ヤダリンのひとりごと
薬物療法の注意点−薬の量の不足
平成12年11月26日

 Aさん、精神分裂病。薬を飲むと、イライラやムズムズ感、さらに歩行時のふらつきや下肢の重さを訴える。抗精神病薬の副作用の可能性が強かった。そこで薬を中止したら、とりあえず多少これらの症状はとれて楽になると言う。ところが被害妄想が出てくるのだ。Aさんは事実だと主張し訂正はできない。そこで抗精神病薬をほんの少し入れたら、再びイライラなどが出てくる。そこでまた抗精神病薬を抜く。ということを繰り返しているうちに、妄想がひどくなり興奮状態になり、攻撃的で大声を出し続け、おさまりがつかなくなった。止むを得ず、ある程度の量の抗精神病薬を処方した。そうすると興奮状態はおさまり穏やかになった。と同時にイライラやふらつきまでほとんどとれてしまった。薬の副作用だと思われていたのに、薬をある程度の量、処方するとすっかり副作用的な症状もとれてしまった。もう1年近くも不安定であったのに、2〜3日のうちに落ち着いた。
 Bさん、精神分裂病。「記憶力が落ちて困る」と受診のたびに訴えていた。抗精神病薬を約1.5倍に増やすと「記憶力が回復して頭がすっきりした」と言う。
 Cさん、精神分裂病。外来通院中であったが、薬を減らしても減らしても「眠い。だるい」との訴えが続いていたが、そのうち入院を要するまでの激しい躁状態になった。退院後はある程度の量の薬をもう何年も飲んでいるが、眠気、だるさの訴えはなくきわめて安定した状態が持続している。受診のたびに「とても調子がいい。両親がよろしくと言ってました」と言う。
 病気の症状と薬の副作用の区別が困難なことがある。悪いことは何でも薬のせいにしてはいけない。薬を減らしたりやめるとすべての問題が解決するわけではない。薬の不足によって患者さんにいつまでもしんどい思いをさせてはならない。時々、治療者が十分な薬を投与しないために病状が改善せず、結果的に患者さんに苦痛を与え続けていることもあるのだ。
 もちろん、不必要な薬を投与してはならない。何でも薬で押え込むという考え方には賛成できない。
 今、目の前の患者さんにとって本当に適切な薬の量を判断することは、ある程度の経験とそれに基づく直感的判断力が必要だと思う。私が使用する抗精神病薬は数種類しかない。しかし、1つの薬物をとってもその「量」と、量を変化させる「速度」、そして「投与方法」を考えないといけない。そこが、他の身体科の薬の使い方と異なるところである。私は、この「速度」の問題が治療技法のポイントとなると信じている。この問題は機会があれば、また改めて述べてみたい。
 しかし、今日の内容は「Q&A」の方に入れるべきだったか・・・。

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