ヤダリンのひとりごと
体に現れる精神症状
平成14年11月6日

 精神病だからといって幻覚や妄想、思路障害、意欲の低下や感情の障害など精神的な症状ばかりが出るとは限らない。体にも精神状態は反映される。ここでは、私の主な診療分野である統合失調症(精神分裂病)の場合について考えてみる。

 まずよく見受けられるのが、体重変動である。一般的に状態が悪い時には、体重が落ちる。これは調子が悪い時には食欲が落ちるという理由もあるが、それだけではなく、食べていてもなぜか体重が減ることがある。何年も入院している患者さんの体重をグラフ化しておくと、そのグラフを見るだけで、この時期は良かった、この時期は悪かったというのが一目でみごとにわかる。体重が増えることは、ある意味では病状が改善していることを意味するのである。ただ、非定型抗精神病薬であるジプレキサなどを服用している場合、その副作用で著明な肥満が生じることがあるので(注:すべての人がそうなるわけではない)注意を要する。時にはあまりにも太りすぎて醜くなることもある。若い女の子が極端に太るのは美容上、好ましいこととは言えないであろう。
 顔面のぎらつき、これも病状を反映する。状態が悪化すると顔が脂ぎって、良くなると綺麗に乾燥してくる。おそらく状態が悪い時は清潔や身だしなみについて無関心になり洗面や入浴を怠ることや、発汗の量が増すなどの影響を受けているのであろう。
 体温が病状を反映する人がいる。状態が悪化すると体温が上がるのである。微熱程度のことが多いが、時に38度前後までも上昇する場合がある。体温が上がりかけると「また精神症状が悪くなってきた」とまで言える例がある。
 脈拍数は状態が悪い時に上昇したり、変動が大きくなり、状態が改善すると数が減り、変動幅が少なくなる傾向がある。ただ、抗精神病薬の副作用で頻脈が生じることがある。体温や脈が表現されているのは、入院の場合、看護カルテの検温板である。ある時、看護師さんに「検温板なんか見てるんですか」と聞かれたことがあるが、私にとっては看護師さんの作成する検温板は、その他の情報も含め大切な情報源なのである。だから、回診時にきちんと検温板が添付されていないと私の機嫌が悪いのだ。
 病状が悪化すると消化器症状循環器症状が出る場合がある。入院中、最初は、常に下痢、嘔気、腹痛を訴えていたが、退院する状態にまで回復するとすっかり症状が消えた人がいる。また、精神症状が悪い時には「胸苦しい。これまで内科で狭心症の頓服をもらい最近は常に飲んでいる」と言っていた人が、病状が安定化した数年後に問うと「なぜか狭心症も治ってしまいました。苦しくなることはなく、もう何年も狭心症の頓服を飲んでいません」と述べるのである。
 皮膚症状が精神症状を反映することがある。アトピー性皮膚炎を合併している場合、精神状態が悪化すると皮膚がガサガサになり、良くなると皮膚が綺麗になるのである。も時に精神状態を反映していることがある。
 また、脱毛が病状の悪化と同時に生じる場合がある。円形脱毛は状態が悪い時にできやすい。ほとんど眉毛がなかったのに精神症状が改善して退院する前には、うっすらと眉毛が生え始めた人がいる。
 その他、生理の有無や規則性、性欲便通なども精神症状と関連する場合があるが、これらは投与している薬の種類や量の影響の方が大きい印象を受ける。
 そういえば、こういうおもしろい例があった。もうお年寄りであるが、病状が悪化すると腰が曲がるのである。普段は比較的姿勢の良い方であるが、状態が悪くなると、腰が直角に曲がり顔が見えなくなる。再発が起きた時、また曲がってしまった。今度は、加齢が原因とも考えたが、精神症状が落ち着くとやはり腰がピンと伸びてきたのである。

 これまでみてきたように、精神科的な病状に応じて身体症状が出るため、内科など他科受診の有無や頻度をみただけでも精神状態の概略はわかる。精神病の改善とともに内科にかかることが少なくなってくるのである。我々は、身体的な訴えがある場合には、内科的な診察や検査を専門の先生にお願いすると同時に、それらが精神症状を反映していることを意識し早く精神症状を良くするように努めなければならない。

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