勉強
平成12年3月20日

 最近、患者さんがよく勉強するようになった。
 規則正しく通院している30歳前後の方だが、幻聴や妄想が頑固に持続している人がいる。先日、「実はこれまで黙っていたけど、何年も一部の薬しか飲んでいなかった。でも、分裂病の本を買って勉強をして薬が重要であることがわかった。これから飲むようにしたい。前の薬が合っているのでそれを処方して欲しい」と言うのである。この患者さんは、通院はしているものの「自分は病気ではない」と思っており、「体が動かなくなったりしゃべれなくなったりするのは、相手がいて、そうしているのだ」と確信していた。「空中から声が聞こえ」たり「常に監視されている」とも訴えていた。本を買って勉強して治療に協力してくれることになったのだ。思いもよらないことだった。
 40歳くらいの女性の患者さんが、先日分裂病について書かれた雑誌を持ってきて「私の飲んでいる薬はどれか」と聞いてきた。見ると、ペンでいっぱいラインが引いてあった。勉強していた。この人は数年前に約3か月入院してからずいぶん病状が改善し、安定度が高まった。診察時にはよく「薬がぴったり合っている。入院してよかった。先生のおかげです」と言ってくれる。今は、訪問看護に支えられて生活している。いつも笑顔を絶やさない。
 新聞などで知り、「リスパダールを処方して下さい」という患者さんやご家族がおられる。リスパダールは、日本では最も新しいメジャートランキライザー(抗精神病薬)である。ただ、これを飲めば、誰でも必ず現在以上に病状が改善するわけではない。抗精神病薬にはこれが一番すぐれているというものがあるわけではない。人によって相性があるのだ。
 うつ病の本を読み、自分は「全くそのとおりだ」と思って初診された公務員の方もおられる。
 皆、よく勉強している。新聞、雑誌、本、講演会。これは、とても大切なことだと思う。自分の病気を知ることは安心につながる。人間は、突然予期しないことが起きると、驚き不安になる。あらかじめわかっていると安心できる。私は常に「安心」と「希望」、そしてできる限り正確な情報をわかりやすく与えることが仕事だと思っている。病気は、医者だけが治すものではない。患者さんやご家族と一緒になって治していくものだ。ただ、本で得た知識がすべてではないし、やはり読み方によっては誤解も生じる。本にはさまざまある意見の一部しかとりあげられていないこともある。そこを診察時に補わないといけない。勉強して得た知識が本当に正しく役立つために、我々が補強修正しないといけないのである。一般の方が病気に関する知識を持つことは、病気の早期発見や治療に結びつき、また偏見をなくすことにも役立つかもしれない。我々もますます勉強しておく必要がある。
 世の中は情報公開の時代。医療分野のみならず、一般の方に専門的なことをわかりやすく伝達することは、今後ますます重要視されていくことであろう。

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