ヤダリンのひとりごと
ジプレキサと体重増加
平成16年1月12日

  ジプレキサは、日本で使用できる抗精神病薬の中で最も体重が増加しやすい薬であることは違いないであろう。ジプレキサを使い始めた頃、患者さんがみるみる間に太っていくのに驚いた。しかし、皆が皆、体重が増加するわけではないことがわかってきた。増えない人は全く増えない。若くて瘠せ型の女性は太りやすいと言えるが、投与前に「太るかもしれないよ」と説明しておいたが、結果的に「いいえ、私は食欲が増しもしないし、太りもしません」と言う人がいる。また、中には逆に「ダイエットに成功しました」と言う男性患者さんも現れた。彼は少し太めの比較的若い男性であった。彼によると「僕はこれまでダイエットしようと思っても続かなかった。でもジプレキサを飲み始めてから持続性がついた」と言う。なるほどと思った。
  ジプレキサによる体重増加は、特に飲み始めに急に起きるため、目立ちやすい。セロクエルやリスパダールでも体重は増えるが、どちらかというと緩徐に増える傾向があると思う。
  それとジプレキサで体重が増えるといっても、多くの場合はいつまででも増え続けるわけではない。だいたい1年ほどで体重増加は止まることが多いとされる。その後は、ほぼ同じかやや減少する可能性もある。
  ジプレキサで体重があまりにも増えすぎて薬を変えざるを得なかった例もないわけではない。これは極端な場合であるが、入院時に34kgであった体重が退院後、最大64kgにまで増えた女性がいる。「息をするのも苦しい、どうにかして欲しい」と言われた。これには私もまいってしまった。変薬せざるを得なかった。ジプレキサをルーランに変えた。1、2か月で53kgまで減り、以後数か月、大きな変動はない。幸い、病状の悪化なく安定している。ここまで激しい体重変動を呈した例に遭遇したのは初めてである。また、入院後約2か月もの間、ほとんど何も食べなかったという点でも非常に稀な症例であった。
  ジプレキサは、糖尿病に使えないことと、糖尿病発症、高血糖、肥満、高脂血症をきたす可能性が他の非定型抗精神病薬と比較して高いことを除けば、1日1回服用でよく、抗パーキンソン薬の併用の必要性がなく、非常にシンプルな処方にすることが可能で、しかも性機能障害が起きにくく、急性期から維持期まで通して使え、再発率もかなり低くでき、生活の質を向上させる非常に有用な薬剤と評価できる。糖尿病を発症したり、血糖値に問題が生じ投与を中止せざるを得なかった例は、私の経験では限りなくゼロに近い。ただ、私が診ているのは比較的罹病期間が短くて若い患者さんが多いからかもしれない。もちろん、今後、これらの問題は引き続き十分注意していくつもりではある。
  リスパダールなどでは高プロラクチン血症が起きやすい為、女性では生理不順や乳汁分泌、そして男性では、勃起障害や射精障害が起きやすい。最近、薬を選んだり変更する時、特に女性患者さんに「生理が不規則になったり止まるのと、生理はきちんときても太る可能性があるのとどちらがいいか」と聞くことが多い。答えは別れてくる。「太るのはダイエットするからいいけど、女だから生理がないのは困る」と非常にこだわる人がいるかと思えば、「そんなことはいいから太るのが嫌」という人がいる。ジプレキサという言葉を出すだけで激しい拒否反応を示す人がいるのも事実である。答えによって、リスパダールとジプレキサを使い分けることも多くなった。
  非定型抗精神病薬が統合失調症治療の現場に浸透することで、患者さんは過鎮静や錐体外路症状などの副作用からずいぶん開放され、生活の質を高めることが可能になった。しかし、すべての問題が解決されたわけではない。急性期や維持期に効果が高く、それでいながら体重増加、高血糖、高脂血症、性機能障害の問題がすべて起きない非定型抗精神病薬が開発されることを期待したい。
  来たる1月16日、大阪で開催されるアジアパシフィック地域中枢神経会議に出席させていただくことになった。海外の著名な先生方の講演が行われる。そこでまた新しい知識を得てきたい。

  いただくメールのごく一部にしか返答できないことが続いており、大変申し訳ありません。

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