精神分裂病はどのようにして診断するのですか。
■糖尿病を診断するには、糖負荷試験といって一定量の砂糖水を飲ませて、その前後の血液中の糖の濃度を測定したり、眼底の特有な変化をとらえることにより行われます。胃潰瘍を診断するには、内視鏡(胃カメラ)により直接、胃の内面を見ることでわかります。ところが、精神分裂病の場合は、決定的な診断を下す特定な検査があるわけではありません。ある検査を行い「絶対そうだ」という判断はできないわけです。
■それならどうやって診断しているかというと、経験ある精神科医が「これまでの経過」や「現在の状況」を「周囲の人」や「本人」から聞いたり、現在の本人の表情、姿勢や動作、会話の仕方や流れなどから総合的に判断しているわけです。従って「これまでの経過」に関し情報量が乏しかったり、「周囲の人」の供述があいまいな場合は診断の精度に影響を及ぼします。医師はこういうことも考慮しながら診断します。
■どの精神科医がみても明らかに「精神分裂病」と診断する場合と、医師により判断が別れてくる場合があります。精神分裂病の場合、約70%は簡単に診断できるが、残りは経験豊かな精神科医でも迷うことがあるとされます。また、1回の面接だけでは診断しきれないこともあります。最初は「強迫神経症」だと思っていたら、しだいに精神分裂病の症状が明らかになったり、「うつ病」あるいは「人格障害」と診断していたのに数年後には明らかな分裂病になっていたり、また「精神分裂病」と診断していたのに、その後は「躁うつ病」の経過を辿るようなこともしばしばあります。診断が異なっても、治療法は共通する部分が多いため、診断にこだわりすぎる必要はないのかもしれません。それよりも「これまでの経過」や「現在の状況」を正確にとらえ「状態像」として簡単に表現しておくことが大切だと思います。たとえば「数年前から引きこもりがちになり、経過中は一時、幻覚や妄想を思わせる言動が目立っていたが受診時は躁状態を呈していた」などとまとめておいた方がよくわかります。同じ「精神分裂病」でも人により時により異なった状態像を呈するからです。
■さて、精神分裂病の診断にはやはり「診断基準」なるものが存在します。この「診断基準」にもさまざまなものがあり、また時代の流れにより変化していくのです。極端なことを言えば、国により、また日本の中でも地域により、多少の差はあります。さらに同じ日本でも、昔なら「精神分裂病」と診断名がついても現在なら「躁うつ病」とするであろうような例も存在します。こんな話をすると、ますます混乱を生じてしまいそうですが重要なことは、「多くの例は明らかに精神分裂病と診断できるが中にはわかりにくいものもある」「病名も大切ではあるが状態像を正確にとらえておく必要がある」「たとえ確定診断はつかなくても、疑いがある場合は一応経過に注意しておく必要がある」ということになるでしょう。それでは、現在よく使われている国際的な診断基準から、精神分裂病の診断で重要視されている症状を上げておくことにします。ただし、以下の症状があるからと言って直ちに精神分裂病だと断定できるわけではありませんし、また逆に精神分裂病なら以下の症状が必ず見られるわけでもありません。さらに記載した以外の他の症状が見られることもよくあります。あくまで、診断は医師にまかせるべきです。なお「精神分裂病とは言えないよく似た病気」の項目(準備中)も参照して下さい。
■精神分裂病と診断するのに、非常に重要な意味を持つもの
★自分の考えが声になって聞こえてくる体験がある。
(これは、考想化声と言われるものです。)
★考えが自分の頭に吹き込まれる体験がある。
(これは、思考吹入と言われるものです。)
★考えが自分の頭から抜き取られる体験がある。
(これは、思考奪取と言われるものです。)
★自分の頭の中で考えたことが人に知られてしまう体験がある。
(これは、思考伝播と言われるものです。)
★自分の体や行動や考えや感覚が自分の意思以外のものから支配されたり影響を受けるという体験がある。
(これは、作為体験と呼ばれるものです。)
★理由はわからないが、視野に入る何でもないような物や音が特別なはっきりとした意味があるように感じられる体験がある。
(例:救急車のサイレンを聞くと何者かが自分を襲いにくるように思う。)
(これは、妄想知覚と呼ばれています。)
★自分の行動をたえず説明したりグループの中で自分のことを話題にする幻聴がある。
★文化的に全く不可能、非科学的で非現実的なこと(超能力など)を信じこみそれを訂正できないことが続く。
(すなわち、非科学的で超越的な内容の妄想です。)
(例:天候をコントロールできる。)
(注:特定の宗教にのめりこんでいる場合には慎重に判断する必要があります。通常では理解できなくてもその宗教の中では一般的な考えのこともあるからです。)
■精神分裂病と診断するのにある程度の意味を持つもの
★実際には存在しないものが聞こえたり見えたり臭ったり味がしたりするといった体験がかなり長く続くと同時に、現実にはありえないことを現実だと思い込む思考パターンが見られる。
(幻覚や妄想のことです。)
★思考の流れに障害があり、まとまりなく関連性を欠く話し方をしたり、本人にしか通用しない独特の言葉を作りあげたりする。
(滅裂思考や連合弛緩のことです。)
★通常の心理からは理解できない異常な興奮、不自然な姿勢をとり続けたり、働きかけに全く反応しなくなったり拒絶したりしゃべらなくなる、いわゆる緊張病性の行動が見られる。
★ひどい無気力、会話内容の貧困、情動反応の鈍麻や不適切さがあり、そのために社会的ひきこもりや社会的能力の低下に結びつくこと。
(ただし抑うつや向精神薬が原因である場合は除く。)
★周囲のさまざまなことに無関心になったり、何の目的もなく無為にすごしたり、自分のことだけに没頭したり、社会的に引きこもるなどの変化が一貫して見られる。