ヤダリンのひとりごと
早期退院への援助

平成21年11月11日

  先日、私が「この方はまだ入院して1ヶ月半しか経ってないね」と言うと、看護師が「長期ですね。今は1ヶ月半の入院期間は長いですよ」と言うのである。昔、精神病急性期の入院期間は目安として3ヶ月という期間がよく使われた。しかし、現在は多くの患者は2ヶ月前後で退院していると思われる。確かに3ヶ月は長い。入院期間が短縮しただけではなく、退院時の状態も良い。昔はぼおっとして臥床が多い状態での退院であったが、今はある程度活動可能な状態での退院である。非定型抗精神病薬を主体とした薬物療法の成果であることは違いない。ここでは薬物以外の視点から当院での早期退院への援助について考察してみることにする。
  まず、激しい重症患者が減ったことがあげられる。昔に比べると病気そのものが軽症化していることは明らかである。それから、医師以外のスタッフの関わりが非常に密になり、一人ひとりの患者についてさまざまな視点から治療がていねいに検討されるようになったと言える。看護師や精神保健福祉士は家族背景にも注意を配り、家族への配慮も細かい。
  救急病棟の環境は格段に良くなった。すべての隔離室には景色が眺められる大きな窓がある。しばらく入っておきたい環境である。そのせいか、ドア叩きを続けたり飛び出ようとする人は減ったと思う。救急病棟は一般病室も個室が多い。以前なら、他の患者の影響を受けてなかなか落ち着かなかった患者さんが不必要な刺激を避けてゆっくりできる利点がある。
  また、行動レベルが明確に設定され、今おかれている処遇や治療経過上の位置が患者にも治療者にもわかりやすい。早い時期から、病棟外に出ていただけるよう働きかけをするのは今では当然となった。閉鎖病棟の患者さんを積極的に病棟外に連れ出す試みを始めた数年前がなつかしい。そして、スタッフ同伴で外出可能になれば、居住環境の確認や必要な物を取りに帰宅するために退院前訪問を行ったり、手続きなどで院外への外出を試みる。
  入院直後、隔離室にでも薬剤師は服薬指導に入る。入院中に服薬自己管理が段階的に進められている。救急急性期病棟では、集団による心理教育プログラムがさかんに行われている。認知療法的視点からのミーティングやSSTの手法を取り入れた患者さん参加型のプログラムである。入院と外来の連続性を保つため、いくつかの工夫がされている。すなわち、入院中からデイケア(外来プログラム)の体験をすることができる。また、病棟とデイケアの合同プログラムがある。退院後に訪問看護を利用する場合は、入院中に訪問スタッフが病棟に来て顔合わせをしたり、本人を含めたカンファレンスを行う。必要な場合は、頻回に訪問看護を行う。時には、訪問で服薬管理も行う。
  さらに、精神保健福祉士(PSW)、担当看護師、状況によってはデイケアスタッフなどが中心になり、本人の希望、家族の希望、主治医の意見のすり合わせを行いながら、退院支援アセスメント票や生活支援計画書を作成し、退院後の現実的な生活が見えるよう援助する。ここで決めたことが守れるような工夫をすることが重要である。うまくいかない場合の対処についても検討しておくのが良い。退院後の状況に応じ、内容を変更する場合は、複数の関係者で話し合うように設定しておくとうまくいくように思う。計画が計画だけで終わらないよう、きちんと実行できるよう注意が必要である。
  退院後も病棟スタッフとの関わりは続く。以前なら、入院患者と外来患者とは明確に区別され対応された。しかし、今は退院後も患者の電話での相談や報告に応じたり、病棟に話に来られる患者さんも多い。人との関わりが大切にされているのである。
  渡部和成先生(恩方病院)が開発された、患者さん自らが治療経過を評価するクライエントパスが8月以降、採用されたが、その結果についてはもう少し待つことにしよう。
  常に「行動レベルのアップはどうでしょうか」とか「心理教育プログラムの指示箋をお願いします」「この人はデイケア拒否です。外来OTで毎日病棟に来てもらうのはどうでしょうか」など看護者から主治医への提案が次々にされる。主治医はどちらかというと看護者の提案が早過ぎないか検討する役になってきたようである。病棟スタッフのパワーはすごい。そのパワーにより早期退院が実現しているのである。
  ただ、早く退院すればいいわけではない。入院期間の短縮と同時に、再発再入院も減らせ安定した状態が持続できるような援助をすることが最も重要と考える。

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