ヤダリンのひとりごと
正月外泊
平成14年1月27日

 今年も昨年に引き続き、1月1日は日直当直であった。元旦の病院は非常に静かである。特に今年は、気持ち悪いくらい静かであった。病棟看護者からのコールや外部からの電話は限りなくゼロに近かった。他科の病院や警察、救急隊からの受診依頼も無かった。普段なら、まず考えられないことである。院内が静かなのは外泊者が多いからかとも思った。1月1日夜間の時点での草津病院入院患者の外泊者数を病棟ごとに示す。
病棟名病棟の性格入院患者数そのうち外泊者数
1病棟急性期を含む閉鎖病棟5615
2病棟急性期を含む閉鎖病棟5515
3病棟療養型病床群(内科)36 2
4病棟慢性期閉鎖病棟(療養)59 9
5病棟老人性痴呆疾患療養病棟60 2
6病棟老人性痴呆疾患治療病棟48 8
7病棟開放個室病棟3212
8病棟開放病棟(療養)4523
9病棟開放病棟(療養)4815

 こうして見ると、今年の外泊者は全体的にはそんなに多くないように思えた。過去にはもっと多数の外泊者がいたことがあると記憶している。普段でも日曜や祭日にはある程度の外泊者がおられる。それでも一部の開放病棟では、約半数が外泊し不在であった。閉鎖病棟でもある程度の外泊者がいた。老人性痴呆病棟は、かなり少なかった。もちろん、これは1月1日夜間の時点の数字であってそれ以外の日に正月外泊をとる方がおられるので実際には年末年始に外泊をされる方はトータルでは相当おられると思われる。
 さて、自宅への外泊は、入院後退院に至るまでの治療過程の中で重要な位置にある。通常、外泊なしで退院に至ることはない。正月や盆だけではなく、病状が落ち着いてくると外泊訓練を行う。しばしば外泊するのなら別に入院していなくてもいいと思われるかもしれないが精神科の治療上は意味があるのだ。病院というところは治療のために一時的にいる場所であって、最終的には家に帰ること、日常生活にうまく適応できることが目標である。従って、今後、生活の場となる自宅に戻って、ほんとうにやっていけるかどうかを確認する必要がある。「入院前は周囲が不気味ですべての人が信じられなかったのに帰ってみると家の中も近所も普通に戻っていた」と述べる患者さんがおられる。「やっぱりおかしかったんですね」と言えるようになれば治療は成功である。また、ご家族の方から入院前と比べどのように状態が良くなっているのか評価してもらう意味がある。入院前の病状が悪く、特に攻撃的、暴力的な場合には、ご家族にとってその時の記憶がなかなか消えないことがあり、外泊して安定した姿を見てはじめて「これなら大丈夫だ」と思ってもらえることがある。また急激な環境変化に動揺しないように外泊を繰り返し、退院後の生活に慣らしていく意味がある。もちろん息抜きや気晴らし、ストレス解消の意味がある。
 ところで閉鎖病棟からの最初の外泊許可には気を使うことが多い。特に自分の意思に反する入院となっている場合には、外泊して家族とトラブルになるのではないか、もし外泊して病院に帰らなかったらどうしようか、もしそうなれば治療が中途半端になり、まもなく再び状態が悪化し、このたび苦労して入院させた意味はなくなり、さらに再度治療に結びつけることはもっと困難になる可能性があるのだ。年末に入院され、初めて院外に出るのが正月外泊となると特に気をつかう。このたびも「連れて帰るのが心配だ」と言われた親に私の方から外泊をすすめた例があった。入院後最初で、しかも数日間にわたる外泊となると家族が自信が持てないのも当然であろう。しかし結果的にはうまくいった。担当のケースワーカーによれば、ご家族は「よかった〜。希望の光が見えてきました。焦らずがんばります」と喜びの感想を述べられていたらしい。その他にも何例か同様のことがあった。最初の外泊がうまくいくことがきっかけで、病状の改善がすすむことがある。状態が不安定であるためなかなか院外に出られなかったが、外泊訓練を始めると急に安定化してくる場合がある。外泊することで先を焦る気持ちも多少やわらぐものである。外泊後、すっきりした表情でずいぶん明るくなった方を見て私の方がほっとすることは多い。最初の外泊を行うタイミングが重要になってくると思う。そしてご家族の方にも外泊には協力していただきたい。

 話は全く変わって、いよいよ「精神分裂病」が「統合失調症」と変更されることが、1月19日の日本精神神経学会の理事会で決定したとの報道がされた。少し前から「精神分裂病」の呼称変更に関し検討されてきたがついに結論が出たようである。実際に「統合失調症」が現場で使われるにはもう少し時間がかかりそうだ。「精神分裂病」という言葉の与えるイメージはあまりにも悪すぎる。「精神分裂病」は薬で良くなる体(=脳)の病気である。そして全く普通の人と区別がつかないほど回復する人がいる。ところが「精神分裂病」と病名がつくとどうしても悲惨な病気というイメージを与え敬遠してしまう。とりあえず「統合失調症」は、ある程度満足できる病名だと思う。しかし、呼び名が変わるだけであって病気そのものや治療法が変わるわけではないので、今度は安易に考えすぎないように注意は必要であろう。いずれにしても「精神分裂病」の呼称の変更は、精神医療史上、革命的な事項と言えよう。今後のさまざまな動きを見守りたいものである。

「ヤダリンのひとりごと」のINDEXに戻る
トップページに戻る