ヤダリンのひとりごと
あまりにも早く良くなりすぎる人
平成13年1月14日

 これまで何度も述べてきたが、精神疾患は時間をかけて焦らずゆっくりと治していかないといけない。もちろん、病気になれば誰だって早く良くなりたいし、回りの者も早く良くなることを期待する。早く病気が治るのがよいのは当然である。
 ところが、早すぎる病状改善を安易に喜んでいると失敗することがある。ここで「早すぎる」というのは、たとえば入院になった場合、「数日」の単位を指している。
 入院時、『全く言動にまとまりがなく、興奮状態でほとんど疎通がとれない』患者さんがいるとする。抗精神病薬の投与により、数日後にはいったん鎮静する。入院時の状況を知らない看護者は「この患者さんは、どうして入院されているのか」といった疑問を持つくらいに劇的にまるで入院時とは別人のように病状が改善したように見えることがある。「もう退院してもいいくらい」に見える。しかし、それからしばらく経つと、再び同様の状態に逆戻りしたり躁状態に移行したりする。真に状態が良くなるというのは、良い状態が持続しなければならない。すなわち安定度が高まる必要がある。
 おそらく、2〜3日でいったん状態が良くなったように見えるのは、本当の薬の効果ではなくむしろ鎮静催眠作用など本来、目指している作用以外の作用による「みかけ上の効果」なのであろう。「本来の薬の効果」は、少なくとも10日から2週間くらい経過しないとおそらく現れないようである。ただし、その「みかけ上の効果」や治療開始直後の状態を見ることで、ある程度「本来の効果」を予測はできると思う。
 ご家族の中にも、数日後に「みかけ上良くなった状態」を、「真に良くなった」と誤解して「もうすっかり治った」と思い込んでしまう場合がある。経験的には「あまりにも早くよくなった」患者さんより、「ゆっくり少しづつ良くなった」患者さんの方が長期的な視点からは良好な経過を辿るようである。私は、むやみに入院期間を長くすることにはもちろん反対だが、また入院期間の短縮ばかりを目標にしすぎると失敗につながるのではないかと考えている。

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