ヤダリンのひとりごと
躁病治療のスタンダードはエビリファイに?

平成25年1月27日

   当院における躁病の薬物療法を調査してみた。こういうことが比較的簡単にできるようになったのも電子カルテ(当院ではベータソフト社のアルファを採用)のおかげである。平成24年7月〜12月の半年間で、躁病あるいは双極性障害の躁状態で入院した人が26名いた。その大部分は隔離室を含む閉鎖病棟への非自発的入院であった。26名のうち治療開始当初から抗精神病薬が使われていた人は23名であった。そのうち14名はエビリファイが、7名はジプレキサが、2名はセロクエルが処方されていた。そして、エビリファイが投与された14名のうち9名は治療開始時に気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸など)の併用はなかった。そして14名のうちほとんどがエビリファイ24mgで治療開始されていた。それもOD錠(口腔内崩壊錠)が使われていることが多かった。
   躁病は本人は気分が良く、絶好調かもしれないが、おしゃべりで過干渉で怒りっぽく攻撃的であることも多く、大きなことばかり言い、浪費したり対人関係の破綻をきたすやっかいな疾患である。しかし、本人の主張は理屈が通っているので周囲は困ることが多い。これまで躁病の治療と言うと、炭酸リチウムやバルプロ酸など気分安定薬を核として、それにジプレキサ、セロクエル、リスパダールといった非定型抗精神病薬や鎮静系の従来薬(定型薬)を使うことが多かった。そして経過により、抗精神病薬を減量〜中止し、気分安定薬だけにするというのが標準的であった。炭酸リチウムやバルプロ酸は単独では激しい躁状態には太刀打ちできず、効果発現にはある程度の時間が必要であった。しかし、次の病相の防止には威力を発揮した。気分安定薬1剤で維持されない場合は、2剤3剤と組み合わせた。
   エビリファイは多くの場合、単独で躁状態をすみやかに改善することが可能との印象である。反応はかなり早い。しかも、これまで抗精神病薬を使った場合、その多くは、逆に元気のない、少し抑え過ぎた状態になることが多かった。エビリファイの場合、そうならない。ちょうどいいレベルに滑らかに移行する。躁はおさまったものの退院前頃になるとうつ的になることがよくあったが、それが起きない。さらに、多くの患者さんは薬への不快感を持たない。もう一つ、今は瞬時に溶けるタイプの口腔内崩壊錠(OD錠)があるので受け入れられやすい。OD錠の患者さんからの評価は絶大なものがある。エビリファイの口腔内崩壊錠は諸外国にも存在するが、エビリファイにこの瞬時に溶けるザイディスタイプ(イギリスのキャタレント社による)を採用しているのは日本だけと聞く。日本がエビリファイを3mg錠と6mg錠の発売からスタートしたのは失敗であったが、口腔内崩壊錠にザイディスタイプを採用したのは正解だった。そしてOD錠には24mg錠という高用量錠が存在する。今後、躁状態がおさまったあとの維持効果すなわち次の病相の予防効果がどうなのか着目していく必要があるが、この点に問題がなければ、すなわち単独で気分安定薬の効果も望めるものなら、躁病や双極性障害の治療は、最初からエビリファイOD錠1個を飲み続ければいいことになり、こんなに簡単なことはない。炭酸リチウムやバルプロ酸は錠剤がでかいし、数や服用回数が多いので飲みにくさがある。それがもし不要になるなら患者さんに福音をもたらす。
   『気分安定薬を核とし抗精神病薬を併用』していた従来の躁病治療は、『エビリファイ24mgOD錠を核とし、時に気分安定薬を併用する』形に変わってくる気がしてならない。

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