ヤダリンのひとりごと
2013年終わり

平成25年12月31日

   今年は、精神科常勤医が6名も(非常勤医の常勤化も含め)増えた。すごいことである。精神科だけでも常勤医が16名、非常勤医が12名いることになり、内科(常勤、非常勤)を加えると、医局は総勢40名になる。顔がわからない非常勤の先生方も何人かおられる。医局は物理的に窮屈になり、遠回りをするかよけてもらわないと自分の座席に到達できないことがある。熱心な先生方が多く、病院全体の医療レベルは確実に上がっている。ECT(電気けいれん療法)の専門家、精神分析の専門家、認知行動療法の専門家、認知症の専門家などが揃っている。
   病院が精神科救急に参画し5年以上経過し、24時間体制での患者受入れも当然のように円滑に行われるようになった。ただ、常時対応がマイナスになるケース(緊急ではないがさまざまな方法でもって緊急対応を要求してこられる場合)については引き続き検討の余地がある。来年は改正された精神保健福祉法が施行されるため、移行にスムーズに対応できるようスタッフ皆が十分理解しておく必要がある。
   福祉サービスの充実も今年のトピックにあげられよう。退院後に患者さんが利用可能な資源はずいぶん増えた。これは患者さんにとってありがたいことである。中でも自立訓練事業所「梅の里」の日中利用の成果はずいぶん上がっているように思う。デイケアにはうまく溶け込めず、引きこもりがちで継続した利用が難しい方が少しでもQOLを上げられるよう、細かい対応をしていただける。送迎や訪問が可能なこと、期限内にステップアップを図る努力を要求されることなどがプラスに作用していると考える。本当にスタッフはよくやっている。今後ますますの充実を期待したい。
   ただ、入院中の患者さんの地域移行支援に関しては、一時混乱があった。主治医や病棟が十分把握しないうちに、利用や契約の話が進むことが続いた。誰が利用しているのかいないのか、さっぱりわからないのである。そして、患者さんの退院要求の窓口として使うという誤解があった。その結果、隔離室対応を要するレベルの患者さんに地域移行支援の利用契約がされるといった事態が発生した。主治医の目の届かない所で、退院の話が進むという異常な状況が起き始めていた。福祉は医療を無視して話を進めるのかとあちこちで文句を述べていたら、最近はやっと地域移行支援の利用に関して主治医が意見を聞かれるようになり、本来あるべき姿になった。
   草津病院では、本年から365日OT(作業療法)が始まった。日曜祝日、盆正月にもOTがあるのだ。これもすごい。ただ、全国的には認められていない地域もあるようだ。休日のOTは患者さんからの評価が高いと聞く。OTR(作業療法士)から主治医への報告も充実しつつあり、看護記録のみならず、OT記録から得られる情報も増えてきた。けっこう個別対応も行われているようで、患者さんがOTを話題にすることが増えた。アイデンティティをしっかり持った若いOTRが多い。OTは草津病院の入院治療プログラムの核になりつつあることは違いない。この領域は創意工夫可能な幅が広く、それが臨床効果に与える影響が大きいと思われるため、今後の活動がますます期待される。
   一方、PSW(精神保健福祉士)の存在感はなくなった。精神保健福祉法関連も含め、ほぼすべての診断書や意見書の扱いや入院時手続きの業務が医事課に移行したこと、PSWが認知症疾患センターの専従職員のようになっていることが関係していると思われる。PSWは院内でしだいに孤立しつつある印象である。
   受付への苦情は少しは減ったが、なお続いてはいる。ここは外部委託領域なので何も言えない。「受付は草津病院でなく別会社です」と何度説明したことか。外来完全予約制への移行で、外来診療効率は格段に落ちた。私は年のせいか、電子カルテ上でこの予約をとる操作が面倒くさくてしようがない。さらに強迫症状が出て、きちんと予約がとれたか予約画面を繰り返し確認する癖のため、大幅に時間がかかるようになった。特に8週間先の予約など、画面のカレンダー上で人間がいちいち数えなくてはならず、どっと疲れてしまう。この作業のため、次の人を呼び入れるまでに休まないといけないことがある。次回予約が簡単にでき、通常の画面でそれがわかるような電子カルテ上の操作性の向上を緊急に望みたい。これが実現するまでは、処方の細工をするなどして、とにかく診察患者数をいかに減らすかを常に考えることになるだろう。不規則な受診のため、予約をとらずに来院された方の扱いももっとスムーズにしていただきたい。
   研修医の先生方の対応も今年は多かったように思う。研修医の先生方にもバラつきが多く、熱心な方がいるかと思えば、こちらがレクチャーをしている時に居眠りをしたり、大儀そうな態度をとる先生もいる。居眠りしている人を前に話し続けるのは、どっと疲れてしまう。
   以上、私の個人的意見であることを了承していただきたい。

   さて、ここからは精神科薬物療法の話である。ジプレキサが統合失調症の急性期に使いやすく、特に瞬時に口腔内で溶解するザイディス錠が患者さんの受け入れが良く、治療導入しやすい剤形であることは全国的に十分浸透してきたと思う。ただ、代謝系への大きな副作用を持ちながらも、維持期にも非常に優れた薬剤であることはまだまだ強調していく余地がありそうである。それは、揺らぎに強いことである。統合失調症の患者さんは、些細なことがストレスとなり調子を崩すことがあるが、ジプレキサを服用している患者さんは、少しの揺れでは脱線しない。軌道修正が可能である。再発が起きても、入院せずに復活する場合は他剤服用者よりも多いと思われる。これは長期維持を考える上で重要である。また、ジプレキサを長期服用することで進行する機能低下が少ない気がする。
   最近、インヴェガの効果に注目していることは少し前にも書いたが、11月にはその持効性注射剤であるゼプリオン(4週間に1回の注射で効果が持続する)が発売された。もともと、我々の病院では即効型注射剤の使用は少なかった。持効性注射剤も浸透しなかった。これに対し、さまざまな理由で当院の患者さんの服薬アドヒアランスが良好であるため、持効性注射剤は不要なのだと自惚れていた。それに、注射を勧めても拒否されることが多かった。さらに、非定型抗精神病薬の持効性注射剤はこれまでリスパダールコンスタしかなく、これは隔週1回で注射を要するため、祭日や休診時の受診日の調節が困難であった。最近、以前より持効注射剤を受け入れる患者さんが増えた気がする。これは、注射を勧める対象者が変わったからかもしれない。患者さんに受け入れられない治療は望ましくない。服薬をわずらわしく感じたり、うっかり忘れたり、自己調節してしまう、あるいはスポーツをするなどの理由で、医師の提案した注射治療を患者さんが受け入れる場合もけっこうありそうだ。以前の対象者は内服や治療を拒否する方だった。そうではなく、治療の必要性を感じているが、それが実行されにくい、あるいは服薬継続が面倒だと考える場合が持効性注射剤の最も良い適応になるのであろう。飲む薬があることで、安心できるタイプの患者さんは内服治療が良い。あくまで、持効性注射剤は維持治療の選択肢の一つであり、全てそれで解決しようとしているわけではない。発症以来10数回入退院を繰り返していたが、従来薬の持効性注射剤であるフルデカシンを使うことで、6年近く入院することなく、安定度の高い寛解状態を維持している例がある。来年にはこれまた持効性注射剤であるエビリファイメンテナの発売も控えていると聞く。適切な使用がされれば、持効性注射剤も有効な治療手段になるであろう。
   気分障害の薬物療法についても、注意が払われるようになってきた。双極性障害の維持療法の基本は気分安定薬であり、うつ病相で抗うつ薬を使わないこと、躁病相あるいはうつ病相には、気分安定薬に適切な非定型抗精神病薬を併用することがポイントとなろう。また、今年はエビリファイがうつ病の増強療法の適応を取得した。これは使える方法だと感じている。私がうつ病治療に慣れていないからかもしれないが、抗うつ薬がすきっと効く人は意外に少ないと思ってきたが、エビリファイ3mgを上乗せすることで、すみやかに良くなる例をいくつか経験した。
   治療及び治療環境は確実に進歩している。私はもう、孫のいるジジィになったが(この孫がめちゃかわいい子である)、進歩に取り残されないように勉強を続けていきたい。(若干、周囲の流れに遅れを感じることは増えてきたし、個人的にやっかいな課題を抱えてはいるが…)

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