ヤダリンのひとりごと
今、インヴェガに注目!

平成24年3月21日

   統合失調症治療薬であるインヴェガ(一般名:パリペリドン)が発売され1年以上経過した。リスパダールの代謝物ということで、どうせリスパダールと同じだろうとの思いから、さほど関心を持たなかったが、それは間違いで、特に急性期治療ではファーストかセカンドで使われそうな印象を受けている。まず、シンプルな処方が可能で使いやすい。剤形は3mg、6mg、9mgの3種類であるが、色が違うだけで、大きさ、形は同じ。小型である。最大用量は1日12mgなので、多くの場合は1錠、最大2錠にしかならない。1日1回朝投与である。入院例では、多くが6mgスタートで良く、状況に応じて減量、増量することになる。面倒なことを考える必要がない。
   それと、ある程度、不穏な患者さんであっても、服用してくれさえすれば、比較的短期間で効果を発現する。最近の統合失調症治療では、非鎮静系の薬剤を中心に使い、興奮や攻撃性といった周辺症状には、バルプロ酸やベンゾジアゼピンなどの補助薬を併用し、急性期を脱すると、この補助薬を除去し、非鎮静系の抗精神病薬だけにするといったやり方が推奨されている。この補助薬を使うやり方は、服薬回数や錠剤数が増えたり、ベンゾジアゼピンの依存性を思うと、どうしても服薬する患者さんの立場にたって考える私には、処方することに抵抗を感じてきた。一方、鎮静系の薬剤は、急性期を脱すると、眠気や朝、起きにくいといった不都合が生じることがある。ところが、インヴェガは鎮静作用が少ないのに、すなわち非鎮静系と言えるのに、補助薬を使わなくても周辺症状がとれるのである。おそらく、幻覚妄想や思考障害などの中核症状を強力に、しかもすみやかに改善する結果であろう。これは便利である。補助薬を使わずに済み、しかも急性期を脱しても過鎮静が起きにくい。少数例からの感触なので、まだ一般化はできない。今後、この仮説を検証していきたい。
   もう一つ、不思議な性質を感じている。それは、幻聴や妄想とつきあいやすくなる可能性である。あれこれ訴えが多かった患者さんが、幻聴や妄想を楽しみながら生活でき、訴えが減ったり、一方的な幻聴が会話できる内容に変わったり、怒りの感情が薄らいだりすることがあるようだ。これも、こういう例があったという程度であり、まだ一般化はできない。今後、この仮説を検証していきたい。
   また、インヴェガはジストニア以外の錐体外路症状は少なく、リスパダールから進化した薬剤と言えるが、プロラクチン上昇に伴う性機能障害や生理不順、無月経、乳汁分泌の問題は解決しないままである。

   ところで、他の病院の先生と話していて思うのは、うちの病院は非常に薬剤が自由に使える環境にあるということだ。抗精神病薬や抗うつ薬は、通常、日本で発売されたその日に処方可能になる。しかも、病棟種別によらず自由に使える。処方の制約を受けない。これは医師にとっては楽園である。理事長、院長の治療優先の考え方に敬意を表したい。

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