ヤダリンのひとりごと
非定型抗精神病薬による急性期治療
平成15年11月17日

 今、私は少し興奮気味である。

 新しい薬の性質を知るには、続けて多くの症例に使ってみるのがよい。最初の一つや二つの例で、たまたまうまくいくと、その薬に対しいい印象を持ってしまったり、逆にうまくいかない場合、「この薬は駄目だ」と決めつける傾向があることに我々は注意しないといけない。従って、私も多くの症例に遭遇するまでは、一つの薬剤に関するコメントはできる限り控えるようにしている。
 現在、4つの非定型抗精神病薬が使用可能である。2年前、ルーランを数多くの例に使ってみた。しかし、認可されている最大量を投与していても悪化する例が出てきた。それであまり使わなくなった。現在、ルーランは、他の薬剤で副作用が出る場合に少量を使ったり、外来レベルでの新規例にまれに使うくらいである。ルーランでずっといい例もないわけではない。
 次にセロクエルを集中的に数多くの例に使ってみた。副作用は少ないし、動きや反応は良くなるし、患者さんからの評価はいいし、明るくなる人が増えた印象があった。しかし、逆に状態が悪化する例も数多く見られた。更に、うまくいっている例の中にも半年あるいはそれ以上の時間が経過すると、病状が増悪することが多いことがわかってきた。セロクエルの場合、単独での維持は困難なことが多いと思う。また、そのような文献も散見されるようになった。もちろん、セロクエルに特異的に反応し、これでないといけない患者さんも存在はする。また、柔らかい薬剤であり、統合失調症だけではなく、精神安定剤としてちょっとだけ使う場合に都合のいい薬ではあるようだ。しかし、ルーランもセロクエルも少なくとも閉鎖病棟に医療保護入院させないといけない急性期症例には、私は使うことはない。
 昨年後半から今年の前半にかけてリスパダールを多くの新規入院例に使ってみた。統合失調症の新しい入院患者さんの治療をほとんど同じ処方、リスパダール6mg+ワイパックス6mg/日で開始してみた。比較的いいイメージを持った。しかし、中には経過中、少し躁気味になり、不眠や多動傾向が目立つ例やアカシジアなどの副作用が目立つ例があった。あるいは、解体した滅裂な状態がなかなかおさまらないことがあり、それはワイパックスやバルプロ酸の併用でもおさまらず、従来の薬剤を併用しないといけないあるいは切り替えないといけないことがあった。ある程度以上の重症例には使えない印象があった。もちろん維持療法に使うには少量で抜群にすぐれた効果を発揮するというイメージはあった。
 そして、ここ3、4か月はジプレキサを急性期症例に使っている。非常にいい印象を持っている。かなり興奮がひどい例でも、比較的急速に病状が改善する気がする。隔離室の使用期間が短縮できる気がする。入院した日のうちから臥床して過ごしており、夜間はよく眠っている。睡眠薬なしで眠っているのである。以前は、興奮や解体が主症状の場合、鎮静系の薬剤であるレボトミンをよく使い最初は十分な睡眠をとってもらっていた。初期段階での十分な睡眠はその後の良好な経過につながっていたと思う。しかし、口渇や鼻づまりがひどかったり、ろれつが回らなくなったりふらついたりしていた。ジプレキサの場合、そういうことはほとんどない。しかもある程度の高用量でも副作用止めである抗パーキンソン薬を必要としない。重要な点は、初期に比較的高用量を使うことにありそうだ。私は、ジプレキサ30mg/日での治療開始を好んでいる。入院した日には、定期の食後薬とは別に、まず20mg分を服用させることがある。ただ、保険診療で承認されている量は最大20mg/日であるから、ルール違反と言われるかもしれない。この最大20mg/日というのは、これまで世界各国共通であった。しかし、アメリカなどでは上限が40mg/日になったとの話を聞く。ポイントは最初から多くを使うことである。急性期の場合、徐々にでは意味がない。多くの非定型抗精神病薬が少しずつ量を増やすべきであるのに対し、ジプレキサはいきなり高用量が使えるという利点がある。急性期ではなく、他の薬剤からスイッチングをする場合などには、逆に少量から始めるのがよいと思う。ジプレキサが発売された当初、メーカー側がとにかく10mg/日追加を強調しすぎたために現場でジプレキサが使いにくくなった気がする。ジプレキサの開始用量は、低用量から高用量まで柔軟に使い分ける必要がありそうである。しかし、最終的には10mg/前後におさまるのであろう。糖尿病あるいはその既往がある者に禁忌であるという使いにくさがないわけではないが、それを除けば、急性期に使うにはかなり有用な薬剤である気がする。今後、もう少し症例数を増やして検討を続けたい。ちなみに、ジプレキサは海外では躁病の治療薬としての認可も受けており、ごく最近、双極性障害(躁うつ病)の治療薬としての認可も受けたとのことである。リチウム以上の維持効果があるとの報告がある。

 私は15年以上にわたり草津病院に勤務させてもらえることを幸せに思っている。草津病院はとにかく症例数が豊富である。今年8月の院内研修での医事課主任の話によると、月1600〜1700件の外来レセプト、月500件の入院レセプトがあるということだ。私は統合失調症の患者さんを診ることが圧倒的に多いが、痴呆性老人を専門的に診ている医師がいる。また、アルコール依存症の治療にこだわっている医師がいる。そして、神経症圏を多く診ている医師がいる。治療技術を高め、そして自分なりの治療法を見つけていくには最適な病院であると思う。このようなホームページが作れるのも草津病院にいられるからである。

 今年は暖かい。今日も平年より4度も気温が高いらしい。こんなに暖かいと、あと1か月半で今年が終わりとは信じられない。何だかよくわからないが忙しい。10月から11月にかけて、西保健センター、廿日市広島地域保健所、宮島と精神保健福祉相談の担当が続いた。今月末には、IWAD環境福祉専門学校での特別講義を依頼されている。12月に入ると、民生委員児童委員会長副会長研修での講演を依頼されている。そろそろ準備を始めないといけない。

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