ヤダリンのひとりごと
2009年を振りかえり…

平成21年12月31日

  4月にスーパー救急病棟(45床)が稼働し始めた。おそらくこの病棟だけで年間入院は300人を超えるであろうと思われる。綺麗で環境は良く、非常に回転の速い病棟であるが、次々と入院があるだけにあまりにも早い退院や転棟を迫られ、ゆっくり治療できないのが難点である。
  7月には敷地内全面禁煙となった。禁煙に協力していただけない一部の方の任意入院は困難になったが、全体としてみると思ったほど大きな問題は生じなかった。現在は自費であるが、年明けからは保険診療での禁煙外来が可能になる。
  9月には精神科常勤医が1人退職した。受け持ち患者数の多い先生だったので、他の医師に多大な負担がかかる結果になった。初診患者がなかなか捌けず、依頼される書類も滞りがちになった。にもかかわらず、時間外勤務削減のため時間外回診には協力できないとか、訪問看護のミーティングに主治医の参加がないなどと言うスタッフがいると、怒りが頂点に達する。草津病院においても医師不足は深刻な問題である。
  デイケアの運営方法が変わり、また、救急急性期病棟が稼働し始めたこともあり、デイケア利用者が激増したのも今年の特記すべき点であろう。
  入院も外来も高齢者が増えた。認知症病棟以外のすべての病棟でご高齢の方が溢れている。高齢者はほとんどが身体合併症を有しているので、内科医もフル活動している。

  さて、精神科薬物療法の領域では、話題が多い1年であった。4月にエビリファイの液剤が発売された。味が甘くておいしく、患者には受け入れられやすい。しかし、確実に良くなる患者さんもいるが、ジプレキサやリスパダールのように統合失調症の標準的治療薬となるには力不足を感じる。ただ他剤で副作用が問題になる場合には出番があるだろう。セロクエルと並んで副作用は少ない。そして、前薬がない時に効果を発揮しやすい。私は基本的には他剤からこの薬剤へのスイッチングはしないことにした。適応外ではあるが、うつ状態の治療で抗うつ薬に上乗せする形で使うといい例があるようだ。
  6月にはリスパダールコンスタが発売された。日本初の非定型抗精神病薬の持続性注射剤である。リスパダールの内服薬で効果があるが、なかなか規則的な服薬ができない場合に使用を検討するのが良さそうだ。Web講演会が何度も行われた。コンスタの講演では、いかに主治医が思っているほど患者さんが服薬できていないかが強調されている。私は自分が診ている多くの患者さんはきちんと服薬していると思っているので非常に違和感があった。よく講演で言われる再発率よりも、うちの病院の統合失調症患者さんの再発率はずっと低いであろう。私の患者さんの中で適応になる人は少ないと思う。ただ、薬に対しこだわりがあり、さまざまな不調や不都合をすべて薬に結び付け薬のせいだと考える方には使えそうだ。文句の対象である薬がなくなるわけだから。こういう患者さんや薬を飲み過ぎてしまうことがある方にはこの注射剤を勧めている。他の内服薬がなく、この注射剤だけで維持できるとなると、理想的な治療になる可能性はある。2週間に1回注射というのが少し面倒だ。
  7月には非定型抗精神病薬の原型であるクロザピンがついに日本で使用可能になった。ただ重篤な副作用があるので、投与にあたり非常に厳しい条件があり、現実にはほとんど使えそうにない。
  9月には抗うつ薬である、レメロン(ミルタザピン)が発売された。これまでとは異なる作用機序の抗うつ薬だが、効果発現が早く、特に焦燥感や不眠が強い場合に良さそうである。体重増加、眠気、倦怠感が主な副作用である。
  10月にはSSRIであるパキシルに社会不安障害(社交不安障害、対人恐怖症)の適応が追加された。
  11月にはセロクエルに200mg錠が追加された。セロクエルは非常に副作用が少ない薬であるが、効果は弱く再発が起きやすく、さらに服薬回数や錠剤数が多くなるため、統合失調症のスタンダードな薬剤にはなれなかった。しかし、何かと利用可能な範囲は広い。適応量上限の引き上げ、更に高用量錠あるいは徐放製剤の発売(海外では出ている)を望みたい。
  相変わらず、私はジプレキサを愛している。統合失調症治療の標準的治療薬として既に十分浸透しているとは思う。隔離室に医療保護入院となる統合失調症患者には、ジプレキサ20mg/日を処方し待っていると数週間以内にはほとんど退院可能である。入院時から退院時まで一度も処方変更のない人もけっこういる。ジプレキサの最大の魅力は、長期間服用することで、生活の質が格段に良くなることである。発症後、就労経験がない人がアルバイトしながら一人暮らしができたり、結婚することが可能になる人がいる。現実的に物事が考えられ、穏やかで他人への配慮ができるようになる。なんと言ってもストレス下でも状態の揺らぎが少ない。ただ、体重増加や高血糖や高脂血症など代謝系の大きな副作用があるのは問題である。しかし、私がジプレキサを投与している患者さんの多くは、また患者さん自身もジプレキサを愛している人が多く、自らダイエットに励んでくれる。長年服用している人でいったん増えた体重が減る人も多い。
  来年は、ロナセンの8mg錠の発売、SNRIであるデュロキセチンの発売、ジプレキサの双極性障害の躁状態への適応追加などがあると聞いている。楽しみである。

  ついに50歳になった。体のあちこちに衰えを感じる。特に視力低下が著しく少し不便を感じるようになった。今、大急ぎでホームページの更新作業を行っている。今年もほとんど更新できなかった。来年こそ更新しようなどと言うのはもう止めにしよう。

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