受講レポート:平成10年度スポーツ医・科学研修会
[Ozawa Rowing Top Page] [Seminar Library INDEX] update:1998.12.16
平成10年度より,広島市でもスポーツ医科学分野でのスポーツへの支援事業に着手した.その一環として,98.12.12,広島県立総合体育館で開催された標記研修会(主催:広島市体育協会)の受講レポートをここに記す.これはつまり,研修会の公式ダイジェストではなく,一受講者の個人的な記録,つまり受け止めた側の記録であることをご認識下さい.したがって記載内容については,講話者(発信者)の意図・表現・構成したことと異なる部分があり,また講話者・主催者に責任はありません.
研修 「測定結果に基づいた運動処方について」 佐々木英夫(広島市健康管理センター)
1 広島県のスポーツ医科学分野の組織・経緯
広島県では,広島国体を契機にジュニアのメディカルチェックを始めた.事業はなお試行錯誤の段階であるが,データの蓄積が進みつつあり,今後の活用が期待できる.広島市でも同様の主旨によりメディカルチェックを開始した.広島県のスポーツ関係の医師,トレーナーの組織についての説明.県スポーツドクター協会には477名,県トレーナー協会には99名の登録があり,それらの約2/3は広島市に在住している.なお,いわゆるスポーツドクターと呼ばれる資格制度が,日本には3つあり,日体協公認スポーツドクター(107),日本整形外科学会認定スポーツ医(143),日本医師会認定健康スポーツ医(367)がある(カッコ内の数字は県内の登録人数).また,トレーナー資格にも日体協,陸連など複数あるが,徐々に整備されつつある.なお県体協との関係では,そのスポーツ医学委員会と県スポーツドクター協会,スポーツ科学委員会と県トレーナー協会がリンクしている.このうちスポーツ医学委員会の活動内容は,メディカルチェック,国体への帯同,スポーツ栄養,選手指導者等への啓発活動,トレーナー協会の育成などがある.
2 メディカルチェックの概要
広島県で実施した国体選手を対象としたメディカルチェックの事業制度の説明.実際的な効果として,チェックで強度の貧血がみつかり対処がなされたり,異常を発見して大きなリスクを負う前に激しい練習・競技生活から引退せざるを得なかった事例を紹介.なおチェックによる理学的所見がある(ひっかかる)のは,内科系について約9%,整形外科系で約17%前後といったところである.メディカルチェックの活用としては,問題点の指摘のだけに留まらず,栄養や運動処方の助言まで行うべきであるが,全体の約4割が要指導であり,また3%は要医療となる.要指導で多いのは,整形外科的系17%,心電図17%,尿所見38%,血液24%,貧血3%.また要医療で多いのは,腰20%,その他整形外科系(主に足や膝)32%,尿4%,血液4%,貧血40%である.全体として,コンディショニングとオーバートレーニングに対する注意が重要である.
3 メディカルチェックの項目のポイント・栄養摂取のポイントなど
ヘモグロビン分析値による貧血のチェック,筋肉の疲労指標としての血中CPK,血中コレステロールによる栄養摂取の偏りの評価(缶ジュース・コーヒーなど単純糖類摂取過多の問題)などの説明.エネルギー摂取量については女子で不足が目立つほか男子での一部過多,カルシウムの不足が目立つ(全体の約1/3)こと,鉄の不足(特に女子では約40%)などの指摘.食生活の問題は大きい.
4 今後のメディカルチェックの課題
課題として,受診率の向上,方法(将来的には巡回チェックを視野にいれる),項目の見直し(競技別項目),効率的なフィードバック方法の検討の検討(例:選手手帳)などが挙げられる.なかでも国体の帯同の実績は約20名程度なので,医者に対する敷居の高さを取り除き,ボランティア精神を基本に相互に有効活用と協力ができる関係を築きたい.
5 メディカルチェックについて事例説明
サッカー,陸上,柔道の3選手のメディカルチェック事例の説明.詳細省略.
6 質疑応答
Q1:メディカルチェック項目について,全体として指標が瞬発系に偏っているのではないか?効率的なチェックの限界もあると思うが,見直しの方向性,海外での項目等を教えて欲しい.
A:項目の構成について質問された傾向があると思われる.今後の検討課題である.項目数としては,広島県のチェック項目はかなり充実・網羅していると言えるだろう.
Q:単位体重あたりVO2maxについて,体重の2/3乗で割る指標もあるとおもうが,そのあたりの評価は?.
A:体重の2/3乗という指標にも意味があるが,ここでのVO2maxテストは,実際に選手の体重で割ってもとめたのではなく,直接求められるテスト法なので,これでも充分意味があるといえる.
Q:陸上ジュニア女子の体脂肪率,コンディショニングとしての脂肪の必要性と競技として少ない方がよいことのバランス,陸上ジュニア選手(持久系)の大体の目安は?
A:個人の特性の差もあり一概に言えないが,個人的な見解として一応の目安としては男子13%,女子16%といったあたり.
報告 「先進地調査報告」 原田事務局次長
日体協,日本陸連,横浜市体育協会,横浜市スポーツ医科学センターなどのスポーツ医科学分野の事業取り組みの視察調査の報告.詳細省略.
感想
佐々木先生のお話の内容は概ね有意義であり,受講した価値があった.広島市がスポーツ医科学分野の取り組みに着手したこと自体は評価に値し,今後の発展にも期待したい.またメディカルチェックの重要性も大いに理解しているつもりだ.
ただ,県も市もただメディカルチェックの施設を整え,スタッフを充実し,多くのチェックをしてデータを蓄積し,そしてそれがスポーツ発展の当然唯一の手法だというなんとなくそういった雰囲気には若干抵抗を感じる.県も市も,あっちもこっちも右に倣え,横並びでメディカルチェック競争では,広島市の独自性はどこにあるのだろう?とふと思う.運動生理学的側面の,それはそれとしても,もっと別の視点からのアプローチで独自性をだすのも面白いのではないか?例えば,メディカルチェック事業は県にまかせて,市はバイオメカニクス,スポーツ心理あるいはモラル,スポーツ社会学あるいはスポーツマネジメント,種目間のクロスオーバー的なあるいは融合的な交流,そういったことのどれかひとつ,独自のアプローチに重点をおくといったことである.
無難なラインを踏襲することで誰も文句を言わないかもしれないが,そのような姿勢こそがスポーツの本質的なチャレンジ精神喪失と密接にかかわる現代的現象かもしれない.「失敗をおそれずあたらしいことにチャレンジする」とよく言われることを,スポーツ行政,施策の上でも具現して欲しい.ただ,スポーツ「医学」のほうには人材は溢れている?が,「広義の」スポーツ科学についてはそれほど人的資源が多くないのかもしれない.先頃亡くなられた織田幹雄氏の理念や姿勢をどう現代のジュニアに継承するか,あるいはもっとあたらしい時代での優れた先輩たちの志を,精神論でなく「科学する」ことをつうじて継承するというようなアプローチはできないものだろうか?
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