大盗賊

怒涛千里、城を破り砦を抜く!豪快、世界の三船大暴れ!

 

「究極超人あ〜る」のドラマCDのなかの一編に、光画部の撮影会に新入部員がやってこないので鳥坂センパイが怒る、というものがあった。
そのなかで、新入部員の一人である特撮マニアの女の子が来なかった理由というのが、「『大盗賊』と『奇厳城の冒険』の上映会があるから」というものだった。
ここで濃い目の東宝特撮ファンなら思わず笑ってしまうところだが、CD購入者の大半は、なんのことだかわけがわからなかった事だろう。

もうわかったと思うが、「大盗賊」「奇厳城の冒険」というのは、両方とも映画の題名だ。
「大盗賊」は1963年10月に公開された東宝の映画で、「奇厳城の冒険」は1966年4月に公開された姉妹編だ(直接の続編ではない)。監督は両方とも谷口千吉である。

この映画は、特撮映画とはいっても「アルゴ探検隊の大冒険」のような冒険ファンタジーで、巨大な怪獣が暴れまわったり、超兵器が大活躍したりするような映画ではない。
そのためか、特撮関係の書籍などでも取り上げられる事が少なく、全く触れられていなかったり、あるいはほんの少ししか記述がなかったりすることがほとんどだった。
結構年季の入った特撮ファンのなかにも、この二本の映画を知らないという人は意外と多いのである。

東宝に届くリクエストも少なかったのだろう。「大盗賊」も「奇厳城の冒険」も、長い間LDやビデオなどの映像ソフトが発売されず、観たくても観る事の出来ない状態が続いていた。
非常に面白い作品であるにもかかわらず、何らかの手段で観る事が出来た人の間でだけ大変高い評価を得ていた、いわば「幻の名作」だったのである。

「大盗賊」を観たがる高1の女の子、というのはただでさえ凄く濃いギャグだが、「あ〜る」のCDが出た頃はソフトが発売されるずっと前だったので、上映会があると聞けば、特撮ファンなら絶対何を置いても観に行くに決まっている。まあ、東宝特撮ファンという奴らは、台詞を暗記するほど繰り返し観ているような作品でも、大スクリーンで観られるとなれば大喜びで出かけていくような連中なのだが。
とにかくあれは、この女の子がどれだけ濃いか、どれだけ筋金入りかという事を(わかる人にだけ)示す一発ギャグだったのである。

そんなディープな映画だが、現在では二作品とも、ビデオもLDも発売されているので、いつでも好きな時に観る事が出来るようになった。いい時代になったものである。この調子でどうにか「緯度0大作戦」や「ノストラダムスの大予言」なども早くビデオを出して欲しいものだ。

 

 

「大盗賊」はこんな映画だ!

この映画の主人公、呂宋助左衛門(るそん すけざえもん)は、実在した堺の豪商である。もちろんお話は全部フィクションなのだが、ちょっと面白い趣向だ。
演じるは世界の三船、三船敏郎だ。男の魅力が炸裂するぞ!!

 

豪商、呂宋助左衛門は海賊の濡れ衣を着せられ、火あぶりの刑に処せられる事になった。「そんなはずはない」と言い合う町人たちの見ている前で、罪人を入れた桶が刑場に運ばれてきた。桶はたちまち火にかけられる。
主人公、いきなり大ピンチ!!
だが、焼け落ちた桶から出てきたのは、死体ではなく大きな石だった。
石に貼られた紙に書かれていた文字は「御苦労   呂宋助左衛門」!!

その頃、本物の助左衛門は持ち船・呂宋丸にのって刑場から遠く離れた海の上にいた。
千両箱たった一つで下っ端役人を買収して、刑場に入る前に入れ替わっていたのだ。
「俺は海賊になる!海賊の濡れ衣を着せられたのだ。本当の海賊になるのも悪くない!」
腹心の部下たちにそう宣言すると、ちっぽけな日本には住み飽きたとばかりに、南の海へ向かう。
船には頼りになる仲間達、それに今までの商売で稼いだ財宝をギッシリ詰め込んだ大つづら、そして誰よりも大きな夢をのせて、順調に航海は続く。

 

だが、ある夜物凄い大嵐に見舞われ船は沈没、生き残った部下と共につづらをのせたイカダで漂流する羽目になってしまう。
宝はあっても食料も水もない。絶望的な状況だが、助左衛門はあきらめずにひたすらイカダを漕ぐ。
するとそこへ、黒い色の船が通りかかる。助かったと思ったのもつかの間、その船は南の海を荒らしまわる「黒海賊」の海賊船だったのだ!
つづらに目を付けた黒海賊はイカダを襲う!次々に仲間は倒れ、ついには大つづらまでも奪われてしまった。「つづらを返せ!」必死に海賊船にしがみつく助左衛門だったが、やがて力尽き、海へと沈んでいくのだった……。

 

助左衛門はとある異国に流れ着き、久米の仙人の末裔だと名乗る不思議な老人に助けられる。
女に見とれて雲から落ちて以来、天仙の位から地仙の位へと格下げになった久米仙の一族は代々女に弱く、なんとか弱点を克服して元の位を取り戻そうと修業しているのだという。

仙人と別れた助左衛門は街へとやってくる。
インドのような、アラビアのような、オリエンタルなムードに溢れた、活気のある街である。
するとたちまち女の悲鳴が!酔っぱらった男が嫌がる女を無理矢理連れて行こうとしていたのだ。それも、いいとこ見せようと止めに入った屈強そうな若者を数人まとめて投げ飛ばす豪傑である。
さあ、我らが助左衛門との対決が始まる!と思いきや、その豪胆さから逆に気に入られてしまい、一緒に飯を食う事になってしまった。
男はスリムと名乗った(演じるは神宮寺大佐の田崎潤!太ってるのにスリムというのが可笑しい)。城で王に仕える近衛剣士をしているという。助左衛門をスケザと呼び、その腕前を見込んで「剣士にならないか、城へくればいつでも大歓迎だ」と誘う。
だがスリムが去った後、飯屋の女主人に聞いてみると、この国を治める羅刹王は血も涙もないヒヒ爺とあだなされるほど評判が悪いのだという。

大通りへ王の一人娘、弥々姫(ボンドガール浜美枝!)が来ていると知り、見に行った助左衛門はその美しさに驚くが、もっと驚いたのは姫のつけている首飾りが、黒海賊に奪われた財宝の中のひとつだった事だ。そのただならぬ表情に気付いた姫は、助左衛門の前にハンカチを落としていくのだった。
王と黒海賊の間に繋がりがあると睨んだ助左衛門は城へと向かうが……。

 

ここまででわずか20分!!
出だしからしてこの調子である。とにかく次から次へと事件が起り、状況が二転三転するので、目が離せない。
物凄いテンポの速さで、息つく間もなく進んで行くあたりは、とても35年以上も前の映画とは思えないくらいだ。

この後も、飯屋の女主人が実は屈強な男どもを従えた盗賊団の女頭領(水野久美!カッコイイぞ!)だったり、姫を我が物にし王の座をも狙う宰相(電送人間の仲丸忠雄だ!)や、宰相に協力する妖術使いのオババ(天本英世が怪演!)など、魅力的なキャラクターが次々に登場。どんどん盛り上がっていく。
もちろん、アクションの面からも、仙人対オババの仙術・妖術の対決や、盗賊団を率いた城攻め、黒海賊の首領(独立愚連隊の佐藤允だ!)と助左衛門の一騎討ちなど、見所は満載だ!!

 

もうひとつ面白いのは、実はこの映画が、かの名作「ルパン三世 カリオストロの城」の元ネタだったりする事だ。
ストーリーは全然違っているのだが、ビジュアル面に関してはかなりパクられている。
信じられないかもしれないが見てもらえば一目瞭然で、冒頭の「御苦労」の貼り紙からしていきなりパクられてるし、「落とし穴」「ムリヤリ結婚式、しかもズラリと並んだ兵士が剣でアーチを作ってその下をくぐったりする」などなど、どっかで見たようなシーンが続出!
宮崎駿もパクるほどの面白さ、というわけだ。
そういう、妙な意味でもこの映画ははっきり言って必見である。
「大盗賊」を見終わったらその後は「カリオストロ」も観てみよう。面白いぞ!!

 

この映画がつくられたのは、前年に「妖星ゴラス」や「キングコング対ゴジラ」、同年5月には「青島要塞爆撃命令」、8月には「マタンゴ」、12月には「海底軍艦」という凄まじいラインナップをみてもわかるとおり、日本の映画にまだまだ力があった時期である。
それだけに、端役も含めた役者はもちろんのこと、街のセットだとか、城のミニチュアだとか、群集シーンだとか、全編を通じてあらゆる部分から熱気が感じられる。
主演が三船敏郎というだけあって大作扱いであり、正直いって現在では同じ規模での撮影は全く不可能だと断言できる。
合成シーンなどは今の目で見るとややツライ部分もあるが、その豪華絢爛さには圧倒されるばかりだ。

かつては日本でも、剣と魔法の世界を舞台にした、このような痛快活劇がつくられた時代があったのだ。
もっと多くの人に観てもらいたい快作である。

 

 

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