TOPIC No.6-38 超電導電力貯蔵システム「SMES」(スメス)
[Superconducting Magnetic Energy Storage System]


01. 超電導電力貯蔵システム "SMES":DigInfo  by YouTube
02. 電気のカンヅメ、超電導電力貯蔵システム「SMES」2006年04月28日
03. 超伝導 byフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
04. RAsmes 超電導エネルギー貯蔵研究会
05. 超電導電力貯蔵装置(SMES)の現状 2012年12月 電気設備学会誌

高温超電導の一端を解明 岡山大、電子に着目

2010/10/01 中国新聞ニュ−ス

 零下約200度以上で物質の電気抵抗がゼロになる現象「高温超電導」が起きる際の電子の状態を、岡山大の鄭国慶てい・こっけい教授らのグループが解明し、30日発表した。

 高温超電導は1986年に発見。より高い温度で超電導を起こせれば産業分野で実用化しやすいため研究が進められているが、詳しい仕組みは分かっていない。

 グループは、強力な磁場をつくれる米国の施設で、高温超電導体の銅酸化物を使って実験。電気抵抗がゼロでない常電導状態と、超電導をつくり出すことで電子の状態を調べた。その結果、高温超電導が起きる際には、電気を通す性質を示す「電子の状態密度」が半分程度に減っていることを突き止めた。

 グループの川崎慎司かわさき・しんじ講師は「なぜ高温超電導が起きるのかを理論化するスタートになる」と話している。研究成果は米物理学誌フィジカル・レビュー・レターズ(電子版)に掲載された。

理研、鉄系高温超伝導体の超伝導発現機構解明に向けた手掛かりを発見

2010/04/24 マイコミじゃ-なる

理化学研究所(理研)は、鉄系高温超伝導体の超伝導発現機構解明のために、決定的な手掛かりとなるクーパー対の構造を実験的に決定することに成功したことを明らかにした。

 超伝導は、1957年に米国の3人の理論物理学者により解明され、電子が2個ずつ対として結びついたクーパー対が超伝導発現に本質的に重要であることがわかっている。クーパー対を形成するためには、負電荷を持つ電子を対にする「のり」として働く電子間引力が必要で、この引力の起源を固体の結晶格子の振動にあると考えられてきた。実際、ほとんどの超伝導体では、格子振動を媒介として超伝導現象が発現しているが、この機構では理論的に高い超伝導転移温度が期待できず、40K程度が上限であろうと考えられていた。

 しかし、1986年に銅酸化物高温超伝導体は、この壁を打ち破り、現在の転移温度は135Kに達している。こうした高い転移温度を実現する「のり」の起源を格子振動で説明することは困難で、従来とは異なる機構、中でも磁性がクーパー対形成に関与する機構が存在すると考えられている。

 さらに、2008年に東京工業大学細野秀雄教授の研究グループが、最高55Kの転移温度を有する鉄系超伝導体と呼ばれる物質群を発見した。この鉄系超伝導体は、現在、基礎と応用の両面から世界中で研究が進められているが、「のり」の起源、つまりクーパー対形成機構についてはいまだに解明されていなかった。

 クーパー対形成機構の特徴は、クーパー対の構造に反映される。クーパー対の構造は、「のり」の強さが電子の持つ運動量の大きさと方向によってどのように変わるかで決まるほか、クーパー対は位相と呼ばれる量子力学的な属性を持っており、位相も運動量に依存する。結果的に、クーパー対の構造は、電子の運動量の関数として、「のり」の強さと位相が織り成す抽象的な一種の「形」によって表現されることとなる。位相は角度で表され、0°から360°までの値をとることができるが、格子振動が媒介する従来の超伝導体のクーパー対の位相は一定で、運動量の大きさにも方向にも依存しない。

 一方、磁性が媒介する非従来型の超伝導体では、電子の運動量に依存してクーパー対の位相が反転する複雑な構造を持つため、超伝導発現機構を解明する上で、電子の運動量とクーパー対の位相を決定することが重要なポイントとなっていた。

 研究グループは、電子の持つ波としての性質に着目。量子力学によると、電子は波として振る舞い、その運動量は波長の逆数に比例する。そのため、電子の波を観測することができると、その波長から電子の運動量を求めることができる。固体の中で電子の波は動いているので、直接観測することは困難だが、結晶格子に何らかの欠陥を導入して電子を散乱させると、進行波と散乱波が干渉して時間的に動かない定在波を生じる。この「電子のさざなみ」と呼ぶべき定在波は、走査型トンネル顕微鏡/分光(STM/STS)を用いて観察することが可能である。

 超伝導状態では、電子が対を組んでいるので、電子の散乱が起きるときにクーパー対の構造の影響を受ける。そのため、超伝導状態の「電子のさざなみ」は、クーパー対の構造に関する情報を含んでいることになる。同時に「電子のさざなみ」は、電子を散乱する固体内の欠陥の個性にも影響を受ける。この欠陥の性質が分かれば、クーパー対の構造の情報だけを取り出すことができるが、現実の固体にはさまざまな欠陥が存在するため、個々の欠陥の性質をあらかじめ知ることは極めて困難であった。

 研究グループはすでに、超伝導体に強い磁場を印加することで欠陥を導入することができることを見いだすとともに、0.4Kの極低温下で、11Tの強磁場中でも、原子レベルで完全に同一視野を保つSTM/STSを建設、銅酸化物高温超伝導体の電子の運動量の方向に依存してクーパー対の位相が反転する様子を観測することに成功していた。

 しかし、鉄系超伝導体には、運動量の異なる2種類の電子集団が存在するため、運動量の方向だけでなく、その大きさごとに位相を決定することが必要で、現在の有力な理論モデルによると、鉄系超伝導体が持つ2種類の電子集団の関係は、強い「のり」の起源となる磁性を生み出すために有利な条件を満たしており、その結果、高い転移温度が実現すると予想されている。

 このモデルでは、異なる電子集団の間でクーパー対の位相が反転することが期待される(s±波)。このs±波構造を実験的に検証することができると、「のり」の起源は、格子振動ではなく磁性によるものである可能性が高いことになるが、この複数の電子集団の位相を決定することができる手段が、同研究グループの開発したSTM/STSによる「電子のさざなみ」の強磁場中での観察となる。

 研究グループでは、鉄セレンテルル(FeSe0.4Te0.6」(超伝導転移温度14.5K)に着目。物質特有の過剰な鉄が結晶中に取り込まれやすいという課題に対し、単結晶の育成条件をさまざまに変えて最適化することで、過剰鉄の少ない高品質試料の作製に成功し、「電子のさざなみ」の観測を可能にした。

 1.5Kの極低温で観測した「電子のさざなみ」のパターンは、フーリエ変換を行うことで各波長成分に分解、2つの異なる運動量を持つ電子集団を区別することに成功した。さらに、10Tの強磁場を印加してこのパターンの変化を調べたところ、異なる電子集団の間でクーパー対の位相が反転していることを観測、s±波と呼ばれる構造を持つことを見いだした。結果として、鉄系超伝導体のクーパー対は、従来型の超伝導のように格子振動が媒介するのではなく、何らかの型破りな機構、おそらくは2種類の電子集団に関連した磁性によって形成されていることが明らかになった。

 今回、このクーパー対の構造を「s±波」と決定することができたため、鉄系超伝導体に対する理論モデルに強い制約をつけることができるようになった。磁性が鉄系超伝導の発現に重要な役割を果たしている可能性が極めて高いことを突き止めたといえ、この超伝導モデルによれば、同じ鉄系超伝導体でも、結晶構造の微妙な違いによって磁性の特徴が変化し、その結果クーパー対の構造が変わる可能性がある。

 理研では、今後、今回の材料以外の鉄系超伝導体でクーパー対の構造を決定し、このような理論的予言を検証することができると、超伝導発現機構の詳細に迫ることが可能になり、新しい超伝導体の設計へとつながることになるとしている。

東北大、電圧による超伝導化手法を改善 - 転移温度を従来比で約40倍上昇

2009/11/27 マイコミじゃ-なる

東北大学は金属材料研究所の岩佐義宏教授の研究グループは、材料に電圧をかけて超伝導化する手法を改善、超伝導転移温度を従来の0.4Kから15Kまで40倍近く上昇させることに成功したことを明らかにした。

 電圧をかけて超伝導を起こさせる方法は、従来の化学的方法とは異なるもので、2008年、同研究グループによって発明されたもの。有機物と無機物を貼り合わせ電圧をかけ、無機物側に電気を流す伝導キャリアを蓄積し、それを低温に冷却して超伝導を実現するというもので、同技術を用いると、元の物質が電気を流さなくても電圧をかけるだけで超伝導にできるため、超伝導物質探索の可能性が大きく広がることとなる。ただし、これまでの研究で用いられた材料は、少ない伝導キャリアの数で超伝導が現れる特別な例で、超伝導になる温度も、絶対温度で0.4Kと、極低温であった。

 今回の研究では、イオン液体という特殊な有機材料を用いることで、伝導キャリアの数を増加させるとともに、新しい無機物質として層状構造を有する物質を用いることで、超伝導になる温度を、従来の0.4Kから15Kまで上昇させることに成功したというものであり、電圧による超伝導化という手法が広範な材料に適用できるものであることが示され、超伝導材料の開発に新たな道が開かれたこととなる。

 具体的には、有機物と無機物を貼り合わせた面にできる薄い層(電気二重層)に伝導キャリアが蓄積されることとなるが、この構造は、半導体集積回路の基本素子である電界効果トランジスタに似ているため、「電気二重層トランジスタ」と呼ばれている。

 今回の研究のキーポイントの1つは、イオン液体と呼ばれる、室温で液体の状態をとる塩を導入したこと。イオン液体は、有機物の正イオンと負イオンからなる新規な液体として、リチウムイオン2次電池、スーパーキャパシタなどの蓄電デバイスのほか、燃料電池、有機太陽電池などの分野への応用が期待されているもので、これを新たに取り入れることで、伝導キャリアの数が、電界効果トランジスタの10倍以上、2008年に開発された電気二重層トランジスタの数倍と、大幅に上昇させることができた。

 このため、超伝導化するのに必要なキャリア数が大きい材料に、同手法を適用することが可能となったことから、今回は、無機材料として、平らな結晶表面を用意しやすい塩化窒化物という無機の層状物質を用いた。この結晶表面をイオン液体と接触させ、素子構造を作製。用いた無機物質の結晶構造と、薄膜結晶にナノテクノロジーの技術を用いて端子を作製、イオン液体を接触させることで電気二重層トランジスタを構築した。

 同素子のゲート電極の電圧を大きくしていくと、電気抵抗の高かった層状物質の抵抗が低下、温度の低下とともに電気抵抗が小さくなっていく金属的な伝導が実現された。また、電圧が3.5Vを超えるあたりから超伝導の形跡が現れ始め、4.5V以上で、電気抵抗がゼロになる超伝導が実現された。

 これらの測定後、ゲート電極にかけた電圧を0Vに戻すと元通り電気抵抗の高い状態に戻ったことから、このように電気抵抗の高い絶縁体の状態から電圧を変化させるという電気的な手段だけで、抵抗の全くない超伝導へのスイッチングが実現されたこととなる。

 同研究により、電圧をかけるだけで超伝導を実現する手法が、一般的な物質に適用可能であることが明らかになった。そのため、今後はこの方法をさまざまな物質に適用して、従来化学的な合成法では超伝導にならなかった物質を超伝導化したり、より高い超伝導転移温度を持つ新材料を実現できる可能性が出てきたと同研究チームではしている。


【知の先端】東京工業大学教授・細野秀雄さん 新たな高温超伝導物質を発見

2008.06.23 MSN産経新聞

東工大教授 細野秀雄さん東工大教授 細野秀雄さん

 ■“門外漢”が常識破る さらに広がる探求心

 1980年代後半の“フィーバー”以降、長らく停滞気味だった超電導研究が、にわかに活気づいている。東京工業大学の細野秀雄教授(54)らの研究チームが、まったく新しい鉄系化合物の高温超電導物質を発見したのだ。磁石の性質を持つ鉄は超電導との相性が悪いといわれていたが、専門外からのアプローチで常識を打ち破った。2月に発表されると、すぐに世界規模の競争に火がついた。超電導物質の“新鉱脈”は、実用化と物性研究の両面で、大きな可能性を秘めている。(伊藤壽一郎)

 ≪専門外≫

 無機材料科学が専攻の細野さん。電子デバイス関連の材料研究が主戦場で、超電導の専門家ではない。

 「セメント原料から電気を通す透明な金属を作ったり、紙のように薄くて曲がるディスプレーを実現する透明アモルファス酸化物半導体を開発したり、現代の錬金術師を目指して研究してきた」

 鉄系超電導物質の発見に結びついたのは、1995年に着手した透明なアモルファス半導体の研究。薄くて柔軟な未来のディスプレーの材料を目指し、2004年に酸化ランタンと硫化銅が層状になった化合物を使い、薄くて曲がる透明P型半導体を開発した。これだけでも、世界的に注目された成果だが、細野さんの探求心はさらに飛躍する。

 「銅を鉄に変えたらどうなるだろう」。05年に鉄、リン、ランタン、酸素の4元素が層になった「鉄系オキシプニクタイド」という化合物を作り出した。その構造は、銅酸化物系の超電導物質とよく似ている。

 銅酸化物系の高温超電導物質は86年に発見され、世界中の物質材料研究者を巻き込んで“高温超電導フィーバー”を起こした。細野さんは「物質材料の研究者にとって大事件でした。でも、人まねをしたくなくて、手をつけなかった」と当時を振り返る。

 ≪新鉱脈を発掘≫

 20年近くの歳月を経て、専門外の超電導に踏み込んだのは、「鉄の磁性は超電導状態になるのを阻害するため、鉄が超電導物質になると思う人はいなかった。人のやらないことを独自の方法でやってみたかった」からだ。

 鉄系オキシプニクタイドの酸素の一部をフッ素に置き換えてみた。鉄の磁性がヒ素と結びついたことで消え、絶対温度(K)32度(セ氏マイナス241度)という比較的高い温度で超電導現象が起こった。新鉱脈を掘り当てたのだ。

 その後、この鉄系化合物に4万気圧の超高圧をかけると、超電導になる転移温度は43Kまで上昇することが確認された。銅酸化物系以外では最高の超電導転移温度だ。

 ≪高まる期待≫

 元素の組み合わせを変えれば、さらに高い温度で超電導になる可能性もある。80年代のような世界的な研究競争が始まり、「中国ではランタンをほかの希土類金属に置き換え57Kまでの高温化に成功している」(細野さん)という。

 まずは、液体窒素温度の77Kを超えるかどうかが焦点となる。銅酸化物系の高温記録は常圧で約130Kだが、セラミック(磁器)なので、加工が難しい短所がある。金属系では、01年に青山学院大の秋光純教授らが見つけた2ホウ化マグネシウムの41Kが最高だ。加工しやすい鉄系化合物で安価な液体窒素を使って超電導にできれば、実用化は一気に加速する。

 損失のない送電線や電力貯蔵装置、リニアモーターカー、人体の断面を撮影する磁気共鳴画像装置(MRI)など、高温超電導物質の応用分野は幅広い。新系統の鉄系超電導物質は、エネルギー、環境問題への貢献を見据えた研究開発に結びつくことが期待される。

 「高温超電導以外にもおもしろい性質が隠れていそうだ。それが今、見えかけてきている。この物質は、これだけでは終わりませんよ」。細野さんの探求心には、まだ先がある。

 ≪history≫

 ■「発明は世の中を変える!?」

 科学する心の原体験は、小学校入学前のことだった。砂糖と塩を混ぜたら、辛さと甘さが打ち消し合って味がなくなると思っていたが、やってみたら砂糖と塩の味が両方した。「変だな。でも、おもしろい」と思った。

 小学校に入ってからは遊んでばかり。理科の宿題だったアサガオの観察は、スケッチばかりで劇的な変化がなく、つまらなかった。「人工的なものの方がおもしろいや」と子供心に感じた。

 中学時代、理科の授業で世の中にあるものはすべて、周期表に載っている限られた元素でできていることを知り、「ええっ!」と驚いた。クラブ活動は科学部を選び、水の電気分解に「画期的だ」と感動。火を消すものと思っていた水が、電気分解すると、燃える水素と燃焼を助ける酸素になる−ますます化学のおもしろさに魅せられた。

 高校3年のとき、世界初の合成繊維を発明した米国のウォーレス・カロザースの伝記「ナイロンの発見」と出会った。石炭と水と空気から作られるナイロンが、ストッキングなどの女性ファッションを変えただけでなく、世界の産業構造も激変させ、日本では“女工哀史”が解消されたことに感銘を受けた。「新しいものの発明は、世の中を変えられるんだ!!」。少年はこのとき、化学の道に進もうと、はっきり決心した。

                   ◇

【プロフィル】細野秀雄

 ほその・ひでお 昭和28年9月生まれ。埼玉県川越市出身。52年東京都立大学工学部工業化学科卒業、57年同大学院博士課程修了、名古屋工業大学工学部助手、同大助教授、東京工業大学助教授などを経て平成11年同大応用セラミックス研究所教授、16年同大フロンティア研究センター教授。独オットショット研究賞(平成2年)、井上学術賞(14年)、文部科学大臣表彰(16年)、服部報公賞(18年)などを受賞。

 ▽趣味 猫が大好きだが、娘と妻が文鳥を飼っているので飼えない。研究室のパソコンに猫のバッジを張ってがまんしている。ほかに落語も好き

 ▽ストレス 若い人と議論する中で解消できる。それが仕事になっているので、ストレスはたまらない

 ▽座右の銘 「オール・オア・サムシング」。一生懸命やれば何か得るものがある。「トゥモロー・イズ・アナザー・デイ」。明日は明日の風が吹く

 ▽スポーツ 自宅から大学まで約1時間の散歩をよくしている

 ▽アルコール 昔は相当飲んだが、今は飲む時間があったら寝るか、家族と過ごす時間に充てたい

 ▽家族 妻、娘、文鳥1羽と、神奈川県大和市の自宅で3人&1羽暮らし

超電導コイルが電力の安定供給に大きく貢献

2007/11/09 東京工業大学

<統合研究院 教授 嶋田 隆一>

 本学の統合研究院ソリューション研究機構の嶋田隆一教授と野村新一ソリューション研究員らを中心とする研究グループは,コイルを支持する構造材が少なくて済む超電導コイルを試作し,理論限界に近い性能で動作することを確認した.この超電導コイルを使うと,家庭や工場などで使う電力を安定に供給するシステムを構築するときに,建設コストを大幅に削減できるようになる.

 超電導コイルは,電気抵抗がゼロの状態(超電導状態)にあるコイルで,電流を流すと電流が減衰せずにずっと流れ続ける.この性質を電力の安定供給に利用したのが超電導磁気エネルギー貯蔵装置(SMES:Superconducting Magnetic Energy Storage)である.SMESでは超電導コイルに電流を流してから外部と電気的に切り離し,電力を磁気エネルギーの形で貯めておく.電力をそのままの形で貯めるので効率が高い,電力を高速に出し入れできるといった特徴がある.

 ただしSMESには,建設コストが高いという欠点がある.超電導コイルは強い磁場を発生するので,電流と磁場によってコイルに強い力(電磁力)が加わる.コイルを支持するとともに,コイルの破壊を防ぐ構造材が必要になる.このためコストが上昇する.

 そこで嶋田教授を中心とするグループは,コイルに加わる力を可能な限り小さくした超電導コイルを考案した.ドーナツ型の支持材に金属線(超電導線)をらせん状に巻くコイルである.

 既存のコイルには円筒型やドーナツ型などがある.いずれも金属線を隣合うように巻いていくのが普通である.この場合,円筒型ではコイルを引っ張る力が,ドーナツ型ではコイルを圧縮する力が働く.これに対して嶋田教授らが考案した,らせん状に巻くコイルでは,コイルを引っ張る電磁力とコイルを圧縮する電磁力が打ち消し合う.この結果,コイルに働く電磁力が最小になる.するとコイルの構造材が簡単になり,SMESの建設コストが下がる.推定では,SMESの建設コストが従来の半分に下がるという.

 試作したコイルは外形が53cm,内径が27cm,高さが13cmで,実際のシステムの10分の1の大きさになっている.理論的には最大7.1T(テスラ)の磁場を発生でき,最大270kJ(キロジュール)のエネルギーを貯蔵できる(図1).実験では,理論限界の84%に相当する5.9Tの磁界を発生できた.この実験結果は,試作したコイルが実用的に十分な性能を有していることを示す.

 応用としては例えば,超電導コイルを数多くならべた大規模なSMESを大都市の近郊に設置することを考えている.現在,電力供給系統が抱える大きな課題に,昼間と夜間の電力需要の差がある.日本の電力需要は12時〜15時に最大となり,夜明けの5時ころに最小となる.発電所や変電設備などの容量は最大電力に対して余裕を持たせて設けておく必要があるものの,平均的には発電能力の60%前後しか使われていない.

 発電設備の利用効率を高めるには,エネルギー貯蔵装置の活用が有効な手段である.現在,揚水発電(夜間に水を汲み上げて昼間に発電する手法)がエネルギー貯蔵に使われている.ただし揚水発電は立地が限定され,しかも発電所が大都市から遠いために送電線によるエネルギー損失が大きいといった問題を抱える.

 これに対してSMESは大都市近郊に設けられるので,負荷である大都市のすぐ近くで電力を出し入れできる.このため効率が高い.嶋田教授らは例えば,4000個の超電導コイルを並べた最大容量が60万kWh(キロワットアワー)の電力貯蔵装置を提案している(図2).

 なお本研究は,文部科学省の科学技術振興調整費「戦略的研究拠点育成プログラム」の支援を受けて統合研究院が取り組んでいる「ソリューション研究」の一環として実施された.

NEDOが展示 超電導利用の蓄電システム

2007-10-17 新エネルギーニュース

 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は,展示会「第2回新エネルギー世界展示会」(千葉市幕張メッセ,2007年10月10〜12日)で,超電導現象を利用した蓄電システム2種類を展示した。一つは,「SMES(superconducting magnetic energy storage)」。これは,超電導状態のコイルに電流を流すと,電気抵抗がゼロなので半永久的に電流が流れ続けることを生かして電池の代わりにするもの。もう一つは「超電導フライ・ホイール」。これは,電力を駒のような回転体(フライ・ホイール)の運動エネルギーに変換して「蓄電」するシステム。超電導で回転体を空中に浮かせるため,摩擦によるエネルギーの損失が少ないのが特徴である。いずれも,現在,NEDO 新エネルギー技術開発部の「超電導電力ネットワーク制御技術開発」というプロジェクトの中の研究テーマになっている。

 今回,NEDOは展示会場で,直径がおよそ30cm前後と超小型の「高温超電導SMES」を出展し,実際に液体窒素の中にこの超小型のSMES装置を浸し,蓄電と電力の取り出しを交互に実演してみせた。

 この装置は,外径118mm,内径100mmの超電導用コイル12個を「トロイド型」と呼ばれる形に並べたもの。超小型ながら,超電導材料からなるコイルの線材の総延長は185mになるという。蓄電エネルギーは最大10Jである。

 ただし,蓄電量が10J=10W・sとわずかでは,ほとんど実用性がない。「実用的なものは直径10mぐらいと大きく,変電所で落雷などによって瞬間的に電圧が低下する瞬低防止システムなどへの応用が検討されている。臨界電流密度をあと3倍ぐらい高められれば,装置も1/3程度に小型化でき実用化が現実的になる」(説明員)という。NEDOの開発プロジェクトには中部電力,九州電力,国際超電導産業技術センター(ISTEC)などが参加しており,2007 年度中に100MW級のシステムの開発を目指すという。

 もう一つの超電導フライ・ホイールは,今回はパネルだけの展示となったが,NEDO のプロジェクトでは,東海旅客鉄道(JR東海)などが参加して実際に50kWh級のシステムを開発中である。「フライ・ホイールの実物は直径3〜4mで重さは25t。最近組み上がったばかり」(説明員)という。

 超電導を利用しない小型のフライ・ホイールは,欧州の列車で実用段階になっている。ただ,摩擦によるエネルギー損失が避けられない。超電導でフライ・ホイールを浮かせると,摩擦がほとんどなくなるため「1週間経ってもエネルギーは 2%程度しか減らない」(NEDO 超電導・超高純度金属材料グループ主査の前田貴雄氏)。その2%には,超電導状態を維持するための冷却装置に必要な電力が含まれるという。

 目標とするエネルギーの貯蔵容量は70kWh以上。ただし実際に取り出せるエネルギーはやや減るため,50kWh級となる。入出力時の電力は1MWが可能であるという。

 想定する用途は,鉄道会社の変電所などに設置して,列車の回生電力,つまり減速する際に車両の運動エネルギーを電力に変換したものをこのフライ・ホイールに蓄電し,列車が動き出す際に再利用するような使い方という。

東工大、新型超電導コイルによる電力貯蔵実験公開

2007/10/17 知財情報局/産官学連携 科学新聞社

 東京工業大学総合研究院ソリューション研究機構の嶋田隆一教授と野村新一研究員らは9月13日、新型の超電導コイルによる電力貯蔵実験を公開した。

 火力・水力・原子力など各発電施設で発電された電力は貯蔵することができないため、1年を通して最も電力消費が上がる時に合わせて施設が整備されている。それにより、年間の設備利用率(年負荷率)は60%前後でしかない。現在、夜間の余剰電力を利用した揚水発電によるエネルギー貯蔵法があるが立地等の問題で新たな揚水発電設備を作ることは困難な状態だ。

 研究グループでは、揚水に代わる新しいエネルギー貯蔵技術として、超電導電力貯蔵(SMES)に着目した。超電導コイルと交流直流電力変換装置、冷却装置、断熱容器(クライオスタット)で構成される。超電導コイルに電流を流し続けて電気をそのまま貯蔵するため、高効率で応答速度が速いのが特長だ。

 エネルギー貯蔵には、貯蔵に関与しない無駄な引張応力が発生するため、それを支える支持構造物が必要になる。従来のSMESで使用される超電導コイルは、円筒型の巻枠に超電導線を巻いていくものだが、支持構造物に圧縮応力が発生してしまう。そこで研究グループでは、ドーナツ型の巻枠に超電導線をらせん状に巻いていく電磁力平衡コイル型のコイルを作製。これにより、余分な電磁力を互いに打ち消しあい、発生する引張応力を最小化して、支持構造物の必要量を従来型コイルの半分以下まで低減した。

 実験では、巻枠にはアルミニウム合金、超電導線にニオブ・チタン合金を用いた直径53cm、リング幅13cmのモデルコイルを使用した。学生が4ヶ月かけて手作業で巻き上げた。このコイルの理論限界値(Nb・Ti超電導線が超電導状態を示す限界値)は、コイル電流値552Aで7.1テスラになり、貯蔵エネルギーは270kJ。従来型のコイルでは、7テスラに耐えるため、導線を補強する必要があったが、今回のコイルは自身の引張応力で電磁力を支持できる構造になっている。

 通電試験は2月から行われており、今回の公開実験では、これまでの最高値の437A、5.6テスラを記録した。実際のSMES装置は、保守点検の際に極低温冷却状態から常温にして検査が行われるため、再び運用する時に、装置の超電導特性を劣化させないことが重要となる。今後も、通電試験を続けて劣化を伴わない安定した繰り返し通電が可能か調査するという。

 同グループでは、電磁力平衡コイルを用いた超電導電力貯蔵による都市型のSMES施設を提案している。例えば、都市の地下に輸送可能サイズである直径4m、リング幅1mの電磁力平衡コイル(貯蔵エネルギー540MJ)を多数配置して電力貯蔵を行う。完成したコイルを順次運用することで、エネルギーを段階的に拡張していくことができるという。

 エネルギー貯蔵が普及すれば、今夏の電力危機のような事態を回避することが可能になりエネルギーセキュリティーを向上させることができる。しかし、一番重要なことは、電力消費者の我々がいかに効率よく電気を使うかということになる。(科学、9/28号4面)

『超電導電力貯蔵システム』

2007年09月25日 《フジサンケイビジネスアイ》by環境・エネルギー・特産品情報

 中部電力などが、電圧や周波数が不安定になって品質が低下する問題を解消する実証試験を栃木県日光市で行っている。そのカギを握るのが超電導電力貯蔵システム(SMES=スメス)と呼ばれる最先端の技術だ。

 電力自由化の進展を背景に遠隔地にある発電所から長距離送電したり、風力発電などの分散型電源が増加しているのに伴い、供給する電力の安定度や品質低下が懸念されている。

 また、今夏は猛暑に加えて柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)が新潟県中越沖地震によって停止を余儀なくされ、電力の供給不安の問題も露呈した。

 こうした悪条件が重なって万一、一瞬でも停電という事態になると、生産活動に重大な影響をもたらすことになる。

 それを防ぐには「コンマ何秒」というレベルで、瞬時に大出力の電力を供給できるかが問われる。その意味でSMESは「うってつけの技術」(長屋重夫・中部電力技術開発本部電力技術研究所超電導グループ長、研究主査)と期待する。

 SMESは、超低温下で電気抵抗がゼロになる超電導現象を利用し、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して超電導コイルの中に貯えておく装置。瞬時に大容量の電力を繰り返し充電、放電できる点が売り物だ。

 試験が行われているのは、中禅寺湖を水源とする古河日光発電・細尾発電所の隣接地。ここに出力1万キロワットの装置を設置し、今年6月から実際の電力送電系統に接続して充電・放電を繰り返す試験を行っている。

 同発電所は稼働後100年以上が経過し、出力も1万5700キロワットと小さい。アルミニウム板などを製造する、古河電工の日光事業所(日光市)に電力を供給しているが、同事業所には金属の圧延など電力の負荷変動が大きい工程がある。

 こうした条件は、実証試験の場として最適で耐久性や安定性を検証。目標であった2万回以上の繰り返し充放電をすでに達成しており、引き続き11月にかけて試験を行い耐久性、安定性などを検証する。

 SMESの導入が期待できる場所は、製鉄工場や新幹線の通過時など一時的に電力負荷がかかる場所。実用化に向けた計画は着々と進んでいる。

中電など超伝導電力貯蔵実験

2007-09-25 新エネルギーニュース

 中部電力などが、電圧や周波数が不安定になって品質が低下する問題を解消する実証試験を栃木県日光市で行っている。そのカギを握るのが超電導電力貯蔵システム(SMES=スメス)と呼ばれる最先端の技術。

 SMESは、超低温下で電気抵抗がゼロになる超電導現象を利用し、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して超電導コイルの中に貯えておく装置。瞬時に大容量の電力を繰り返し充電、放電できる点が売り物だ。

 試験が行われているのは、中禅寺湖を水源とする古河日光発電・細尾発電所の隣接地。ここに出力1万キロワットの装置を設置し、今年6月から実際の電力送電系統に接続して充電・放電を繰り返す試験を行っている。

 同発電所は稼働後100年以上が経過し、出力も1万5700キロワットと小さい。アルミニウム板などを製造する、古河電工の日光事業所(日光市)に電力を供給しているが、同事業所には金属の圧延など電力の負荷変動が大きい工程がある。こうした条件は、実証試験の場として最適で耐久性や安定性を検証。目標であった2万回以上の繰り返し充放電をすでに達成しており、引き続き11月にかけて試験を行い耐久性、安定性などを検証する

■古河日光・細尾発電所/超電導電力 検証の場に/NEDOなど試験開始/世界最先端の技術開発へ

2007/06/16 下野新聞

 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と中部電力は十五日、日光市の古河日光発電細尾発電所内の日光超電導試験センターで、電力系統制御用の超電導電力貯蔵システム(SMES)の実証試験を開始した。超電導コイルを使い、電力の貯蔵と放出を瞬時に、繰り返し行うことができるシステム。約半年間かけて、発電所内で性能の検証を行う。実用化されれば、落雷時の停電被害防止などに効果が期待される。

 超電導は、超低温下で物質の電気抵抗がゼロになる現象。SMESは、これを利用して電気エネルギーを磁気エネルギーに変換し、超電導コイルにためておく。

 実証試験は、経済産業省資源エネルギー庁のプロジェクト「超電導電力ネットワーク制御技術開発」の一環。古河電工日光事業所の工場と、関連の細尾発電所の施設で、さまざまな試験ができることから、実施場所に決まった。

 試験は、出力一万キロワットのSMESを設置し、電力を二万回以上繰り返し充・放電して耐久性、安定性などを検証、確認する。実用化されれば、電圧や周波数の安定した高品質な電力の供給につながる。瞬時の停電で生産ラインに大きな影響が出る製造業の工場などでの活用が考えられている。

 十五日に行われた日光超電導試験センターの開所式には、NEDOや中部電力の関係者ら約五十人が出席。資源エネルギー庁電力需給政策企画室の高塚夏樹室長補佐は「プロジェクトの最後の節目。実証試験の意味合いは大きい」と述べた。

 日光市の阿部哲夫副市長は「世界最先端の技術開発に敬意を表する。日光市は雷が多く、企業は停電対応に苦慮しているので、有効な対策になる」とあいさつした。

 古河電工環境・エネルギー研究所環境技術開発部の木村昭夫主査は「超電導コイルには当社の製品が使われている。システムが広く実用化されれば、当社製品の普及にもつながる」と話した。

瞬低は年間に10回程度起こる

2007年04月02日 maiaの日記 slashdot

これがシャープ亀山第2工場だ!? なぜ、工場の差がテレビの差になるのか? ?

同工場内に設置された世界最大の超電導電力貯蔵装置は、電気抵抗がOとなる超電導を利用することで、電気エネルギーを磁気エネルギーとして 10,000kWを貯蔵することができるとともに、大電流を瞬時に出力でき、わずか0.05秒で起こる瞬低と呼ばれる瞬時電圧低下を防ぐことができる。「瞬低は、年間に約10回程度起こる。最近では、不規則性が増している。液晶パネルの生産では、コンピュータの安定稼働で求められている瞬低対策とは比べものにならないレベルが必要」という。

「瞬低」がそういう状況になっているとは知らなんだ。PCも、対策は必須というべきなのか。

超電導技術など追加−経産省、技術戦略マップ2006を策定

2006年04月26日 電気新聞

 経済産業省は、新産業の創造に必要な重要技術の目標などを示した「技術戦略マップ2006」を策定した。

 昨年3月にまとめた同マップの内容を見直すとともに、今回は「がん対策などに資する技術」「超電導技術」「人間生活技術」の3分野を追加して計24分野で技術戦略を示した。エネルギー分野については、前回は昨年10月に策定していることから現在見直し作業を行っており、今年10月に公表する予定。

 今回の技術戦略マップは「情報通信」「ライフサイエンス」「環境・エネルギー」「製造産業」に関連する24分野を対象とした。

 同戦略マップは、研究開発の成果を製品などとして普及していくための「導入シナリオ」、求められる技術の中から重要技術を選定した「技術マップ」、研究開発の進展を時間軸で示した「ロードマップ」の3部構成で、それぞれの分野で詳細を記載した。

 今回は、昨年策定した内容を初めて見直したほか、ナノテク分野などでは国際動向を踏まえて標準化のためのシナリオを策定した。また、特許や研究の動向調査によって同戦略マップで示した技術課題の競争力を分析。これら技術開発が実用化された際の将来社会のイメージも5つ提示した。

 今回追加された超電導技術は「エネルギー・電力」「産業・輸送」「診断・医療」「情報・通信」の4分野での普及を想定したほか、共通基盤技術として線材、バルク・デバイス、冷凍・冷却を選定。4分野と共通基盤技術のそれぞれについて導入シナリオやロードマップを示した。

 エネルギー・電力分野ではエネルギー貯蔵、送変配電、発電での利用を想定。エネルギー貯蔵では系統安定化用や不可変動補償・周波数調整用のSMES(超電導電力貯蔵システム)、50キロワット時級のフライホイールを2010年代前半に実用化する目標を掲げた。超電導産業の市場規模は20年時点で国内市場が約2250億円、海外市場では約1兆9600億円になると試算している。

 また、同戦略マップの環境・エネルギー分野では二酸化炭素固定化・有効利用として、分離・回収技術や地中貯留技術、海洋隔離技術、大規模植林による地上隔離技術などを重要技術として選定している。

超電導電力貯蔵システムの電力系統への連系、中部電力が来年5月から実証試験

2006年04月26日 電気新聞

 中部電力は27日、SMES(超電導電力貯蔵システム)を電力系統へ連系させる実証試験を開始すると発表した。

 同社は大規模工場の雷対策用の瞬時電圧低下補償用SMESを実用化し、シャープ亀山工場(三重県亀山市)で実証試験を行ってきた。これまでに動作性能や信頼性が確認できたことから、国内で初めて電力系統の急激な負荷変動を安定化させる「電力系統制御システム」としての開発に取り組む。

 試験では出力1万キロワットの実機を製造し、来年5月に古河電気工業の水力発電子会社・古河日光発電の細尾発電所(栃木県日光市)で系統連系試験を開始する予定だ。

 SMESは、超電導状態で電気抵抗がゼロになる性質を利用し、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して超電導コイルの中にため込んでおく装置。瞬時に大電流を放出できるのが特徴だ。1970年代には、揚水代替の大規模電力貯蔵技術として関心を集めたが、コスト面などの課題から実用化が遅れていた。そこで同社は、瞬低対策としての活用に着目、顧客向けシステムとして国内で初めてSMESを実用化した。03年からシャープ亀山工場でのフィールド試験を重ね、瞬低による工場設備への被害の回避効果を確認してきた。

 今回の試験は経済産業省が進めるプロジェクト「超電導電力ネットワーク制御技術開発」の中で行われる。要素技術開発などと並行し、出力1万キロワット、貯蔵能力20メガジュールの実機を製造、来年5月から7カ月かけ、細尾発電所で系統連系試験を行う。

 電力系統制御用SMESでは電力系統内の急激な負荷変動へ追随させるため、短時間で繰り返しの電力貯蔵と放出が求められる。性能テストでは、<1>2万回以上の繰り返し動作による耐久性・安定性<2>想定外の変動に対する制御応答性、動作特性<3>故障検出、監視機能C電力ネットワークへの影響と効果 ――を検証し、トータルシステムとしての完成度を高めていく。なお、電力系統制御システムとしての実用化には10万キロワット級の能力が必要とされる。

 同社は「風力など分散型電源が増加してくれば系統の安定化へ必要になるシステム。実用化へ向け大きな一歩を踏み出した」と期待する。

資源小国の挑戦 第1章 共生に向けて(1+) 電気備蓄に超電導利用-中部電力SMES

2006年02月01日 産経新聞2面特集 by Cutting edge

 電気は大量に蓄積することができない。送電ロスがあるにもかかわらず、青森県東通村から700キロ以上のエネルギーロードを通じて電気を運んでいるのもこのためだ。電気を大量に蓄え、必要な場合に素早く供給できないか-。多くの技術者がこの難題に挑んできた。

 中部電力が開発した超電導電力貯蔵装置「SMES」は、その夢に大きく近づいた製品だ。国内最大の液晶テレビ生産拠点であるシャープの亀山工場(三重県亀山市)に世界で初めて導入され、液晶パネルの精密加工を支えている。

 物質をある温度以下に冷やすと突然、電気抵抗がゼロになる超電導技術を活用し、液体ヘリウムで零下269度にまで冷却した超電導状態の合金コイルに電流を流すことで電力を蓄える仕組みだ。超電導状態で電線の端と端をつないで輪にすれば、電気エネルギーはロス無く内部を循環し続けるという特性を利用した。

 大規模停電には至らなくても、送電線への落雷によって瞬間的に電圧が低下する「瞬停」の発生は珍しいことではない。コンマ数秒とはいえ、瞬停が起きれば、精密加工が必要な液晶パネルにとって致命傷となりかねない。SMESは瞬停時に大量の電気を放出し、精密加工の精度を守る。

 シャープの亀山工場に導入されたSMESの外見は、直径5メートルほどの釜状のステンレス容器だが、万一、工場の電力系統に瞬停が発生すれば、瞬時に電気を放出して電力を補完する。放出される電気は1万キロワットで、一般家庭3500戸分に相当する能力を備える。

 開発に携わった中部電力の長屋重夫超電導・新素材グループ長は「今後は100万キロワット級にまで蓄電規模を拡大し、広域の電力系統の安定に活用していきたい」と話す。日本を縦断するエネルギーロードは、こうした新しい技術の登場によって将来、その姿を変えるかもしれない。

SMESのコスト大幅に低減−中部電力、新型コイルを開発

2004年12月21日 電気新聞

 中部電力は20日、電力系統制御に適した超電導電力貯蔵システム(SMES)の心臓部となる超電導導体に必要な裕度を最適化する新しい技術を開発したと発表した。この技術は、銅線を超電導線の周囲に撚(よ)り合わせることで超電導線の本数を減らした革新的な構造を採用。既存の超電導導体に比べて2倍以上の電流密度を持つ高い通電性能を備え、しかも通電に伴い発生する交流損失を50分の1に抑え、コストを10分の1に低減したのが大きな特徴だ。また、大規模停電のきっかけとなる電力系統の動揺を抑制する用途にも適用できることを検証した。

『 技術 』 ― 未来への挑戦 ― ◆電力貯蔵の夢

2004年11月18日電気新聞 4面

  【2】 瞬低補償用SMES

 三重県亀山市。今年1月、この地で世界最先端の液晶工場であるシャープ・亀山工場が稼働を開始した。25型超の大型液晶テレビをパネル生産から組み立てまで一貫生産を行う。月産台数は10万台。トップメーカーであるシャープが、まさに「社運」をかけた大規模・最新鋭工場だ。

   ― 市場が呼んだ実用化の好機 ―

■実績積み重ね

 この亀山工場の電力安定供給を支えるのが、中部電力が開発した大規模瞬時電圧低下補償用「超電導電力貯蔵システム」(SMES)だ。瞬低補償装置としては世界最大規模となる出力5千KVA。工場の重要な部分の瞬低を、この装置1つで防止できる。現在、同工場ではSMESのフィールド試験が進められている。

 民需用電力機器として超電導技術が実用化されたのは国内でも初となる。開発を担当した中部電力技術研究所の長屋重夫氏は「過去の実績の積み重ね。他社の追随を許さない最先端技術」と胸を張る。

 SMESは、超電導状態では電気抵抗がゼロになる性質を利用し、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換し超電導コイルの中にため込んでおく機器。瞬時の放電も可能だ。

 1970年代には、揚水代替の大規模電力貯蔵技術として関心を集め、日本をはじめ各国で研究が進められた。

 以来30年、超電導を利用するSMESは、夢の技術といわれながら、実用化は困難を極めた。長屋氏が「熱病に侵されたようだった」という80年代の超電導ブームを経てもなお、冷凍機、超電導コイルなどのコスト低減が進まなかったからだ。

■費用減に重点

 こうした中、中部電力は、国が99年度から5カ年計画で立ち上げたSMES技術開発プロジェクトに参画した。小規模な電力系統制御用SMESの実現を目的に、要素技術のコスト低減に焦点を当てたこのプロジェクトで、同社は超電導コイルを担当した。

 線材開発をはじめとするさまざまな努力の末、当初より10分の1のコスト低減を達成するなど、SMES開発への実力はついていた。こうした中、プロジェクト終盤に亀山工場建設が決まった。

 半導体など精密機器工場では、落雷などによる瞬低で設備が一時的にでも止まると、数億円以上という損害が発生するケースもある。瞬低補償装置をどうするか。シャープにとっては切実な問題だ。

 一方、このニーズに気づいた中部電力にとっては、SMES実用化の好機を得た。長屋氏は「まさに天祐(ゆう)だった」と振り返る。シャープが社運をかけた工場へ、瞬低補償用としてのSMES開発が始まった。

 超電導機器では、温度や電流などが限界値を超えると、超電導状態が維持できないクエンチという現象が起こり、機器の故障につながる。従来は、限界値から十分な余裕を持たせるため、コイルや冷凍機が大型化し、コストが高くついていた。

 ほとんどの瞬低は、1秒以内の現象である。同社はこの点に着目した。つまり最大1秒間だけ大電流を流せるSMESを開発すればいいわけだ。

 そこで同社は、クエンチが発生しても瞬低補償動作後に電流を遮断することでクエンチを消滅させる画期的な制御技術を開発した。これにより高スペック設計の必要はなくなり、繰り返し使用しても劣化はない。冷凍機も小型化でき、低コスト・コンパクト化を実現した瞬低補償用SMESが完成した。

■使われてこそ

 亀山工場のフィールド試験は順調に進んでいる。中部電力では現在、商用と位置付ける1万KVAの瞬低補償用SMESの開発にも取り組んでいる。来夏にはフィールド試験に入る予定だ。

 本来の用途やスペックとは異なる方向で開発されたSMESだが、「市場で使われてこその新技術」と長屋氏は言い切る。「望まれている時に、必要なものを提供する。このマーケットインの考え方が、今の電力会社に求められているのではないか」。瞬低補償用SMESは、電力自由化時代だからこそ実現できたと長屋氏は語った。

防ぐ雷被害/1 0.5秒以内の瞬間

2004年07月13日 毎日新聞 Mainichi INTERACTIVE

瞬時電圧低下補償装置、世界初の実用化

 三重県亀山市に昨年6月に完成した大手家電メーカー・シャープの亀山工場。約33万平方メートルの敷地に、数棟の巨大なハイテク工場が並ぶ。今年1月から世界で初めて液晶パネルと液晶テレビの一貫生産を始めた。来年初めには26インチ型液晶パネル換算で月産54万台体制が整う世界最大級の液晶生産拠点だ。

 その一角の鉄骨平屋のコンクリート床に、タンクに似た円筒形の装置が据えられている。「瞬時電圧低下(瞬低)補償装置」。落雷の瞬間に電圧が下がるのを防ぐ装置だ。超電導を利用した電力貯蔵システムでもあり、その略称の「SMES(スメス)」と呼ぶ。中部電力の技術開発本部(名古屋市緑区大高町)が大手電機メーカーの東芝と共同開発した。来年からの商品化に備え、昨年7月から実証実験を進めている。

 銀色のステンレスに覆われた装置は、断熱を施した真空容器。直径2・7メートル、高さ2・3メートルで、世界最大の5000キロワット用。内部の大部分に超電導コイルが収められ、外部には数台の小型冷凍機が付く。工場へ引き込まれた6000ボルトの電源の入力部に接続され、落雷の際には瞬時に作動。超高精度の巨大ハイテク工場を、落雷の瞬低から守る。超電導による本格的な瞬低補償装置の実用化は世界初で、特許を出願中だ。

 「実証実験中とはいえ、あらゆる想定の実験を重ねており、実用状態と変わらない。この1年間は工場近くでの落雷は一度もなかったが、いつ落雷しても正確に瞬時に対応できる」。開発研究に取り組んだ技術開発本部チームリーダー研究主査の長屋重夫さん(47)は自信を見せる。

 変電所や送電線、電柱などへ落雷すると、瞬間に100万ボルトもの電圧がかかる。絶縁状態が破れて大量の電流が地中へ流れるため、落雷現場付近の電圧は瞬間的に数%下がる。その時間はわずか0・5秒以内という一瞬。しかし、コンピューターに管理されている半導体や液晶などのハイテク工場にとって打撃は大きい。製造ラインや制御装置が止まり、回復までに長い時間を要し、損害が莫大(ばくだい)になるケースも少なくない。

 液晶パネルの製造は、細心さが求められる極めて神経質な作業だ。パネルとなる2枚重ねのマザーガラス(縦1・5メートル、横1・8メートル、厚さ0・7ミリ)のすき間は2〜6ミクロン。ここに完全自動化で、微量の液晶を挟む。わずかな電圧の変化でも狂いが生じ、不合格品になってしまう。電圧が一定以下に下がるとラインがダウンし、リセットされる。製造中のパネルを取り除き、再開の安全確認も必要だ。ラインが止まれば、1日数億円の損害という。

 シャープ広報室主事の落合平八郎さん(34)は「製造ラインが止まるような瞬低の発生は、年に1、2回程度だ。しかし、起きた場合の損害や製造計画の変更などを考えると、防止せざるを得ない。今後、コンピューター管理の微妙な作業が増えるだけに、瞬低補償装置の重要さは一段と増すはず」と言う。

 中部電力では亀山工場の実証実験を今年いっぱい続け、そのデータを基に最終調整に入り、来年から全国で売り出す方針。まだ実際に落雷していないため、この夏に寄せる期待は大きい。

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★電被害の防止

 高度情報化やハイテク化に伴い、コンピューターなどエレクトロニクスの超精密機器が急増。生活、産業、文化、行政などあらゆる分野に浸透し、雷被害の影響も年々増している。特に、人命にかかわる医療機関や莫大な損害が予想されるハイテク工場などの被害防止が急務だ。中部電力の技術開発本部は、雷の特性や雷撃によるさまざまな設備への影響などを詳しく研究。停電や瞬低などの被害を減らすため、落雷位置標定システムや避雷装置の開発、電力設備の耐雷性強化などに取り組んでいる。

超電導電力貯蔵システムSMES(スメス)のフィールド試験の実施について

平成15(2003)年02月21日 中部電力株式会社

 当社は、雷などによる瞬時電圧低下(瞬低)の影響を解消することを目的とした超電導電力貯蔵システム(通称:SMES(スメス) [Superconducting Magnetic Energy Storage System])を開発し、今回そのフィールド試験を、シャープ株式会社亀山工場殿にて、平成15年7月から実施させていただく運びとなりました。

 瞬低が発生すると、電力機器が誤作動したり停止する場合があります。このため、半導体や精密機械の製造ラインなど、極めて高い電力品質を要求される工場では、瞬低による影響を防ぐ装置の開発が求められています。

 SMESは、電気抵抗がゼロとなる超電導状態のコイルに電気を流し続けることで電気エネルギーを貯蔵する装置です。電気エネルギーを電気のまま蓄えるため、蓄えたエネルギーを瞬時に放出することができ、瞬低を補償する装置として最適な装置です。当社では、平成元年からSMESの開発に着手し、平成3年からは経済産業省資源エネルギー庁のSMES開発国家プロジェクトに参画するとともに、当社独自においても、線材、導体などの材料開発から、コイル化技術の開発、システム仕様の最適化などの研究を進めてまいりました。

 今回、お客さまの工場をお借りし、出力5,000kW、出力時間1秒間という性能を持つ瞬低補償用SMESのフィールド試験を開始します。この規模は、瞬低補償用SMESとして世界最大となります。

 今後、お客さまのご要望に一刻も早くお応えすべく、開発を続けて参ります。

以上 (以下略)

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