まずは、リスパダール
平成15年1月19日
非定型抗精神病薬4剤がわが国で使えるようになり、まもなく2年が経過しようとしている。現在、統合失調症の初回治療や再発例に、まず非定型抗精神病薬を処方することに関しては精神科医なら誰もが受け入れるところであろう。ところが、その4剤のうち何を最初に使うのがいいかについては、さまざまな意見があろう。ある非定型抗精神病薬を使って効果がないなら、また別の非定型抗精神病薬を使う。そしてそれが無効なら更に別の非定型抗精神病薬を使うことが奨められている。しかし、一つ一つ試していると時間がかかりすぎてしまう。 ・゜★・。・。☆・゜・。・゜★・。・。☆・゜・。・゜★・。
非定型抗精神病薬4剤の中ではリスパダールの発売が最も早く、平成8年6月である。発売当初、私はこの薬剤にあまり関心を示さなかった。当時、統合失調症の治療は、レボトミンとミラドール(ドグマチール)があれば大部分は何とかなると考えており、強力な鎮静を必要とする場合に、時々、ロドピンやバルネチールを用いていた。しかし、それはもう既に過去の考え方になってしまった。まれに気まぐれでリスパダールを使うことがあった。ところが、その少数例はほぼ全例、数年経っても良好な状態を維持しているのである。さらにこの薬の凄さを感じたのは、何度も激しい興奮状態で措置入院を繰り返していた症例が、わずかの量のリスパダールでこれまでになく長期にわたって入院をすることなく経過しているのである。また、入院に至る寸前の状態でリスパダールを用い、比較的すみやかに落ち着き、入院を避けられたり仕事を継続できた例がいくつか出てきたことである。そしていったん状態が安定すると、それが長期間維持される。安定度が高まる。これらの経験を通して、発売後何年か経った今、改めて私はリスパダールを高く評価したいのだ。そして、私にとって、リスパダールは非定型抗精神病薬の中で最も信頼できる薬剤の一つとなったのである。
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非常に大雑把な数字であるが、現在、私が主治医として継続して診療している統合失調症とその類縁疾患の入院及び外来の患者さんの中で、約60%に非定型抗精神病薬が処方されていた。さらに、その約60%にリスパダールが処方されており、その数は110名を超えていた。
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著名な先生方のご意見や、私自身の数多くの症例から得た結論は、統合失調症との診断が明らかな場合には、まずリスパダールを使うのが良いだろうということだ。非定型抗精神病薬の中では、抗精神病薬の持つ本質的な作用がかなり確実に得られる。状態像がどうかはあまり考えなくてもいい。診断に間違いがなければ大丈夫であろう。ただし、外来で出す場合は、少な目から、すなわち1〜2mg/日より始めるべきである。あまり最初の用量が多いと、嘔気や胸苦しさや倦怠感などのために患者さんに嫌がられそうである。過去に、私が他の薬剤からリスパダールへの変更を試みようとしてうまくいかなかったのは、初期用量が多すぎたことにより患者さんに受け入れられなかったのが原因であろう。ただ、体が動きにくいなどの錐体外路系の副作用は少ないが(もちろん、それでも出る場合がある)、男性なら勃起障害や射精障害、女性なら生理不順が意外に多いように思う。
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リスパダールは液剤が発売されたことで、入院後まもなくの急性期から使いやすくなった。ただ、リスパダールは興奮を抑える強力な作用はないので、鎮静を必要とする時にはどうしても他剤の力を借りないといけない。こういった時、補助的薬剤としてワイパックスなどベンゾジアゼピン系の抗不安薬やバレリン(デパケン)などの気分安定薬(ムードスタビライザー)の併用が奨められる。このように抗精神病薬はリスパダール一剤だけで、あとは補助的薬剤のみで十分な鎮静が得られるのかどうか、うまくいかない時にどうするのがいいのかが課題である。実際には、鎮静が困難なこともあり、やはりレボトミンなど従来の鎮静系の抗精神病薬を使わざるを得ないことはあるように思う。
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リスパダールは、急性期が落ち着いて維持期に入った時には更に威力を発揮し続ける。すなわち、高い安定度を保持し再燃防止効果が強いことである。1日2〜3あるいは多くても4mgで十分維持できるのではないか。2mg錠があるので、一日一回1から2錠で大丈夫である。現在、2mg錠1日1回で維持している例もある程度存在するが、それ未満ではたして維持できるのかどうかは更に検討を要する今後の課題である。今後、年単位の経過を追っていきたい。
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今日は、リスパダールの宣伝になってしまったようだが、決してリスパダールが万能薬というつもりはない。リスパダールを実際に服用して非常な不快感を持った人がいるだろうし、他の薬がぴったりの人もいるわけで、これまで述べたように今後の課題は多い。ただ、私の比較的豊富と思われる経験から得た印象を記述しただけである。 |