ヤダリンのひとりごと
見えてきたエビリファイの姿

平成24年2月9日

  エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)が日本で発売され、まもなく6年になる。この薬剤は、ドパミンパーシャルアゴニストというユニークな薬理作用を持っている。おそらく、そのせいで、これまでの抗精神病薬とは違う不思議な反応を呈したり、評価が一定しなかったと思われる。発売当初、患者さんが一時的にすっきりするものの、その後、焦燥感や不眠を訴え、更に経過すると、幻覚妄想がひどくなったり、不穏興奮や異常行動を呈し、結局、状態が悪化したという症例が続出した。その中で、一部の先生方がこの薬剤を非常に高く評価しているのが気になっていた。救急病棟に入院してくる統合失調症患者さんの大部分がエビリファイで良くなると言われる先生方がおられたが、私からすると懐疑的であった。ようやく最近、その謎が解けてきた。
  一つは、処方医が、エビリファイを初発患者に使うか、切り替え症例に使うかということだ。新しく登場した薬に対するイメージは、最初の数例の経験症例の結果によるところが大きい。その多くが失敗に終わると、その薬は効かない薬という印象が非常に強くなる。エビリファイは前薬の有無で、すなわち切り替えか新規症例に使うかで非常に違う反応を示すのである。だいたいは、いかなる抗精神病薬も新規症例には効果的である。エビリファイは切り替えや罹病期間の長い症例には極端に弱い。切り替えにはかなりのテクニックを要する。ただ切り替えるだけでは高い確率で悪化する。従って、前薬がある症例にばかり使って失敗すると、非常に悪いイメージを持つことになる。新規症例では、エビリファイは他剤と同等に効果的なのである。症例を選べば、ある程度の確率で当たる。AからBに薬を切り替えた時、その結果は、「Bの影響」と「Aを止めた影響」の二面から検討する必要がある。エビリファイへの切り替えは、前薬の中止による影響を強く受けると考えられる。そういう意味で、エビリファイは実際より悪い評価を受けやすい、損をしやすい薬と言える。
  もう一つは、エビリファイは鎮静作用を持たないので、外部刺激には弱い。刺激を避けた方がいい急性期の環境は非常に大切である。環境のいい静かで綺麗な救急病棟では効いても、難治例と不穏な患者さんの多い慢性期・急性期の混合病棟などでは、エビリファイの良さは出てこないであろう。
  エビリファイは副作用のなさが強調されている。確かにプロラクチンの上昇はほとんどないし、脂質や血糖への悪い影響は見られない。統合失調症のスタンダードな治療薬であるリスパダールでは確実にプロラクチンが上がり、生理不順や無月経、乳汁分泌や性機能障害に悩まされることになる。また、ジプレキサは体重増加や糖、脂質代謝への悪影響がかなり大きい。これらの点では、エビリファイは非常に優れていると言える。しかし、運動神経領域の副作用である錐体外路症状は出ることも多いと思う。また、ジプレキサほどではないが、体重増加する症例も見られる。ただ、体重増加に関しては、病状改善の指標ともなるので注意して評価する必要がある。
  ところで、エビリファイは今年の4月に、口腔内崩壊錠を発売予定である。口腔内崩壊錠には、口の中に入れると数十秒かけてジュワーっと溶けるタイプと、瞬時にシュワっと溶けるタイプ(ザイディス錠)があるが、エビリファイは後者である。現在、抗精神病薬ではジプレキサがザイディス錠を持っており、患者さんからも看護スタッフからも非常に高い評価を得ている。エビリファイにもザイディス錠が追加される。楽しみである。これにより、エビリファイは、錠剤、散剤、液剤、口腔内崩壊錠と多くの剤形を持つ薬剤となる。ただし、名前はエビリファイザイディスではなく、エビリファイOD錠とのことである。
  更に、先日、エビリファイに双極性障害躁症状の適応が追加された。さっそく使ってみたが、劇的に効いた。離婚の話まで出ていたが家族関係が修復するまでの変化が短期間で得られた症例であった。
  出だしが悪かった、そしてなぞの多かったエビリファイもようやく本当の姿を見せ始めたようである。今後は、エビリファイを服用している統合失調症患者さんの長期予後がどうなのかという点に注目していきたい。そして、躁病エピソードへの反応を確認していきたい。

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