ヤダリンのひとりごと
非定型抗精神病薬
平成13年6月20日

 ついに、先日6月4日、話題のジプレキサ(一般名:オランザピン)が発売された。これで、非定型抗精神病薬4剤(他に、リスパダール、セロクエル、ルーラン=国産品)が出そろったことになる。ジプレキサについては、発売前から病院側は購入を決めており、発売当日から我々の処方が可能になった。これは異例のことである。それだけこの薬剤は注目をあびているということだ。

 アメリカにおける非定型抗精神病薬の処方率は年々増加し、2000年には全抗精神病薬処方中の70%に達し、2005年には90%に達すると言われる。リスパダール、セロクエル、ジプレキサの3剤は、アメリカでは「ファーストラインの抗精神病薬」とされる。非定型抗精神病薬は、今後、分裂病薬物療法の中心的存在になることが予測されている。

 精神分裂病は、脳内の神経伝達物質のアンバランスによって起きるわけだが、非定型抗精神病薬は、これまでの薬剤とは異なる神経伝達物質に作用し、副作用が少なく、これまでの薬では改善されなかった症状を改善させる効果を持っている。確かに、ろれつが回らなくなる、筋肉がこわばったり体の動きが悪くなる、姿勢が悪くなる、イライラそわそわする、口が渇くといった副作用は、明らかに少ないことを私自身、実感している。また、非定型抗精神病薬は、分裂病の本態とも言える「認知障害」(具体的説明はここでは省略)を改善させると言われる。これまで、頭がぼおっとしたり記憶力が落ちるという訴えをよく聞いたが、新しい非定型抗精神病薬は、集中してすっきりとした頭で考えられるようになるらしい。これは、患者さんにとっては福音であろう。結果的には、服薬が継続しやすくなり病気が再発しにくくなる。さらに服薬を継続していた場合の再発率も低下すると言われている。これまでの薬に違和感を感じたり副作用を感じる患者さんは、是非、非定型抗精神病薬を使用してみる価値があると考えている。私自身も、積極的にこれらの薬剤の使用を試みるつもりである。まだまだ使用経験は少ないが、非定型抗精神病薬は確かに従来の薬剤と異なる印象が強い。これまで私がこのホームページ上に記載してきた「Q&A」も非定型抗精神病薬の出現により、薬剤に関するかなりの部分の修正の必要を感じている。(徐々に修正していきます。)

 先日の「ひとりごと」で、草津病院(私の勤務先)の閉鎖病棟での抗精神病薬の処方状況について記載したが、その後、開放病棟についても調べてみた。結果として、草津病院の入院患者さんへの抗精神病薬の処方に関する特徴として、(1)ブチロフェノン系の薬剤があまり使用されていないこと。(2)多剤併用が少ないこと。(3)非定型抗精神病薬が積極的に使われていること。がわかった。約60%〜75%が単剤処方であった。つまり抗精神病薬は1人1種類しか使用していない例が半数以上であった。これは非常に重要なポイントと言えよう。他のさまざまな報告よりこの数字はかなり高い。日本では、従来から複数の薬剤を使う傾向があり、その問題点が指摘され続けてきた。どの薬剤が本当に効果があるのかわからなくなる、ひょっとしたら不必要な薬剤が投与されている可能性も出てくる、合計量が思った以上の大量投与になり副作用が増したりするという理由による。

 さて、非定型抗精神病薬の導入にあたり、いくつか強調されている点がある。それは(1)単剤投与をこれまで以上にすすめていること。これは、1つの薬剤でも多くの神経伝達物質に作用するため複数の薬剤を使う必要はなくなるということだろう。「効果がないから別の薬剤を追加併用して使う」という考え方を「別の薬剤を併用することで、その薬の持つ良さが発揮されない。だから1つの薬剤だけにすべきだ」という考え方に改める必要がある。(2)薬剤の使用量について、かなり明確なものが決められていること。これまで効果がなければ、どんどん薬の量を増やす傾向があったが、新しい薬剤では、ある量を超えるとその薬剤の特徴が失われてしまうということだ。以前、リスパダールが私にとって使い慣れない薬だと書いたことがあるが、どうもこれは、私のリスパダールの使用量がやや多すぎたことに原因があるのかもしれないと最近、考えている。さまざまな報告によると、リスパダールの至適容量は、2〜6mg/日とされ、発売当初の容量設定が多すぎていたことが指摘されている。改めてリスパダールの効果を検討中である。(3)切り替え(これをスイッチングという)にテクニックを要し、その手順が示されていること。(4)非定型抗精神病薬を服用するにあたっての患者さんへの心理教育(十分な説明)も同時に検討されていること。

 このすばらしい新しい可能性を秘めた非定型抗精神病薬を早く使いこなしたいものである。

 今、外からはカエルの大合唱が聞こえてくる。6月も後半、もうすぐ2001年も後半に入る。世の中はめまぐるしく変化している。病院内の変化も著しい。精神病の治療についても同様だ。変化することで、一人でも多くの方が幸せになれることを望んでいる。きっと明日もいい日でありますように・・・。

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