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三段飛ばし



俺はホールに上るエスカレーターに乗りこんだ。
最終電車が十分もすれば到着する予定だ。
互いに軽く挨拶のように手をあげる。

『じゃな』

言葉にならない互いの挨拶は何時かもしたもの。
ホールまでは来ないのも何時ものこと。

だんだんと二人の距離が離れる。
それとともに成田の視線が自分から離れていく。

何かいうことがあったはずだ。
俺は身を乗り出して手すりを握り…思わず叫んだ。


「成田ぁーー」


びっくりした成田が振り返る。

「お、俺、お前に………なくちゃ……」

ガタン…ガタン…ガタン…

俺の声はホールに入って来た電車の音でかき消されていった。
彼奴は耳に手をあてて「何?」って顔をする。
距離はどんどん開いていく。
一瞬このエスカレータを下りようかと階下を見下ろして…。

次に目に入ったのは……。

彼奴が鞄を小脇に抱えて大股で階段を……三段飛ばしで上ってくる姿だった。
俺のところまで一気に追い付いて、息を切らしながら問うてくる。

「何?」

そんな風に追いかけて来てくれた成田に…俺は…嬉しくて…とても嬉しくて。

……最後まで決めかねていた言葉がさらっと出て来たんだ。

「だから、何?」
「…うん」
「何…泣いてんのさ」
「うん。俺、俺さ、来年……こっちくる」
「……こっちに?」

成田の歩調が一瞬止まる。
また、離れてしまう。
不安になる俺は弱々しい声になる。

「成田?」

でも、成田は、手すりの上に置かれた俺の手をしっかりと握りしめてくれて…。
そして、俺の好きな目尻の皺と片えくぼを見せてくれた。

「おぅ!」