したことがわかった。娘に遺伝させたことを激しく後悔し、「なぜ教えてくれなかったのか」と両親を責めた。

 B子さん自身の症状も進行し、腹部や背中のしこりが大きくなり、最近、切除手術を2度受けた。

 次の子に遺伝させないため、着床前診断を望んでいるが、学会は致死的でない病気には認めていない。

 B子さんは「自分と同じ病気になってほしくないと願うことが、なぜ許されないのか」と不信を隠さない。A子さんの夫も「重い遺伝病かどうか、学会など第三者が決めるのは納得できない」と話している。

 筋強直性ジストロフィー 握った手を開きにくいなど筋肉の収縮や筋力の低下、白内障などが現れる。10万人あたり5人程度に発症する。先天性の場合は重症化しやすい。

 <レックリングハウゼン病> 「カフェオレ斑」と呼ばれる茶色のしみや、良性のしこりが全身にできる。約3000人に1人の割合で起きる。厚生労働省の特定疾患(難病)。

[着床前診断] 力強い胎動…喜びと達成感

2005年07月13日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 流産を4回繰り返し、「子供はもう、あきらめるしかないのか」と思い始めたころだった。

 中部地方の20歳代後半の女性は昨年2月、神戸市・大谷産婦人科の大谷徹郎院長が着床前診断を実施したニュースを耳にした。

 電子メールで流産の経過を大谷院長に書き送ると、すぐに返信が届いた。

 「何回も流産することは本当につらいですね」

 今まで何人かの産婦人科医に治療を受けたが、こうした言葉を聞くのは初めてだった。「自分たちの気持ちを受け止めてくれる」。そう思うだけで、心の重荷が軽くなった。

 大谷院長は、日本産科婦人科学会の指針に反し、無申請で着床前診断を実施したため、学会やマスコミから強い批判を受けていた。「早く行かないと、消えていなくなってしまう」。夫婦で院長を訪ねた。

 検査結果を見た大谷院長は、「着床前診断の対象になります」と告げた。

 受精卵を調べる着床前診断には、排卵誘発剤を使って卵子を採取する必要がある。薬剤の副作用などの危険性について説明を受け、「簡単な治療ではない」と感じた。それでも「チャンスをつかみ取りたい」思いが勝り、診断を受けることに決めた。

 昨年秋、17個の受精卵のうち、4個が妊娠継続可能と判定された。うち2個を子宮に戻し、妊娠した。

 だが、安心はできなかった。「もしまた流産したら、後でつらくなる」と思い、おなかをなでるのを我慢した。それでも、定期検査のたびに胎児が大きくなるのがわかった。心拍もはっきり聞こえる。今までの子供たちと違い、力強く成長しているのが実感できた。

 同時期に習慣流産の患者十数組が大谷院長に着床前診断を受けた。妊娠に至らなかった女性からも、「あなたの子は私たちの希望の星」と励まされた。

 胎動を感じ、初めて妊娠のスタート地点に立てたように思った。「ここまで来られただけでも、ありがとう」。赤ちゃんに語りかけた。

 ほぼ予定日通りに迎えた出産。大きな産声が聞こえた。元気な女の子だった。立ち会った夫の目から涙があふれた。自らの染色体の問題で妻が流産を繰り返した夫は、感謝の気持ちでいっぱいだった。

 「よく頑張ったな」。夫に声をかけられ、妻は出産した喜びと達成感で心が満たされた。

 今月2日、大谷院長とともに会見した夫婦は、同じ悩みを持つ患者に「私たちも絶望感にさいなまれた。つらくてもあきらめないで」と訴えた。

 着床前診断に関する日本産科婦人科学会の指針(会告) 重い遺伝病に限って個別審査のうえ承認するとしており、これまでに認められたのは、いずれも筋ジストロフィーの3件。習慣流産については過去に福岡県の医師からの申請を却下している。

[着床前診断](1)「習慣流産」…絶望の日々

2005年07月12日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 「赤ちゃんを抱く日が来るとは思わなかった」

 この夏、着床前診断によって女児を出産した中部地方の20歳代後半の夫婦は、流産を繰り返した長い道のりを振り返った。

 最初の妊娠は結婚の数か月後。2か月目で流産した。

 翌年、2度目の流産をした際、妻は診察台に両手足を縛られ、流産後の処置を受けた。おなかの子を失ったショックに加え、「おなかがねじ切れるほどの痛み」に、何か月も恐怖感が抜けなかった。

 立て続けの流産を不審に思いながらも、「偶然が重なっただけ」と自らに言い聞かせた。だが、3度目の妊娠も、胎児の心拍が確認できないうちに流産に終わった。

 流産を3回以上繰り返した場合を「習慣流産」といい、医師は「検査します」と告げた。「やっと原因がわかる」と、むしろほっとした。「乳腺を刺激するホルモンが過剰」と言われ、薬で抑えることになった。

 「染色体異常の場合もあるが、可能性は低いし、治療法もない」。医師のこの言葉が気になり、夫婦で血液検査を受けたところ、夫が染色体の一部が入れ替わる「相互転座」とわかった。これが習慣流産の真の原因だった。

 医師は「妊娠の可能性は低いがゼロではない。僕としてもできることがなく、祈る気持ちで妊娠してもらうしかない」と言った。

 4回目の妊娠。画像で見た胎児の心拍が「次は止まっているかもしれない」と検査のたびに不安だった。

 「心音が少しゆっくりかな」。医師の何気ない一言に落ち込んだ。「できることはなんでもしよう」と、2日おきにホルモンを抑える注射を打ちに通った。

 妊娠10週のある日、温かかったおなかが急に冷たくなる気がした。「赤ちゃんの心臓が止まった」と直感した。次の検査で流産が確認された。

 電話で夫に知らせた。すすり泣きが聞こえた。

 「できることはみなやった。もう方法はないんだ」。絶望が広がった。

 「自分が原因で、何度も妻につらい思いをさせられない」。そう考えた夫は「二人で暮らそう。犬を飼おうか」と言った。

 妻は子供をあきらめることはできなかった。だが、互いを傷つけると思い、それを口に出せなかった。

 二人で心から笑うことがなくなった。「日常のすべてが止まった」と妻は思った。

 日本産科婦人科学会が規制している着床前診断が、国内で習慣流産などの患者に行われ、5人が出産した。患者の実情や今後の課題を報告する。

 <着床前診断> 体外受精でできた受精卵が4〜8個に分裂した時点で、そのうち1、2個の細胞を取り出して染色体や遺伝子を検査、異常がないと判断した受精卵だけを子宮に入れる。海外では1990年以降、4000件以上行われ、1000人以上が生まれたとされる。

着床前診断、新たに2人出産

2005年07月03日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 受精卵の段階で病気の有無などを調べる着床前診断により、染色体異常のため流産を繰り返す習慣流産の患者2組が新たに出産したことを、診断を実施した大谷徹郎・大谷産婦人科院長(神戸市)が2日、明らかにした。

 これで流産予防を目的にした着床前診断による出産は5組となった。子供をもうけた2組は、中部地方と関西地方に住む夫婦で、いずれも20歳代後半。

着床前診断、習慣流産でも検討…産婦人科学会

2005年06月18日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 受精卵の段階で病気の有無を判定する着床前診断を規制している日本産科婦人科学会(武谷雄二理事長)が、染色体の変異などにより流産を繰り返す習慣流産の予防のために診断を認めるかどうか検討を始めることがわかった。

 現状では、会告(指針)によって、重い遺伝病に限り個別審査の上で実施を認められており、習慣流産予防を目的とした実施は許されていない。

 学会が検討を決めたのは、会告が作られてから6年以上が経過し、着床前診断に対する各国の対応も変化しているため。

 検討に先立ち、習慣流産患者の実態調査を行うほか、着床前診断を行う方が出産率が高まるのか、具体的効果についても検証する。

 学会の審査を経ずに着床前診断を実施し、会を除名された神戸市の大谷徹郎医師は、規制に反発。習慣流産患者27組に診断を行い、11組が妊娠、3組が出産に至ったことを公表し、波紋を広げている。

着床前診断で3人が出産、流産予防目的で初

2005年06月16日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 受精卵の段階で病気の有無などを調べる着床前診断により、3人の女性が妊娠、出産したことが16日、明らかになった。

 いずれも染色体異常のため流産を繰り返す習慣流産の患者で、神戸市の大谷徹郎・大谷産婦人科院長が診断を実施した。流産の予防を目的に着床前診断が行われ、出産に至ったのは国内で初めて。日本産科婦人科学会は、流産予防を目的とした着床前診断を認めていないが、早急に対応を迫られそうだ。

 大谷院長は先月、流産予防のため同様の方法で11人が妊娠し、年内に出産予定であることを明らかにしている。今回出産したのはそのうちの3人で、夫婦はいずれも30歳代。染色体の一部が入れ替わる「相互転座」と呼ばれる異常が夫婦いずれかにあり、これまでに3〜4回の流産を繰り返してきた。相互転座があっても健康には問題ないが、妊娠の継続は難しい。

 着床前診断では、妻に排卵誘発剤を投与して複数の卵子を採取し、夫の精子とで体外受精を行い、受精卵の染色体検査をしたうえ、妊娠可能と判断された受精卵を子宮に戻した。受精卵のうち妊娠継続可能と判定されたのは、それぞれの夫婦について10個中3個、8個中1個、23個中2個で、自然妊娠や通常の体外受精では出産の確率が低いケースだった。生まれた子供のうち1組は双子、他の2組は1人ずつだった。

 着床前診断について、日本産科婦人科学会は「生命の選別につながる可能性がある」として、重い遺伝病に限り個別に審査して承認すると指針(会告)で定めている。これまでに認めたのは、慶応大から申請されたデュシェンヌ型筋ジストロフィーの1件にとどまる。習慣流産の場合、過去に別の産婦人科医からの申請を却下し、事実上禁止している。

 大谷院長は、学会に無申請で着床前診断を行ったことから、昨年4月に除名処分を受けた。その後、27組の夫婦に診断を実施、11人が妊娠していた。大谷院長は「流産は女性の心を傷つけるばかりでなく、何度も繰り返すと子宮が傷つき、妊娠しにくくなる恐れもある。今回こうした事態を避け、元気な赤ちゃんが生まれた。学会は指針を見直すべきだ」と話している。

 着床前診断 受精卵が4個か8個の細胞に分裂した時に一部の細胞を取り出して染色体や遺伝子を調べる。異常がないと判断した受精卵だけを子宮に入れる。1990年以降、欧米では4000件以上行われ、1000人以上の子供が生まれたとされる。

 [解説]利用と規制ルール整備を

 着床前診断によって3人が出産したことで、この診断を求める患者の要望が高まることが予想される。

 妊娠後、胎児の羊水検査などをする「出生前診断」は広く行われ、異常が見つかると人工妊娠中絶される場合が少なくない。これに比べ、妊娠に先立って受精卵を検査する着床前診断には、中絶を回避できる利点がある。

 いずれも「生命の選別につながる」という批判があるが、今回のように流産予防を目的に、産めない女性が産むために着床前診断を行うのであれば、この批判は当たらないと考えられる。繰り返し流産に苦しんできた不妊の夫婦が救済される意義は小さくない。習慣流産への適用を認めていない日本産科婦人科学会は、規制のあり方を再検討する必要がある。もちろん、これらの技術の利用を無制限に認めてよいわけではない。〈1〉染色体異常を原因とする習慣流産など医学的理由がある場合に限定する〈2〉学会や公的機関などが認定した施設で実施する――など、患者の声を聞き、新たなルールの整備が求められる。(医療情報部・田中秀一)

着床前診断 根津院長が独断実施へ

2005年05月30日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 長野県の諏訪マタニティークリニックの根津八紘(ねつやひろ)院長は29日、流産を繰り返す習慣流産に悩む20〜30歳代の夫婦4〜5組に対し、染色体異常の有無を受精卵の段階で調べる着床前診断を、日本産科婦人科学会に申請せず独断で近日中に実施する意向を明らかにした。

 根津院長はこれまで、同学会が着床前診断の実施を重い遺伝病に限り、個別に審査していることから、学会に申請を出した上で着床前診断を実施する考えを示していた。しかし、「学会は抑圧的な運営をしており、議論の余地がない。患者のためを考え、実施することにした」として、会告に縛られずに不妊治療をする方針を明言した。

 根津院長は学会会告に反し、第三者の卵子を使う非配偶者間体外受精を行ったとして、1998年に学会を除名されたが、昨年2月に復帰している。根津院長は、着床前診断に加え、学会が現在禁じている非配偶者間体外受精や、代理出産についても再開するという。

[解説]着床前診断で妊娠

2005年05月23日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 ◆厳し過ぎる学会の規制は不合理 出産望む夫婦の声聞いて   

 受精卵の段階で病気の有無などを判定する「着床前診断」により、11人の患者が妊娠、出産予定であることが明らかになった。(医療情報部 田中秀一)

 着床前診断は、体外受精した受精卵の遺伝子や染色体を調べる検査。神戸市の大谷徹郎・大谷産婦人科院長は、染色体異常が原因で流産を繰り返す習慣流産などの患者に実施し、妊娠継続の可能性が高いと判断した受精卵を子宮に戻し、妊娠に至った。

 日本産科婦人科学会は「生命の選別につながる恐れがある」として着床前診断を規制しており、習慣流産の場合には、過去に別の医師が出した診断の申請を却下し、事実上禁止している。男女産み分けにも実施した大谷院長は昨年4月、学会を除名された。

 習慣流産の場合、大谷院長は「着床前診断をした方が出産の確率が高い」と主張するが、複数の学会幹部は着床前診断の必要性を疑問視する。体外受精による妊娠率は低く、「自然妊娠・流産を繰り返す場合と、出産の確率は変わらない」という理由だ。

 だが、仮に自然妊娠と着床前診断では出産の確率に大差ないとしても、「だから着床前診断など受けず、子供ができるまで流産を繰り返せばよい」と言えるはずはない。流産は女性の心身に負担が大きいからだ。どちらの方法で出産するかは本来、医師ではなく、患者が選択すべきことだ。

 習慣流産への着床前診断について、金城清子・津田塾大教授は「産めない人が産むために行うのであれば『生命の選別』とは言えない」と話す。結局、学会が禁止する根拠は薄弱であり、規制は不合理と言わざるをえない。

 ただ、着床前診断の実施には安全性が前提となる。「海外ではこの方法で1000人以上が誕生した実績がある」(大谷院長)とはいえ、生まれた子供の健康について大規模調査はない。安全性情報の収集が必要だ。

 受精卵を調べる着床前診断の規制の厳しさに比べ、妊娠中に胎児に超音波検査や羊水検査をする「出生前診断」は広く行われ、異常が見つかると水面下で中絶されることが少なくない。これは矛盾であり、見直す必要がある。

 もっとも、出生前診断の規制を強め、着床前診断の規制を緩やかにしたとしても、問題は解決しない。着床前診断には体外受精が必要で、自然妊娠後の出生前診断に比べ、対象者が限られるからだ。

 既に障害児を持つ母親が妊娠し、検査で胎児にも同じ障害があると分かり、中絶する場合もある。今いる子供に愛情を注いでいても、複数の障害児を育てるのは負担が重いからだ。こうした夫婦を責められるだろうか。

 「出生前診断や着床前診断による命の選別は良くない」と誰もが思うが、子を望む夫婦の事情は多様で、厳しい規制はなじまない。妊娠中に風疹(ふうしん)にかかって障害児が生まれ、診断を怠った医師の責任を認めた判決もある。

 もちろん患者が望めばどんなことでも許されるわけではなく、歯止めは必要だ。英国などでは、着床前診断は法律や国の指針に基づき、認定を受けた施設で行われる。国内でも、〈1〉学会や公的機関が認定した医療機関で行う〈2〉医学的な理由がない場合(男女産み分けなど)は実施しない〈3〉実施例の報告を義務づけ透明性を確保する――などの方法が考えられる。

 患者の声に耳を傾け、新たなルールを作る必要がある。

着床前診断、規制巡り論戦

2005年05月15日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 受精卵の段階で病気の有無などを調べる着床前診断が、神戸市の大谷産婦人科(大谷徹郎院長)で行われ、流産を繰り返す習慣流産などの患者11人が妊娠、年内に出産する。

 大谷院長は14日、東京都内で開かれた日本法社会学会でこれを報告、「患者の救済か、生命の選別か」を巡り論戦がかわされた。規制の課題などを探った。(医療情報部・田中秀一、坂上博)

 ◆患者救済か命の選別か、国の指針見えず

 ◎学会への批判

 「着床前診断は世界の国の大半で行われているのに、日本では学会が実質的に禁止している」「学会の姿勢は、診断を必要とする患者をかえりみない『事なかれ主義』ではないか」

 この日の法社会学会で、大谷院長が着床前診断の実施を報告した後、法律、社会学者から、日本産科婦人科学会の規制のあり方を疑問視する声が相次いだ。

 同学会は1998年、着床前診断について「重い遺伝性疾患に限り、個別に審査して承認する」との指針(会告)を定めた。これまでに承認されたのは、慶応大から申請されたデュシェンヌ型筋ジストロフィーの1件に過ぎない。大谷院長は会告に違反して実施し、除名された。

 同学会が着床前診断を厳しく制限しているのは、障害者団体から「生命の選別につながる」「障害者差別が助長される」と強い批判が寄せられ、配慮した結果だ。この日の法社会学会でも、これが論点となった。

 ◎今後の課題

 児玉正幸・鹿屋体育大教授(哲学)は「障害者への福祉の充実は必要だが、受精卵を選別しても、障害者の存在を否定することにはならない。受精卵は法で保護される『生命』に当たらず、生命の選別とも言えない」と述べた。これに対し、「受精卵は『生命の萌芽(ほうが)』とみなされており、生命の選別につながる可能性はある」との反論が起きた。

 国内では、妊娠中に胎児に超音波検査や羊水検査を行う「出生前診断」が広く行われ、水面下で人工妊娠中絶される場合が少なくない。「中絶に至る出生前診断より、受精卵を調べる着床前診断を厳しく規制し、胎児より受精卵を手厚く保護するのはおかしい」(町野朔・上智大教授)という批判は根強い。

 今後の課題について石井美智子・明治大法学部教授は「どの病気に着床前診断を行うか市民を含めて議論すべきだ。この方法で生まれた子の追跡調査がなく、安全な技術とも言い切れない。胚(はい)(受精卵)の法的な位置づけも明確にする必要がある」と指摘している。

 着床前診断は、多くの先進国で行われている。米本昌平・科学技術文明研究所長によると、英、仏、スウェーデン、韓国などでは重い遺伝病に限って認めている。いずれも生命倫理・生殖医療に関する法律や指針に基づいており、フランスでは違反者に拘禁などの罰則規定もある。

 ◎米は規制なし

 米国では連邦法による規制はなく、事実上、自由に実施されている。オーストラリアでは州によって容認、禁止が分かれる。これまでに世界で4000件以上の着床前診断が行われ、700人以上の赤ちゃんが生まれた。習慣流産を防ぐ目的が約3分の2を占める。

 一方、ドイツ、オーストリア、スイス、イタリアでは事実上、禁止されている。ユダヤ人を虐殺したナチスの優生思想への反省や、宗教上の理由などからだ。国内では日本産科婦人科学会が昨年、厚生労働省に着床前診断の指針作成を要望したが、議論は進んでいない。

 ◆大谷院長に受診今夏出産の女性…「私たちには必要」

 習慣流産のため大谷院長に着床前診断を受けて妊娠し、この夏に出産する30歳代の女性は、読売新聞の取材に次のように語った。

               ◇

 結婚2年目に妊娠したが、2か月で流産。その後、不妊クリニックに通い、子宝が授かるというお寺、神社も巡った。3年たって再び妊娠し、「今度こそ」と思ったのもつかの間、また流産。涙が止まらなかった。結局4年間で計3回妊娠し、いずれも流産した。

 医師にはそのたびに「次に頑張りましょう」と言われたが、「このまま年を重ねるだけでは」と焦る気持ちでいっぱいだった。専門施設で検査を受け、「染色体の異常が原因で、出産の確率は非常に低い。米国では着床前診断という方法があるが、日本では認められていない」と言われた。

 昨年、大谷院長がこの診断を行っていると聞き、すぐに受診した。体外受精をして診断を受け、1回で妊娠した。それでも最初は安心はできなかったが、今は親になる実感がある。

 検査で障害児が生まれないようにするなら「命の選別」かもしれないが、産むために受ける検査が、なぜ「選別」と言われるのか分からない。私たちには必要だ。

流産予防で夫婦27組に着床前診断、11人出産へ

2005年05月13日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 受精卵の段階で病気の有無などを判定する着床前診断が、神戸市の大谷産婦人科(大谷徹郎院長)で27組の夫婦に行われ、妊娠した11人が年内に出産の予定であることが12日、明らかになった。

 いずれも習慣性流産など妊娠の継続が難しい患者で、国内では先天性疾患の患者に対する着床前診断で出産した例はあるが、流産予防の目的では初めて。

 大谷院長は13日から東京都内で開かれる日本法社会学会で発表する。着床前診断を巡っては、日本産科婦人科学会は「生命の選別につながる可能性がある」として厳しく規制しており、大谷院長は昨年4月、学会の指針に違反して実施したとして除名処分を受けているが、“出産ラッシュ”を迎えることで是非を巡る論議に拍車がかかりそうだ。

 大谷院長によると、昨年9月から今年3月にかけ、20歳代から40歳代の27組の夫婦に対し、延べ33回にわたり着床前診断を実施した。染色体異常などのため受精卵が着床しなかったり妊娠継続が難しかったりする習慣性流産などの患者で、中には過去に6回の流産を繰り返した女性もいた。

 遺伝子検査により、妊娠継続の可能性が高いと判断された受精卵を子宮に戻したところ、12人が妊娠した。その後、1人が流産したものの、11人は妊娠を継続している。

 着床前診断について、日本産科婦人科学会は、重い遺伝病がある場合に限り、個別審査を行ったうえで認めると規定。昨年、慶応大から申請された、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの子供が生まれる可能性のある夫婦に対する診断の実施を認めた。しかし、過去に別の産婦人科医から出された習慣性流産に対する診断の申請は却下している。

 大谷院長は「流産を繰り返すことは患者の心身に大きな負担になり、着床前診断を実施した。医学だけでなく法的、社会的観点からも議論する必要があると考え、学会発表することにした」と話している。

 大谷院長は昨年、先天性疾患の患者に着床前診断を行い、出産に至ったことを明らかにしている。

着床前診断の医師、日本産婦人科医会が退会を勧告

2005/03/27 読売新聞 Yomiuri On-Line

 産婦人科の臨床医らで作る日本産婦人科医会(坂元正一会長、会員数1万2800人)は27日、大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎医師に対し、退会を勧告することを決めた。

 大谷医師は、体外受精卵を母体へ戻す前に病気の有無などを調べる「着床前診断」を独断で実施。「着床前診断は重い遺伝病に限り認めるが、事前審査が必要」と定めている日本産科婦人科学会は、昨年4月、大谷医師を除名処分にした。

 医会も、学会の処分を重く受け止め、6月、坂元会長が「訓告」を出して厳重注意した。だが、その後も、大谷医師が訓告を無視する形で16組の夫婦に着床前診断を実施していたことが判明したため、「退会勧告もやむなし」と判断した。近く同医会兵庫県支部を通じて通告する。

受精卵診断灘区の医師 「今後も続ける」

2004/11/06 神戸新聞

 日本産科婦人科学会が認めていない習慣性流産の夫婦ら十五組に対する受精卵診断を行っていた大谷産婦人科(神戸市灘区)の大谷徹郎院長が五日夜、同市内のホテルで会見を行い、「今後も受精卵診断を行う」と、あらためて表明した。

 同病院は九月下旬―十月上旬、染色体異常のため流産を繰り返す患者十四人と、四十歳代の不妊患者一人の計十五人に対し、受精卵の染色体に異常がないかを診断してから着床させ、うち五人が妊娠した。同学会は「まだ実験段階の医療」などとして、重い遺伝病の患者の場合にしか受精卵診断を認めていない。

 大谷院長は「流産は女性の心身に大きな苦痛を伴う。関東、四国からも切実な要望があり、医師として救うのは当然」と正当性を強調。「男女産み分けのための診断をするつもりはないが、習慣性流産の場合は、診断を続ける」と話した。

生殖医療の法整備を

2004/07/16 沖縄タイムス社

 遺伝病の子どもが生まれるのを防ぐ受精卵診断(着床前診断)について、日本産科婦人科学会は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象とした診断を承認した。

 全身の筋力が低下するデュシェンヌ型筋ジスは、子どものうちに発病し、若くして命を失うことのある重い病気だ。

 学会が受精卵診断を認めたのは初めて。実施の基準を「重篤な遺伝病に限る」としている。

 この決定に、障害者団体からは「命の選別につながる」「障害者差別を助長する」という批判の声があがる。

 診断の対象拡大を求める医師や夫婦は「実施を制限するのは幸福になる権利を侵すもの」と反発する。

 三者の溝は深い。

 日本には、子どもは神からの授かりものという子ども観が強い。妊娠や出産は自然の摂理であり、自分ではどうすることもできないという考え方だ。

 しかし生殖医療の登場、進歩が、その風土を変えつつある。

 第三者の精子や卵子を使っての体外受精、海外へ渡り代理母によって子をもうけるケースは、法的に認められていなくても、珍しい話ではない。

 アメリカでは精子バンクを利用したシングル女性の出産も多い。その際、子どもの目の色や髪の色を選ぶことさえ可能だ。

 子どもを産みたいと思いながら、遺伝病のために悩んでいる夫婦にとって、今回の決定は朗報だ。だが「重篤」の受け止め方は人によって異なり、線引きは難しい。

 生殖医療は法的な整備が不十分なまま、事実だけが先行している。

 すでに男女産み分けなどで受精卵診断を実施している産婦人科医もいる。

 患者の要求があり、技術的に可能だからといって、当事者だけで決められる問題ではない。

 生殖医療の流れの先に何があるのか。社会のあり方や倫理の面から、新しい技術に対する論議が深まっているとはいえない。

着床前診断、産科婦人科学会倫理委が慶大の申請を承認

2004/07/13 読売新聞 Yomiuri On-Line
 受精卵の段階で病気の有無を調べる着床前診断について、日本産科婦人科学会(藤井信吾会長)の倫理委員会は13日、慶応大の申請を承認した。

 23日の臨時理事会で正式決定する。正式な学会の手続きを経た着床前診断が認められるのは初めて。

 慶応大がデュシェンヌ型筋ジストロフィー、名古屋市立大が筋強直性ジストロフィーに関して着床前診断を申請していた。

 倫理委は、慶応大の申請は、実施条件の「成人に至る前に生存が危ぶまれたり、日常生活を強く損なう症状が現れる場合」という「重い遺伝病」に当たると判断、実施を認めた。申請の夫婦の第1子が、幼いうちに歩行困難などの症状が現れていることなどの事情も考慮した。

 名市大の申請は実施条件を満たさないとして申請を退けた。

学会除名の大谷医師ら、着床前診断を秋にも本格実施へ

2004/07/10 読売新聞 Yomiuri On-Line
 受精卵の段階で病気の有無を調べる「着床前診断」を日本産科婦人科学会に無断で3例実施し、除名処分となった大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎院長らが10日、名古屋市内で記者会見し、先進地の米国から専門家を迎え、今秋にも着床前診断を独自に始めることを明らかにした。

 着床前診断の是非を巡っては、学会が申請を受けた2例の扱いについて、倫理委員会を公開で開くなど関心が高まっており、今後論議を呼びそうだ。

 大谷院長はこの日、診断を希望している21組の夫婦ほか、学会規則に反して代理出産などを行った根津八紘・諏訪マタニティークリニック院長とともに、「着床前診断を推進する会」を発足。3000例以上の診断実績がある米エール大から招く専門家の指導のもと、大谷産婦人科内で診断を始める方針を明らかにした。

 大谷院長らと会を設立したのは、染色体異常のために流産を繰り返す習慣性流産の夫婦17組ほか、生まれてくる子供が筋緊張性ジストロフィーなど遺伝性の病気を発症する可能性がある4組。大谷院長は、個々の事例を院内の倫理委員会で審議し、遺伝カウンセリングなどを行った上で診断するという。同会以外からの患者も、希望があれば受け入れる方針だ。

 大谷院長は「着床前診断はすでに世界中で臨床応用されており、日本でも世界レベルの医療を提供するのは医師の使命」と説明。学会が実施基準としている「重い遺伝病」の範囲についても、「病気の重さは患者が決めることだ」とし、独自の判断で診断していく考えを強調した。

 大谷院長らは今年5月、着床前診断を過度に規制するのは患者の権利を阻害しているとして、同学会を相手取り、診断の妨害禁止や除名処分の撤回などを求める訴訟を起こしている。

慶応大の着床前診断、国内初の承認へ

2004/06/19 読売新聞 Yomiuri On-LIne
 慶応大が日本産科婦人科学会に実施を申請していた遺伝病「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」の着床前診断について、同学会の審査小委員会は18日、実施を妥当とする答申を学会倫理委員会に提出した。学会は今月中にも正式承認する。

 着床前診断の承認の答申は初めて。実施されれば、正規の手続きを踏んだ国内初の着床前診断になる。学会は1998年の会告で、体外受精卵の着床前診断の対象を治療法のない重い遺伝病に限り、個別の事前審査を条件にした。慶応大は今年1月に実施を申請していた。

 小委員会は今月7日に検討。デュシェンヌ型筋ジストロフィーは幼児期に発症し、平均寿命も20―25歳であることから、重い遺伝病にあたると判断した。

 夫婦は過去にこの病気の子供を出産。2人目を妊娠した際は出生前診断で病気の可能性が高いとわかり、中絶したという。

 一方、小委員会は、名古屋市立大が申請していた「筋緊張性ジストロフィー」の着床前診断は承認すべきでないとした。父親から遺伝する場合は子供の症状が軽かったり、成人になって発症する型だったりする可能性があり、重い遺伝病にはあたらないと判断した。

無断着床前診断で除名処分の大谷医師ら、学会を提訴

2004/05/26 読売新聞 Yomiuri On-Line
 体外受精卵の着床前診断を独断で3例行い、日本産科婦人科学会から会告(指針)違反として4月に除名処分を受けた大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎院長(49)らが26日、同学会と処分時などの役員4人を相手に、着床前診断の妨害禁止、会告と除名処分の無効確認、慰謝料など7700万円の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こした。

 原告には習慣性流産や遺伝性疾患で着床前診断を希望する夫婦5組と、診断を計画している長野県の根津八紘医師も加わり、「学会の過剰な規制は、患者が治療を受ける権利の侵害だ」と主張している。

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