サイコエデュケーション(心理教育)とは何ですか。
心理教育・家族教室ネットワーク(事務局は新潟大学医学部保健学科内)のホームページからの引用ですが、心理教育の定義は、『精神障害やエイズなど受容しにくい問題を持つ人たちに、正しい知識や情報を心理面への十分な配慮をしながら伝え、病気や障害の結果もたらされる諸問題・諸困難に対する対処法を習得してもらう事によって、主体的に療養生活を営めるように援助する方法』とあります。さらに、『病気や障害、そのほかの問題を抱えて、知識もなく、相談もできず、途方にくれているご本人、ご家族に必要な知識や情報を知ってもらう機会を広げ、どう問題に対処するかを協働して考えることで、ご本人やご家族が自分たちの問題に取り組みやすくなり、何とかやっていけるという気持ちを回復する、そういうことを目指している支援法のひとつで実証的効果も確認されています』と説明が加えられています。
■つまり、@病気や治療に関する情報を患者さんやご家族と治療者側が共有すること、そして、A疾患とつきあっていく上での日常生活上のさまざまな問題に対する対処法を話し合うこと、の大きな2つの柱があることになります。これらが有効に機能するためには、参加者同士の相互作用が重要です。対象は、患者さんの場合もあるし、ご家族の場合もあります。集団(グループ)で進めていきます。テーマは、統合失調症のみならず、躁うつ病や摂食障害などさまざまであり、精神疾患以外に関しても試みられているようです。
草津病院では、現在、5つの心理教育プログラムが存在します。それは、統合失調症患者を対象にした、「ピーナッツ」(主に閉鎖病棟患者対象)、「退院準備ミーティング」(統合失調症患者ほぼ全員を対象)、「SSG(ソーシャル・スマイル・グループ)」(開放病棟患者を対象にした、退院準備ミーティングのまとめ的な内容)、「はっぴぃグループ」(ストレスケア病棟のうつ病患者対象)、そしてアルコール依存症患者を対象にした「アルコール回復プログラム(ARP)」です。
■ここでは、特に「ピーナッツ」を紹介します。1回が90分程度のセッションであり、週1回実施し、5回が1クールとなっています。1回のセッションの参加者は、患者さん数名、スタッフ数名です。患者さんは、主治医から統合失調症の病名告知を受け、指示箋が出ていることが基本であり、セッション中、座っていられることが条件です。比較的入院期間の短い患者さんが多く、急性期とは言え、ある程度病状が落ち着いた方が対象にはなっています。スタッフは、医師、看護師、薬剤師、作業療法士であり、時々、看護学生など見学者の参加があります。草津病院では、作業療法(OT)の一つと位置づけられており、全体の進行は作業療法士(OTR)が行います。とりあげるテーマは、5回のうち1回が「統合失調症という病気について」、2回が「薬の作用と副作用について」、残りの2回は「睡眠」「ストレス」について取り上げています。
■一方的な情報提供にならないよう、患者さん参加型のプログラムになるよう心がけています。緊張をとるため、セッションの開始時にはウォーミングアップを行っています。また、テーマに応じてロールプレイ(演技)や問題解決技法(一つの問題について、解決策をたくさんあげてもらい、それぞれについて良い点、悪い点を検討するやり方)を取り入れています。そして、グループディスカッションを行います。「病気について」のセッションでは、自ら体験した病的体験を語ってもらい、それを題材にして、医師役と患者役の会話をロールプレイします。また、いくつかの課題について皆で考えます。
■参加された多くの患者さんは、思った以上に熱心に取り組んでおられます。そして、「勉強になった」「他の人の話が聞けて良かった」「楽になった」と肯定的な評価が得られています。我々も、実際に病気を患った患者さんから真に迫ったさまざまな体験を聞くことができ勉強になっています。対処法についても、思いもよらぬ工夫が語られ参考になることがあります。もちろん、参加されているメンバーの中には、自分には関係ないと思われる人もいるでしょうし、プログラム中での「優秀な生徒」が必ずしも良好な経過を辿るわけではありません。しかし、病気や薬について、学んだり語ったりする場が存在することは、患者さんにもスタッフにも多大なメリットをもたらしていることは違いありません。
■最近、始まった「退院準備ミーティング」は、このピーナッツよりも更に幅広い患者さんを対象にし、スタッフとして精神保健福祉士、栄養士、臨床心理士も加わり、テーマも「社会資源」「食生活」「人づきあい」と広範囲にわたっています。
■「ピーナッツ」でも今後、グループ(集団)による効果を最大に引き出す方向で内容の工夫をしていきたいと思っています。特に、対処を考える場面でのテーマを多岐にわたり取り上げ、出された良い方法を蓄積し、まとめていけることが目標です。
(2007.11.26)