TOPIC No.5-60 院内暴力/患者の暴力深刻

01. 病院内の暴力について
02. 暴力対策 by日本看護協会
03. 認知症患者の暴力 by教えて!goo
04. ナースに対する暴力 byオーストラリアで緩和ケアナース

院内暴力

西日本新聞

 医療機関内において患者側から医療従事者へ加えられる暴力やセクハラ(性的嫌がらせ)、ストーカーなどの行為を指す。ただし患者側に対し、医師らが加害者となるケースでも院内暴力と呼ぶ。患者側からの院内暴力が起きる原因として、病気によるストレスや不安が引き金となるほか、近年は医師への不満や逆恨みなどの感情から加害行為に及ぶ事例も多いとされる。日本医師会が7月末、都道府県医師会に初めて依頼した過去10年間の事例調査に関する回答は現在、集計中という。


患者の暴力深刻 全国の病院半数以上で被害

2008.04.13 MSN産経新聞

 昨年1年間に全国の病院の半数以上で、病院職員が患者や家族から暴力を受けていたことが12日、全日本病院協会の調査で分かった。医師らの対応や待ち時間への不満が引き金になった事例が多く、深刻化する「モンスターペイシェント」と呼ばれる患者の実態が浮かび上がった。同協会は今夏をめどに最終報告をまとめる方針で、厚生労働省も調査結果を受け抜本的な対策に乗り出す。同省によると、「院内暴力」をめぐり全国規模で調査が実施されたのは初めて。

 調査は昨年末から今年1月末にかけ、47都道府県にある2248病院を対象に実施し、1106病院から回答を得た(回答率49.2%)。このうち患者から暴言や暴力があったと回答した病院は576病院で、暴力やクレームの発生件数は6882件に上り、1病院当たり年平均で約12件の院内暴力が発生したことになる。

 内訳をみると、患者から暴言を吐かれるなどした精神的暴力が2652件と最も多く、患者の暴力でけがをしたなどの身体的暴力は2253件、セクハラ(性的嫌がらせ)は900件だった。また患者の家族から暴力やクレームを受けたケースも904件あった。

 ただ病院側が実際に警察に届け出たケースは、全体の5.8%。弁護士に相談したケースも2.1%にとどまっており、医療現場が患者の暴力への対応に苦慮している実態もうかがえる。

 患者の暴力で職員が精神的ショックを受けたケースは70.1%で、施設の備品が損壊したケースも24.7%に上った。また暴力を受けた職員のうち看護師が約9割と最も多く、次いで事務職や医師だった。患者の暴力に耐えかねて退職する職員も増加しているという。

 院内暴力を防ぐための措置としては、約4割の病院が「監視カメラを設置している」と回答。警備員の巡回を増やしたり、警察官OBの配置や、護身用のスプレーを常備する−などと回答した病院もあった。

患者の暴力急増 県医師会調査、モラル低下など背景

2007/12/25 徳島新聞社

 徳島県内の医療機関で医師や看護師が患者から暴力を振るわれる被害が急増していることが、県医師会が会員七百六十七施設を対象に行った調査で分かった。今年四−八月の発生件数は既に三十四件と、昨年度一年間の三十九件に迫る勢い。患者の権利意識の高まりやモラルの低下が背景にあるとみられるが、施設側が泣き寝入りする事例も多く、医師会は相談窓口を充実するなど支援体制を強化している。

 調査は、医療関係者に暴力行為や不当要求を行う患者「モンスターペイシェント」の増加が全国的に問題となっていることから、日本医師会の実態調査に合わせて今年八−十月に実施。一九九八年度から二〇〇七年度八月までに起きた暴力の件数と内容、警察の介入状況のほか、一年間の医療費未払いの件数や金額を聞いた。

 暴力行為は二百八施設から回答があり、三十一施設が過去にあったと回答した。年度別では、〇二年度までは一、二件で推移していたが、〇三年度五件、〇四年度十件、〇五年度十二件と徐々に増え、三十九件あった〇六年度から急増。

 内容が特定できる被害だけでも、器物破損十七件、セクハラ十六件、身体的暴力十四件、脅迫十一件、窃盗三件などとなっている。

 警察が介入した悪質事例は二十三件で▽欲しい薬をもらえず立腹した男性患者が女性医師を殴ってけがを負わせた▽夜間外来で泥酔した男性患者が医師の対応に怒って窓ガラスにいすを投げつけて割った▽入浴中の男性患者が性器を女性介護職員に無理やり触らせた−など。ただ、被害が公になることをためらって通報しない施設が多いという。

 徳島大学病院では、昨年度六件だった暴力行為が本年度は八月までに五件起きた。救急車で運ばれた患者が、帰りのタクシー代を貸せと医師をどう喝するなど悪質な被害が相次いだことから、十月に不当要求行為対応マニュアルを作成。暴力行為や不当要求が起きた場合の連絡体制や、複数の職員で応対するなどの手順を定めた。

 一方、医療費の未払いは二百七十五施設から回答があり、約70%に当たる百九十二施設が過去にあったと回答した。件数や金額別の詳細な内訳は集計中だが、最大の徳島大病院では年平均三百件、約二千二百五十万円に上っている。各施設の対応は電話や督促状、自宅訪問による請求が中心で、差し押さえや訴訟など強い対応をとる例は少ない。

 調査結果を受けて県医師会は十月から、医療機関から相談があった場合に県警組織犯罪対策課の担当者や顧問弁護士を紹介したり、未払いへの対処法を助言したりする支援を始めた。

 木下成三常任理事は「医療費の患者負担増加などに伴い権利意識も高まっているが、暴力や未払いは許されない。医療関係者は困ったらまず医師会に相談してほしい」と話している。

【溶けゆく日本人】“怪物”患者 「治らない」と暴力、暴言

2007/11/15 Iza(産経新聞)
 

 快適の代償(2)

 「どうしてくれるんだ」

 40代男性患者の病室で怒声が響いた。病室に入った女性看護師が、理由も告げられないまま、1人ずつほおを平手打ちされた。関東にある大学病院でのことだ。

 泣きながらスタッフルームに戻ってくる若い看護師の様子を不審に思った看護師長が患者に問いただすと「腎臓病の治療がうまくいかず、透析になったことが受け止められなかった。腹がたって誰かにぶつけたかった」と打ち明けた。

 傷害事件として立件も可能なケースだが、この病院では患者に謝罪してもらうことにとどめた。

 医療従事者が患者やその家族から暴力や暴言を受けるケースが増えているという。

 医療機関のリスクマネジメントを担当する東京海上日動メディカルサービスの長野展久・医療本部長は、「治療がうまくいかないなど、患者にとって不本意な結果になったときに、その怒りを医療従事者にぶつける傾向がある」と指摘する。

 患者がこうした怒りを医療従事者にぶつける背景には、医療への過剰な期待がある。かつては「仕方がない」とあきらめるしかなかったことも、医療の進歩で、「どんな病気でも病院に行けば治る」「治らないのは医師の治療方針が間違っていたせいだ」と考えてしまう患者が多くなったという。

 患者がこうした怒りを医療従事者にぶつける背景には、医療への過剰な期待がある。かつては「仕方がない」とあきらめるしかなかったことも、医療の進歩で、「どんな病気でも病院に行けば治る」「治らないのは医師の治療方針が間違っていたせいだ」と考えてしまう患者が多くなったという。

 医師の説明不足の面もあるだろう。しかし、ある産婦人科医は「妊婦さんに妊娠中の生活上の注意を時間をかけて説明すると、家族から『あまりプレッシャーをかけるな』と叱(しか)られる。一方で、説明を簡潔にすると『もっと詳しく説明しろ』と怒鳴られる。いったいどうすればいいのか」と困惑を隠さない。

              ◇

 教育現場で教師に理不尽な要求をつきつける親のことを“怪物”にたとえて「モンスター・ペアレント」と呼んでいるが、同じように医療現場でモラルに欠けた行動をとる患者を「モンスター・ペイシェント(患者)」と呼ぶようになっている。

 中でも小児科では、学校現場と同様に、非常識な親への対応に頭を痛めている。午前中から具合が悪いのに「夜の方がすいているから」と夜間診療の時間帯に子供を連れてくる▽薬が不要であることを説明しても「薬を出せ」と譲らない▽少しでも待ち時間が長くなると「いつまで待たせるんだ」と医師や看護師をどなりつける−など枚挙にいとまがない。

 東京都内で小児科クリニック院長を務める小児科医(35)は、「薬を出せというのも、子供のためというより、自分がゆっくり寝たいためとしか思えないケースがほとんど。すべてにおいて親の都合が優先されている。医療行為は受けて当然、治って当然と思っているから、診察後に『ありがとうございました』の言葉もない」と嘆く。

 子供が多い診療科ということでは、耳鼻科も大変だ。

 和歌山県立医大の山中昇教授(耳鼻咽喉科)は「中耳炎の症状で受診する子供に耳あかがたまっていることが多く、そのため鼓膜の赤みや腫れがわかりづらい。『子供にとってお母さんの膝(ひざ)の上での耳あか取りは楽しみなもの。親子のスキンシップになりますよ』とお母さんに話すと、『子供の耳あかなんて、怖くて取れません』と平然と答えるんですよ」と話す。

 さらに困るのは、診察中にじっとしていられない子供が多いこと。「子供が泣けばこちらがにらまれる。以前は親が『泣いたらだめよ』と子供をたしなめたものだが…」とあきらめ顔だ。

                ◇

 治療費の不払いも大きな問題となっている。日本病院会など4病院団体が平成16年にまとめた調査では、加盟する5570病院での未収金総額は年間推定373億円にのぼり、3年間の累積は853億円だった。とくに救急と産科で未収金が多いという。

 生活困窮世帯の増加という面もあるが「最近はお金はあるけど払わないという人も多い。人間ドックを受けて異常がなかったから払わないという人もいます」と長野本部長(東京海上日動メディカルサービス)。

 こうした事態を受け、厚生労働省は6月、「未収金問題に関する検討会」を立ち上げた。委員を務める永寿総合病院(東京都台東区)の崎原宏理事長は「日本は皆保険制度で、誰もが医療を受けられるが、それが逆に『治療は受けて当たり前』の意識につながり、診察に対して感謝の気持ちがなくなっている気がする。万が一このまま未収金が増えれば、皆保険制度が崩壊し、病院の閉鎖も増え、治療を受けられない人が増える可能性もある」と警鐘を鳴らしている。(平沢裕子)

                ◇

 ≪メモ≫ 産婦人科の医療現場では近年、妊娠検査を受けずに出産間際になって病院に救急搬送される「飛び込み出産」が問題になっている。

 神奈川県産科婦人科医会の集計では、同県内の基幹病院(8施設)での飛び込み出産の件数は、平成15年に20件だったが、18年には44件と倍増、今年は4月までに35件を数えており、年末には100件を超えると推計されている。

 飛び込み出産は子供の死亡率が高く、訴訟となるリスクも高いことから、受け入れを拒否する施設も出ている。

 経済的な事情がある場合も多く、母親のモラル低下だけが原因ではないとはいえ、そのツケを払わされるのが罪のない新生児というのは、なんともやりきれない。

荒れる病院…院内暴力深刻化、警察OB雇用も

2007/11/15 Iza(産経新聞)
 

 日本看護協会が平成14年に全国3100の病院を対象にした調査で、「院内暴力」が深刻化していることが明らかになった。調査によると、3割の病院が「過去1年間に患者から病院職員への暴力があった」と回答。2割が「患者による病院施設の損壊があった」とし、5割が「院内で窃盗があった」と答えるなど、 “荒れる病院”の実態が浮かび上がった。

 患者やその家族らの悪質な暴力、患者間の暴力などのほかに、女性看護師へのストーカー行為などを訴える回答も多くあったという。

 深刻な実態に、多くの医療機関がここ数年、「いわれのない暴力には毅然(きぜん)とした対応をとる」という姿勢を打ち出している。

 暴力行為は警察に通報するという姿勢を掲げたり、病院によっては警察出身者を渉外担当に迎えたりするところも増えている。すでに全国で50人以上の警察OBが、病院で雇用され、リスク管理などの業務に就いているという。

 日本看護協会は昨年11月、「保健医療福祉施設における暴力対策指針」を打ち出した。指針は「暴力対策に組織的に取り組まなければならないと認識していても、なかなか対策を講じるところまで着手できていないのが現実」という認識を示したうえで、各病院にリスクマネジメント委員会などの設置を呼びかけている。

院内暴力通報に逆恨み 慈恵医大病院脅迫の男逮捕

2007/11/14 Iza

 東京慈恵会医科大付属病院(東京都港区)で「院内暴力」をふるって9月に逮捕された男が、今月4日に再び病院を訪れ、職員をナイフで脅すなどして、警視庁愛宕署に逮捕されていたことが13日、分かった。病院は「過去に警察に通報したことを逆恨みした“お礼参り”で、許すことができない」と憤っている。「院内暴力」への対処が各地の病院で問題になっているが、毅然(きぜん)とした態度への“お礼参り”が公になった例はない。

 愛宕署や慈恵医大病院によると、院内暴力をふるったのは東京都町田市の無職の男(55)。今月4日午前、休日にもかかわらず病院を訪れ、警備員や救急病棟職員に刃渡り約4センチのナイフを突きつけるなどして、「おれを甘く見るな」「ぶっ殺すぞ」などと脅した疑い。通報を受けて駆けつけた愛宕署員が、暴力行為等処罰法違反容疑で逮捕した。同署が動機などを詳しく調べている。

 男は今年9月22日正午ごろにも院内で、女性看護師を怒鳴るなどの騒ぎを起こしたうえ、駆けつけた警備員の顔を3回殴り、愛宕署に暴行容疑で逮捕されていた。10月上旬に罰金刑が確定し、釈放されたばかりだった。

 慈恵医大病院によると男は10年以上前から、院内で大声を出して自分の診察を早くするよう暴言をはいたり、酔ってソファで寝るなどの行為を繰り返していた。病院が診療拒否ができないのを知って、救急車を呼び自分で慈恵医大病院を指定して搬送されてきたことも複数回あった。

 トラブルを深刻にとらえた病院側は、10月上旬に男が釈放された直後には、報復を警戒して警備を手厚くするなどの対策を講じた。

 慈恵医大病院の横内昭光渉外室長は「今回のようなお礼参りによる暴力は絶対に許せない。医療スタッフが悪意による暴力を受けることがあってはならず、毅然とした対応をしたい」と話している。

堺の病院職員 全盲患者を公園に遺棄

2007/11/13 Iza

 堺市北区の新金岡豊川総合病院(豊川元邦院長)の職員が今年9月、糖尿病で入院していた全盲の男性患者(63)を車で連れ回し、大阪市西成区の公園に置き去りにしていたことが13日、分かった。男性は駆けつけた救急隊員に保護され、別の病院に運ばれたが、入院費の未払いなどでトラブルがあったという。同病院は産経新聞の取材に対し「医療従事者にあるまじき行為だった」と事実関係を認めており、西成署は保護責任者遺棄容疑で関係者から事情を聴いている。

 堺市保健所は先月末、同病院の院長らが従業員の監督を怠ったのは医療法15条の違反事項に当たるとして行政処分したが、弱者を保護すべき医療機関としての社会的責任も厳しく問われそうだ。

 調べでは、男性職員4人は9月21日午後2時20分ごろ、医療従事者として病人を保護する責任があるにもかかわらず、大阪市西成区の公園内に男性患者を置き去りにした疑いが持たれている。

 4人は同日午後1時すぎ、男性を車に乗せて内縁関係の女性が住む大阪市住吉区の自宅を訪問。男性の引き取りを女性に拒否され、途方に暮れて車を走らせている途中、病院から約10キロ離れた公園にたどり着き、入院中の荷物などと一緒に男性を放置した。

院内暴力が深刻化 県内の病院 七尾の能登総合病院が対応マニュアル作成

2007年10月26日 北国新聞

 石川県内の病院で患者が医師や看護師にふるう暴力が深刻化している。病気の不安や長い待ち時間へのストレスが原因とみられ、看護師が負傷したケースもある。公立能登総合病院(七尾市)は“院内暴力”の対応マニュアルを十五日までに作成し、すべての部署に置いた。他の病院でも手引書の整備が進められており、医療現場でのコミュニケーションの難しさが浮き彫りとなっている。

 患者による医師や看護師への暴言、暴力は全国的な問題となっており、日本看護協会(東京)は昨年十一月に「保健医療福祉施設における暴力対策指針」をまとめ、ホームページに掲載して注意を呼び掛けている。能登総合病院はことし七月、職員に聞き取り調査し、対応マニュアルの作成に取り掛かった。

 被害は、患者が診察や検査の待ち時間が長いと怒鳴ったり、物を投げつけ、看護師の手を払ったり、つねる、顔や腕をたたくなどがある。看護師の顔や腕が腫れるなど、けがを負った事例もある。時間外・救急窓口では、酒に酔った患者が指示に従わず暴れたこともあった。このため救急窓口に非常用ブザーを設置し、職員が足でボタンを踏むと守衛室に通報される体制を敷いた。

 同病院は九月に暴力への対処法や通報手順を記したマニュアルを病棟や診療科の窓口、事務室など四十二部署に配布した。マニュアルには▽患者の体に触れる診察は複数で行う ▽常に出入り口側に立って避難路を確保する▽はさみなど鋭利な物は患者から離して置く ―などと記してある。

 一方、病院側の対応に不満を募らせる患者の声もある。能登総合病院に設置してある意見箱には「『お待ちください』の一言で何の説明もなく長時間待たされた」「職員の対応が事務的で冷たかった」などの意見が寄せられており、三室郁夫総務課長は「不安を抱えた患者はデリケートになっており、誤解を与えず、十分な意思疎通ができるように対応技術を高めたい」と話している。

 県内では、金沢市の県立中央病院や金大附属病院なども患者からの暴力に対するマニュアル作りを進めている。

患者の暴力209件 過去10年初の調査 佐賀県医師会 殴られメガネ破損 看護師にセクハラ

2007年10月13日 西日本新聞

 医師らが患者からの暴力などに脅かされる「院内暴力」について、佐賀県医師会が県内医療機関に過去10年の被害調査を初めて実施したところ、44機関から209件の報告が寄せられたことが12日、分かった。未回答の医療機関が多く、同医師会は全体状況は分からないとしているが、身体的暴力や恐喝など具体的実態の一端が浮かび上がった。医療関係者は「報告は氷山の一角にすぎない」と指摘。日本医師会も「全国でも相当数に上るのではないか」とみている。

 院内暴力は、患者の権利意識の向上などを背景に、ここ数年、目立ってきているとされる。実態を把握するために、日本医師会は7月末、各都道府県医師会に過去10年の相談事例を初めて照会。これを受け、佐賀県医師会が8月初旬、公立・民間の病院や有床診療所など県内の689機関に調査文書を送付した。

 調査結果の報告の中では「混乱状態の患者からけられた」「顔を殴られ、メガネを壊された」など身体的暴力のほか、「『治療ミスだ』と因縁をつけられ、金銭を要求された」という恐喝、窓ガラスを割られる器物損壊などの実態があったとされる。

 また看護師が受けた被害で最多は「男性患者から尻を触られた」などのセクハラ行為。病院側に訴え出たケースが50件近くに上り、ストーカー行為の報告もあった。

 今回の調査では9割以上が未回答だったが、医療関係者は「残りの医療機関でも同様の院内暴力はあるはず」という。

 小田康友・佐賀大医学部准教授は「患者からの暴力は昔からあったが、今は予約なしの検査といった無理な要求や医師が予測できない原因で暴言・暴力に及ぶ」と深刻なモラル低下を指摘。一方で「医療従事者も対応できるだけのコミュニケーション能力を高めていく必要があるだろう」と対策強化を訴えている。

暴言患者、拒めぬ医師「診療義務」法の壁

2007年10月10日 読売新聞 Yomiuri On-Line

「迷惑どこまで我慢」

 医師や看護師が患者による暴力や暴言に悩んでいる問題で、度を越した場合に医療機関が診療を拒もうとしても、医師法で診療義務を課されているため、断念するケースが出ていることが分かった。

 病院からは「毅然(きぜん)とした対応が取りにくい」という声が上がるが、厚生労働省は患者のモラルを理由とした診療拒否に慎重な姿勢を崩しておらず、法律専門家の見方も分かれている。

 「診察治療の求めがあった場合、医師は正当な理由がなければ拒んではならない」。医師法では診療義務をそう規定している。「正当な理由」とは、医師が病気の場合などに限られるというのが、厚労省のこれまでの見解だった。

 診療義務が争点となった裁判では、1997年に入院患者の退院を求めた病院側の請求が退けられたケースがある。

 裁判所は「患者やその家族が看護師に包丁を見せたり、ナースコールを1日80回以上も鳴らしたりして、病院の業務を著しく妨害した」と患者側の悪質行為を認定する一方、「退院を強制すれば、入院が必要な患者にその機会が保障されないことになりかねない」と指摘した。

 昨年、九州のある病院では、胃腸の病気で入院した高齢の男性患者が消灯後に大部屋でテレビを見るなど、迷惑行為を続けた。

 病院では執行部が検討を重ねたが、医師法で診療義務が定められている以上、退院は強制できないとの結論に達し、「ルールに従わないのなら治療は続けられません」という警告にとどめた。

 しかし、患者の行動は改善されず、女性看護師を突き飛ばして転倒させる騒ぎまで起きた。最終的には自主的に退院してもらったが、病院の医師は「迷惑行為をどこまで我慢すべきか、判断するのに相当の時間を費やした」と振り返る。

 神奈川県のある私立病院は数年前、手術後に両手足のしびれが残った入院患者の家族から抗議を受けた。その内容は次第に、医師や看護師の外見に関する中傷へとエスカレート。暴言で傷つき、辞職した看護師は5人を超えた。

 病院側は弁護士に相談し、クレームの記録を取ったり、自主退院を促す誓約書を渡したりしたほか、行政や警察にも相談した。その上で、「患者の家族の暴言など一連の行為が、(診療拒否できる)正当な理由に当たる」と最終的に判断し、入院から3年半後に強制退院の手続きに入った。

見解は二分

 読売新聞が全国の大学病院を対象に実施したアンケートでは、「医師の診療義務を盾にとる患者が増えている」(近畿地方の病院)、「診療拒否権が認められておらず、医療者側があまりにも法的に守られていない」(首都圏の病院)などの声が寄せられた。

 厚労省によると、モラルに欠ける患者への対応について、病院から、「一定の限度を超えたら診療拒否できる、というような基準を設けてほしい」などと要望されることもあるという。しかし、同省は「患者側の立場を不利にするような解釈も生じかねないため、一律の基準を設けることは難しい」とし、「診療義務は社会的に定着しており、現行法の枠組みを変えるべきではない」との立場だ。

 医療訴訟に詳しい弁護士の間でも意見が割れている。

 森谷和馬弁護士(第2東京弁護士会)は「病院は患者の健康を守る使命を持つサービス業であり、診療を拒否した場合、世間などからの非難は避けられない」と、診療義務を重視する。これに対し、島田和俊弁護士(大阪弁護士会)は「患者側にも診療に協力する義務があり、患者の振るまいによって信頼関係が著しく損なわれた場合などは診療契約を解除できる。病院に甚大な不利益があった場合は、治療の必要性が軽微であれば、必要な手続きを踏んで診療拒否に踏み切るべきだ」と話している。

クレーム「医師側にも問題」…訴える患者

2007年09月18日 読売新聞 Yomiuri On-Line

入院2週間治療の説明なし 手術前に質問…クスクス笑い

 医師や看護師への暴力や暴言が増えている問題で、病院に対して実際にクレームをつけた患者らが読売新聞の取材に応じ、「医者側の説明不足や無神経な態度にも問題がある」と訴えた。

 日本医師会が昨秋から、自戒を込めたテレビCMを放映するなど、医師と患者の間の信頼回復が大きな課題となっている。 医師会、信頼回復に「自戒CM」

 「医師の義務違反ではないか」。川崎市の語学教師の女性(58)は数か月前、同市内の病院の職員に電話をかけた。女性の夫(50)は腕にしびれなどが出る症状で入院したが、2週間過ぎても主治医から治療方針の説明が一切ない。「クレームをつけるのは自分にとってもストレスになるが、つけざるを得なかった」という。

 主治医は、すぐに病状や治療方針などの説明に応じた。しかし、その後、あまり姿を見せなくなり、病室の外で偶然会った際に、夫が手術を催促し、その場で日程が決まった。退院の際、今後の病状や必要な処置を尋ねても、「そのうち治るでしょう」と言うだけ。女性は取材に、「医者が忙しいのはよく分かるが、これでは信頼関係は到底築けない」と語った。

 一方、病院側は「主治医は人気があり、多くの患者を抱えているため、説明などの対応が遅れたかもしれない」と話す。「治療方針や手術は検査が全部終わらないと決められないこともある。こうした事情が患者側に伝わっていなかったのではないか」とも説明した。

               ◎

 「なぜ笑うのか。不安だから色々聞いているのに」。東京都内の男性会社員(36)は、今年春に近所の病院で思わず憤りをあらわにした体験を明かした。転倒してひじを脱臼(だっきゅう)し、初めて手術を受けることになった。「器具の素材は?」「どの程度腕を切るのか」などと質問すると、医師は面倒くさそうな態度で返答し、看護師の女性はクスクスと笑ったという。

 男性の抗議で、医師は謝り、看護師も笑いを止めた。「いまだに不快感はぬぐえない。不安な患者の気持ちをくみ取らない医師や看護師の態度が、暴言などに結びついてしまうのだと思う」と男性は振り返る。

 「病院側の診てやってもいいという態度に頭にきた」「医師から満足な説明もなく、嫌みな態度をとられた」――。読売新聞にはほかにも、医師や看護師の問題を指摘する投書が読者から寄せられている。

               ◎

 日本医師会は昨年10月から「医師の心ない一言」というテレビCMを放映。「おれの治療を拒否したんだ。もう診ないぞ」「素人に話しても時間のムダ」など、あえて医師の暴言をテロップで流している。同医師会では、「医療関係者が患者との接し方を見つめ直すきっかけにしてほしかった」と話す。

 東京大医科学研究所の上(かみ)昌広・准教授は「今の医師は、副作用の説明や同意書の取得などに割く時間も増えており、余裕がなくなっていることが患者の不信感を招いている」と指摘。「看護師などのスタッフも患者への説明に当たって医師の負担を軽減したり、病院の理事会メンバーに患者を加えて患者側の求める情報を把握したりする、新たな仕組み作りを模索すべきだ」と提言している。

横暴な患者に病院苦悩…暴力430件 暴言990件

2007年08月19日 読売新聞 Yomiuri On-Line

聴診器で医師の首絞める 検査異常なし「金払わぬ」

 全国の大学病院で、昨年1年間に医師、看護師が患者や家族から暴力を受けたケースは、少なくとも約430件あることが、読売新聞の調査で明らかになった。

 理不尽なクレームや暴言も約990件確認された。病気によるストレスや不安が引き金となったケースも含まれているが、待ち時間に不満を募らせて暴力に及ぶなど、患者側のモラルが問われる事例が多い。回答した病院の約7割が警察OBの配置などの対策に乗り出しており、「院内暴力」の深刻さが浮かび上がった。

 調査は、先月から今月にかけ、47都道府県にある79の大学病院を対象に行い、59病院から回答があった。このうち、何らかの暴力あるいは暴言があったと回答した病院は54にのぼる。暴力の件数は約430件、暴言・クレームは約990件。暴力が10件以上確認されたのは6病院、暴言・クレームが50件以上あったのは5病院だった。

 「クレームはここ2年間で倍増した」(大阪大医学部付属病院)など、暴力や暴言・クレームが増加しているという回答は、33病院に達した。ただ、こうした件数や事例を記録に残していない病院もあり、今回の調査結果は、「氷山の一角」の可能性が高い。

 暴力の具体例では、入院手続きの時間外に訪れた軽いけがの男性に、医師が「ベッドの空きがないので明日来てほしい」と告げたところ、缶コーヒーを投げつけられ、注意すると顔を殴られて、顔面を骨折したケースがあった。入院患者から「言葉遣いが気に入らない」という理由で足に花瓶を投げられた看護師もいた。けがを負う病院職員は少なくないが、「病気を抱えて弱い立場にいる患者と争うことはできるだけ避けたい」という意識から、警察に届け出ない場合も多いという。

 暴言・クレームでは、複数の患者がいたために、すぐに診療を受けられなかった患者の家族が、「待ち時間が長い」と腹を立てて壁をけったり、暴言を吐いたりした。検査後に異常がなかったことがわかると、患者から検査費用の支払いを拒まれた病院もあった。

 精神疾患や重い病気で心理的に追い詰められた患者が、暴力や暴言に走ってしまった事例もある。しかし、多くの病院は、それ以外の患者や家族による理不尽な行為に悩んでおり、「(一部の患者から)ホテル並みのサービスを要求され、苦慮している」(慶応大病院)との声が上がっている。

 具体的な対策をとっている病院は44にのぼり、警察OBを職員に雇い、患者への応対に当たらせている病院は21、暴力行為を想定した対応マニュアルを作成した病院は10あった。院内暴力を早期に発見・通報するため、監視カメラや非常警報ベルを病棟に設置する病院もあった。

患者の暴言 警察OBが対応

2007年06月30日 読売新聞 Yomiuri On-Line

北大病院に「保安員」

 外来患者から無理な要求や暴言を受けるトラブルに対処するため、北海道大病院(札幌市北区)では、道警OB1人が「保安担当員」として配置されている。第三者的立場で患者の主張を聞く一方、理不尽な要求には厳然と対処する。

 全道から1日約2300人の外来患者が訪れる北大病院は、苦情も年間約200件にのぼる。待ち時間の長さなど一般的な苦情に加え、最近は「患者が希望する薬を処方しなかったため、怒って110番された」「主治医が不在で代わりに診察した医師が『あんたじゃ信用できない』と侮辱された」など、身勝手なものも目立つという。

 1、2時間かけて説明しても患者が納得せず、他の診療に遅滞が生じる場合もある。「患者に心ない言葉を浴びせられ、意欲を失う医師も少なくない」と同病院関係者は話す。

 2003年度からは、苦情に対応する「患者相談室」を開設したが、担当の事務職員は法律の専門知識に乏しく、判断に迷うケースも多かった。そこで今年4〜6月を試行期間として警備会社に業務委託し、道警生活安全課を退職した50歳代男性を保安担当員として配置した。

 保安担当員はPHS(簡易型携帯電話)を持って院内を巡回し、月10件ほどのトラブルに対応している。また、看護師や受付職員を対象にマナー向上の講習会も開いた。試行が好評だったことから、病院は配置を年度末まで延長することを決定した。

 社団法人全日本病院協会の西沢寛俊会長(特別医療法人恵和会理事長・札幌市)は「警察OBが常駐するケースは聞いたことがない。患者との対話は病院の責務で、外部の人に解決を委ねることには慎重であるべきだ」と話している。

(2)患者の「院内暴力」急増

2007年05月01日 読売新聞 Yomiuri On-Line

苦情対応 信頼回復の試み

 「おれの親を殺す気か」「お前ら、謝れ」

 今春、関東地方の病院の面談室。末期の入院患者の息子が主治医や看護師を相手にどなり声を上げた。

 会社勤めの息子は「普通の人」に見えたが、入院時に窓口に伝えた容体の変化が主治医に正確に伝わっていなかったことを知ると、態度をひょう変させた。

 面談室の扉の側に息子ら家族を座らせたため、医師たちは出口をふさがれた形になった。3時間近く罵声(ばせい)を浴びた末に土下座を強いられた。精神的ショックが尾を引き、何人かが数週間、職場を休んだ。病院は刑事告訴も検討したが、医師たちは「もう思い出したくない」と拒んだ。

 最近、医師や看護師が患者から暴言を浴びるケースが増えている。医療現場でそんな声を聞いた北里大医学部の和田耕治助教らが昨年、病院の臨床医485人を対象に調査したところ、過去半年間に患者の「暴言」を受けた医師は25・8%に上った。「暴力」を受けたケースも3・1%あった。看護師への暴言・暴力は、医師へのそれよりも、はるかに多いとも言われている。

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 「コード・ホワイト!」。カナダ・モントリオール病院(417床)では、こんな放送が頻繁に流れる。患者の暴言、暴力への緊急対応を意味し、心肺停止などの緊急事態を示す「コード・ブルー」に次いで放送頻度が高い。

 体格のいい看護助手ら5人のチームが現場に駆けつける。興奮する相手との交渉術、けがをさせずに押さえつける技は研修で習得済みだ。「カナダでも医師不足は深刻。職員を大切にして離職を防ごうという発想」と担当者は説明する。

 ここまで徹底はしていないが、日本でも医師や看護師を守る動きが出ている。

 医療安全対策の先進病院とされる千葉県の船橋市立医療センター。昨年度に院内で起きた暴力・威圧、不審者侵入などの事件は17件で、4年前の3倍に増えた。関係機関と連携して対策マニュアルを作り、4月下旬には「ノーバイオレンス 暴言・暴力お断り」のポスターを張った。

 「院内暴力」が頭をもたげる背景について、同センターの唐沢秀治・医療安全管理室長(副院長)は、こう分析する。「医療とは『最善の行為は保証するが、最高の結果まで保証するものではない』ということが社会で理解されずにきた。病院も、患者の苦情への対応がはなはだ不十分だった」。そこへ押し寄せた医療不信の波。今の医療現場は「立場の違う者を思いやれない現代社会の縮図」だと唐沢室長は指摘する。

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 失われた信頼関係を取り戻す試みも始まっている。

 4月中旬、東大病院の喫茶店で、血液がんの患者ら約20人と医師3人による「院内患者会」が開かれた。この日の話題の一つは骨髄移植。

 「生存率のデータなど知りたくない。『治してあげる』の一言でいい」。患者のひとりが苦しい胸の内を明かした。医師も本音で返す。「100人中99人が助かっても、1人が悪くなったら医師の責任にされる。そんな時代なんですよ」

 参加した医師はこう言った。「十分な時間さえあれば私たちは分かりあえる」

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 東京・葛飾の新葛飾病院で、豊田郁子さん(39)がセーフティーマネジャー(安全管理担当者)として働くようになったのは、4年前に別の病院のミスで5歳の息子を亡くしたことがきっかけだった。今、全国の病院で年間50回ほど自分の体験を語っている。最近気がかりなのは、講演先で知り合った医師や看護師の生の声が両極端に分かれていることだ。

 「患者さんは医療上の過失を責めていたのではなく、我々の不誠実な態度に怒ったのだと気づきました」。こう話す人が増えた一方、「クレーマー(不当な要求をする人)ばかり。我々こそ被害者」という人も。

 「今は過渡期。患者と向きあう努力を重ねる病院はきっと支持され、残っていくはず」。豊田さんはそう思っている。

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