ヤダリンのひとりごと
今日の「ピーナッツ」

平成24年5月23日

   私は今日は週休であるが、「ピーナッツ」の当番のため、午後は病院に行った。「ピーナッツ」は数年前から当院で行われている統合失調症心理教育プログラムである。当初は急性期病棟の患者さんを対象にしていたが、最近は長期入院の患者さんも対象にしているため、参加人数が多い。外来からも参加可能である。今日の参加者は約20人の患者さんに加え、数人のスタッフがいたのでかなりの人数であった。参加するためには、病名告知を受けていること、主治医からの指示があることが条件である。病棟看護師から主治医に参加の提案がされることも多い。「ピーナッツ」は基礎編、基礎続編、応用編から構成されているが、基礎編は5回1クールになっている。一方的な講義形式にせず、参加型にすること、ロールプレイを取り入れることを基本としている。さまざまな職種(医師、看護師、作業療法士)が進行を務める。看護学生さんや薬剤師の実習生などの見学参加も多い。
   私の担当は、「病気について@」である。OTR(作業療法士)による、参加にあたってのルールの確認、そしてウォーミングアップから始まる。自己紹介を兼ねているが、こんなに人数が多くてどうするのかと思ったが、グループごとに行ったため短時間で終えられた。なるほど、当然のことだが私には思いつかなかった。今日のグループは4つであった。前半の課題は、「周囲の人にどうしても信じてもらえない体験」あるいは「不思議な体験」をグループごとに話し合ってもらい、統合失調症特有の病的体験を共有することを目的にしている。15分ほど時間をとり、グループごとに意見を出してもらう。あらかじめ、司会、書記、発表者を決めておいて話し合いを進めてもらう。グループごとに出てきた体験を発表してもらう。追加や説明があれば、補足してもらう。今日は、参加患者さんの数が多かったので、かなり多くの体験が語られた。重複する意見も多かった。発表が終わった後、私が簡単にまとめていく。だいたいは、「被害的に考えやすい」「周囲に不信感を持ちやすく、自分の回りがすべて敵に思えたり、怖くてしかたなくなる」「周囲の人達の言動や物事を自分に結び付けて考えてしまったり、特別な意味があるように解釈する傾向がある」「他の人には聞こえない声が聞こえる等、通常感じないことを感じてしまう」「現実とそうでないことの区別があいまいになり、誤ったことを信じこんでしまったりする」「自分以外の力に動かされてしまう」「考えが漏れてプライバシーが保たれない」といった具合にまとまることが多い。できるだけ、平易な表現でまとめるようにしている。こういったことがあるから統合失調症というわけではなく、統合失調症の多くの患者さんがこのような体験をしやすいということであり、ここに出てきた体験をしない人もいることをつけ加えておく。
   前半の課題が終了後、短時間の休憩をとり後半に入る。後半は私が約5分ほどミニレクチャーを行う。統合失調症について知っておいて欲しいことをコンパクトにまとめてある。「多くの人がかかること」「脳に原因があること」「特に調子が悪い時は、なかなか病気と思えないこと」「治療により良くなること」「繰り返しやすいので注意が必要であること」「薬、休養と睡眠、ストレス管理が大切であること」「病気を受け入れ、うまくつきあえるようになることが目標であること」「幻聴などはすべて取りきれない場合もあるが、対処法を工夫できること」「回復のペースはさまざまであり、焦らずゆっくりと回復を目指すこと」を強調している。その後、後半の課題に移る。ここでは、診察場面のロールプレイのシナリオを作ることを課題としている。いくつかの場面を準備しており、各グループでその一つを選んでもらう。今日は準備した3つの場面(@「病気が受け入れられず退院要求を繰り返す」A「幻聴の対処法について話し合う」B「退院を控え、入院して良かったことを振り返り、退院後の生活の注意点を考える」)が偏りなく別れた。ロールプレイを実行する形でグループごとに発表してもらう。今日はすべて教科書のような綺麗なロールプレイになってしまった。しかし、後でスタッフに聞いたところ、ほとんどスタッフの誘導はなく、患者さんから自発的に意見が出たとのことだった。最後にスタッフを含め参加者全員に一言ずつ感想を述べてもらい終了となる。「勉強になった」「自分だけではないことがわかり安心した」など今日は前向きで肯定的な感想が多かった。開始から終了まで1時間50分程度になったが、途中退席する人はいなかった。
   今日の参加者は外来通院中の人も多く含まれていたせいか、非常にレベルが高く、ビデオ収録しておきたいような、モデルにできるようなスムーズな流れのセッションとなった。進行役の私もいつもどおり多くのことを学ばせていただいた。集団の力は大きい。自分一人で処理しきれない問題の解決を可能にする。自分だけでは気づかないことを改めて認識できる。この心理教育プログラムは、「病気を受け入れ、病気とつきあってもらう」ための非常に有効なツールと考えている。医療機関ごとにさまざまなプログラムが実践されていると思われるが、しばらくの間は、「病気について知る@」はこのスタイルでいこうと考えている。希望者は何度でも参加できるようになればいいと思う。レクチャー部分は多くの情報を提供し過ぎないように注意しているが、何を伝えるか更に検討を加えたい。そして、後半のロールプレイの場面数も増やしていきたいものである。統合失調症のみならず、双極性障害、感情のコントロール、依存の回避をテーマにしたプログラムも開発したいものである。このようなグループワークを中心としたプログラムは治療効果を飛躍的に高めるものと考えている。今日の午後は充実した時間であった。こんなことをやっているから、いつまで経っても依頼された書類ができないのである。と言い訳をしておこう。それと、今後「ピーナッツ」を担当するOTRさんが以前から当院におられる方であることを知らず、申し訳ありませんでした。

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