ヤダリンのひとりごと
インターネットライブ講演会の報告U
平成15年8月3日

 去る7月31日木曜日、またまた、インターネットによるライブ講演会があった。ジョージア州立大学教授であるぺティ先生の講演が中継された。演題は「Strategies to Improve Outcomes in Schizophrenia」であった。非常に密度の濃い内容であった。簡単にその報告をさせていただく。ただ、以下の記載は、私のメモを基に、個人的に印象深かった点に限って書いたものであり、講演のすべてを均一に要約したものではないことに注意されたい。また、一般の方にはやや理解するのが困難な記述があるかもしれない。
 統合失調症の治療では、陽性症状のみならず、陰性症状、気分障害、認知障害、絶望感の改善、再入院防止、生活の質(QOL)の改善、社会との交流の維持など多くのことを治療の対象にしないといけない。要するに幻覚や妄想がとれれば終わりというわけではないということだ。
 長期に服薬していて、ジスキネジアを生じたとしても、それは単なる運動障害ではないのだ。統合失調症は進行性の脳障害であり、服薬しなくてもジスキネジアは生じたかもしれない。従来薬は服薬していても再発することはあるし、明白な神経保護作用を持たない。最近、非定型抗精神病薬には神経保護作用があるという報告がある。
 非定型抗精神病薬を使い始めると、最初は効いたように見えないかもしれないが、それは鎮静作用が弱いからであって、効いていないのではない。治療とは鎮静させることではない。
 統合失調症は再発しやすいが、再発はただのぶり返しではなく、周囲の人から拒否的な待遇を受け、サポートをなくし、絶望感を持ち、家庭や職場、学校など社会生活が困難になり、回復してもそこへ戻ることがむづかしくなることを意味する。再発するのは、病気が再発しやすいという性質を持っているからだけではなく、服薬の継続ができないこと、環境、感情表出が高い家族に対するストレス、認知の障害のため治療が続かない、支援体制の不足などがあげられる。薬剤が耐性を持つこともあるだろう。喫煙は薬物の代謝亢進を促し効きが悪くなる。クロザピン(日本では発売されていない)を投与されていた患者が、刑務所から病院に移動して喫煙を禁じられると、血中濃度が3倍になり痙攣発作を起こしたという例がある。
 服薬しなくなるのは、ただ病気の受け入れができないからだけではなく、薬剤の副作用が原因となっていることがある。その中で、錐体外路症状のみならず、特に高プロラクチン血症が本講演では強調されていた。月経困難、乳汁漏出、勃起困難、射精障害などの性機能障害を引き起こす他に、骨への影響や、暴力や敵意との関連もありそうだということである。すべての患者にプロラクチンの検査をし、また積極的に性機能障害について質問するべきである。特に、女性、小児、日本人ではプロラクチンが上昇しやすいのではないかということであった。今後、数年以内にアメリカでは8から12剤の抗精神病薬の上市が予定されているが、プロラクチンが上昇するような薬は今後開発しないらしい。
 統合失調症にかかると、85%が認知障害を起こし、2年間で20〜40%の語彙を失う。そして、集中力、注意力、記憶力が低下し、日常生活において複数の問題をスムーズに処理できなくなったり、口頭の指示に反応しにくくなったりする。だから書面による指示が必要になってくる。認知機能にもさまざまあるが、中でも実行機能が重要である。
 その他、薬剤の切り替えの問題代謝性障害について述べられた。ポイントは、切り替えは病状の安定化を待ってゆっくりと行うこと、途中、病状が悪化したように見えても、以前の薬剤の毒性が残っているのであり、新しい薬剤が悪いと決めつけないことである。体重のコントロールや糖、脂質の管理は重要である。
 ぺティ先生は、ジプレキサを最もよく使うとのことであった。第一選択薬として使う。急性の症例には、60mg/日も使うことがある(承認用量は、20mg/日まで)。そして、ジプレキサを骨格として、状態に応じて、リスパダールやセロクエルの少量、またはコントミンやバルプロ酸を追加するとのことである。ジプレキサやリスパダールにバルプロ酸を追加すると効果がある場合があるそうだ。ぺティ先生によれば、以前はセロクエルをかなり使用したが、今は使わないとのことである。それは長期間の維持効果に劣ること、耐性を生じて高容量が必要になってくることである。3400mg/日まで使用せざるを得なくなった例がある。また、認知機能の中で実行機能の改善が見られないからという理由であった。

 外国の著名な先生方が来日され、講演されることが急激に多くなった。やはり、先端の知識は海外から入ってくることが多い。海外の情報に目を向けていきたい。そして、引き続き、非定型抗精神病薬に注目していきたい。来年には、日本でアビリファイ(一般名:アリピプラゾール)という非定型抗精神病薬が発売予定と聞く。期待したい。

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