ヤダじぃのひとりごと
就労について

平成27年12月31日

  暖冬とは言え、ここまで暖かい年末は初めてである。異常気象のことが話題になり久しいが、自然環境が狂い始めているのは間違いなかろう。
  今年は勤務先の病院の救急病床が99床となり、全病床数の23%を占めることになった。しかし、救急病棟の入院も高齢化が進んでおり、身体管理面で内科医師のお世話になることが増えた。新規の救急受診者を20人診ても、急性期統合失調症の患者さんに当たることはなくなった。今年は、認知症やせん妄など器質性精神障害の初診の割合が多かった。統合失調症だと思ったら、結果的には脱水に起因すると思われるせん妄だと考えざるを得ないような症例が続いた。病院全体では、気分障害圏の患者さんの割合が増えていると思う。時代とともに、受診する患者さんも変化するのである。おそらくこれは病院によっても異なるとは思われる。保健センターや保健所の精神保健福祉相談の内容も10数年の間に変化しつつあるように思う。このあたりは、またいずれ記載したい。
  さて、統合失調症治療に関して言うなら、今年は非常に就労する患者さんが多いことが特徴的であった。中には10年ぶり、20数年ぶりに職についた患者さんもいらっしゃる。これは、就労に関する意識の高まりと、支援体制が整ってきたからであろう。やはり、就労移行支援事業所の役割が大きいと思う。就労移行支援事業所は当院を含め、広島市内にも数か所以上はありそうだが、今年就労を達成した人達は、この就労支援事業所の利用を経ている例が多い。事業所により支援内容にはバラつきはあるようだが、スタッフがハローワークや面接に同行してくれるのが嬉しい。さらに、就労後も何らかの不都合が生じた時に、職場との間に入って話し合いの場を持ち、あれこれ調整してもらえることが大きい。そのために辞めることなく勤務が続けられるメリットがある。過去には「働けます」と自分で職を見つけてきても、能力不相当だったり、続かなかったり、あるいは治療があいまいになったりで病状が悪化する例が多かった。今は働くことが治療的に作用し、病状そのものが良くなるケースも出てきた。40代女性のKさんは、10年近く前に2ヶ月半の入院歴があるが、退院後もずっと「頭の中で複数の人と会話する」症状がとれなかった。そして、ずっと引きこもっていた。ところが、1年半前に週5日フルタイムで働くことになった。最初は相当しんどいと訴えていたが、働き始めてずいぶん明るくなり、それまで無表情だったのに笑顔を見せるようになった。今は「全く聞こえなくなりました。そんなことを考える暇がないんですよ」と笑う。
  これまで、急性期治療後はデイケアの利用か、作業所(就労継続支援B型事業所)か、一般企業就職かの選択が多かったが、今はそれに加え、自立訓練事業所、就労移行支援事業所、就労継続支援A型事業所など、利用資源の選択肢は確実に増えた。今後はこれらの資源をうまく活用できるような援助が治療者側に求められることになろう。
  私はそろそろ人生の秋に入りかけ、若い世代の方々についていけない感を持つことが非常に多くなったが、中国新聞の天風録で、「脳科学の研究が進むアメリカでは、50代半ばから70代前半にかけては新たな境地に己を解き放つ成長段階だとの新設が唱えられている」との記事を読み、少し希望が持てたような気がする。精神科の領域には流行がある。その流行に関心を持ちながらも、流されることなく、自分なりの臨床的視点は大切にしていきたいものである。

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