ヤダリンのひとりごと
エビリファイの印象
平成18年8月14日

   もう何年も待ちわびられたエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)が発売され約2か月が経過した。日本では5番目の新規抗精神病薬(第二世代抗精神病薬あるいは非定型抗精神病薬)になるわけだが、一言で言って使いにくい薬剤である。多くの人に幅広く使える薬ではなさそうである。
   推奨されている投与法に従って、現在の処方に6mg/日を上乗せしてみる。その時、比較的早い時期すなわち1〜2週間以内に多くの人は、「頭がすっきりしてきた」「頭が整理されてきた」「本の内容がわかるようになった」「動きたくなる」「朝起きができるようになった」などと言う。客観的にも口数が増えたり反応が良くなったりする。ここまでは良かった。現在処方に少し新しいものを加えただけで短期間にこれだけの変化が起きることはこれまでにはないことだ。何かすごい力を持った薬のような印象を受ける。一見、認知機能と陰性症状の急激な改善のように見える。ところが、そのうち不眠傾向やイライラが目立つようになる。さらに「少し過敏になった気がする」「周囲の人の言動がやたら気になる」との訴えが出てくる。これが進むと、幻覚や妄想、思考のまとまりのなさが著しくなり、急激に誰が見てもわかる病状増悪という結果に陥る。一部の患者さんは「元の薬の方が楽だった」「元に戻して欲しい」と言われる。今のところ私がエビリファイを使うのは、これまでの薬に対し不満が訴えられたり、副作用が目立ったり、効果が不十分であった例を対象にまず少量を上乗せし、少しずつ置き換えている。まだ多くの経験があるわけではないが、これまでのところ、約1/3が失敗に終わっている。最近は、3mg/日の上乗せから始めたり、置換速度をさらに落として試みている。エビリファイは発売前からよく知られている薬であるため、患者さんから自分にも使って欲しいとの希望が出ることが多いが、現在、私は「まだ薬の性質がつかめないし、自分が十分使いこなせない状況なのでもう少し待って欲しい」とお願いしている。
   ここまで書くと、エビリファイに対し悪いイメージしか持たれないかもしれないが、もちろん一部の人では病状改善が認められている。ただし、まだ時間が十分経過していないので慎重に判断する必要はある。私なりの現時点での考え(将来は、変わる可能性は十分ある)としては、『エビリファイは統合失調症に幅広く使える薬ではない。すなわち標準薬にはならない可能性が高い。ただし、一部の人には効果的である可能性があるので、今後、どのようなタイプに合うのか、投与対象をしぼりこんでいく必要があるだろう。投与法に関しては、量、時間などエビリファイが十分効果を発揮できるようにさらに検討する必要がある』ということになろうか。置き換えだけではなく、新規症例についてもその反応について見ていきたい。今後、良好な経過を辿っているものも報告していきたい。
   補足であるが、薬の効果に関しては、短期間ではなく、長期経過の点からも評価すべきと思われる。多くの報告は長くても1年くらいのものであるが、それ以上、すなわち、3年、5年、10年とかのデータが欲しいものである。セロクエルは、短期間では比較的いいイメージがあったが、2、3年もすればほとんど再発してしまい、「統合失調症の標準的治療薬にはなり得ない」と私は結論づけた。短期間のデータでは、セロクエルはジプレキサやリスパダールと効果に差がないような言い方をされたがこれは信じられない。ただ、こう書けば皆がダメと思われかねないが、そうではなく、限られた一部の人にはセロクエルしか合わない、セロクエルで初めて救われることもあるのだ。薬とはそういうものである。薬に「いい」「悪い」があるのではなく、薬と個人の相性が大切である。自分にピッタリとフィットした薬にめぐり合えると幸せになれる。「多くの人に幅広く使える薬」と「一部の人にしか使えないが、その人には非常に効果的な薬」があると考えればいいであろう。(注:セロクエルは統合失調症の中核的な治療薬にはならないが、いわゆる精神安定剤として、統合失調症以外のさまざまな場面で使いやすい薬剤ではある。)

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