ヤダリンのひとりごと
人のいい面を評価しよう
平成12年9月4日

 分裂病の発症に、親の育て方や生育環境はほぼ無関係であるが、いったん発症するとその経過に周囲、特に家族の接し方は大きく影響を及ぼすとされる。
 30代前半のY君。発病は約14年前。私が関わって10年以上になる。私が関わるまで、通算在宅期間よりも通算入院期間の方が長かった。以後は、つい最近、家族から離れて生活リズムを整えるために開放個室病棟に約3週間ほど入院するまで、軽い病状の波はあるものの8年以上外来で維持できていた。ちなみに薬はレボメプロマジン100〜150mg/日でほとんど処方変更はない。外来受診のたびに「○年○か月経過しました」と嬉しそうに語っていた。
 彼はいつも「母親とうまくやっていけない。家を出たい」と口にしている。彼の話を聞いているとかわいそうになる。ジュースを飲んでいると「働かない者がジュースを飲んでいいのか」と言われるらしい。先日も「仕事をせん者が家に出入りするのは迷惑だ。近所に恥だ」と言われたらしい。彼の母親には過去に何度かお会いしたことがあるが、ものすごい勢いで彼に対する批判をまくしたてるような人であった。最後に「どうしてうちの子はこうなんですか」と私に対し言う。しかし、私から見ると彼は患者さんの中では優秀なグループに属する。退院後は印刷会社で働いたり作業所に通所したり、時々アルバイトもしていた。調子が悪い時には、まず主治医に相談してくる。そんな彼も、私が止めたにもかかわらず、一昨年は親も関わっている宗教関係の遠く離れた県外の道場に住み込み修行を始めた。でも続かず病的体験も再燃し、げっそりと痩せて帰ってきた。その時「神様との2年間の約束が守れんのか」と宗教の上層部に激しく非難されたらしい。しかし彼は「あの宗教はおかしい。薬の大切さがわかっていない」と言う。大した病状の悪化はなく、ゆっくり休養させるだけですみやかに落ち着いた。開放個室病棟に短期間入院した際には「家にずっといてはいけない。バイトをしたり、デイケア・作業所に通うようにしてできるだけ家にいないようにすることにした」と述べて退院していった。主治医の言うことをとてもよく聞き入れる。彼はずいぶん成長した。十分、一人でやっていけるのではないかと思う。しかし、母親は全く変わっていないようである。
 Q&Aでも家族の注意点の項で述べているが、悪いところばかりに目をつけて批判するより、いい面、良くなった面を評価してあげたい。家族の方には自分でも気づかないうちに批判的なことばかりを口にしていないか時には反省していただきたい。
 人の悪口を言ったり批判するのは簡単だが、良いところをほめるのはなかなかできないものだ。患者さんと親との関係のみならず、我々の日常生活でも同様のことが言える。人を攻撃したり非難するばかりではなく、その人のいい面をもっと評価してあげたいものである。「○○さん。あの人はいい人ですよ」というのも私の口癖の一つになっている。親切な人、人の話をよく聞いてあげる人、一生懸命仕事をする人、明るい人・・・私の周囲には「いい人」が大勢いる。

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