常にそばに誰かがいないと寂しくなり、薬のまとめ飲みや手首を切ることが続いています。むちゃ食いをしたりわざと吐いたりすることもあります。
 感情が不安定で、誰かにたよろうとする一方で、激しく反発したり怒り、不快なことがあれば、乱暴をしたり、手首を切ったり大量服薬による自殺企図や自傷行為で反応を起こすような人格の偏りを「境界性人格障害」といいます。うつ状態を示すことがありますが、本来のうつ病とは違い、他人のせいにしたり他人を攻撃する傾向があり、さびしさと怒りの感情を併せ持ちます。同情心や嫌悪感といった人の感情を動かし、周囲の人を巻き込んでいくところに大変さがあります。自分の気持ちが受け入れられなければ「死んでやる」と言い、ビルの上から飛び降りようとしたり、手首を切ろうとしたりします。こういう状況になれば、通常なら周囲の人は放っておくことができなくなるわけで、巻き込まれていくことになります。
 この障害は、若い女性を中心に増加傾向にあります。症状は、幼少時に親に見捨てられたという考えから始まります。
 治療にはかなりの時間と根気が必要です。基本的には、薬物療法の効果はほとんど期待できず、精神療法が中心になります。しかし、「できる限り本人を受け入れ支持し、過去の外傷体験を振り返り解釈をするような方法」は通用しません。今現在を大切にします。自分を傷つけるような破壊的な抑うつ感情に耐えられるだけの力をつけることが必要になってきます。治療では「待てること・がまんすること」「約束」を大切にします。起こしたことの責任はきちんととらせるべきです。周囲が動揺してはいけません。しかし、これが困難なことなのです。実際に死にそうになり警察に保護されたり、救急車で運ばれる状態の時、放置できないことがあるからです。家族に、この障害をどう理解しどう対応すべきかという具体的指導が必要です。この障害の治療は、特殊な技量とねばり強さを持つ専門家(精神科医師、臨床心理士)による方がいいと思います。精神科医でも「境界性人格障害」の治療を好んで引き受ける医師は限られてくると思います。