ヤダリンのひとりごと
なじみの関係

平成24年4月29日

   「なじみの関係」は非常に大切だと思う。精神病圏の病気の場合、調子が悪い時ほど治療を拒否する傾向がある。再発して入院が必要になった時、抵抗することは多い。しかし、顔なじみの看護師さんが外来まで迎えに来ると、すんなりと病棟に上がってくれることがある。なじみの看護師さんには、診察の場では口にしないようなことまで話す。この「なじみの関係」が患者さんに安心感を与えているのだ。なぜか、遠く離れた土地まで行ってしまい、どうしていいかわからなくなったある患者さんが、知っている看護師に電話をかけてきて、そのアドバイスに従い、近くの派出所にかけこみ、現地の精神科病院に搬送してもらえたことがある。「なじみの関係」を作ることは私の統合失調症治療スタンスの一つである。
   患者さんの過去を知っていることが、スタッフに安心感を与えることも多い。私は1ヶ所の病院に24年以上勤務しているので、中にはその人の人生の半分以上を知っている場合がある。悪化して激しい症状を呈して、久々に入院してくる場合がある。普段ならとても穏やかでいい人が、悪化するとその人に接する誰もがネガティブなイメージを抱かざるを得ない人間に変身してしまう場合がある。そういった時、看護するスタッフに「この人はもともと、とてもいい人だ。治療をすれば必ず良くなるから」と伝えると、看護者も暴言を受けながらも熱心に関わってくれる。そして落ち着いた時、達成感を味わってもらえる。これは、とても大切なことである。退院後の近況報告をしに病棟を訪れる患者さんも多い。看護師だけではなく、薬剤師、作業療法士との関係も同様である。受診のたびに薬剤師に薬の空袋を見せて帰られる患者さんもいる。おそらくこの関係が服薬アドヒアランスを高めている可能性がある。
   ところが、残念なことに、最近その「なじみの関係」が形成されにくい環境になってきた。まず、受付。受付が外部委託になって1年以上経つ。そこには顔なじみの人はいない。病棟看護師がかなり入れ替わり、病棟にも顔なじみのスタッフがいない。訪問看護のスタッフが変わり過ぎる。なかなかプライベートなことも話しにくい。「これまでとても良くしてくれた、訪問看護師さんが他のステーションに移ってしまった。同様にとても良くしてくれた、就労支援センターの作業療法士さんが移動になる。僕はこれから誰に相談すればいいのでしょうか」と訴えた患者さんがいる。実は外来診察で、こういった話を聞かされることが激増している。「冷たい病院に変わりつつある」と言う人もいる。これは良くない。もちろん、「なじみの関係」が行き過ぎて依存を形成することは避けるべきではあるが、「なじみの関係」が作れなくなることで、治療成績を下げる可能性が高いと思われるので、スタッフの移動など何らかの対策が講じられるべきである。

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