ヤダリンのひとりごと
丸っこくなったね
平成12年11月3日
 私は精神病の患者さんを主に診療しているが、そのような私のところにも、精神病ではないが不登校の子供がまれに訪れることがでてきた。まだ15歳の女子高生Sさんは、「学校に行かなくなった、活気がない」ということで6月のある日、母親に連れられてやってきた。初診時、口数少なく明るさがなく、やや抑うつ的に見えた。少量の抗うつ薬を使ってもみたが大きな変化はなかった。心理の先生(臨床心理士)に依頼して心理面接も行った。夏休みが終わり、いつまで続くのかなと思っていたところ、ある日彼女は「10月から学校に行くつもり」と話した。私は何が起こったのかわからなかった。聞くと「もう家にいるのが退屈になった」と言う。まあ、そんなものなのかなあと思っていた。その後、母親がやってきた。「先生が言った一言であの子は変わったんです」と言う。「丸っこくなったね」という私の言葉であったらしい。別に大した意味を持たせたわけではないし、母親が強調されるほどのことはないであろう。私は、一瞬、ふっくらとして明るくかわいくなったと思っただけである。どんな病気でもそうかもしれないが、だいたい順調に経過すると体重が増えてくる。「丸っこくなったね」はよく使う言葉だ。そういう時、患者さんは明るさとゆとりを感じさせることが多い。(しかし、同じ言葉をかけずいぶん怒られたこともあるので注意が必要。)
 ほんの一言が患者さんや家族を変えることがある。「あなたは病気のうちには入らない」の一言で落ち着いたらしい神経症のMさん、そしてYさん。逆に「あなたは一生薬を続けるべきだ」の一言で長期間良好な状態が続き、塾の講師を続けているTさん。「一日一回は外に出ること」を守りずっと安定しているJさん・・・。
 頭に残る一言は大切だ。私は自分が発する言葉に重大な責任を感じている。患者さんやご家族とのおつきあいが長くなってくると、「あの時先生の言ったあの言葉が・・・」と言われる機会が多くなってきた。自信を持って印象深い言葉がかけられるように常によく勉強しておかないといけないと思う。

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