ヤダリンのひとりごと
2008年・・・

平成20年12月31日

   今年も後20分弱になった。例年以上に早く過ぎ去った1年であった。しだいに時間の流れが早く感じるようになったのは、年をとった証拠であろう。あっという間に現役引退を迫られる時がくるのであろう。
   今年は勤務先の草津病院が大きく変化を遂げた年となった。病棟再編、精神科救急医療施設の認定、精神科急性期治療病棟の開設、新病院長の誕生などである。病院は巨大化した。私は勤続20年を祝っていただいた。これまで生きてきた人生の4割を草津病院で過ごしたことになる。感慨深いものがあった。
   今年を振り返って思うのは、まず、これまで以上に「スピード」が要求されるようになったことである。入院期間は著しく短縮された。ある程度の症状を持って入院されてきた場合であっても、だいたい2か月程度で退院の目途をつけないといけない。入院して2週間も経てば病棟スタッフから今後の方向性について問われる。良くなったり悪くなったりしながら、そのうち良くなるだろうなどというのは通用しない。あっという間に時間は過ぎてしまう。確実に状態が改善する治療方法を選択しないといけない。ぼやぼやしておられない。患者さんの出入りが激しくなると、それに伴い書類が激増する。できるだけ楽をするためにさまざまな工夫をせざるを得ない。実はまだ未提出の退院時サマリーがある。来年はサマリーを是非溜め込まないようにしたい。
   そして、「集団の力」を感じることが多かった。私は、院内で統合失調症の心理教育プログラムのごく一部を担当している。患者さん参加型のプログラムであるが、いつも非常に多くの意見や体験談が出される。新たに教えられること、気づかされることが常にあり感銘を受けることが多い。一人で考えるより多くの人で考えると発想は著しく膨らむものである。去る12月1日から12日にかけ、日本イーライリリーという製薬会社により、インターネット掲示板を利用したディスカッションが行われた。「患者さんにとってよりよい治療とは?」をテーマに精神科医がネット上で語り合うものであった。1000件を超える書き込みがあった。私はファシリテータの一人であったが、数多くのコメントを読みながら、共感したり学んだりし、自分の考えを整理するのに役立った。画期的な素晴らしい企画であった。さすが、ジプレキサを発売している会社だけある。
   そして、「軽症化」。さまざまな理由によるのだろうが、よく指摘されるように、精神病は確かに軽症化傾向にある。精神科の敷居が低くなり早期に受診、治療に結びつくことになったこと、文化の変化、社会資源やサポート体制の進歩とともに新規抗精神病薬浸透による治療上の貢献もあるだろう。先日、一晩中眠らず、大声で独語し、大便を壁に塗りたくる患者さんに遭遇し、すごくなつかしく思った。
   そして、「多様化」。以前ならおそらく精神科に来られないのであろう事例に遭遇することが多くなった。家族や友人や恋人どおしのトラブルなども診察場面に持ち込まれる。救急を始めてから、さらにさまざまな状況に対応することが増えた。何があるかわからない感じである。つくづく精神科は日常生活上の延長上にあるものだと思う。もっともっと経験をつめば、ある程度パターン化した対応が可能になるのかもしれない。
   来年を迎えるにあたって2つの心配がある。それは4月から実施される全館禁煙である。私自身は喫煙しないので喫煙される方の気持ちはわからない。しかし、これはニコチン依存と言う依存症であるから、止めるには相当の工夫や努力を要するということだ。アルコール依存症の方で断酒を継続できるのは非常にわずかであることを考えると当然であろう。しかしながら、禁煙に関し病院側が援助できているとは到底思えない。全館禁煙を進めるにあたり、予測される問題と解決する方法を提示するように、私はさまざまな場所で強調してきたが、その解答を得たとは思えない。たとえば、すごいタバコ吸いが急な入院を要する状態にある時、どうすべきなのか。全館禁煙まで、あと3ヶ月。相当の努力を要すると考える。それから、電子カルテの問題。約2年後の電子カルテ化に向かって準備に入ったところであるが、これは文化の変化であり、電子化により不慣れな作業だけではなく、思考の流れや発想そのものが円滑にいかなくなる可能性がある。紙の上では自由に考えられたことがパソコン上ではぎこちなくなることは大いにあり得る。新たな提案も決まったフォーマットに載せていく必要が生じる。表現が不適切かもしれないが、そのフォーマットそのものを自由に操作できる方法がないと進歩と工夫はあり得ないと思う。なんと言っても、精神科において電子カルテを採用しているところがあまりにも少なすぎる。電子カルテへの移行は、とてつもなく大きな課題があると思われる。非常に慎重に検討していかねばなるまい。本当に軌道に乗るまでには相当時間がかかると思わざるを得ない。
   来年は、このホームページを開設して10年になる。ここ数年は、ほとんど更新できていない。ちょっと振り返ってみると、現在では通用しない内容も多い。多くの部分を加筆修正する必要がある。いったん廃止した方がベターなのかもしれないが、私にとって比較的早い時期にこのホームページを立ち上げ、私自身が歩んできた足跡みたいなものなので、恥を世界中にさらすようなものではあるが、なかなか閉鎖する気になれないのである。少しでも存在価値が出るように、ほんのわずかでも修正していきたいと思う。

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