ヤダリンのひとりごと
電子カルテのすすめ

平成22年11月21日

  本年9月1日、勤務先の病院で電子カルテが稼働し始めた。ベータソフトという会社が開発した精神科に特化した電子カルテシステム「アルファ」を採用した。約1年前に準備を開始したが、稼働開始直前まで遅々として進まなかった。これは、我々の知識がないのに加え、仲介の販売会社があまりにも頼りにならなかったことが大きく関与している。もともと私は、電子カルテは精神科にはなじまないと考えていたので、期待もしておらず、準備が進まなくてもほとんど何とも思っていなかった。
  ところが…である。まもなく電子カルテ導入後丸3ヶ月が過ぎようとしているが、予想した以上にものすごく快適なのだ。こんなに便利な道具とは思わなかった。現在は、紙カルテから電子カルテへの情報の移行期と考えられるが、今後時間が経ち、電子カルテ上に情報が蓄積するにつれ、更に威力を発揮するのは間違いない。デジタル化された情報の利用価値は際限ないからだ。
  ネットワーク化されているので、院内どこにいても、患者さんの情報が即入手できる。一度かかったことのある患者さんなら、夜間や時間外に救急受診する際、電話が入った時点で、直ちに概要を知ることができる。当直などで入院中の患者の指示を出す場合もすぐ背景がわかるので便利だ。外来診療中でも、外来にいて病棟の患者さんの状態を知ることができる。こんなに便利なことはない。わざわざ電話をかけたり、カルテを持ってきてもらったり、カルテを見に自分が移動する必要がない。情報伝達が非常にスムーズになった。これまで電話やメモで行っていたことが、確実に素早く伝わる。看護部門からの報告も利用しやすい。公開されるメールのようなものである。情報共有しやすいので、ディスカッションも効率的にできる。申し送りの廃止を検討している病棟もあるようだ。これまで、一人の患者さんが入退院するたびに、何度も何度も患者さんの名前や年齢など同じことを書く必要があったが、これが不要になった。いろんな指示箋やカルテの記載が面倒だから入退院を躊躇することもあったというのが本音である。とにかく入退院が非常に楽になった。医療保護入院の入院届なども、即作成可能になった。ケースワーカーが書類とカルテを準備するまで待つ必要がなくなったからだ。入院、外来とカルテが別れてないので便利である。これまで、退院時には退院時処方箋を書き、退院後最初に外来に来ると、入院カルテから外来処方箋に処方を転記する作業が必要であったが、こういう手間もいらない。処方が楽になった。ただ、これまで当院の手書きの定期処方箋は、いつからでも開始でき、いつでも変更可能であったが、廃棄薬をなくすため院内規定でそれができなくなったのは不都合だ。しかし、定期処方をせず、すべて臨時処方にすれば解決するので大きな問題ではない。診察をして処方する本来の姿である。患者さんの状態に変化がない時は、同じことを何度も書かなくても前の記事を利用できるのも楽でいい。準備しておけば文例を利用して、どんどん文章生成できるのがいい。法的に義務付けられた記載も落ちなく簡単にできる。電子カルテ上でレントゲン画像や検査結果も見ることが可能だ。慣れれば、外来の診察待ち時間を大幅に短縮可能と考えている。今より20%くらい外来患者が増えても余裕を持って対応できそうである。これは望ましいこととは言えないが、病棟ナースステーションに入る回数と時間は明らかに減った。スタッフと話したくない時には現場からすっと立ち去れるのがいい。ペンだこが消えたのも嬉しい。書くたびに痛みを感じなくていい。久しぶりに字を書くと、ほとんど読めない文字になっていた。文字を書かないと書く能力は確実に落ちるようである。自分の受け持ち以外の患者さんについても簡単に状況がわかるので、他の先生のカルテから学ぶことが多くなった。勉強の材料が無限に提供されるのは嬉しい。さまざまなカルテを見ているとあっと言う間に時間が過ぎ、帰宅がますます遅くなってしまう。
  もちろん課題も多い。アルファでは、入退院歴が非常にわかりにくい。入退院歴が一見してわからないのは致命的である。家族面談の予約まで診察券に印字されるのも不都合である。現病歴の項で最終更新日と更新者しか記載されないのも問題だ。もっと大きな問題は、文書キャビネットの更新履歴が全く残らないことだ。誤って上書きしたり削除してしまうと大変なことになる。救急急性期の算定状況がわからないのもつらい。メール、掲示板機能、スケジュール管理も欲しいところである。複数の作業が同時にできない。途中、別の作業をすると、元のカルテを開き直さないといけない。しかし、これらの問題はシステムのバージョンアップ等で徐々に解決されていくことであろう。
  それにしても、電子カルテ導入に関し、スタッフ皆よく頑張ったと思う。リハーサルのために休日返上で病院に出てきたり、連日深夜まで作業していたスタッフも多い。企画課の人間は朝方まで仕事していた日もあった。今後当分起きないであろう革命はなんとか終わり、静かな病院に戻った。そして新しい時代に突入した。
  すべての精神科病院は電子カルテを採用すべきである。それにより、無駄な労力を省き、効率的な診療が可能になり、医療の質を上げられるのは間違いないと自信を持って言おう。

「ヤダリンのひとりごと」のINDEXに戻る
トップページに戻る