スターウルフ

A GREAT GALACTIC ADVENTURE SERIES!!

 

わしがガキの頃、大好きだったTV番組のひとつに「スターウルフ」がある。
TV版「スターウルフ」についてはこちらを見ていただくとして、ここではその原作となった小説について語っていく事としよう。

わしはTVの「スターウルフ」が大好きだったが、もうちょっと大きくなってSF小説を読むようになった頃、文庫本の巻末に付いている作品紹介の広告欄に「さすらいのスターウルフ」というタイトルを見付けた。
「もしや、これは……」と思ったわしは、その後実際にその本を見付けて読んでみたのだが、どうもなんだか同じような、違うような、妙な感覚を覚えたものだ。

TVのスターウルフは、TV用に大幅な変更が施されていた。さらに、番組後半では大幅な路線変更が行われた。TVと小説ではキャラ名が違っていたり、TVで印象的だった場面が小説版には全く無かったりしたのだ。そのため、わしは余計に混乱してしまった。

だが、決してつまらないというわけではなかった。それどころか非常に面白いと思った。

 

 

スペースオペラの金字塔!

「スターウルフ・シリーズ」は、「キャプテン・フューチャー」で有名なSF作家、エドモンド・ハミルトンの作品だ。
日本では野田昌宏氏の翻訳で「さすらいのスターウルフ」「さいはてのスターウルフ」「望郷のスターウルフ」の全三冊が刊行されている。

実は……おどろくなかれ、この「さすらいのスターウルフ」こそは「早川文庫SF」の記念すべき第一号なのだ。最初に刊行されたのは1970年。それより前には、早川文庫SFはこの世に無かったのだ。なんだか不思議な気分である。
SF好きの本棚には必ず置かれている早川の一冊目が実はスターウルフで、しかも1971年1月生まれのわしとは同級生だとはじめて知った時には驚いたものだ。

 

実は、少し前まで「スターウルフ・シリーズ」は品切れとなっていて、結構入手しづらい状況が続いていたのだが、1994年に表紙などを新しくした新装版として再刊されているので、現在は容易に入手できる。

新装版は、旧版とは一部の表現が変えられていたりして、ちょっと不満がある。横山 宏氏の表紙イラストも、わしの持っているイメージとは少々ズレがあってそれほど気に入っているわけではない(前の表紙がいいかと言われると、それも困ってしまうが)。
だが、新作と同じように、過去の名作が近所の本屋で手軽に買える、というのはありがたい事だ。
入手が難しい名作はまだまだある。新作と同じくらい、復刊にも力を入れて欲しいと思う。

 

 

さすらいのスターウルフ

宇宙を走る一隻の宇宙船に、一人の傷ついた男が乗っていた。
彼の名はモーガン・ケイン。そして彼は、スターウルフの一員だった。

 

想像を絶する高重力の惑星ヴァルナ。そこで生きるヴァルナ人は皆、驚異的なすばやさと怪力、強靭な肉体をもち、凶悪無比の略奪行為を生業としていた。
地上戦では驚異的な運動能力を発揮し、宇宙船による戦闘では体にかかる強烈なGをものともせずに猛加速とムチャな機動を平気で繰り返す。ヴァルナ人を倒す事の出来るものは宇宙のどこにもいない。彼らは「スターウルフ」と呼ばれ、全宇宙で忌み嫌われ、恐れられていた。

地球人でありながら惑星ヴァルナで生まれ育ったケインは、スターウルフとして宇宙の様々な惑星を襲い、悪徳の限りを尽くしていた。
だが、シャンドール系第五惑星を襲って帰る途中、分け前をめぐるいざこざが起り、殺そうと襲ってきた仲間・スサンダーをケインは逆に殺してしまったのだ。
かつての仲間はみな、ケインを裏切り者と呼び、彼を殺そうと追ってくる敵となったのだ……。

 

傷を負いながら、宇宙船で辛くも逃れたケインだったが、その宇宙船も宇宙塵流の中で破壊された。スターウルフであるがゆえに救助船に助けを求める事さえも出来ない。
船は、スターウルフである事が一目でわかる形をしている。だがもし、船が無かったら?
スターウルフが捕まれば、問答無用でたちどころに殺されるだろう。だが、ケインはスターウルフであっても、ヴァルナ人ではなく、地球人の身体を持っているのだ。
宇宙塵流の外に見知らぬ宇宙船が航行している事をレーダーで捉えたケインは、計器類をバラし、簡単な時限装置を組み上げた。
そして宇宙船のパワーチェンバーを暴走させて自爆するように時限装置をセットすると、宇宙服を着て、推進ロケットを手に船から脱出した。

かれは四方を星の海にかこまれた中で、ただ一人、泳ぎつづけた。
これほど孤独な立場におかれた人間がほかにあるだろうかとかれは考えた。かれの両親は、ヴァルナの大きな重力に耐えきれずに、もうずっと昔に死んでしまっている。ヴァルナにいる友人はすべて、今や、かれを殺すことのみ願う友人たちである。これまでいつも自分をヴァルナ人だと思って生きてきたのだが、かれはそれが今、大きな間違いだった事に気がついた。
家族も、友だちも、国も、惑星もない……そして宇宙船すらも。ただ一着の宇宙服、数時間分の酸素、そしてかれをとりまくのは敵意に満ちた星の海。

(早川文庫SF刊  「さすらいのスターウルフ」より)

ケインを拾ったのは地球の外人部隊の宇宙船だった。

何の資源も持たぬ惑星、地球は、どん底の貧しい星であった。地球が出す事の出来る輸出品、それは人間であった。腕ききの宇宙船のり、技術者、戦士たちは宇宙へと乗り出していった。
地球人で編成された外人部隊は最も手ごわいものとされ、その荒っぽさは銀河中に知れ渡っていた。

外人部隊のリーダー、ジョン・ディルロは、一目でケインの正体を見抜いた。
とらわれたスターウルフを生かしておく者など、銀河中探してもいるはずがない。ウルフが一人死ねば、その日はお祭りになると言われているほどなのだ。
だが、驚いた事にジョンはケインを殺さず、ウルフの手口を知っているケインが今回の仕事に役に立つと考え、そのまま連れて行く事にした。
ジョンが仲間に真相を明かせば、たちどころにケインは殺されるだろう。ジョンが黙っている間だけ、ケインは生きていられるのだ。

 

こうしてケインは、「隕石ヤマ師として星から星へ渡り歩いてきた地球人」と名乗り、外人部隊の仲間となった。
ただ一人正体を知るジョン以外には素性を隠し、危険な仕事に命をかけるケイン。
そして、スサンダーの一族も、仇であるケインを殺すために狙っているのだ。

スターウルフ・ケインのさすらいの旅は今日も続く……。

 

 

宇宙の狼モーガン・ケイン

スターウルフの魅力は、何といっても主人公ケインの特異なキャラクターだろう。
悪の星ヴァルナの住人、宇宙の嫌われ者スターウルフであったケインは、それまでのスペースオペラの主人公とは全く違う。
正義の味方でも何でもない。こいつは悪党、ウルフなのだ。生きていく為、おとなしくしているだけなのだ。
彼が時折見せるウルフの本性や、スターウルフとしての誇りといった部分は、あくまで正義のヒーローであった「キャプテン・フューチャー」などでは見られなかった独特の魅力がある。

また、ウルフ以外の種族を「弱くて、根性も度胸もないヤツ」と考えているケインが、地球人ジョンのみせる気骨にやがて一目置くようになっていくあたりがまた実にいい。
アクションシーンやSF的な仕掛け、オチの部分など、色々と見所は多い。だが、それ以上にわしがこの小説を気に入ってるのは、ケインとジョンのやりとりの部分だ。
お互い全く信用ならない相手でありながら、心の底でどこか通じ合っているという、この男と男のドラマがとても好きだからだ。

ギャル絵で売ってるようなマンガ小説とは対極にあるような表紙だが、中身もまったくそのとおり。ハデハデな大袈裟さは抑えた、渋味あふれるスペースオペラだ。
ぜひ、三作まとめて読んでみて欲しい。

 

 

 

戻る