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ご縁な仲



午前9時30分...

大羽竜也(おおばとうや)は、大学の掲示板をじっと見て悩んでいた。
小寺井静磨(こでらいしずま)は、そんな大羽竜也を不思議そうに眺めていた。

何を見てるんだ?

大羽竜也が去った後、小寺井静磨は彼が睨んでいた掲示板を覗いた。

…ああ……これか。




午後1時20分...

大羽竜也は、大学の食券機の前で腕組みをして悩んでいた。
あまりに悩んでいるので、後ろから「おまえ選んでから並べ!」と罵声をあびた。
大羽竜也は、「もっともだ」と思い、食券機の横でどれにするかをまず悩むことにした。
ちょうど学食にきていた小寺井静磨は、そんな大羽竜也の姿を半ば呆れて眺めていた。

で、どれにするんだ?

気になったので、大羽竜也が食券機にコインを入れ始めた頃を見計らって、彼の後ろへ行った。
大羽竜也は、几帳面に一つ一つコインを入れていた。そして、A定食のボタンを押した。
しかし、食券は出てこなかった。
食券機をあれこれ叩いてみたが、何も起こらない。
ふと、大羽竜也は、誰かに背中を触れられた感じがしたので振り向くと、50円玉を差し出す小寺井静磨の姿があった。
「売れ切れだ…。50円やるから、B定食を買え」
「……ども」
小寺井静磨は、少し不機嫌そうだった。




午後5時50分...

大羽竜也は、B校舎1階自販機の前にいた。
朝見た掲示板のメモに、「希望者は、B校舎1階自販機の前で○月△日午後6時に集合」とあった。
定刻には、もう少し時間がある。
大羽竜也は、その時間をつぶすために、自販機のジュースを飲もうと、コインをポケットから取り出そうとした。
ところが、コインは投入口に入る前に手から滑り落ち、転がってしまった。
コインは、ころころと転がっていき、人にぶつかって停止した。
大羽竜也が、誰の足かと見上げると、それは小寺井静磨だった。
小寺井静磨は、転がったコインを拾い、そのコインを眺めた。

「お前か」
小寺井静磨は、言った。
「…あぁ?」
大羽竜也は、間抜けな返事をした。
「…あの掲示板のメモは、俺が貼ったんだ。お前……俺とルームシェアする気があるか?」

大羽竜也は、それを聞いて、にこりと笑った。
「お前がいると何かと安心だ」
小寺井静磨は、かなり不機嫌そうな表情になったが、拾ったコインを差し出して言った。
「…これは使えない。『5円玉』だから」
大羽竜也は、にやりと笑った。
「俺とお前は『ご縁な仲』だから、これでOKなのさ」
小寺井静磨は、くすりと笑った。

「よかろう。では商談に入ろうか」