私の外来統合失調症患者の処方2007
平成19年5月6日
現在、統合失調症の急性期は、まずジプレキサかリスパダールで治療開始するのが標準的であろう。しばらく待って、それでうまくいかない場合、増量や補助薬で強化するが、それでもうまくいかない場合、次に他の薬剤に変更することを考える。ところで、安定期、維持期の患者さんの処方はどうなっているのであろうか。これを知るために、私が主治医として現在、継続して外来で診ている統合失調症患者さん 352名について抗精神病薬の処方を調べてみた。これらの患者さんの中にはもう20年近く診ている人もいれば、最近退院された方もおられるが、長期通院の極めて安定した患者さんが多くを占めている。 結果は、ジプレキサが圧倒的に多く、44.3%の統合失調症の外来患者さんに処方していた。次にリスパダールが多く、29.5%の患者さんに処方していた。第3位がレボトミンで10.2%の患者さんに処方していた。その後に、スルピリド、ゾテピンと続いた。5位のゾテピン以降はそれぞれ3%以下の処方率であった。ちょうど4年前の平成15年4月に調べたデータがあったので比較すると、トップはリスパダールで約35%、2位がレボトミンで約20%、3位がセロクエルで約10%、以下ジプレキサ、ミラドール(スルピリド)と続き、それぞれ10%以下の処方率であった。この4年間で、統合失調症の維持期、安定期の処方はリスパダールからジプレキサ中心に傾き、レボトミンやセロクエルはかなり減少している。これが標準的とか正解と言うわけではなく、あくまで私の処方がこうだと述べているだけであって、自分自身が何を考えているかがよくわかっておもしろい。単剤処方率は、89.8%であった。つまり、抗精神病薬については9割は1種類のみの処方であった。これは高いと言えば高いが、逆に併用処方が1割もあることになる。併用処方はできる限り減らしていく必要がある。薬剤別に単剤率を見ると、ジプレキサは89.1%が単剤で使っていた。リスパダールは82.7%が単剤で使っていた。併用で最も多い組み合わせはジプレキサとリスパダールであり10例ほどあった(しかなかった)。おそらくジプレキサを20mgまで使っても幻聴などが激しい場合やジプレキサ20mgで維持中に増悪した場合などに追加されたものと思われる。他の組み合わせはさまざまであった。 ところで、これらの患者さんの中には、ほとんど私が診ている間は何の変化もなくほぼ健康人に近い生活を送っておられる方もいるが、そういった患者さんは大昔の処方がそのまま続いていることがある。その中で注目すべき点があった。それはパーフェナジン(商品名:PZC、トリラホンなど)とスルピリド単剤で維持されている患者さんは、それぞれ88%、52%もの人が就労していることである(パート就労などを含む)。現在、パーフェナジンやスルピリドを新たに処方することはまずないが、これらを服用している方は10年あるいはそれ以上も再発がない。最近、従来使われてきた薬剤も低用量ならすぐれた効果を発揮するとの論文が散見され、アメリカの大規模試験である有名なケイティースタディでもパーフェナジンが頑張っている。あまりにも新規抗精神病薬の良さが強調されるが、従来薬でもけっこう優れた点があるのである。 繰り返しになるが、抗精神病薬に、これが最も優れたもの、次がこれといった順序があるわけではない。処方というのは、あくまで、それぞれの患者さんに最適なものを見つける作業である。その過程には、患者さんが何を望んでいるか、どういった副作用がその人に出やすいかなどさまざまな視点から検討する必要がある。それと、あとは処方する薬剤に対する医師の想いであろう。「これでうまくいくはずだ」との信念を持って処方した薬剤はたいてい効果的である。たぶん、その想いが服用している患者さんにも伝わり、そして長期間、効果を待つことができるからであろう。待つことは大切である。 さて、先日、東京八王子の恩方病院の堤祐一郎先生が広島でご講演された。その際、おこがましくも座長を務めさせていただいたが、つたない進行で恐縮であった。予想していたとおり非常に刺激的な内容であった。それに話の展開も聴衆を引きこむ魅力があった。なんと、恩方病院には注射剤が存在しないのである。急性期の患者さんを次々に受け入れている病院に注射が存在しない。信じられないことであった。しかもフェノチアジン系の薬剤は使わず、新規薬も規定の用量を守ってやっている。すばらしいことである。通常なら実現できない。おそらく、スタッフの教育、環境面なども含めてかなりの工夫と努力がされていると思われた。もっと詳細にお聞きしたいところであった。我々はまだまだ考え直さないといけない面がある。たぶん、どうにもならないと思い込んでいることの中に、少し見方を変えたり工夫することで解決に向かうことがたくさんあるのであろう。久しぶりにエネルギーを戴いた講演会であった。ゴールデンウィークも今日で終わり。明日からまた頑張らないといけない。 |