ヤダリンのひとりごと
ジプレキサザイディス
平成17年 6月26日

   数日後に、ジプレキサの新剤型であるザイディス錠が発売されようとしている。これはすごい。口の中に入れると瞬時に溶ける。甘い味、そして、ラムネ様のさわやかな感じが広がる。水なしで飲める口腔内崩壊錠である。抗精神病薬で初めての剤型である。薬には同じ成分でも、いろんな剤型が存在する。通常は、錠剤と散剤である。それに、リスパダールには液剤が加わる。そして、このたびジプレキサのザイディス錠ができた。抗精神病薬以外で、口腔内崩壊錠は既にいくつか存在するが、それとは全く異なるタイプである。比較するため、胃薬であるガスターD錠と、認知症(アルツハイマー型痴呆)の治療薬であるアリセプトD錠を実際に飲んでみた。確かに口の中で溶け、水なしで飲めるが、口腔内で崩壊するのに多少の時間がかかる。口の中で徐々に崩れていくのがわかる。ところが、ジプレキサザイディス錠は、溶けるのに要する時間は限りなくゼロである。瞬時に崩壊する。凍結乾燥法という特殊な技術で作るそうである。サンプルを既に何人かの患者さんに飲んでいただいた。受けは概ね良好である。お菓子のようだと言う患者さんもいる。患者さん間でもちょっとした話題になっているようである。ザイディスの出現は、薬に対するイメージを完全に変化させてしまうであろう。
   このホームページの随所に書いてあるように、統合失調症の患者さんでは、もちろん全ての方がそうだとは言えないが、病状の悪い時ほど、自分はおかしくないと言い張り、治療を拒否する傾向がある。そのため治療薬を飲んでもらおうとしても、困難なことが多い。いくら厳重に管理していても非常に巧みに薬を隠す方がおられる。散剤なら大丈夫と考えるかもしれないが、この考えは甘い。いったん飲み込んでからでも吐き出す「人間ポンプ」と呼ばれていた人もいる。薬を飲んでいただけなければ、いつまでたっても病気は良くならない。なんとか服薬してもらうために、精神科病棟の看護者はものすごくエネルギーを使っているのである。ザイディス錠は、治療導入をスムーズに行うことに貢献するであろう。ジプレキサそのものが、すみやかに患者さんから治療への協力が得られるという性質があるのに加え、ザイディスという剤型をとることで、その性質はさらに強化され、ジプレキサは、これまで以上に統合失調症急性期治療の武器になるであろうと思われる。看護者から見て、服薬したかどうかがわかりやすくなるであろう。薬を隠し続け、それを見抜けなかったために治療が軌道に乗るまでにずいぶん時間がかかった例がある。ザイディスを使うことでそのようなことがなくなる。急性期を脱するまでの時間を短縮することが可能になろう。
   ただ、ザイディスは吸湿性があるため、湿った手で持ったり長時間持ったままだと溶けてしまう。また、薬が収められているブリスターシートから取り出す際、裏面のフィルムをうまく剥がさないとすぐ壊れてしまう。従って、外来通院中の患者さんで一人で服薬管理をしなければならない時、認知機能障害がひどく、器用さが失われているような場合には、服薬が難しくなる可能性があるかもしれない。それと「おいしい」ために必要以上に飲みすぎはしないかという不安も出てくる。おいしいけど、少し物足りないような感じを与えてしまうからである。
   通常の錠剤とザイディス錠とは、生物学的に同等とのことだが、リスパダールにおいて錠剤よりも液剤の方が効果が高いとされるのと同様に、ジプレキサに関し、通常の錠剤に比べザイディス錠の方が効果が高く即効性ということはないのだろうか。仮にそういうことがあるとするなら、保険診療上の上限を超える高用量を用いる必要性を下げられる可能性が出てくるのだろうか。また、リスパダール液のように必要時頓服として用いたり、病状増悪時に一時的にザイディス錠に切り替えるなどの方法が使えるのだろうか。疑問はたくさんある。症例の治療経過を注意深く観察することで、これらの課題の回答を見つけていきたい。
   長期的に見れば、ジプレキサを服用している患者さんは、非常に現実的に物事が考えられるようになり、またおかれた環境に適応しやすくなるような気がする。たとえば、仕事に就く場合に、自分の能力を考え、無理がかからないように、最初からフルで働くことを考えず、短時間だけとか短期間だけ働こうとするのである。これは、認知機能障害の改善効果がもたらす結果であろう。統合失調症の患者さんが、より幸せで健康的な生活をとり戻すためにジプレキサは威力を発揮すると私は確信してきたが、そのジプレキサに新しい剤型が加わったこの機会に、さらにジプレキサの良さを引き出す方法を工夫していきたい。
   最近、いろんな人から、ホームページの最終更新が年末のままですねとよく言われる。書きたい事はたくさんあったが、なかなかまとまった時間がとれず、そのうち半年も過ぎてしまったとは信じられない。更新を待ち望んでいつもチェックされている方々には申し訳ない。今後も更新はかなりのスローペースになると思うが、応援していただければ幸いです。

「ヤダリンのひとりごと」のINDEXに戻る
トップページに戻る