これは困った・・・
平成14年11月10日
なんと、非定型抗精神病薬のセロクエルに関しても、「糖尿病の患者あるいは糖尿病の既往歴のある患者に投与してはならない」という緊急安全性情報が出された。つい先週、平成14年11月7日午後3時のことである。ジプレキサに関しては、すでに今年の4月に同様の情報が出されている。ジプレキサの時以上に我々にとって事態は深刻である。というのは、セロクエルはこれまでにも述べてきたように錐体外路系の副作用や性機能障害が最も起きにくい薬剤であり、また、これまで他の薬剤が無効であった統合失調症の患者さんの精神症状を改善させる可能性がある、なくてはならない薬剤である。にもかかわらず、糖尿病があるというだけで投与禁忌になるとは、こんなにきびしい措置をとるとは何事かと、怒りの気持ちさえこみあげてくるのである。昨日の外来でも、セロクエルを出していた糖尿病を合併する患者さんの処方を変更した。というか前述のような緊急安全性情報が出たからにはそうしないといけないのである。ある患者さんは言った。「糖尿が悪くなってもいいけど頭が悪くなるのは困ります。だから今までの薬を出してください」と。その方は、数年間、閉鎖病棟に入院していたが、セロクエルのおかげで退院できたのであった。セロクエルはもう1年以上服用している。糖尿病の方はコントロールされており、現在、糖尿病の薬物療法は行っていない。ひょっとするとセロクエルをやめることで精神症状は悪化するかもしれない。しかし、それでも糖尿病の患者さんにセロクエルは処方してはならないのである。こんなにひどいことがあるだろうか。せめて「極めて慎重投与」にとどめておいて欲しかった。確かに10数万人の中でたった一人でも死亡者が出たことは重大であろう。しかし、そのためにセロクエルによって精神症状が良くなる多くの患者さんに投与できなくなる不利益は多大なものがある。投与にあたり十分注意すべき内容を詳細に検討すべきなのであって「糖尿病があることイコール禁忌」とすべきではなかったと思う。怒りと同時に治療の妨害をされているような被害的な気持ちにさえなる。 上記内容に関連して、最近、もう一つ納得がいかないことがある。それは、ジプレキサを投与中の患者さんに糖尿病の血糖コントロールの指標になるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の検査をすることが保険請求上認められないということである。ジプレキサも糖尿病患者に投与してはならない薬になっている。(注:現在、糖尿病に禁忌となっているのはジプレキサが発売されている80数カ国の中で日本だけであるらしい。)そして、投与中には血糖値に十分注意しなければならない。血糖値は、その時点でのものであるが、HbA1cは、過去1〜2か月の血糖を反映するので検査直前に食べたり飲んだりした影響を受けず、血糖値と合わせて検討することにより糖尿病であるかどうか、あるいは糖尿病のコントロールの程度を知ることができる。ところが、先日、ジプレキサ投与中の患者に「糖尿病を疑い」と注釈をつけHbA1cを検査したらレセプトが返戻されてきた。「HbA1cは糖尿病と確定診断した者にしか検査は認めない」というのである。ジプレキサ投与中に血糖値に注意しろといいながら、それをよく表現するHbA1cの検査を認めないのはおかしい。どうもこの問題は地域性があるらしい。広島では認められなくても、岡山、山口、山陰では認められているらしい。広島でもジプレキサやセロクエル投与中の患者にHbA1c検査が認められるように検討してもらいたいものである。 |