ヤダリンのひとりごと
「病院のシステムに救われた」Qさん
平成13年12月30日

 Qさん、40代半ばの男性である。彼は薬をきちんと飲まなくなり入退院することを繰り返している。薬を飲み始めてしばらくすると全く普通のオジサン(とても人のいいオジサン)になるが、病状が悪化すると幻聴がひどくなり危険な行動をとるようになる。極端な事を言えば、薬さえ飲んでいてくれれば問題がない。退院前には「今度は大丈夫です。薬の大切さがよくわかりました」と言われるのではあるが、いつも同じことの繰り返しだ。しかし、通院を中断はしない。むしろ再入院の前には、受診の回数は増える。これは、状態が悪くなると眠れなくなるため、睡眠薬を多くもらいに来ることによる。しかし、その時点では「薬は飲んでます」と言う。そしてそのまましばらく経過すると、異常行動などが出て入院となるのだ。入院になると「実は数か月前から薬を飲んでませんでした」と白状する。Qさんは「もう信頼ゼロですね」と言いながら退院された。Qさんは一人暮らしだ。このたびは、デイケア参加と訪問看護という2つのサポートシステムを併用した。いつも仕事に就きたい気持ちが強く、それ自体はいいことなのであるが、焦り過ぎて結局うまくいかない。「一人なので寂しい」と言うこともありデイケアをすすめてみた。
 ところで草津病院のデイケアはデイナイトケアと合わせて1日80名近くの方が利用している。最近、プログラムも充実してきており、患者さんから「おもしろくない」と言われることはまずなくなった。レベル的にはさまざまな患者さんが所属している。ただ休みに来ているように見える人がいる。それでも意味があるのだ。スポーツ、陶芸、料理などあらゆるプログラムに参加する人もいる。仕事に就きたい人のためには「ジョブ」と称するグループがある。そこでは、病院スタッフの就職面接を行っている総務課の人間が出てきて、実際に就職面接をロールプレイ(演技)で行い練習をする。また、履歴書の書き方なども指導している。就職したいがなかなか就職できず、そして長続きしない人は多い。そんな人にはこのジョブグループが役立つのではないか。要するに草津病院のデイケアでは、参加者それぞれのさまざまな目標に対応できるメニューが準備されている。デイケアのスタッフはとても熱心で、家族面接を行ったり、各症例に関するカンファレンスを開き問題点の整理や援助の方向づけを行っている。実は、情けないことに私はプログラムのこともスタッフのこともほとんど知らなかった。私の外来の患者さんはデイケアに参加している人が多い。患者さんから聞いて「あれっ、最近、うちの病院のデイケアはずいぶん頑張ってるな」と思うようになったのである。そう言えば、スタッフも時々、報告や相談に来るようになった。とてもいいことだ。
 デイケアの宣伝になってしまったが、話を元に戻そう。さてQさんのことだが、しばらくして家から外に出られなくなった。訪問看護のスタッフが自宅を訪問した。彼は、最近の自分の状況をスタッフに話したようだ。訪問のスタッフはすぐデイケアに連絡をとった。その後、Qさんが外来診察に訪づれた時、受付からデイケア部門に連絡が行き、デイケアのスタッフが外来受付までやってきた。そして話しあいがされ再びデイケアに参加するようになった。おそらくデイケアや訪問看護がなければ、このまま家に閉じこもってまた病気が悪くなっていたであろう。Qさんは語る。「実はこれまで病院を疑っていた。もう何年も前から、薬を飲んでいても自分のことが世間に知られていると思っていた。絶えず人から見張られている感じがしていた。そして周囲の視線を感じていた。数日前から人に見られている気がして玄関から一歩も出られなくなった。そしてデイケアに行けなくなった。人から嫌われているんじゃないかなど被害妄想的に考えていた。でもこのたび病院が僕を引っ張り上げてくれているのが初めてわかった」と言う。さらに「下剤を欲しがるようになれば僕はおかしくなってます。睡眠薬を調節するのも悪くなる前兆です」と自分なりの注意サインを述べた。その後「以後はずっとデイケアに参加し、プログラムをフル活用してます」と結んだ。ちなみにQさんの処方はジプレキサ15mg/日である。私は感激した。これまで表面的な会話に終始していたが内面はこうだったんだとわかった。病的な体験やこれまで受けてきた処遇のせいもあろうが、なかなか本心を語らない患者さんは多い。こういう話が気楽にできるようになるのは私が目標とすることだ。そして、デイケアや訪問看護のシステム、そして受付も含めた連携がQさんを助けたと思い嬉しくなった。こういう話が聞けた日は私はとても嬉しくなり、それが外に出てしまうのか「何かいいことでもあったんですか」と言われることになる。

 もう、あと二日で今年も終わる。2002年が平和で、皆がこれまで以上に幸せに生きていけることを願いたい。インターネットの普及で精神科関連のホームページ数もかなりの数になった。このホームページもいずれその中に埋もれてしまうのであろうが、少しでもさまざまな方々のお役にたてるように努力を続けていきたいものだ。

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