Q | 新しい薬剤(非定型抗精神病薬)を飲んでますが、いつまでたっても幻聴や妄想が消えませんがどうすればいいでしょうか。 |
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■非定型抗精神病薬は、非常にすぐれた統合失調症の治療薬ですが、すべての問題を解決する万能薬ではありません。あまりにも期待が大きすぎると、期待はずれということにもなりかねません。しかし、たとえ、幻覚や妄想がとれなくても、従来の薬剤を使用するよりははるかに、メリットが大きいと言えます。すなわち、体のこわばる感じがなく動きやすいし、頭はすっきりし、物事がはっきりと考えられるし、積極的意欲的になれたり、気分が良くなり、明るく前向きな気持ちで生活できるようになります。また、再発をこれまで以上に起きにくくできます。「以前は、頭がぼおっとして運転が危なっかしかったのに、今は安全に運転できます」とか「脳がぼけないので今の薬がいい」と言う方もおられます。幻覚や妄想がとりきれなくても、他の面では新規薬剤(非定型抗精神病薬)がすぐれているということです。幻覚や妄想をとりきることだけを目標にしてはいけません。通常の日常生活ができることの方がはるかに大切です。 ■私は、非定型抗精神病薬は、決して幻覚や妄想をきれいに取りきる薬剤とは言えないと思っています。むしろ、新しい薬剤を使うことにより、幻覚や妄想を述べる患者さんは増えた印象があります。でも、おそらくそれは、病状が改善しないのではなく、幻覚や妄想を適切に表現できるようになったためと思います。そして、これまで以上に周囲の人や医療スタッフに対し、信頼感や安心感が持てるようになったためと思います。だから話すのです。これは望ましいことです。従来薬を使っていた時には、表面的には幻覚や妄想が消えたように見えても、ただそれを言わなくなったあるいは言えなくさせられただけだったのかもしれません。先ほど、新しい薬剤で幻覚や妄想を述べる人が増えたと言いました。でも、それは、考えや行動が動かされているパターンではなく、ある程度距離をとって、客観視できているのです。だから冷静に語られます。 ■もちろん、幻聴や妄想がとれるのがいいのに決まっています。でも、とれないならどうすればいいのでしょう。まずは、自分で「これは病気の症状だ」と思えるようになることです。そして、たとえ声が聞こえてきても、「周囲の人が自分の悪口をうわさしている」ように感じても、振り回されてはいけません。「自分は自分」と自信を持ち、マイペースを保つことです。そして聞こえてくる声(幻聴)に話しかけてはいけません。それと、物事を前向きに考えることです。毎日の生活で楽しいことを探しましょう。 ■私が、もう10年近くかかわっている30歳近くの女性患者さんがいます。初診時は、まだ高校を卒業したばかりでした。今でも「自分のすることなすことすべてが見られている気がする」「思っていることが声になって聞こえてくるような」「悟られているというか、心を読まれている感じがする」「自分の心に鍵をつけたいくらいざわつきがある」などと時々口にします。でも、彼女はここ何年も、ある小さなお店の店員としてアルバイトを続けています。お昼のお弁当を自分で作って、早い時には、午前7時には出勤するそうです。「売上が今年最高になりそう」と張り切っています。彼女は読書もよくするし、友人に手紙を書いたり、ボランティア活動に参加したり、同僚とカラオケを楽しんだりします。外来診察の待ち時間には、編物をしています。「しだいに今の自分を受け入れて前向きに考えていこうと思い出した」「友人に会うのが楽しみ」「周囲から認められている感じがあり自信がついた」「気になる人もできてウキウキしてます。それだけでニコニコできます」といつもとても明るいのです。もう数年以上、それなりに安定しています。外見上、自然でとても精神病者とは見えません。彼女と接する人々は皆、明るくなれそうです。そんな彼女であっても、今なお幻聴や妄想は続いているのです。現在の処方は、ジプレキサ15mg/日です。 (2003.9.21) |