ヤダリンのひとりごと
いくら食べてもおなかがすくんです
平成12年7月20日

 「いくら食べてもおなかがすくんです」という主訴で来られた50歳前後の女性患者さんがいる。我々からすれば少し変わった主訴である。かなり年の離れた夫が連れてきた。寂しがりがひどくて、夜間も夫を眠らせず、また日中も一人でいられないらしく困っているとのことであった。本人に聞くと空腹感と同時にイライラ感や不眠が強く、半年以上前から家事はいっさいできないと言う。これまでかかっていた病院では、うつ病として抗うつ薬を主体にした薬物療法が行われていたようである。全く良くならないとのことだった。もう30年ぐらい前に幻聴があり分裂病と診断されたことがあるとも言う。その後も被害関係妄想的な訴えが時に出現していたようである。しかし、現在は明らかな幻覚や妄想はなかった。開放病棟に入院され、抗精神病薬であるコントミンを150mg/日から始め、数日後に300mg/日にするとみるみるうちに落ち着いた。活動的にもなってきた。(と病棟看護者が評価しているようである。)しかし、落ち着いた後でも感情の鈍さは感じられ、やはり分裂病だと私は思った。おそらく現在の状況だけに目を奪われると分裂病としての治療がされないかもしれない。
 こういうことがあった。病歴を隠したがる方がいて、ずっと総合病院で抗うつ薬による治療を受けているうちに支離滅裂な状態になり精神病院に入院になったのである。本当は過去におそらく精神分裂病としての治療歴があるが、総合病院に通院中はそれを語らなかったようである。
 過去の治療歴や経過は大切に聞かないといけない。時に、これまでの医師と違う見解を期待してそれまでの経過を話したがらない方がおられるが、これは間違いである。我々が正確に診断するためには、「診断時点での症状」と同時に「それまでの経過」も必要なのである。

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