カップル
平成12年4月29日

 精神病の患者さんどおしが同棲あるいは結婚する場合がある。よく患者さんどおしの結婚は離婚率が非常に高いと言われるが、実際にはそれに反し、私の知っているカップルは、ほとんどうまくいっている。お互いがいい影響を及ぼしあい病状も安定化する例が多い。
 A夫婦。二人とも精神分裂病である。夫は、現在でも頑固に幻覚妄想が持続している。妻の方はやや引きこもりがちである。以前は、夫の方は受診が継続せず調子をくずしていた。しかし、3、4年前に結婚後は、いつも夫婦一緒に受診するようになり治療が続くようになった。いつも二人は一緒。だから二人とも日常生活ができているのであろう。もし別々ならお互い引きこもってしまうような気がする。この夫婦は挙児を希望している。「何があっても絶対離れないであろう」と思わせるほど二人は仲がいい。応援したいものである。
 B夫婦。夫は精神分裂病、妻は躁うつ病。数年前から夫婦同然の生活を送っている。二人とも病状はきわめて安定。夫は、過去何度か入院歴があり職につこうとすることもなかったが、今は規則的に服薬し仕事も頑張ってできるようになった。妻の方もかなり頻回な入院歴があったが、ここ数年間は全く病状に波はなくなった。時に二人で旅行を楽しむようである。たとえどちらかが状態を崩してもこの二人は離れることはないであろう。これからもずっと応援したい。
 C夫婦。夫は躁うつ病。妻は精神分裂病。夫は毎年のように入院を繰り返しており、入院中の外泊訓練の時でさえ服薬できなかったが、結婚後は規則的に服薬でき病状のムラは消失し、ここ何年か入院をまぬがれている。妻の方は、発病後ほとんど精神病院での生活であったが、もう何年か病院外で生活できており「幸せだ」と言い受診時はいつも明るく楽しそうである。夫婦そろってスーパーにでかける姿がほほえましい。今後も応援していきたい。
 もうすぐ結婚をひかえているカップルがいる。実は同居を始めた際に、妻となる患者さんの方が状態を崩し入院になった。しかし今はすっかり落ち着いている。彼女は子供を育てる自信はないのでそれは考えていないと言う。彼の方も、ここのところ仕事が続き状態は安定している。彼女の病状を的確に把握できるし「炭酸リチウムを服用しているので子供は作らないように思っている」とさえ言う。現実的である。炭酸リチウムが妊娠中の女性に禁忌であることをどこかで勉強してきているのだった。二人とも穏やかな性格で、とても仲のいい夫婦になりそうである。応援したい。
 こうして考えていくと、その他にも、E君、F君、Gさん・・・。配偶者は健常者である夫婦だが、通常あるいはそれ以上に良好な関係が続いている、あるいは続きそうな人達が次々と頭に浮かんでくる。E夫婦は先日そろって来院。病気の性質や薬の重要性、病状悪化の前触れ、子供を作る際に予測されることや注意点などを説明しておいた。Gさんは結婚後やや不安定になったこともあるが、夫の理解により外来で乗り切り再び良好な状態が続いている。
 もちろん結婚すれば皆、状態が安定化するわけではない。ここにあげた例を一つ一つ吟味し、うまくいく条件を検討してみたいものだ。
 本当に理解しあえる異性がそばにいるだけで気持ちは落ち着くものである。異性を好きになり愛し合う者どおしが一緒になれることはすばらしいことだと改めて考えさせられる。

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