ヤダリンのひとりごと
内科医
平成13年7月31日

 精神病院にも内科医がいる。あまり表には出てこないが、我々精神科医にとってはとても大切な先生方である。私の勤務先の草津病院は、精神病床429床、一般病床37床であるが、精神科医は常勤7名、非常勤2名、そして内科医は常勤5名、非常勤3名もいる。おそらくこんなに内科医の多くいる精神病院はめずらしいのではないだろうか。
 精神科の患者さんも当然のことながら普通の人と変わらず、体の不調を訴えるし、内科的あるいは外科的な病気にかかる。精神症状と身体症状は関連を持っており、特に精神症状が不安定な時には、いつも以上に体のことが気にかかることがある。また、当然のことながら治療薬の副作用でさまざまな身体症状が出てくることがある。草津病院の患者さんは通常どおり身体的診察を受けられるので幸せだと思う。
 内科の先生がたくさんおられるおかげで、我々は精神科の診断と治療に専念できることになる。おそらく内科医のいない精神病院は多く存在し、そういった病院の精神科医は、風邪から始まり、高血圧、糖尿病、肝機能障害、腹痛などへの対処に追われることになる。時として精神科の診察よりもちょっとした身体的なことへの対処に時間をとられてしまうことがある。そういう意味で我々は楽である。非常に贅沢をさせてもらっているのである。内科の先生には本当に感謝している。血糖値が高ければ「内科の先生にお願いします」、貧血があれば「内科の先生にお願いします」、下痢をしたら「内科の先生にお願いします」、吐いたら「内科の先生にお願いします」、しまいには「ころんで膝をうちました」「耳が痛いんです」「目がかすみます」「どうも水虫になったようです」など、こう言うと失礼だが内科の先生は、なんでも屋さんになってしまう。精神病院の内科医は、何でもこなせなければならないので大変だと思う。非常に幅広い知識が要求される。内科の先生に何でも頼んでいるうちに、情けないことに最近は、降圧剤や抗生物質などはチンプンカンプンになってしまった。心電図もレントゲンの読影もできなくなった。ある患者さんに「○○クリニックの△△先生は、喉が痛いと言ったら喉を診てくれたし聴診器もあててくれた」と言われ、あまりにも体を診なくなったと改めて反省させられた。
 時には、精神症状の一つとして、ちょっとした体の症状にものすごくこだわり、何度も執拗に病気ではないかと確認するような患者さんがおられるが、精神科医が「それは大したことないよ」と言うよりも、内科医が診察や検査をして「異常なし」と言う方が当然納得していただきやすい。内科医の方が時間をかけてていねいに診察されていることもけっこう多いように思う。私のように身体的なことに弱い精神科医にはとてもありがたいことである。カルテを見ると、精神科の記事より内科の記事の方がはるかに記載量が多い場合もある。もし、他の内科病院を受診した場合、残念なことに精神科の患者さんというだけで敬遠されることもないわけではないので、精神病院の中で内科的診察を受けられることはメリットが大きいと思われる。
 また「倒れていて意識がありません」とか「呼吸がおかしいようです」といった報告を受けることがあるが、大学卒業後、時間が経過してほとんど内科的知識を失っている私は何をどうしていいのか戸惑ってしまい、内科の先生がおられるだけでほっとするものだ。
 ところで内科医も精神病院でなければまず遭遇しないような特異な身体疾患を診ることになる場合がある。それは、高熱をきたし体がガチガチになる悪性症候群、急性腎不全に至る横紋筋融解症、そして水の飲みすぎで嘔吐、けいれん、意識障害をきたす水中毒などである。
 さらに、精神科で老年期痴呆を扱う関係上、身体的合併症の多い高齢の患者さんがどんどん増えると思われる。
 また、最近使われるようになった非定型抗精神病薬は、これまでの薬剤以上に肥満をきたしやすいとされ、それに伴う、高脂血症や糖尿病、高血圧などが増える可能性がありうる。
 となれば今後、ますます精神病院の内科医への期待は増すことになるであろう。

 最後に、内科的なことに習熟している精神科医ももちろん多くおられるわけであって、精神科医は皆、内科がわからないわけではないということを誤解のないようにつけ加えておきたい。

 何かと忙しくて(あまり忙しいという言葉を発したくはないが)、そして年のせいか多少パワーも落ち、ホームページの更新が滞っている。またメールの返答がなかなかできない状況が続いており申し訳ないと思っている。もともとこの「ひとりごと」は目立たぬところにこっそりと置いておくつもりであったが、なぜか「楽しみにしてます」と言われることが多い。期待に沿えるように頑張りたいものである。

「ヤダリンのひとりごと」のINDEXに戻る
トップページに戻る